2011/12/28

アフリカの森林破壊対策

日本の大部分の消費者は、安くて便利なものを求めている。その結果、「竹」の工芸品はほとんどなくなり、放置竹林が増えた。しかし日本で必要とされなくなっても、発展途上国では必要なものもある。

今回紹介する記事は、アフリカの農業、生活改善、BOPビジネスに関連するものである。

【 ニュース 】

竹は森林消失のアフリカを救えるか? 中国との連携で燃料化プロジェクトが進展 [1]
2011/12/08

いまでも木炭や薪(まき)を燃料に使うことが多いアフリカ。この習慣は森林破壊の原因の一つと指摘されている。そんななか、竹を代替燃料に利用することを通じて森林破壊を食い止めようとする活動が現地で進んでいる。

環境保全と竹および藤の公正な貿易を通じた貧困削減に努めている政府間組織、国際竹藤組織(INBAR)は前週(現地2日)、南アフリカ共和国で開催中の第17回気候変動枠組条約締約国会議(COP17)に合わせ、アフリカの燃料不足と環境破壊の防止策として、竹をかまで焼いて炭にする技術への取り組み状況を発表した。これにはEU(欧州連合)と一次産品共通基金(CFC)が資金を出している。サブサハラ地域(サハラ砂漠以南の地域)の地方の人口の80%が燃料に用いている木炭の替わりに竹を利用するよう促すのが、このプロジェクトの狙いだ。

INBARが、新興国のために科学技術情報を提供する非営利組織のSciDev.Netに語ったところによると、2009-13年の間に総額200万ドルが投資される計画で、第1弾としてエチオピアおよびガーナでプロジェクトが09年に始動した。INBARは竹の栽培・炭化技術、竹由来のまきの生産法に関して人々を訓練している。INBARでは計画規模の拡大とこの技術の他のアフリカ諸国への移転を目指している。

竹は生長が速いので、伐採しても環境破壊へのマイナス影響が小さい。中国は竹の燃料利用で世界的にみて進んでおり、かま、(竹用の)粉砕機、ブリケティングマシン(造粒機)などの設備をアフリカ側が取り入れる手助けをしている。最近の中国が南北問題で言うところの“南”に該当するかは疑問だが、INBARの関係者が「これは“南”と“南”の協力の良い実例だ」と話す通り、新興国間ならではの技術協力として注目される。 (由谷順)


【 解説 】

1.アフリカにおける竹の植生

ナイジェリアやエチオピアでは日本を遥かにしのぐ竹林面積がある。タンザニア、ケニア、ウガンダは日本と同様の面積である。

図1:2005年のFAO統計[2]



















2.竹炭の利用法、作り方、種類

(1)竹炭の利用法
燃料、消臭、空気清浄、湿度調整、浄水、土壌改良、食用などに利用される。


(2)竹炭の作り方
窯焼き(土窯、機械窯、ドラム缶窯など)と、伏せ焼(野焼き)がある。

(3)竹炭の種類
a. 成形しない方法
竹の丸焼き、平板、粉砕、微粒粉(パウダー)がある。

b.成形する方法
①オガ炭(ちくわ炭とも言う):アフリカではこの方法を採用すると思われる。もともとは、木工工場ででるオガ屑を成形し、成型機で四角または六角の筒状に圧縮して押しだし、オガライトを作る。それを機械窯で製作する(木のオガ炭)。竹のオガ炭(Bamboo Briquette Charcoal)は、竹を粉状にして、同様に炭にしたものである。焼肉屋などで使われている。
②炭団(たどん)とは炭(木炭、竹炭)の粉末につなぎとなる素材と混ぜ合わせたもの。

(参考)練炭は石炭を粉末にして成型したもの。豆炭は、石炭を粉末して消臭材をブレンドして製造されるが、木炭を使う場合もある。


図2:竹炭の種類












図3:オガ炭の製造工程[3]













【 コメント 】


1.土壌改良

今回紹介したのは、竹を燃料として使うアイディアであるが、竹炭は土壌改良剤としても有効であり、穀物・野菜の生産量を増やすことができる。
①炭を使う方法
放置竹林の竹を使い「野焼き」で消し炭をつくり、畑にまく。アフリカに適した方法であると思うので、農業指導されている方は是非試して頂きたい。[4]

②生竹を使う方法
特別な機械を使って、粉あるいは繊維にして、畑にまく。ただし、機械が高価なのでこの方法はアフリカでは使えないであろう。[5]


2.竹林の管理


アフリカ諸国及びNGOなどの関係者は、以下のことに留意する必要がある。
①竹林は管理して初めて資源として利用できること。
②竹細工、建築材としても使用して、付加価値をつけること。
③中国などから安い輸入品(竹炭)と競争できるまで、自国産業を保護すること。


3.「調理用かまど」とビジネスチャンス

木炭でなく竹炭を使うことによって、森林破壊の防止に貢献する。また、現在、極めて原始的な調理用かまどが使用されているが、それを改良することによって、薪の量を少なくできるし、女性や子供がかまどの煙を吸わなくなるため、健康問題の解決にもなる。[6]

日本人はこれまで次のような「かまど」作りに貢献している。たとえば、
①岸田袈裟 氏(ケニア在住の食物栄養学者)の土製のかまど作り[7]
②日本国際民間協力会(NICCO)の改良かまど作り[8]
③本間 徹 氏(JICA国際協力専門員)による豆炭・七輪の開発・普及[9]

日本の取り組み方は、個人的な援助の意味合いが強く、ビジネス志向ではない。それはもちろん悪いことではないが、たとえば、日本のコンロ・七輪を製作会社が参加すれば、もっと大きな活動ができ、より多くの人々を助けることができるだろう。その会社にとってもビジネスになる。実際、調理用かまどを製作している中国企業は何千、何万のかまどを販売するのである。[10]

竹炭関連のビジネスでは、竹用鋸やチェーンソーなどが売れるであろう。また、農業関係のコンサルタントにもビジネスチャンスがあるはずだ。


【 参考文献 】

[1] Morning Star EMeye 
[2] World bamboo resources --- A thematic study prepared in the framework of the Global Forest Resources Assessment 2005 (FAO)
[3] 奈良炭化工業HP
[4] 月刊 現代農業「農業用に最適!ポーラス竹炭」
モキ製作所「無煙炭化器」
[5] 月刊 現代農業「竹の生長力と土着菌を呼ぶ力が野菜を変える!?」
[6] National Geographic News「アフリカで普及を目指す高効率コンロ」
[7] 第14回(2007年度)読売国際協力賞 岸田袈裟(けさ)氏 アフリカ民間ボランティア活動家 
「エンザロ村のかまど」
[8] 日本国際民間協力会(NICCO)
[9] 本間 徹 経済協力開発機構(OECD)アフリカ投資イニシアティブ
[10] Aprovecho and Shengzhou, mass producing efficient wood stoves - Ashden Award winner   ★必見★
Envirofit International -Product Overview

参考URL
International Network for Bamboo and Rattan (INBAR)


参考情報
国際炭やき協力会「世界の炭やき」 マリ、カメルーン、ザンビア、ケニアの炭焼きの写真あり。

アフリカ案内(TAROTAKOさん)
ザンビア   マラウィ 

世界のかまど  エチオピア、ニジェール、ガーナ、ケニア、マラウイのかまどの写真あり。

2011/12/08

HIV対策としての包茎手術(その2)

12月1日は「World AIDS Day (世界エイズデー)」である。以前「HIV対策としての包茎手術」[1] を書いたが、今回は続報として、数ヶ月前からVOA、NY Times、BBCなどで紹介されている画期的な包茎手術を紹介する。なお、本件は、BOPビジネスの代表例になる案件だと思う。


【 ニュース 】

いくつかの記事の要点を列挙する。[2]

・2007年に、WHO(世界保健機関)とUNAIDS(国連合同エイズ計画)は、包茎手術はHIV予防に有効であると発表した。東部及び南部アフリカの14ヶ国で、15才から49才の男性人口の80%が手術受けるならば、2025年までにHIV感染者数を22%減少させる可能性がある、と推定している。
目標は、それらの国で2000万人を手術することだが、まだ60万人しか受けていない。3%以下の進捗率である。

・PrePexは2つのリングを使って、包皮を締め付けて壊死させる大人ための包茎手術である。処置室は特に消毒されている環境でなくとも良いし、麻酔は不要だし、医者でなくとも実施できる。処置は1週間で終了する。

・ルワンダでは、今後2年間で、200万人が包茎手術をしてHIV感染を半減させるという国家目標がある。ルワンダの衛生大臣は、「この方法は安全で、効率的で、手術の方法より優れている」と発言している。なお、ルワンダでは 人口1000万人に対し医者は300人。


【 解説 】

1.包茎手術の有効性

米国やフランスの研究者の研究によると、《包茎手術をした男性がHIVに感染する件数は、しなかった男性のそれと比べると、60%以上減少した》 という結果が得られた[3] 。包茎手術をすることで、亀頭の皮膚が厚くなり強度が増すため、摩擦により生ずる細かい傷から感染する危険性が低下と説明されている。[4]

2.PrePex とは

・PrePexは Circ MedTech社(2009年設立、イスラエルが拠点)が開発した。2011年1月に国際特許出願(PCT出願)されている[5] 。世界保健機関(WHO)は、2012年前半には EU域内で販売を認める予定である。[6]


図 [7]





















【 コメント 】

PrePexは、麻酔不要、無痛、非手術(non-surgical)であり、必ずしも医者でなくともできる施術なので、アフリカだけでなく世界中に爆発的に普及するだろう。

困っている人が必要とするもの、人が欲しがるものを提供するのが商売の基本だが、まさに人口が多く、基本的な品物が不足しているアフリカ諸国は市場として無視できないのである。

私は日本の中小企業に期待している。大企業は、多くの投資案件を持っており、良い案件(利益率が高く、リスクが低い案件)から順番に投資していくので、アフリカを投資先として選択するのは稀である。一方、中小企業は、相対的に機動性があり、低価格の商品であっても利益があれば投資できるからである。

どんな商品を売るか、ということは重要だ。先進諸国だけに目を向けていると、それ以外の国々の人たちが求めているものが判らなくなる。今回紹介したPrePexは、包茎手術にはそれほど熱心でない日本人にとってあまり魅力的でないかもしれない。しかし HIV/AIDSという問題を抱えているアフリカ諸国にとっては、喉から手が出るほど魅力的な商品であるはずだ。中小企業が積極的にアフリカなどの発展途上国を訪問してリサーチしてもらいたい。

参考までに、過去の記事で、トイレ用品、安価なPC、偽造医薬品対策サービス、中古車などを紹介したが、飲料水ビジネスも有望であろう。[8]


【 参考文献 】

[1] HIV対策としての包茎手術
[2]
VOA
New York Times
BBC
GHD Project

[3] New Data on Male Circumcision and HIV Prevention: Policy and Programme Implications (2007/3)
[4] BBCのビデオ
[5] http://www.sumobrain.com/patents/wipo/Circumcision-device-method-mass/WO2011007358A2.pdf
[6] http://www.voanews.com/english/news/africa/decapua-aids-circumcision-1dec11-134816113.html

[7] 医学的関心がある方が更に拡大するには、
①一度クリックすると別画面が表示される。
②右クリックして、「名前をつけて画像を保存」。
③ペイントで保存したファイルを開く。

[8]
トイレ用品    
安価なPC       
偽造医薬品対策サービス   
中古車       
飲料水(日本ポリグル) 

参考URL

Circ MedTech のHP 
PrePexの簡単な説明 
PrePexの詳細な説明(詳しい写真あり)

2011/11/28

日米首脳会談の概要を外務省が修正:野田首相の発言はどの程度伝わったのか?

重要な会議に周到な準備をして臨んでも、時間切れになったため、言いたいことを十分伝えられなかったり、また、相手に正確に伝わったかどうかを確認するのが困難なことがある。しかし、日米首脳会談では、会議の内容が両サイドから発表されるので、それぞれの当事者の発言内容が相手にどの程度認識されたかを知ることができる。

今回のエントリーでは、外務省のHPが修正された事実を伝え、日米首脳会談について野田首相を評価してみたい。なお、本件はアフリカとは直接的には関係ないが、外交に関係するのでこのブログで紹介したい。

【 ニュース 】

TPP記述 書き換え 外務省HP 日米会談概要
琉球新報 2011/11/21 [1]

外務省のホームページ(HP)で公開している日本時間13日にハワイで行われた日米首脳会談の概要の中で、環太平洋連携協定(TPP)に関する記述が説明なく書き換えられていることが20日、分かった。会談直後の13日付で掲載されたTPPに関する野田佳彦首相の発言について、18日付で「昨年11月に決定した『包括的経済連携に関する基本方針』に基づき高いレベルの経済連携を進めていく」との文言が追加されている。

13日付の外務省HPでの会談概要では、TPPに関する野田首相の発言として「(前略)豊かで安定したアジア太平洋の未来を切り拓くため、自分自身が判断した、今後交渉参加に向けて米国をはじめとする関係国との協議を進めたく(後略)」と記述されていた。

しかし、会談概要の日付が18日付となり、首相の発言「自分自身が判断した、」の次に「昨年11月に決定した『包括的経済連携に関する基本方針』に基づき高いレベルの経済連携を進めていく、」が書き加えられた。

首脳会談でのTPPのやりとりをめぐっては、会談直後に米側が「野田首相が『すべての物品やサービスを貿易自由化交渉のテーブルに乗せる』と述べた」と発表。これに対し日本側は、「包括的経済連携に関する基本方針」を説明しただけと訂正を申し入れたが、米側は応じていない。

閣議決定した「包括的経済連携協定に関する基本方針」は、「センシティブ(微妙)な品目に配慮しつつ、すべての品目を自由化交渉対象とし、交渉を通じて、高いレベルの経済連携を目指す」としている。

HPの書き換えは、米側の発表を受け、文言を加えたとみられる。ただ、13日付では「すべての品目を自由化交渉対象とする」との基本方針に基づき協議を進める考えを、当初は国内向けに説明していなかったとも言え、今後、国会などでの議論を呼びそうだ。

【 解説 】

1.ガセネタではない

筆者は11/13付の外務省のHPの"ウエブ魚拓"を取っていない。しかし以下の事実により、外務省がHPに加筆したのは事実であると考える。

著者が知る限り、本件が公になったきっかけは、天木直人氏(元駐レバノン特命全権大使)の11/20付のブログ記事「『書き換えられた外務省HPの日米首脳会談概要』疑惑」である[2]。 翌11/21に、上記の琉球新報の記事が掲載された。(なお、本件に関しては、琉球新報が伝えただけで、大手の新聞は伝えていない(11/27現在)。)

同じ日に、三宅雪子議員(民主党・衆院)が Twitterで次のように発言している。

書き換えられた外務省ホームページ疑惑は調査中です。「慎重な会」山田会長には情報入れました。事実だったら由々しき問題。11月21日 [3]

外務省から18日にホームページ文書を付け加えた事実確認。理由は理解し難いもの。後程、ツイートします。11月21日[4]

外務省HP日米首脳会談概要の件。そもそも、HPに一言一句そのまま書いているわけではない、各方面から指摘があったので書き加えた、とのこと。こういう事が今まで日常的に行われていたのだろう(と疑念を持つ)今後、訂正する場合はその理由とともに、訂正の事実を明記するよう求めたい。11月21日[5]


2.修正箇所

上記の琉球新報で書かれているが、見やすくすると図1のとおり。

図1:外務省のHP修正箇所 (クリックで拡大表示)















3.経緯

ここで、日米首脳会談の前後の経緯をまとめておく。

11/11:衆参予算委員会における経済連携等の集中審議。

11/11(夕刻):野田首相:「私としては、明日から参加するホノルルAPEC首脳会合において、TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入ることといたしました。」と発言。[6]

11/12早朝 羽田発 (11/14深夜 羽田着)

11/12:ホノルルで開催されたAPEC首脳会議出席。日米首脳会談。(午後0時過ぎから約55分間:現地時間)

11/12:ホワイトハウスのプレス発表:「Readout by the Press Secretary on the President's meeting with Prime Minister Noda of Japan」[7]

11/12(米国): 産経新聞報道[8]
米側の報道発表資料には環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)について「野田佳彦首相が『すべての物品およびサービスを自由化交渉のテーブルに載せる』と述べた」と書かれていた。
これに対し、外務省は「そのような発言を首相が行った事実はない」として、米側の報道発表を否定する報道発表をして火消しに躍起となった。外務省によると、首相は「昨年11月に策定した『包括的経済連携に関する基本方針』に基づいて高いレベルでの経済連携を進める」と述べただけだという。

11/13:外務省が「日米首脳会談(概要)」を発表。

11/14(米国):産経新聞報道[9]
環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への日本の交渉参加表明をめぐり、日米首脳会談での野田佳彦首相の一部発言に関するホワイトハウスの発表内容を日本側が否定していることについて、アーネスト米大統領副報道官は14日、発表を訂正するつもりはないことを明らかにした。
12日の日米首脳会談後、ホワイトハウスは「全ての物品およびサービスを貿易自由化交渉のテーブルに乗せるとの野田首相の発言を、大統領は歓迎する」との報道文を発表。これに対して日本の外務省は「首相がそのような発言を行った事実はない」と否定するコメントを出した。
しかし、アーネスト氏は記者会見で、「発表は、両首脳が非公開で行った発言と、(これまでの)野田首相と日本政府による公式見解に基づくものだ」と説明した。

(参考)11/14アーネスト米大統領副報道官と記者のQ&A議事録(抜粋) [10]
報道官:What I can tell you is that the readout that we put out was based on the private consultations that President Obama and Prime Minister had.  It was based also on the public declarations from Prime Minister Noda and other members of his administration.(略)
記者:Did the Japanese ask the White House to revise the statement --
報道官:I’ll be honest with you, I don’t know the answer to that. 

11/16:産経新聞報道 [11]
野田佳彦首相は16日午前の参院予算委員会で、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)をめぐる日米首脳会談の両政府の発表の食い違いについて、米政府に訂正を要求したが受け入れられなかったことを明らかにした。その上で、米政府の発表について「自分の発言そのものを引用していないと確認されている」とし、今後も訂正を求めない考えを重ねて示した。

11/17:野田首相帰国。衆議院本会議でその報告。

11/18:外務省が「日米首脳会談(概要)」を発表。(修正版)[12]

11/20:「天木直人のブログ」で、「『書き換えられた外務省HPの日米首脳会談概要』疑惑」という記事掲載。(上記)

11/21:琉球新報で、「TPP記述 書き換え 外務省HP 日米会談概要」という記事掲載。(上記)

11/21: 三宅雪子議員(民主・衆)がTwitterで、外務省HP日米首脳会談概要について書く。(上記)


【 コメント 】

1.挿入部分の意味は?

「昨年11月に決定した『包括的経済連携に関する基本方針』に基づき高いレベルの経済連携を進めていく」という部分が挿入されたが、これは、一年前の2010/11/9、菅内閣が閣議決定した 「包括的経済連携に関する基本方針」)を指している。

FTAAPに向けた道筋の中で唯一交渉が開始している環太平洋パートナーシップ(TPP)協定については、その情報収集を進めながら対応していく必要があり、国内の環境整備を早急に進めるとともに、関係国との協議を開始する。[13]


野田首相と側近は、「TPPの協議に参加するのは、特に新しいことではなく、菅内閣が決めたことを実施しているだけだ」---と言いたいのではなかろうか。


2.日米首脳会談は成功したか?


野田首相にとって日米首脳会談が成功したのだろうか? 米国のプレス発表と日本と米国のプレス発表がほぼ同じ内容であれば、少なくともお互いの言い分が相手に理解された---と判断できるが、内容は程遠いものであった。正確に伝えたいことや強調したいことについては、何回も繰り返すべきであった。


(1)日本の外務省発表

外務省が発表した「日米首脳会談(概要)」によると、主な話題は、①APEC、②TPP、③牛肉、④EAS(東アジア首脳会議)、⑤北朝鮮、⑥ハーグ条約(子の親権)であり、それぞれ、ほぼ同じ比重で説明している。[14]


(2)米国のプレス発表

米国が「聞いたこと」あるいは「聞きたかったこと」は、ホワイトハウスがのプレス発表に表れている。図2は、プレス発表を視覚的に表示したものであるが、TPPは65%、牛肉が15%を占めている。拉致問題については全く言及されていない。[15]

また、外務省が、TPPに関する野田首相の発言内容に関して、米国のプレス発表の修正を求めても(求めたされるが)、米国はこれに応じていない。

図2:米国のプレス発表 (クリックで拡大表示)















3.国民との信頼関係

野田首相は次のように発言している。
今後のプロセスについては、関係国との協議を開始し、各国が我が国に求めるものは何かということをしっかり把握、情報収集し、十分に国民的議論を経た上で、あくまで国益の視点に立って、TPPについての結論を得る、というプロセスである。[16]

外務省が説明なしに文書を挿入したことは、政府がTPPに関して国民に正確な情報を提供してくれるだろうという信頼感を損なうものであった。政府は早急に信頼関係を回復しなければならない。



【 参考文献 】

[1] http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-184288-storytopic-3.html
[2] http://www.amakiblog.com/archives/2011/11/20/
[3] http://twitter.com/#!/miyake_yukiko35/status/138442899359670272
[4] http://twitter.com/#!/miyake_yukiko35/status/138508549037887488
[5] http://twitter.com/#!/miyake_yukiko35/status/138557300481851392
[6] http://www.kantei.go.jp/jp/noda/statement/201111/11kaiken.html
[7] http://www.whitehouse.gov/the-press-office/2011/11/12/readout-press-secretary-presidents-meeting-prime-minister-noda-japan
[8] 産経新聞 2011.11.13 17:57
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/111113/plc11111317580026-n1.htm
[9] 産経新聞 11/15 08:43
http://sankei.jp.msn.com/world/news/111115/amr11111508480004-n1.htm
[10] http://www.whitehouse.gov/the-press-office/2011/11/14/press-briefing-principal-deputy-press-secretary-josh-earnest-11142011
[11] 産経新聞 11月16日(水)13時13分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20111116-00000531-san-pol
[12]
日本語 http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_noda/apec_2011/j_usa_1111.html
英語 http://www.mofa.go.jp/region/n-america/us/meeting1111.html
[13] http://www.kantei.go.jp/jp/kakugikettei/2010/1109kihonhousin.html
[14] 日本語 http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_noda/apec_2011/j_usa_1111.html
英語 http://www.mofa.go.jp/region/n-america/us/meeting1111.html
[15] http://www.whitehouse.gov/the-press-office/2011/11/12/readout-press-secretary-presidents-meeting-prime-minister-noda-japan
[16] APEC首脳会議内外記者会見 2011/11/13 @ホノルル
http://www.kantei.go.jp/jp/noda/statement/201111/13naigai.html

2011/11/08

大化けする東アフリカの天然ガス事業

アフリカの石油・ガスの探鉱開発事業は北部と西部で盛んであり、東部は「処女地」であった。モザンビーク沖合の2鉱区で巨大ガス田が発見されたので、《探鉱が活発化し、新たな油・ガス田が発見され、更に探鉱が活発化する》 という好循環になることが期待される。

以下の記事は、韓国ガス公社に関する記事だが、本件は三井物産も関係している。

【 ニュース 】

アフリカで韓国消費1年分のガス田を確保

韓国ガス公社が出資したアフリカ・モザンビークの海上鉱区で大規模なガス田が見つかり、国内消費量のほぼ1年分の天然ガスを確保した。

ガス公社は20日、モザンビ-ク北部の海上4鉱区で大規模な天然ガス田を発見した、と発表した。 鉱区運営会社のイタリアEni社によると、今回発見された潜在資源量は15Tcf(約3億4000万トン)。 これを受け、鉱区の株式10%を保有するガス公社は約3400万トンのガスを確保できるという評価だ。

ガス公社の関係者は「これは昨年国内に供給した天然ガス量(3360万トン)とほぼ同じで、金額にすれば約20兆ウォン規模」と明らかにした。

ガス公社は07年に4鉱区の株式を取得した後、Eni社と共同で探査作業を行ってきた。 今年9月には初めて探査ボーリングに入ったが、5000メートルまで掘る過程で計212メートルのガス層を確認した。

この鉱区にはガス公社のほか、Eni社が70%、モザンビ-ク国営石油会社ENH社が10%、ポルトガルのエネルギー企業が10%出資している。 契約期間は2045年1月まで。 ガス公社は2013年1月までこの鉱区で3カ所を追加でボーリング調査する計画で、ガス発見量はさらに増える可能性がある。

2011年10月21日 中央日報日本語版 [1]


【 解説 】


1.処女地だった東アフリカ

図1のとおり、東アフリカでは掘削坑数が著しく少なく、その大部分は陸上での掘削である。まさに処女地であった。モザンビークとタンザニア沖合において巨大ガス田が発見されたことにより、探鉱活動が活発になることは間違いない。

図1:東アフリカの掘削本数[2]  (クリックで拡大)













2.探鉱の成果

表1、図2のとおり、最近、モザンビークでは33 TCF (33兆立方フィート)以上、タンザニアでは 10TCFの埋蔵量が発見されている。アフリカのガス埋蔵量は、ナイジェリア(187 TCF)、アルジェリア(159 TCF)、エジプト(78 TCF)、リビア(55 TCF)に次いで、モザンビーク(33 TCF)の順になる[3]。

なお、上記の記事でENIは15TCFの埋蔵量を発見したと発表しているが、更に掘削したところ、深部で新しい層を発見したため、22.5TCFと上方修正された[4]。22.5TCFというのは、LNG換算約2,300万トン×20年の規模である[5]。


表1:モザンビークとタンザニアの探鉱成果










図2:モザンビークの2つの鉱区














3.今後の予定

今後、追加掘削をしてガス田の埋蔵量を確認する作業がある。早いケースでは、2018年~2019年頃にLNGをインド、中国、韓国、日本向けに輸出する計画がある[6]。


【 コメント 】

モザンビークがLNGを輸出したとき、収入を管理できないならば富は「呪い」になってしまうが、その対策はとられつつある。

1.同国政府は、EITI(採取産業透明性イニシアティブ)に参加し、ナイジェリアなどの轍を踏まないようにしている。

2.石油・ガス会社においても、賄賂など不明朗な支払いをしないようにしなければならない。
(1) 米国では、2010年7月、「Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act」が法律として大統領に承認された。これにより、米国市場に上場している石油・ガス・鉱物資源の会社が米国政府あるいは相手国政府に支払った全費用の詳細を国毎に公開することが義務付けられた。[7]

(2) 欧州委員会は、2011年10月、Country-by-Country Reporting (CBCR)を提案した。鉱業及び林業の会社は、企業の社会的責任(CSR)として、税金・ロイヤリティ、ボーナスなどの支払いを公開しなければならない、という提案である。[8]

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【 参考文献 】

[1] http://japanese.joins.com/article/847/144847.html
[2] http://www.afren.com/afreneax/why-east-africa.html
[3] BP統計(2011年版)http://www.bp.com/sectionbodycopy.do?categoryId=7500&contentId=7068481
[4] http://www.eni.com/en_IT/media/press-releases/2011/10/2011-10-27-eni-mamba-south-mozambique.shtml?menu2=media-archive&menu3=press-releases
[5] ダイヤモンド・ガス・オペレーションhttp://www.dgoweb.com/news/
[6] http://www.cove-energy.com/communicraft-cms-system/uploads/Presentation_UBS_Conf_-_Update_26_September.pdf
[7] http://www.revenuewatch.org/news/qa-us-financial-reform-and-transparency-oil-gas-and-mining
http://www.dir.co.jp/souken/research/report/esg/cg/10092801cg.pdf
[8] http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=IP/11/1238&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en

その他参考文献
「最後?の処女地:東アフリカの石油・天然ガス」 by 石田 聖
http://oilgas-info.jogmec.go.jp/pdf/0/666/200605_001a.pdf

2011/09/03

新しい段階に入った中国とアフリカ

中国とアフリカの関係が新たな段階に入りました。これまで中国政府は、アフリカの資源や市場を確保するため、相手国政府との関係を築き、企業が容易に進出できるようにしてきました。アフリカ諸国からみれば、中国の役人や企業人と交流はあったのですが、個人としての中国人との交流の度合いは小さかったと思われます。これからは、中国政府は中国NGOとアフリカNGO間との交流を促進するように後押し、中国・アフリカの関係を更に密接化させることでしょう。


【 ニュース 】

中国・アフリカ民間フォーラム「ナイロビ宣言」を発表 [1]

第1回中国・アフリカ民間フォーラムが30日、ケニアの首都・ナイロビで閉幕し、代表らは2日間にわたる会議で「ナイロビ宣言」を起草、発表しました。

フォーラム開催期間中、代表らは「中国とアフリカ間の民間対話と協力」、「中国とアフリカの気候変動と食糧安全」、「中国とアフリカの非政府組織の公信力と透明性」、「中国とアフリカの伝統文化の保全と教育の発展をいかに進めるか」などの議題について踏み込んだ交流を行い、出席者らは「第1回中国・アフリカ民間フォーラムは目覚しい成果を収めた。双方の非政府組織の共同努力の下、中国とアフリカの民間レベルの友好交流はより緊密になるだろう」との考えを示しました。

また、フォーラム後に発表された「ナイロビ宣言」は、フォーラムの成果を全面的に示し、高く評価するものとなりました。宣言は「今後も絶えずメカニズムの健全化を図り、同時にフォーラムの内容を充実化し、実務協力を着実に推進して、中国・アフリカ民間フォーラムを成果ある交流と協力のプラットフォームとして作り上げ、中国とアフリカの友好協力のために活力を注ぐ」とした上で、「新しい時代背景の下、中国とアフリカの伝統的な友情は新しいチャンスと試練を迎えることとなり、双方の民間交流はすでに中国とアフリカの友好交流の重要な一部となっている。中国とアフリカのすべての民間組織は『民間の友好交流と実務協力を促進する』原則に基づき、中国とアフリカの民間交流を進め、中国とアフリカの人民が真の意味で『全天候の友人』になり、『良きパートナー』になるという目標を、実際の行動を以って実現する」としました。

写真(クリックで拡大)


【 解説 】

この項においては、フォーラムの概要と背景、そして「ナイロビ宣言」の概要を書く。

1.「第1回中国・アフリカ民間フォーラム」の概要 [2]

開催日:2011年8月29~30日
場所:ケニア、ナイロビ
主催:
  ・中国民間組織交流促進会(CNIE: China NGO Network for International Exchanges) [3]
  ・Kenya Non-Governmental Organizations Coordination Board [4]
テーマ:
中国とアフリカのNGOがパートナーシップを発展させ、友好を促進させること。
参加者数:200名以上
  ・中国から(18のNGO):50名
  ・ケニアから:100名
  ・ケニア以外のアフリカ諸国(18ヶ国)から:50名


2.経緯

(1) 基本的方向性

民間交流の重要性は、2006年1月に発表された「中国の対アフリカ政策文書」[5]において示されているので、関連箇所を引用する。

(三)文化交流
アフリカ各国と締結した文化協力協定と関連の執行計画を実行に移し、双方の文化主管官庁の日常的往来を続け、双方の文化人・芸術家及びスポーツ選手の交流を深める。双方の文化交流計画と市場の需要に基づいて、民間団体や機関によるさまざまな形の文化交流イベントを積極的に誘致、推進する。(中略)
(八)民間交流
中国アフリカの民間団体の交流を奨励するとともに積極的に指導する。特に青年、女性の交流に力を入れ、双方の人民間の理解、信頼と協力を増進する。ボランティアによるアフリカ諸国での奉仕を奨励し、指導する。

(2)最近の動き

フォーラムの中国側の主催者である中国民間組織交流促進会(CNIE)は、2009年からアフリカ諸国を訪問し、2010年には数回お互いを訪問し[6]、今年2011年に、このフォーラムの共同主催した。また、China-Africa Brightness Actionという医療プログラム(=20人以上の中国人医師がアフリカ諸国を訪問し、無料で500~1000人白内障の手術をするプログラム)を支援をしている。


3.「ナイロビ宣言」の概要

宣言の全文がChina Dailyに掲載されているが[7]、(1)今回、何が話題になったのか、(2)こらからの対話の枠組みについて、合意された。なお、第2回中国・アフリカ民間フォーラムは2012年に北京において開催される。

(1)議題になったこと

①民間人の対話と協力
②気候変動と食料安全保障
③NGOの信頼性と透明性
④NGOと政府の関係
⑤組織と社会
⑥伝統文化の保存と、教育開発の促進
⑦開発女性と若者の役割と、HIV/AISとの闘いの経験の共有

(2)対話の枠組み

農業、衛生、環境、教育、文化、起業、女性・若者の権利拡大の分野について話し合う。


【 コメント 】

日本にはアフリカに関係したNGOが多数存在しているので[8]、民間の交流に関しては中国のNGOよりは活動している---と言い切っても間違いないであろう。

中国はNGOを積極的に資金的に支援することが予想される中で、日本のNGOが今後も活発な活動ができるかどうかは、結局のところ、資金があるかどうかによる。NGOの収入源は、事業収入、個人や企業の寄付金、政府の補助金であるが、事業収入や寄付金の増額は現実的でないので、やはり政府補助金の増額に期待するしかないだろう。

政府がODAなどを実施する政策的目標は、「日本のプレゼンス」を高めて、国際社会における「発言力」を高めることだと思うが、①現地政府へのODA、②国際機関への拠出金、③NGOへの補助金などに資金を配分するにあたっては、費用対効果が高いものを優先することが肝要である。さらに、評価レポートを公表して、透明性を確保すべきであると考える。

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【 参考文献 】

[2]

2011/06/03

韓国の官民連携:国際標準の確保

韓国の政治・経済には目を見張るものがあります。李明博大統領(2008年2月就任)の政治手腕によるところが大きい---と、私は考えております。彼は、金銭的には恵まれていない家庭の出身で、高麗大学校卒業後に「現代建設」という社員数90人会社に入社して、社長、会長を経て退社するまでに16万人の会社に成長させた伝説の人という評判です。その手腕を使って、国の経済を成長させています。

今回は、韓国とアフリカに関するニュースを紹介します。内容は「国際標準」です。最初に、国際標準に関する韓国の考え方を説明している中央日報の社説を引用します。その次に、最近のニュース2本を紹介します。


【 ニュース 】

国際標準確保が技術競争力の指標 (2009/10/19付 中央日報 社説)[1]

世界の産業界には「優秀な技術を多く使うのではなく、多く使われる技術が優秀だ」という格言がある。それだけ国際標準は重要だ。国際標準を確保できなければ単純な製造国から決して抜け出せない。全世界が標準規格をめぐり銃声のない戦争を繰り広げているのもこのためだ。国際標準は莫大な付加価値をもたらす。どの企業も標準に基づいて製品を作ろうとするならロイヤルティを支払い標準特許を利用しなくてはならない。例えば韓国企業は1995年以降、数兆ウォンのロイヤルティを支払って米クアルコムから携帯電話チップを買わなければならなかった。韓国のワイブロ(携帯インターネット)技術が国際標準になり、遠からずこうした悲哀もぬぐい去られる見通しだ。

先週末に三星(サムスン)電子とLG電子が開発したモバイルデジタルテレビ技術が米国の技術標準に採択されたという喜ばしいニュースが伝えられた。激しく競争してきた両社がともに世界市場を突き破ったという点からその意味も新ただ。北米地域で携帯電話を使ってテレビを視聴する場合、かならず三星とLGが作った受信チップを使うか、技術特許料を支払わなければならない。時を同じくして韓国のタッチフォンに使われる20ピン方式の携帯電話充電方式も国際標準に採択されたという。新しい携帯電話を買うたびに充電池と充電方式をすべて変えなくてはならない不便が消えることになった。このように国際標準は企業には市場支配力を、消費者には便利さをもたらす。

国際標準は技術競争力の尺度であり、企業の生存手段だ。しかし韓国企業がこうした事実に目を向けたのはわずか10年前だ。幸い国際標準提案件数が2001年の7件から昨年は212件に大きく増え、具体的な結実もひとつふたつと得られている。まずワイブロに次いで韓国が初めて商用化させた地上波マルチメディア放送(T-DMB)技術も国際標準になった。最近では韓国の造船業界が提案した16件の船舶係留装置が国際標準になり、韓国で開発したサービスロボットの安全と性能測定技術も国際標準になった。韓国は出遅れたものの国際標準会議を誘致し世界の規格機関に進出するため努力した成果が徐々に現れ始めたのだ。

しかしまだ先は長い。国際標準機関が最近汎用技術より先導技術に関心を置き、先進国はいち早く動いている。欧米は研究開発費用を支援する際に技術標準化計画書をともに要求している。日本と中国も国レベルの総合戦略をまとめ、世界標準になる見込みがある側に研究資金を集中配分している。これ以上技術の優秀性だけでは国際標準を狙えない冷厳な現実も忘れてはならない。過去にビデオプレーヤーの標準競争でソニーが技術ひとつを信じてベータ方式に固執しVHS陣営にひざまずいた。われわれも政府と企業が協力して国際標準を念頭に置きながら技術開発に着手し、各国の利害関係を考慮した友好陣営もしっかりと構築する知恵を発揮すべきだ。

韓国政府、アフリカ市場攻略へ準備着々 [2]
【ソウル1日聯合ニュース】韓国の知識経済部は1日、ソウル市内のホテルでアフリカ市場を積極的に攻略しようと、第1回韓アフリカ標準協力フォーラムを開催した。
フォーラムは有望な市場として急浮上しているアフリカ諸国との貿易を阻む障壁の除去を目指し、対策を講じるため設けられた。アフリカからはアフリカ標準化機構(ARSO)、アフリカ連合などの貿易関連機関が、韓国からは輸出企業関係者ら計200人余りが参加した。
韓国政府とアフリカの貿易機関は貿易拡大に向け、教育やコンサルティングなど協力プログラムを運営し、貿易技術の障壁と関連した情報を交換することにした。
フォーラムに先立ち、アフリカの代表団はLG電子やサムスン電子などを訪れ、製造施設を視察したほか、韓国技術標準院に対し韓国政府と企業の積極的なアフリカ進出を要請した。

アフリカの標準化機関長がLG研究センター訪問 [3]
LG電子は31日、アフリカ標準化機構(ARSO)およびアフリカ8カ国の標準化機関長が同社の加山R&D(研究開発)キャンパス内の「MC規格認証試験所」を訪問、標準化業務や品質対応の事例を見て回ったと発表した。


【 解説 】

1.韓国の対応

標準化をしているのは、アフリカ側はアフリカ標準化機構(ARSO: African Organization for Standardisation)で、韓国側は韓国技術標準院(KATS: Korean Agency for Technology and Standards)である。[3]

6月1日、韓国において、第1回韓アフリカ標準協力フォーラム(Korea-Africa Standards Cooperation Forum)が開催されたが、参加したのは、エチオピア、ケニア、セネガル、ナイジェリアなど8ヶ国の代表である。[3]

アフリカの参加者は、LG電子の研究所を訪問したが、特に、EMC (electromagnetic compatibility:電磁両立性)[4] と携帯電話の電磁波の問題に関心をもったとのこと。[3]

なお、この会合に先立ち、昨年(2010年)12月3日、ARSOとKATSは覚書を締結しており、キャパシティビルディング(組織基盤強化)を約束していた。(英国も同様の覚書を締結している。)[5]

2.日本の対応

最近のニュースでは、2011年2月、日本とアンゴラは、アンゴラにおける地上デジタルテレビ放送方式の規格として日本方式(ISDB-T方式)の「採用に向けた取組を推進していくことで合意、情報通信技術分野における協力に関する覚書に署名」した。[6]


【 コメント 】

韓国の場合、大統領の権限が強いので、一度目標を設定したら、それを達成するための資金をつけ、政治的にバックアップする。UAEへの原子力発電の売り込みがそうであった。一方、日本の場合、首相が日本製品を売り込むことは極めて稀であるし、また役人が立派な戦略を立案しても予算がつくとは限らない。

日本は他国と競争していることを認識する必要がある。

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【 参考文献 】

1.引用先
[1] 2009/10/19付 中央日報社説
[2] 聯合ニュース、2011/06/01
[3] 朝鮮日報、2011/5/31
LG Electronics Provided Tech Standard Expertise to African Nations (ELECTRONIC TIMES INTERNET CO、2011/6/1)
[4] EMCとは、"他の機器に妨害を与えず,かつ,他からの妨害に対しても影響されない機器の能力"のことであるが、EMCの国際標準化については、「EMC(電磁両立性)国際標準化活動を推進して」(by 徳田正満)を参照のこと。
[5] ARSO signs MoU with British Standards Institute (BSI-UK) and Korea Agency for Technology and Standards (KATS), Korea
[7] 国際規格の制定プロセスと国際標準化への取組   経済産業委員会調査室 藤田昌三  立法と調査 2011.1 No.312
[8] アフリカにおけるICT国際展開について  2010年1月21日  総務省国際協力課国際展開支援室 柳島智

2.ホームページ
韓国技術標準院(KATS)
アフリカ標準化機構

3.日本のマスコミによる放送
・NHK「追跡!AtoZ」2009年 8月8日 「ニッポンは勝ち残れるか 激突 国際標準戦争」
ビデオ http://www.nhk.or.jp/tsuiseki/file/list/090808.html

・ワールドビジネスサテライト モノづくり覇権~世界規格戦争~ 第三夜 グリーン標準をつかめ!(2011/1/6放送)
TVでた蔵 (TV DATA ZOO)

4.本ブログの記事(韓国の投資に関する記事)
2009/12/13 韓国のアフリカ政策
2009/12/26 アフリカに関する日本・中国・韓国の政策協議
2011/04/12 リビアからの脱出 (Part 2: 会社による社員救出)

2011/06/01

アフリカへの投資: 562社はどうみているのか

このブログの記事の中で、アフリカへの投資に関する記事が多く読まれています。日本企業もアフリカに注目しており、ゆっくりですが、着実に投資を進めております。(「日本企業 in アフリカ」のタグ頁参照。)

ところで、日本企業の競争相手は、アフリカをどのようにみているのでしょうか? 今回の記事は、外国企業(562社)がアフリカ市場をどうみているのかがわかるアンケート結果を紹介します。


【 ニュース 】

アフリカ投資の魅力増大、BRICSとの関係も深化 (CNN、2011/5/25)[1]

     ケープタウン(CNN) 投資先としてのアフリカの魅力は高まっているとする調査結果を大手会計事務所アーンスト・アンド・ヤングが発表し、世界にその魅力を理解してもらう必要があると訴えている。
     同社は南アフリカのケープタウンで開かれた世界経済フォーラムの会合で、アフリカ諸国を含む世界の企業約500社を対象に、事業環境としてのアフリカ大陸の魅力を語った。
     調査の結果、アフリカを魅力的な投資先とみなしているのは主にアフリカ諸国や新興国で、それに比べると先進国の関心は低い傾向があることが分かった。同社によると、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカのBRICS諸国とアフリカとの関係が深まっているという。
     同社アフリカ法人のシータ最高経営責任者(CEO)によると、世界全体への投資に占める外国からアフリカへの直接投資の割合は約4.5%、金額にすると1000億ドル相当にとどまっており、アフリカはもっと効果的にその魅力をアピールする必要があるという。
     シータ氏は、アフリカの魅力として10億もの人口、豊富な天然資源、世界の食料安全保障につながる農業分野などを挙げる一方、50を超える国で多様な言語が話され、国によって規制もまちまちな実態が投資の障壁になっていると指摘。「アフリカにとって真に必要なのは、共通の経済市場と大陸としての単一のビジョンだ」と訴えた。


【 解説 】

上記のニュースで述べられているアフリカへの外国直接投資に関する調査書は、アーンスト・アンド・ヤング(Ernst & Young)が、2011年5月3日に発表したものであり、『It's time for Africa : Ernst & Young's 2011 Africa attractiveness survey』というものであり、同社のホームページでダウンロードできる[2] 。以下、一部だが内容を紹介する。

アンケートに答えた562社
・国籍は、38ヶ国で、欧州(59%)、北米(18%)、アジア(18%)、その他(5%)。
・アフリカに進出している割合は、62%。
・事業部門は、産業・自動車・エネルギー部門(36%)、サービス部門(25%)、消費部門(25%)、その他。
・アンケートに答えたのは、主に財務部門の責任者。


1.過去3年間でアフリカは投資しやすくなったと思うか?

アンケートに回答した会社の68%が投資環境が改善したと考えている。アフリカや発展途上国の会社は、それ以上の評価をしている。一方、北米や欧州の会社は低く評価している。

(全ての図は クリックで拡大)

2.今後3年間でアフリカは投資しやすくなると思うか?

アンケートに回答した会社の75%が投資環境が改善すると考えている。悪化すると考えている会社は10%以下である。


3.今後2年間で投資の対象となる事業分野は?

鉱物資源の探鉱、石油ガスの探鉱・開発が上位を占めるが、観光、消費財がその次に位置する。


4.既にアフリカに進出した会社の今後の事業展開は?

「更に投資する」と「事業を継続する」と応えた会社の合計が62%を占める。


5.アフリカでの事業で障害となることは?

投資環境で問題なのは、政治環境が不安定であり、腐敗、治安が悪いことである。

6.外国直接投資の件数が多い国は?

2003年から2010年までの新規の外国直接投資の件数をみると、南ア、エジプト、モロッコ、アルジェリア、チュニジア、ナイジェリアなどが人気である。

7.アフリカは他の地域と比べて魅力的か?

旧ソ連諸国とアフリカを比べた場合、60%がアフリカの方が魅力だと答えた。中央アフリカや南米と比べると、それぞれ 52%、南米 49%がアフリカが魅力であるとみている。アジア、北米、西欧、中東、オセアニア、東欧と比べた場合は、アフリカの魅力は低い。

【 コメント 】

1.アフリカの人口は大きく増加するので、市場として魅力的である。(下図は、国の人口ではなく、都市の人口である。)

2.低所得層の市場なので、安価でかつ良質な商品を提供できなければ、韓国や中国、東南アジアなどの企業と競争できない。

①日本で売れ残った商品を輸出するのも一案であろう。
②デジカメやPCなどのパンフレットを見ればわかるように、日本の企業はあまりにも多くのアクセサリーを作り、頻繁にモデルチェンジをしている。新しいモデルを欲しがる消費者にとってはうれしいことだが、アフリカ向けには、安価な基本モデルが適していると思う。

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【 参考文献 】

[1] 日本語記事 CNN、2011/5/25
英語記事(ビデオあり)
[2] Ernst & Youngプレス発表、2011/5/3

その他の資料

井の中の巨大な蛙 新興国で存在感(日経ビジネスオンライン、2011/5/30)

World Economic Forum on Africa, Background Facts and Figures
PowerPoint資料(図8はここからとった。)
39頁資料

World Economic Forumで、世銀が発表した資料「The Africa Competitiveness Report 2011」の140ページ以降に、経済に焦点をあてたアフリカ35ヶ国のカントリーレポートが記載されている。

2011/05/27

米国がリビア反体制派を全面的に支援できない理由

多国籍軍がリビア・カダフィ政権に対し攻撃を開始してから2ヶ月以上が経過しました。米国はフランスやイタリアほど積極的に攻撃に参加していませんが、その理由について日本のメディアはあまり報道していません。

読売新聞の社説がリビアの現状を良くまとめていますが、米国の軍事介入については、「何より、アフガニスタンとイラクへの関与で余力の乏しい米国自身が消極的だ。」との説明しています。私は、もう1つ重要な理由があると考えています。反政府「暫定国民評議会」[1] の武装勢力にアルカイダが入り込んでいるので、米国は全面的に支援できない---ということです。

【 ニュース 】

リビア軍事介入 長引く内戦をどう終わらせる (5月19日付・読売社説)[2]

    民衆の独裁政権に対するデモが内戦に転じた北アフリカのリビアに、米英仏を中心とする多国籍軍が軍事介入を始めて2か月になる。
    命運が尽きるとみられたカダフィ氏は、政権の座に居座り、反体制派への攻撃をやめる気配はない。北大西洋条約機構(NATO)が指揮する多国籍軍の作戦の有効性が問われている。
  作戦の当初の目的は、政権側の攻撃にさらされる市民を守ることだった。そのために、国連安全保障理事会は、地上軍の投入を除く「あらゆる措置」を認めた。
  政権側の空軍基地や戦車に対する多国籍軍の空爆によって、反体制派の拠点都市ベンガジの陥落や市民の虐殺は回避できた。しかし、その後、政権側と反体制派の攻防は一進一退を続けている。
    NATOに対しては、「兵力も装備も劣る反体制派をてこ入れしているに過ぎない」との批判さえある。このまま内戦が長引けば、死傷者は増え続ける。軍事介入の正当性も揺らぎかねない。
  膠着(こうちゃく)した戦況を打開するため、地上軍を投入しようとするなら、新たな安保理決議が必要だ。だが、カダフィ政権転覆を目的とする本格的な軍事介入を、拒否権を持つ中露両国が認めるはずがない。
    何より、アフガニスタンとイラクへの関与で余力の乏しい米国自身が消極的だ。オバマ米大統領は「カダフィ政権の転覆は目指してはいない」と言い続けてきた。
    仏英両国は、リビアの体制変革に意欲的だが、米国抜きで作戦を遂行する力はない。
リビア介入に対する欧米諸国の姿勢に大きな温度差がある以上、軍事介入の強化による事態の打開は難しいだろう。
    調停による内戦終結の道も残されてはいる。だが、軍事介入の人道目的の性格が薄れ、内戦の当事者の一方に肩入れする構図が日増しに色濃くなる現状では、その展望はなかなか開けそうにない。
    国際刑事裁判所(ICC)の検察官が、「人道に対する罪」でカダフィ氏の逮捕状を請求したことも、どう影響するか。カダフィ氏が退路を断たれたと考え、一層の徹底抗戦に向かう懸念もある。
    リビア内戦の長期化は、アラブ諸国に広がる民主化要求の動きにも水を差す。シリアのアサド政権は、反政府デモへの徹底的な弾圧を続けている。リビアへの軍事介入で行き詰まる米英仏は、手を出せないと見ているのだろう。
    欧米諸国には、対リビア戦略の練り直しが急務である。
(2011年5月19日01時08分  読売新聞)

【 解説 】

1.反政府「暫定国民評議会」は何を求めているのか?

「暫定国民評議会」が求めているのは、NATOの支援と資金援助である。ただし、軍事的支援については、NATOの空爆のみであり、地上部隊の投入は望んでいない。[3]

資金援助に関しては、米国などはカダフィの資産を凍結(freeze)しているが、それを没収(confiscate)したうえで、暫定国民評議会に渡す(reallocate)することである。ちなみに、凍結されている金額は、全世界で165,000百万ドルで、その内、米国に34,000百万ドルがある。[4]

5/12~14にかけて、暫定国民評議会のマフムード・ジブリル首相とアリ・タルホウニ財務相はワシントンを訪問し、資金援助を求めたが、米国は「医療物資やテント、制服、土のう、防弾チョッキといった、殺傷能力のある武器以外の物資の支援」[5]などの人道的支援に限定したため、手ぶら[4]で帰ることになった。

現在のところ、暫定国民評議会は支配下においているリビア東部で国民に給与を支払っている[6]。(後述のとおり、ベンガジの中央銀行の金を配分している。)しかし、その金がなくなったら、民衆の支持を得られるかどうか分からない。

写真(クリックで拡大)

2.米国がリビア反体制派を全面的に支援できない理由は何か? 

2つの理由が考えられる。
①凍結した資金の返済を迫られる。
②アルカイダの問題。

まず、①については、米政府は暫定国民評議会を「リビア国民の正統で信頼できる代弁者」と位置付けているが、リビアの代表機関としては承認していない。[7]  (この点は憶測であるが、暫定国民評議会を代表機関として承認すると、凍結したリビア資産の返却を請求されるであろう。)

次に、②については、暫定国民評議会の武装勢力に、アルカイダが入り込んでいるため。

(1) 2011/3、リビア反政府勢力のリーダーの一人Abdel-Hakim al-Hasidiという人物が、イタリアのIl Sole 24 Oreという新聞のインタビューに応えたが、そのなかで、イラクの前線で戦ったジハード戦士が、カダフィの軍隊と戦っていることを認めた。

彼の素性は、アフガニスタンで戦い、パキスタンで捕らえられた後で、米軍に引き渡された。その後でリビアの刑務所に入り、2008年に釈放された。米国と英国の政府関係者によると、彼はLibyan Islamic Fighting Group(LIFG)のメンバーであり、1955年~1996年にかけてリビアのダーナ(Derna)とベンガジ(Benghazi)でのテロ行為に参加している。[8]


(2) 2011/5/12、米国下院議員(共和党)のBrad Sherman氏(テロなどに関する外交小委員会副委員長)は、リビアの暫定政府の首相Mahmoud Jibril氏に対し書簡を出し、その中でアルカイダや Libyan Islamic Fighting Group(LIFG)に物的に支援した者、あるいは、アフガニスタンやイラクの米国軍に対し敵対的行為を行った者は、暫定国民会議の軍事的にも民事的に従事することを禁止すべきである----と要請した。[9]

(3) 2011/5/24、EUのテロ対策担当者であるGilles de KERCHOVEは、EU議会の委員会で次のように証言した。「特にリビアにおいて、高性能の武器が予測できない者に渡るリスクがある。リビアとイエメンは脆弱な国家(fragile state)であり、我々が注意しておかないと、失敗国家(failed state)になり、国際的なジハード戦士をひきつけるであろう。」[10]


3.暫定国民評議会の財務大臣の任務

前述のアリ・タルホウニ財務相は米国のメディアのインタビューに応じており、極めて面白い裏話を披露している。

タルホウニ氏は、40年前、反カダフィのデモに参加したため、投獄されるか国外脱出するかの選択肢しかなかった。米国で博士号(経済学)を取得して、シアトルのワシントン大学で教鞭をとっていたところ、リビアで革命がおき、ベンガジに戻った。

財務大臣として仕事は、金を調達することであった。最初の仕事は、ベンガジにあるリビア中央銀行の金庫に穴をあけることを指示したことだった。金庫には500 百万ディナール(200百万ドル)が入っていた。次の仕事は、カダフィの資産を凍結している国に対し、その資産を担保にして金を借りることであった。そのために、ワシントンを訪問した。 [11]

【 コメント 】

6ヶ月から1年後のリビアはどうなっているのだろうか? 4つのシナリオが想定できる。

シナリオ1:反政府が負ける。

カダフィは、軍事介入に参加した国に対して、損害賠償を要求する。もし支払いが拒否されるのなら、軍事介入に参加した国の会社がリビアに保有している石油利権は没収され、参加しなかった国(中国・ロシアなど)の会社に売却される。

そのため、仏・英・米・伊などは、カダフィ政権が崩壊するまで攻撃を止めない。最善のケースは、カダフィを殺すことである。あるいは、たとえ停戦交渉するにしても、そのような賠償が請求されないような条件をつけさせる。

シナリオ2:反政府が勝つ。

この場合、2つの課題がある。①アルカイダを排除することができるか?②国を統一することができるか?

仏・英・米・伊などは、アルカイダの要素がないことを確認するまでは、新政権を管理下に置くだろう。正統な政府としては認め米国などは、旧政権(カダフィ政権)の資産は凍結したままにしておくだろう。なぜならば、リビアには豊富な石油収入があり、リビアがアルカイダの温床になるからである。しかし、アルカイダの兵士が内戦に参加しているので、新政権が彼らを排除することは困難であろう。たとえ政権に入れない場合、アルカイダがテロを仕掛けてくる可能性がある。

内戦が終わってから、カダフィ派と反カダフィの2派が「和解」できるかどうか。もしできない場合は、イラクのようにテロ行為が多発する可能性がある。

シナリオ3:こう着状態が継続する。

内戦が続き、死傷者が増える。
両陣営の資金がなくなっていくが、最初に反政府の資金が底をつく。米国などは、凍結しているカダフィの資産を人道的用途に限定して使う。

シナリオ4:誰も責任が問われない形での終結。

停戦交渉の結果、内戦が終結する。ただし、少なくとも、以下の条件が満たされる必要がある。

①軍事介入に参加した国
石油権益などが侵されないこと。戦争の損害補償を求められないこと。

②暫定国民評議会
カダフィ独裁が終わること。新しい国家の枠組みが(憲法制定、民主化、東部地域の自治権)確保されること。

③カダフィ政権
カダフィと一族が生命の保障され戦争責任を負わない。(新しい国家の枠組みをつくることについては、内戦が始まる前に、発表されていたので、可能だと考える。)

--------------
新しい動向
Libya: Allies soften demands for Gaddafi to go (2011/5/25)
リビア首相が停戦用意か、英紙報道(2011/5/26)

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【 参考文献 】

[1] 暫定政府の名称はいろいろな呼び方がある。英語の名称が「The Libyan Interim National Council」(http://www.ntclibya.org/english/)なので、ここでは「暫定国民評議会」という。
[2]読売新聞社説、5月19日
[3] NATO地上部隊望まず リビア反体制派が訪ロ(東京新聞、2011/5/11)
[4] Cash-Strapped Libyan Rebels Fly Out of Washington Empty-Handed (Business Week、2011/5/13)
[5] 米国、リビア反体制派に食糧支援 12万食 (AFP、2011/5/21)
[6] If Gadhafi Falls, Could The Oppostition Run Libya?(NPR、2011/5/26)
[7] 米高官がベンガジで反体制派要人と会談(産経、2011/05/24)
[8]Who Knows it? * Morning Skim
2011/4/2「リビア:西欧とアル・カイダが同じサイドに!Libya: the West and al-Qaeda on the same side」
Jihadis who killed Americans get U.S. support in Libya (Washington Examiner、2011/3/28)
イタリア語(Google翻訳で英訳できる)
[9] Letter to the Libyan Interim PM (2011/5/12付)
[10] Fight against terrorism and CSDP EP Ref: 76805
[11]The Finance Minister Who Robbed A Bank(NPR、2011/5/13)

2011/05/23

原油・LNGタンカーが爆破されるリスク

過去、「ソマリア沖の海賊」についての記事を書きましたが、今回は「原油・LNGタンカーがテロリストに爆破されるリスク」についてです。日本のエネルギーは原油とLNGに大きく依存していますが、万一、タンカーが爆破された場合の被害は甚大ですし、その発生確率が高くなっています。政府と船舶会社は対策を考えなければなりません。

過去の記事
2010/05/05 ソマリアの海賊
2010/08/29 ソマリア海賊:法的手続きの統一化
2010/10/17 ソマリアの海賊対策:今のやり方では永遠に税金が使われてしまう

【 ニュース 】

最初に記憶を新たにするために、10ヶ月前の出来事を紹介します。それから最新のニュースを2つ紹介します。

1.M.Star号に対するのテロ攻撃

2010/7/28:ホルムズ海峡で商船三井が保有する大型タンカーM.Star号が攻撃を受けて、船体後部が損傷した。
8/2:アルカイダ系テロリストグループ「アブドラ・アッザム旅団」(Brigades of Abdullah Azzam)が犯行声明を発表し、日本タンカーへの自爆攻撃を敢行したと主張。
8/6:UAE当局がテロ攻撃の痕跡を発見した。[1]
11/19:米運輸省の海事当局は警告書で以下を発表した。
①「アブドラ・アッザム旅団」が犯行声明を出したが、根拠がある(valid)。
②ホルムズ海峡やペルシャ湾南部、オマーン湾西部でさらなる攻撃を実行することが可能である。
③この海域を通行する船舶は特に、夜間に小型船の動きに注意すること。[2]

2.アルカーイダ、石油タンカー攻撃に関心(2011/5/21、産経新聞) [3] 
米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)によると、米国土安全保障省の広報担当者は20日、国際テロ組織アルカーイダが昨年、石油タンカーや海上の石油施設を狙ったテロ攻撃に強い関心を示していたことを明らかにした。
アルカーイダの指導者ウサマ・ビンラーディン容疑者の隠れ家から押収した資料を分析した結果、判明したとしている。具体的なテロ計画は見つかっていないという。
同紙は、中東のホルムズ海峡で昨年7月に発生した日本のタンカー損傷に関し「捜査当局はテロ攻撃を受けたと結論付けた」と指摘。アルカーイダとの直接的な関係には言及していない。(共同)


3.国際海事機関(IMO)第89回海上安全委員会(MSC)の結果

IMO・MSCが、2011/5/11~20に開催された。民間の武装警備要員(PCASP: privately contracted armed security personnel)を乗船させることについて議論した結果、リスク評価を実施するという条件つきで、認めた。[4]


【 解説 】

1.テロリストには原油やLNGタンカーを爆破する「意図」と「能力」があるか?

商船三井のM.Star号がテロリストから攻撃を受けたので、「意図」があることは確実になった。これは憶測だが、M.Star号への攻撃は、外部からの攻撃がどの程度有効なのかを探る実験ではなかったのではなかろうか。ちなみに、M.Star号はダブルハル構造であったため、原油は流出しなかった。(写真1) 

5月21日、FBIとアメリカ国土安全保障省は、警察とエネルギー関係者に対し、内々に警告を発した。ビンラディンの自宅から押収した資料から、アルカイダは「内部から爆破するのが簡単であると考えている。(determined that blowing them up would be easiest from the inside…) 」----との分析を示した。[5]

海賊がタンカーに乗船できるのだから、テロリストも乗船する「能力」がある。

写真1 (クリックで拡大)


2.テロ行為を封じ込める方法はあるのか?

海賊は身代金が目的なので、その良し悪しは別にして、身代金を支払えばとりあえず問題は解決する。しかし、テロリストは、爆破することが目的なので、金銭では解決することはできない。

各国は戦艦をソマリア沖に派遣して警備行動をしているが、海賊の件数は増えるばかりである(グラフ参照)。

グラフ (クリックで拡大)

3.これまでIMOや船舶会社は海賊にどのように対応してきたか?

(1)IMOの対応
IMOは、海賊を乗船させないような工夫をするように提案してきた。たとえ、船に武器があったとしても使用しないように指導している。(DO NOT use firearms, even if available. )[6]

別の資料において、①武器を領海内に持ち込む場合、その国の法律に従うことになること、②可燃性の貨物を運んでいる船舶に武器を持ち込むことは、災害を招くおそれがあることを注意喚起している。[7]

(2)日本の船舶会社の対応
現在、日本の原油タンカーは海賊に対処するための武器を保持していないようだ。

「アデン湾における海賊対処のための手引書」(09年8月 改訂版)が船主、海員組合、石油・LNG 業界や戦争委員会連合等によって作成された。典型的な攻撃事例と教訓が与えられている。船舶側の武器自衛論の是非について、国際海事機関(IMO)は、自衛のための武器持込は民間船にはかえって危険で、海賊側を挑発し、砲火を受けて危険物が爆発すれば油流出事故など2次災害の危険性が高まると警告した。」[8]


(3)外国の船舶会社の対応
2011/5/21付のBBCによると、ソマリア沖で航行する船舶の10%は、武器を携帯している警備員(armed guards)を乗船させている、と報道した。[9]


【 コメント 】

テロリストや海賊の攻撃を防ぐためには、個々のタンカー自らが護衛しなければならないと考える。武装した民間の警備員(傭兵)を乗船させて、自衛のために戦う以外の方法はないのではないか(写真2)。

将来、民間警備会社に警備を委託するタンカー会社は増えると予想される。テロリストは、攻撃しやすいタンカーを狙うはずだが、タンカーが爆破されて世界経済に影響を与えた場合、その船舶会社だけでなく、指導を怠った国の責任が問われることになるだろう。

福島原発の事故から学ぶべきことの1つは、『リスクマネジメント』である。あらゆるリスクを想定し、それぞれの発生確率と被害額を予想し、リスクを回避・低減・移転・保有する方法を考えることだ。原油・LNGタンカーがテロリストに襲われる確率は高くなっており、想定被害額も莫大なものになる。「テロリストの攻撃は想定外であった」という言い訳は通じないのである。

写真2 (クリックで拡大) 

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【 参考文献 】

[1]商船三井タンカーの損傷、テロ攻撃と判定=UAE報道(2010/8/6)
[2]VESSELS TRANSITING IN THE STRAIT OF HORMUZ, SOUTHERN ARABIAN GULF, AND WESTERN GULF OF OMAN.
自爆テロ声明は「根拠ある」 タンカー損傷で米海事当局(2010/11/22)
[3] 2011/5/21、産経新聞
[4] Interim guidance on use of privately contracted armed security personnel on board ships agreed by IMO Maritime Safety meeting
[5] Al-Qaida eyed oil tankers as bombing targets (2011/5/21、ABC3340.com)
[6] 40頁、「BMP3  Best Management Practices to Deter Piracy off the Coast of Somalia and in the Arabian Sea Area (Version 3 ? June 2010) Suggested Planning and Operational Practices for Ship Operators, and Masters of Ships Transiting the Gulf of Aden and the Arabian Sea」
[7] 第59項目「MSC.1/Circ.1334  23 June 2009  PIRACY AND ARMED ROBBERY AGAINST SHIPS」
[8]「産業振興基盤としての石油供給確保に向けた基礎調査報告書」(平成22年3月)by 財団法人 日本エネルギー経済研究所 中東研究センター
[9] Piracy: IMO endorses use of armed guards on ships (2011/5/21, BBC)

(その他資料)
海賊発生件数が4年連続で増加 ―2010年の海賊事件発生状況― (日本船主協会)
KIRK REPORT: OUT OF CONTROL SOMALI PIRACY HELPING TO FUND LARGEST TERRORIST TRAINING CAMPS ON EARTH (2011/5/10)

2011/04/17

転換期を迎えたリビアへの軍事介入

アフリカ諸国に限らないが、発展途上国において政権交代をするには、①選挙、②軍部が非合法的手段で政府を転覆させるクーデター、そして ③反体制派による反乱(革命)のいずれかになると思われます。1960年~1999年の間にアフリカ諸国の大統領選挙とクーデターの回数を調べたレポートによると、1980年代までの政権交代はクーデターが一般的であり、1990年代になってからは選挙による政権交代が広くみられるようになりました。[1]

選挙制度がない国で、かつ、軍が政権を支持している国において政権交代を実現するには、第三の手段である反体制派による反乱になります。プラカードを持ったデモ行進では政権交代はできないので、武器があれば、民衆はそれを使うでしょうし、一方、政府は暴徒化した民衆を鎮圧するために軍隊を出動させます。

マスメディアが、リビア軍隊が"一般市民"を殺している映像を伝えました。国際社会は、リビア市民の安全を守るために、いわゆる 「保護する責任」(Responsibility to Protect)という考えの下、軍事介入しました。しかし、2ヶ月が経過してもカダフィ政権は倒れません。もし反体制側が負けて、カダフィ政権が継続することになれば、①軍事行動を起こした仏・英・米などの会社が保有する権益(石油利権など)が取り上げられるし、また、②リビア以外の民主化運動、人権擁護運動に水をさすことになる----と仏・英・米は考えているはずです。そのため、軍事行動を中途半端で終わらすことができなくなり、カダフィ政権を倒すことが目的になってしまったと考えられます。

今回紹介する2つのニュースでわかるように、国際社会は意見が大きく分かれました。


【 ニュース 】
 リビアでの武力行使に反対、BRICSが共同声明 (AFP、2011/4/15) [2] 

【4月15日 AFP】ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカで構成する新興5か国(BRICS)首脳会議は14日、リビアやアラブ諸国における武力行使に反対する共同声明を発表した。ロシアのドミトリー・メドベージェフ(Dmitry Medvedev)大統領は、武力行使は国連に認められていないと述べた。 首脳会議は中国海南(Hainan)省三亜(Sanya)市で開催。閉幕後に「われわれは、武力行使は回避すべきだとの原則を確認した」との声明を発表した。 

メドベージェフ大統領は、リビア上空の飛行禁止空域を設定し、市民保護のため「あらゆる必要な措置」を講じることを認める国連安全保障理事会の決議は、軍事力の行使を承認したわけではないと指摘。BRICSはこの点で「完全に見解が一致している」と強調した。 

ただし、声明は北大西洋条約機構(NATO)の名指しはしておらず、「リビア問題について国連安保理との協力を続けたい」としている。また、アフリカ連合(AU)が提示した停戦案を支持することも表明した。 

首脳会議は今回で3度目。南アフリカが参加するのは初めて。 


米英仏、カダフィ氏退陣まで空爆 3国首脳が新聞に寄稿 (東京新聞,2011/4/15) [3] 

2011年4月15日 11時01分 【ワシントン共同】オバマ米大統領とキャメロン英首相、フランスのサルコジ大統領は、15日付の英紙タイムズなど3紙に連名で寄稿し、リビアの最高指導者カダフィ大佐に即時退陣を要求、政権にとどまる限り多国籍軍の攻撃を続けると強調した。米ホワイトハウスが寄稿の内容を14日発表した。 「リビア平和への道」と題した記事で3首脳は、国連安全保障理事会の決議を根拠に実施した多国籍軍のリビア攻撃によって「何万人もの命が救われた」と指摘。 

安保理決議が認めているのは民間人の保護であり、カダフィ氏を武力で排除することではないとしながらも、自国民の「虐殺」を続けるカダフィ氏が権力の座にいては「リビアの未来像を描くのは不可能だ」と訴えた。 

カダフィ氏が退陣しなければ「民間人を保護し政権に圧力をかける」ために攻撃を続け、「新世代の指導者の下で、独裁体制から憲法手続きへの移行」を促す考えを示した。 

寄稿記事はフランスのルモンド紙と、国際英字紙インターナショナル・ヘラルド・トリビューンにも掲載される。


【 解説 】
 
1.最近2ヶ月の主要動向  

2/17: 市民デモ[4] 「怒りの日」と名づけられ、インターネットなどで参加が呼びかけられた。  

2/26: 国連安全保障理事会決議1970(2011) [5]
対リビア武器輸出禁止、カダフィや側近の資産凍結および渡航禁止、人道に対する罪で国際刑事裁判所に調査を求めることなどが盛り込まれている。

3/17:  国連安全保障理事会決議1973(2011) [6]
政府軍は、反体制派が拠点とするベンガジに向けて進軍を続けており、反体制派は国連に対し飛行禁止区域設定などの行動を急ぐよう訴えていた。
賛成:10ヶ国 棄権:5ヶ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、ドイツ) 反対:なし  

3/19: 軍事介入開始[7] フランスの戦闘機がカダフィ政権側の軍車両を攻撃した。米英軍の艦船や潜水艦から110発以上の巡航ミサイル「トマホーク」がリビア西部の軍事施設に撃ち込まれた。

3/27: 飛行禁止空域の指揮権が米国からNATOに移る[8]  

4/11:カダフィ政権がアフリカ連合(AU)と基本合意に達し、共同声明を発表した。[9]  

4/11:反政府がカダフィを倒すまで戦うと発表。[10]  

4/14:BRICSによる共同声明(上記のニュース) 欧米主導の対リビア空爆への反対などが盛り込まれた。

4/15:仏・英・米による共同声明(上記のニュース) カダフィの退陣を強く求める共同意見書をまとめた。

2.石油権益

近年、リビアは積極的に外国企業に鉱区を付与しており、以下のすべての会社は、探鉱鉱区(まだ石油は発見されていない)を保有しており、鉱区を取得した際に、多額のサインボーナスを支払い、探鉱費を使っている。探鉱鉱区だけでなく、生産鉱区も保有している。

(1)フランス
フランスの石油会社TOTALは、探鉱鉱区だけでなく、生産鉱区も保有しており、2010年には55,000b/dを生産している。[11] ただし、TOTALにとって、アフリカ大陸での石油と天然ガスの生産量は756,000b/dなので、リビアの位置づけは10%以下である。

(2)英国
ShellとBPはリビアの探鉱鉱区を保有している。[12]

(3)米国
米国の石油会社で生産中の会社は、ConocoPhillips (47,000b/d)、Marathon Oil (46,000b/d)、Hess (22,000b/d)、Occidental Petroleum (13,000b/d)である。[13]
探鉱中の会社は、ExxonMobilなどがある。[14]  


【 コメント 】  


1.メディアのリビア報道

エジプト・ムバラク政権が崩壊した際は、軍部が中立の立場をとったため、一般市民は武器を取らずして市民革命が成功した。一方、リビアでは、軍部の大部分はカダフィ政権を支援したため、一部の市民が武器を取ったので軍隊が出動した。アルジャジーラ(Al Jazeera)やBBCは、世界中の人々の脳裏に「リビア市民が殺されている」「カダフィは野蛮人」であるとの"印象"植え付けた。国連安保理の決議もテレビやYouTubeの映像に影響されたはずである。しかし、私は、リビア関連の報道は、バランスがとれてなく、恣意的な誤報も含まれていたのではないかと疑っている。(2011/02/25付当ブログ記事 「リビア関連のニュースを鵜呑みにするな」 参照。)  

2.保護する責任(Responsibility to Protect)

  「保護する責任」とは、国家には虐殺など非人道的犯罪から人々を守る責任があり、国家がその責任を果たせないとき、国際社会がその責任を代わって果たさなければならない---という考え方である。[15]

1994年にルワンダ大虐殺国際社会があったが、この「保護する責任」という考え方にもとづいて国際社会が迅速にルワンダに介入していれば、ルワンダの悲劇は防げたかもしれないので、私はこの考えを否定はしない。しかし、ルワンダでは「民族 対 民族」の構図があったが、リビアでは「体制派 対 反体制派」の構図であることに注意しなければならない。

 「保護する責任」に基づき行動するためには、4つの要件が必要であるとのこと。[16]

(a)正しい意図(right intention):介入の主要な目的が、人間の苦痛の排除にあること
(b)最後の手段(last resort):あらゆる非軍事的選択肢が尽くされたこと
(c)比例的手段(Proportional means):軍事規模の行動・期間が必要最低限のものであること
(d)妥当な見込み(reasonable prospects):軍事行動により事態が改善する見込みがあること  

私は、今回のリビアへの軍事介入が正しいことだったのか、疑問に思っている。

理由1:上記の考えの大前提になっている、「市民が虐殺されている」という事実確認(特に軍事介入をした初期の段階において)が果たして正しい情報に基づいてなされたかどうか、疑わしい。  
理由2:軍事介入の目的が、市民を保護するという崇高な目的から、カダフィ政権を倒すことに変わってきている。(そしてその背景には、石油権益を確保することが見え隠れしている。)あえてカダフィの立場に立てば理解できると思うが、外国の軍隊が自分を倒すことを目的として攻めて来たならば、戦うしかないのである。どこの国の大統領・首相でも同じことをするであろう。  
理由3:軍事介入を開始してから約2ヶ月が経過したが、カダフィを失脚させることができなかった。これから続けたとして、「出口」が見えない。この作戦は成功しなかったのだから、作戦変更すべきである。  
理由4:証明することはできないが、仏・英・米の軍事介入が反体制派を勢い付かせて、かえって死者の数を増やしてしまった可能性があるのではないか。


「保護する責任」に関する詳しい報道・ブログなどは、下記の参考文献を参照。

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【 参考文献 】

[1]「アフリカにおけるクーデタと選挙の動向」 by 落合雄彦
[2] リビアでの武力行使に反対、BRICSが共同声明 (AFP、2011/4/15)
Press statement by the Russian President following BRICS summit.(2011/4/14)
[3] 米英仏、カダフィ氏退陣まで空爆 3国首脳が新聞に寄稿
フランス公式発表 Libya's Pathway to Peace (April 15, 2011)
英国公式発表 Joint article on Libya: The pathway to peace
米国公式発表 Joint Op-ed by President Obama, Prime Minister Cameron and President Sarkozy: ‘Libya's Pathway to Peace’
[4] リビアのデモ拡大 死者21人との情報
[5] 国連安保理、対リビア制裁決議を全会一致で採択 国連広報センター 暫定訳 S/RES/1970(2011) 安全保障理事会決議1970(2011) 2011年2月26日、安全保障理事会第6491回会合にて採択
[6] 国連安保理、飛行禁止区域設定の決議を採択 リビア情勢緊迫 国連広報センター 暫定訳 S/RES/1973(2011) 安全保障理事会決議1973(2011)
2011年3月17日、安全保障理事会第6498回会合にて採択
[7] 米英がリビアにミサイル攻撃 カダフィ大佐は抗戦の構え
[8] NATO、リビア軍事作戦の全指揮権引き継ぎを了承
[9] カダフィ大佐、AU調停で停戦受け入れ 南ア大統領
[10] リビア反体制派、AU提案を拒否 戦闘で子ども犠牲に 
[11] http://www.total.com/MEDIAS/MEDIAS_INFOS/4386/EN/Total-2010-document-reference-va-V1.pdf
[12]Shell forges Libyan gas deal (2005/5/3) BP Agrees Major Exploration and Production Deal with Libya(2007/5/29)
[13] Factbox: U.S. oil companies' interests in Libya Occidental Petroleumについては、同社の2010年版年次報告書
[14] ExxonMobil Commences Drilling Libya's First Deepwater Well(2009/7/16)
[15] リビア攻撃 重い課題背負った国連 (公明新聞、2011/2/29)
[16] くまくまDays~アデレードな日常~  


■「保護する責任」に関する報道など  

1.新聞報道
「保護する責任」前面に 苦い教訓生かせるか 国連 (2011/2/27、産経新聞)
国連総長、リビア空爆を擁護 「内政干渉にあたらず」(2011/3/21、朝日新聞)
リビア攻撃 重い課題背負った国連 (2011/3/29、公明新聞)  

2.ブログ
くまくまDays~アデレードな日常~
「保護する責任」から見たリビア空爆 (その1) (その2) (その3)

~異邦人から見た世界と日本~
REPORT:2011/3/30出演番組『ニュースの深層』で語られたことの全容


3.団体
保護する責任(Responsibility to Protect)を推進している団体
International Coalition for the Responsibility to Protect  

■国連安全保障理事会による最近のリビアに関する決議事項など
2011/2/25:25分間 Fundamental Issues of Peace, Security at Stake, Secretary-General Warns as He Briefs Security Council on Situation in Libya (25 February 2011)SC/10185
2/26: In Swift, Decisive Action, Security Council Imposes Tough Measures on Libyan Regime, Adopting Resolution 1970 in Wake of Crackdown on Protesters (26 February 2011)SC/10187/Rev.1
3/17: Security Council Approves ‘No-Fly Zone’ over Libya, Authorizing ‘All Necessary Measures’ to Protect Civilians, by Vote of 10 in Favour with 5 Abstentions (17 March 2011)SC/10200
3/24:17分間 Secretary-General, Briefing Security Council, Says International Community Must‘Continue to Act with Speed and Decision’for Sake Of Libyan Civilians (24 March 2011)SC/10210
3/28:10分間 Security Council Briefed by Chairman of Committee Established To Monitor Sanctions Imposed on Libya (28 March 2011)SC/10214
4/4:15分間 Difficult to Know How Long Resolving Libya Conflict Might Take, but Responsibility for Finding Solution Lay with Libyan People Themselves, Security Council Told (4 April 2011)SC/10217

2011/04/12

リビアからの脱出 (Part 2: 会社による社員救出)

「東日本大震災」が発生したのは、1ヶ月前の3月11日午後でした。死者・行方不明者は、27,000人と報道されています。お亡くなりになった方々とご遺族の皆様に対しお悔やみを申し上げます。被災された方々が一日も早く活力を取り戻しされることを、心よりお祈り申しげます。

私も少しですが、地震により損害を被りました。余震(あるいは別の地震の前震?)も不安です。それ加えて、TVで報道される被災地の映像、福島原発の事故、そして公共広告機構(AC)の単調でしつこい広告により、心理的にはひどく気落ちし、その状態が続いております。

ブログの更新をできずにおりましたが、気持ちを切り替えるため、PCに向かうことにしました。最初の数本の記事は古いニュースを紹介しますが、できるだけ早く、新しいニュースについて書きたいと思います。

さて、今回は第2回目です。
Part 1: 外国人労働者の内訳
Part 2: 会社による社員救出 (Part 3: 日本政府の邦人救出)を一緒にします。

北アフリカや中東で起こっている反政府運動・民主化運動は、かつて1960年代後半に世界中で起こった学生運動に似ている気がします。もしこの考えが正しければ、世界中の不満を持っている民衆が共鳴し、広がっていくでしょう。そのような国には選挙がなかったり、あっても不正なものだったにするので、民衆は暴力的行動にでる可能性が高いと思います。

日本人は世界中に滞在していますが、今回のリビアのような混乱が起こった場合、円滑に脱出することができるでしょうか?前回の記事で紹介したように、リビアでは多く外国人労働者がおりましたが、特に韓国と中国の脱出作戦には学ぶことがありますので、紹介します。

韓国の建設会社はリビアで韓国人だけで1400人、その他、インド・エジプト・マレーシアなど第3国の作業員を雇用していましたが、その企業に関係していた全員をリビアから脱出させました。


【 ニュース 】

1.韓国

リビア建設現場、韓国は外国人作業員たちを捨てなかった」 [1]

2日午後1時40分(以下、現地時間)。リビアのミスラタにギリシャ国籍の大型旅客船1隻(ニソスロドス号)が入港した。大宇(デウ)建設がリビア建設現場の作業員を退避させるために急いで借りた船だ。ロドス号が接岸する瞬間、港に集まっていた作業員は「助かった」「家に帰れる」と言って喜んだ。

ミスラタで船に乗ったのは計499人。このうち韓国人は55人だけだ。そのほかは大宇建設が雇用したインド・エジプト・マレーシアなど第3国の作業員だ。 

大宇建設はロドス号のほか、トリポリ・ベンガジにも旅客船1隻ずつを投入した。3隻の船で退避させる大宇建設の作業員は計2772人。このうち韓国人は164人。

  エジプト作業員のムハムマド(38)は「会社(大宇建設)が私たちのことまで考えてくれるとは思っていなかった」とし「韓国建設が強国の地位に上がったのには理由があった」と涙を浮かべた。

  大宇建設は第3国の作業員が各自の故郷へ帰れるよう航空券も準備した。航空料と船舶運賃・賃貸料を合わせると60億ウォン(約4億7000万円)を超える。大宇建設の徐綜郁(ソ・ジョンウク)社長は「今はお金が問題ではなく作業員の安全が優先」と述べた。

  大宇だけではない。現代(ヒョンデ)建設も旅客船2隻を借りてスルテから約730人(韓国人94人)を避難させた。現代建設の金重謙(キム・ジュンギョム)社長は「第3国の人も韓国人もみんな同僚。生死をともにするのは当然だ」と語った。

  他国の建設会社の多くは第3国の作業員の面倒を見ない。このためエジプト・チュニジアの国境には外国の建設会社が雇用した第3国の人たちが難民になって集まっている。

  国土海洋部のド・テホ中東対策班長は「外国の建設会社が自国民だけを救出し、(リビア国境には)難民が増えている」とし「第3国の作業員まで避難させる会社は事実上、韓国の建設会社しかない」と説明した。

  現代建設が手配した船に乗ったマレーシアのアリ氏(31)は「(韓国の建設会社に雇用された)私は運がよかった。他国の会社の建設現場で働いている故郷の友人は難民になった」と話した。

  危険な状況であるほど輝きを放つ「家族意識」は‘建設韓流’の原動力だ。海外建設協会のイ・ジェギュン会長は「昨年、韓国の建設は半導体・自動車より多い715億ドルを稼いだ。こうした建設韓流は国内企業が人道主義に基づいて信頼を積み重ねてきたおかげ」と評価した。

  03年にも前例がある。米軍がクウェートを侵攻したイラク軍隊を爆撃する時、SK建設はチャーター機を動員し、第3国の作業員を安全地帯に避難させた。この時に感動を受けた作業員は戦争が終わっていないにもかかわらず自ら復帰し、工事を適時に終えることができた。

2.中国

「リビアから中国人救出、国力増強の表れ」 [2]

北京時間3月2日夜までに、帰国を申し込んだ中国人、合わせて3万5860人がすべて救出されました。これは中華人民共和国にとり「建国以来最大規模」の海外での自国民救出活動となります。
2月16日、リビアの治安状況が重大局面に陥って以来、各国は自国民をリビアから引き揚げるようになりました。

中国は自国民の救出においていくつかの困難に直面していました。まず、帰国願望のある人が多く、しかも救出時間が短いこと。10日間以内に3万人以上を安全かつ秩序をもった救出をすることは未曾有のことです。また、救出しようとする人が離れた場所にいること。中国人がリビアのあちこちに散在しており、一部中国系プロジェクトのキャンプは砂漠の奥にあり、これらの人々を安全に集めることは一大事です。さらに、リビアの状況が複雑なこと。リビアは混乱状態にあり、交通機関や公共施設がほとんど麻痺状態に陥っています。

今回の救出活動にあたっては民間航空機や船舶、長距離バスなど様々な手段がとられ、さらに、軍用機や軍艦も用いられました。これは経済力がなければできないことです。

1990年代から、中国外務省は領事保護に関するメカニズムの構築に取り組みはじめました。ここ数年、中国政府は「外交は国民のため、国民を元とする外交」という理念を念頭に、最大の努力を払って海外にいる国民の利益を保護しています。このメカニズムによって、海外にいる中国人が危機に直面した場合、外交、空運、海運、華僑関連事務などの担当部門が歩調をあわせて、速やかに救出活動を進めることができます。

今回の救出活動で、ギリシャ、エジプト、チュニジア、マルタ、トルコなどの周辺国家から、通関手続きや大型フェリーのレンタル、宿泊ホテルの提供、大型旅客機の離発着など多方面にわたる支援が得られました。宋涛外務次官は「関係する国家は中国の救出活動に様々な便宜と協力を提供してくれた」として、「中国も可能な限り12の国の約2100人を助けた」と述べました。

今回の救出活動は中国政府が命を尊重し、人権を重視していることの表れでもあります。あるリビアから救出された人は政府の速やかな救出活動によって「中国人としての尊厳と中国人の団結力を感じた」と話しました。 (以下 略)

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【 解説 】


1.外国人労働者のリビア脱出

リビアの人口 約650万人の内、混乱の前に、リビアには外国人 150万人~250万人が働いていた。[3] 3月5日の国連発表によると、リビアを離れた外国人は19万人に達した。[4] リビアから陸路でチュニジアとエジプトに脱出した人数は14万人おり、その内相当数は難民状態になっている。[5]裕福な国の労働者は空路・海路で脱出して母国に帰国しているが、発展途上国からの労働者は陸路でチュニジアあるいはエジプトに向かっていると考えられる。

2.日本人の脱出の状況

(1) 平常時の邦人数は約100名(石油探鉱会社、商社など18社が進出している。)

(2) 2月22日以降動向
2/22:在留邦人数80人、その他旅行者7~8人 (23日現地発の民間航空機で出国する予定)
外務省は、リビア渡航延期を勧告した。[6]

2/23:日本政府は邦人救出のため、チャーター船1隻を派遣する方向で検討に入った。[7]

2/24:52人[8]

2/25:23人[9]
4人:米国のチャーター船による出国に向け待機中。
7人:トリポリから離れた地域に住んでいる。
3人:大使館員。
9人:現地で結婚するなどしており、出国の意思はない。

3/1:14人[10]
  4人:韓国がアレンジした船で出国予定。[11]
  1人:民間企業社員(@ベンガジ)[12]
  9人:現地で結婚するなどしており、出国の意思はない。

3/4:政府は閣議で、「邦人退避支援に係るマニュアルは存在しない」とする答弁書を決定した。(自民党の山谷えり子参院議員の質問主意書に対する答弁。)[13]


【 コメント 】

1.今回紹介した韓国の建設会社は、自国民の社員だけでなく、外国人労働者も救出した。大宇建設の社長は「今はお金が問題ではなく作業員の安全が優先」と述べ、また、現代建設の社長は「第3国の人も韓国人もみんな同僚。生死をともにするのは当然だ」と発言している。立派である。日本の建設会社はアルジェリアで高速道路を建設しているが(COJAAL アルジェリア東西高速道路建設工事)、万一、アルジェリアで同じ事態が発生したら、韓国の会社と同じように対処してもらいたい。

2.海外に滞在している邦人が脱出するケースは今回が最後ではないだろう。政府は、①自衛隊機(艦艇)の派遣について議論し、②「邦人退避支援マニュアル」の作成・法整備をして欲しい。

3.在外公館においては、当該国独自の避難マニュアルなどを作って、ホームページで公表、あるいは少なくとも在留者には周知させてもらいたい。なお、2月上旬にエジプトで大規模なデモが発生した際、在エジプト日本大使館は、HPやFM放送を使って邦人に情報を提供したが、参考になる。[14]


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【 参考文献 】

[1] 中央日報、2011/03/04
[2] CRI、2011/3/3
[3] 人口650万人:http://esa.un.org/unpp/index.asp
外国人労働者:
150万人の説 
http://www.immigrationmatters.co.uk/millions-of-migrant-workers-trapped-in-libya.html
http://www.trust.org/alertnet/news/un-plans-to-launch-libya-crisis-appeal-on-monday/
250万人の説
http://www.usatoday.com/news/world/2011-03-05-migrant-workers-libya_N.htm
[4] Over 190,000 flee Libya unrest: UN (2011/3/5)
[5] Over 140,000 flee Libya to Egypt and Tunisia, UNHCR steps up efforts to support refugees and civilians in Libya (2011/3/1)
[6] 邦人87人の安全確認=リビア渡航延期を勧告-外務省
[7] 日経 2011/2/14 「政府、リビア邦人救出へチャーター船検討」(リンク切れ)
[8] リビア在留の邦人退避へ 24日中にも (2/24)
[9] 7人のリビア邦人 なぜ政府は救えない
[10] リビアの在留邦人4人 出国へ (NHK,3/1)
[11] 日本の電機メーカー勤務。韓国企業が手がけている発電所のプラント事業に参加。
[12] 「リビア 最後の在留邦人が出国」(NHK,3/6)
[13] 「邦人退避マニュアルはない」政府が答弁書 国際情勢の悪化時(2011/3/4)
[14] 在エジプト日本大使館HP