2009/09/27

韓国はタンザニアで農地取得か

■ニュース

タンザニアの首相Mizengo Pinda氏が2009年9月上旬に韓国を訪問し、韓国から農業の協力を受け入れることに合意した。韓国のメディアは、韓国農村基盤公社(Korea Rural Community Corp)が、タンザニアの農業開発事業について交渉中である、と9月24日に報道した。両国から公式発表はまだないが、韓国農村基盤公社、タンザニア首相スポークスマン、及びタンザニアの農業大臣の発言は以下のとおりである。

(1)韓国農村基盤公社の発言[1]
・100,000haの土地を開墾するが、面積の半分を地元の農家に与え、残りの半分は50年間無償で借り、食料加工工場を作る。韓国は技術支援をする。
・アフリカ諸国はこれまで、フルーツを輸出し、フルーツジュースを輸入し、オリーブの実を輸出し、オリーブ油を輸入していた。加工技術をもっていないからそのようになる。韓国は農業技術を移転をする。
・タンザニアとEUは自由貿易協定があり、EUに無税で輸出できる。
・総事業費は、7000~8000億ウオン(530~600億円)の予定。
①事業化調査:5億ウオン(37百万円)
②第一段階:2010年~2015年にかけて、10,000haを開発する。
  ③第二段階:残りの90,000hを開発する。
・タンザニアの閣僚級の人物が10月に韓国を訪問し、MOUを締結する予定。
・タンザニア以外に、現在ラオス、セネガル、モンゴル、インドネシア、ビルマと交渉中。

(2)タンザニア首相スポークスマンの発言[2]
・本件、決まったわけではない。
・開墾地はPwani州Rufiji Valleyにあり、土地の半分は小規模農家が利用する。韓国は技術支援のために来るのであって、その土地は韓国に貸与(リース)されるのではない。土地利用についてのメカニズム(投資や利益配分などの詳細)は今後決めていく。

(3)タンザニアの農業大臣他の発言[3]
農業・食料安全・協同組合大臣(Steven Wassira)及びTanzania Investment Centre (TIC)の代表者の話:
・タンザニア政府がそのような交渉をしていることを承知していない。
・タンザニア首相が韓国を訪問しており、いろいろな分野での投資を勧誘しているが、その一環であろう。

■解説
・アラブ諸国、アジア諸国は、食料を市場で購入するだけでなく、より確実に確保するため外国に土地を求めている。国際連合食糧農業機関(FAO)は、2009年5月、『Land grab or development opportunity? --Agricultural investment and international land deals in Africa』という130頁の本を出版している[4]ので、それは世界的な動きであることは間違いない。[5]

・次の図はその「land grab」を図式したものである。
図を大きくする[6]







図を大きくする[7]







■コメント
・2008年末に、韓国の大宇ロジスティックスがマダガスカルの土地をリースしたが、その土地の面積がマダガスカルの耕地可能面積の50%を占めているが[8]、あまりにも広すぎる。事実、2009年3月、マダガスカルで政変があったが、新政権は直ちにその契約を撤回した。今回のタンザニアの事案では、韓国は注意深く事を進めるものと思われる。

・外国が農地を求めてアフリカ等に進出することが「土地収奪」(land grab)なのか、それとも「開発の機会」(development opportunity)なのかは、結局のところ、フェア(fair)な取引なのかどうか、ということではないだろうか。2009年7月、麻生前総理は、「食料安全保障の永続的な解決」という文書を発表し[9]、投資家と被投資国の行動原則の策定を提案しており、具体的要素として、①透明性と説明責任、②地域住民の権利と恩恵の尊重、③開発・環境影響評価、④食料安全保障、⑤市場原理を提案した。

・日本政府はJICAをつうじて、アフリカの農業を支援しているが[10]、それは「援助」であり「投資」ではない。援助によって、技術移転や人づくりに貢献しているものの、せっかくJICAが援助して投資の下地を作っても、日本の民間企業ではなく、中東諸国、中国、韓国企業が投資することになってはいけない。日本では、外務省と農林水産省などが2009年4~8月にかけて検討し、「食料安全保障のための海外投資促進に関する指針」を発表したが[11]、民間企業の動向に注目したい。ただし、民間企業としては、外国に進出するよりも日本の農業の再生をした方がリスクが低いのではないだろうか。なぜならば、日本の農業は「産業」ではなく「家業」であり、老人が農業が担っているが、後継ぎがいないのでいずれ農地を売却するか貸与することになり、土地を集約化できると思われるからである。

・中東諸国や中国がアフリカに農地を求めるのは理解できる。中東で砂漠を緑地化するのは困難だし、中国は干魃であるからだ。筆者が驚いたことは、韓国は、自給率を高め、食料輸入国を分散するためにアフリカなどにに進出しているのだが、韓国の自給率は日本の自給率より高いのである。(下図参照[12])


■参考サイト/ 参考文献
1.北林寿信・農業情報研究所 [top] [海外農業投資]
2.Food Crisia and the Global Land Grab

[1]ニュース
①Korea shifting to agricultural aid in resource diplomacy (中央日報, 2009/09/25)
②Local Industries Seeking Farmland Projects Overseas (Korea Times, 2009/09/25)
③S. Korea to build farming infrastructure in Tanzania (聯合ニュース, 2009/09/24)
[2]ニュース
Tanzania says in talks with S.Korea to boost farming (Reuters, 2009/09/25)

[3]ニュース
Government says no land deal with South Korea (The Citizen, 2009/09/25)
[4] FAO(読み込みに時間がかかります。)
[5]Africa: Land Grabs - Another Scramble for Africa (All Africa, 2009/09/17)
[6]図1
[7]図2
[8]「韓国大字のマダガスカル農地投資 ”明らかにネオ・コロニアルに見える”―FT紙」農業情報研究所, 2008/11/20
[9]「食料安全保障の永続的な解決」(2009/07/06) 日本語骨子 英文全文
[10]JICA 
[11]「食料安全保障のための海外投資促進に関する指針」の公表 2009/08/20
[12]韓国の穀物自給率、OECD諸国で最低レベル (中央日報 2008/04/07)


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2009/09/24

マダガスカルの政情不安:二人の大統領

■ ニュース
マダガスカルでは、2009年3月、クーデターによる大統領交代があった。近隣諸国は新旧大統領が協力して国を運営していくよう仲介しているが、新旧大統領のどちらが実権をとるかについては合意されておらず、政治は混迷している。9月23~30日にニューヨークで開催される国連総会には、新大統領が招待された。[1]
(注:ここで「新大統領」というのは、現在、大統領職に就いているAndry Rajoelina氏を指すが、彼は国際的には承認されていない。)

■ 解説
マダガスカルで政権交代があって6ヶ月が経過した。これまでの経緯をまとめておく。


1.新旧大統領について[2]
(1) Marc Ravalomanana (元大統領)
1949年12月、貧農に生まれた。酪農事業を成功させ、
1999年~2002年、首都Antananarivo知事。
2001年12月、大統領選挙。23年間続いたRatsiraka大統領(マルクス主義者)に勝つ。
2002年5月、大統領に就任。市場経済を導入し、インフラを整備したが、貧富の差が大きくなった。
2009年3月、クーデターにより大統領職を辞任し、現在南アフリカに滞在中。

(2) Andry Rajoelina (現大統領、ただし国際的に承認されていない)
1974年5月生まれ。デイスクジョッキー、事業家(放送局などを持つ)。
2007年~2009年、Antananarivo知事。
2009年3月、大統領に就任したことを宣言した。当時34歳であり、憲法上大統領に就任できない。

2.経緯について [3]
2008年12月、政府はAndyが所有するViva TV局を封鎖。Andy Rajoelinaは大統領との対決路線を鮮明にしていく。
2009年1月31日、大統領を辞任するよう要求。
2009年2月、政府はAndry Rajoelinaを知事職を解任
2009年3月17日、Marc Ravalomanana大統領を追放し、Andry Rajoelina自ら大統領宣言。軍の支援を受け、高等裁判所も支持。議会閉鎖。国際的な反応として、African Union、SADCはマダガスカルの加盟停止にした。米国は人道的支援以外の援助は中止している。
2009年6月、Marc Ravalomananaの欠席裁判(禁固4年)
2009年8月、隣国が仲介し、Power Sharing Agreement(モザンビークの首都Maputoで協定に合意。)により、暫定的な連合(transitional coalition)の枠組みを作ることに合意した。その協定では、全ての関係者が合意することを前提で、現大統領に首相を任命する権限を与えた。
2009年9月、3つの野党もMarc Ravalomananaも合意していないにもかかわらず、Andry Rajoelinaは仲間を首相に添え、組閣した。野党は別の内閣をつくる、と主張している。

3.外国企業への影響など
韓国大宇ロジスティックスの農地開発契約が反故にされた[4]。また外国からの観光客が減少し、経済を悪化させている。


■ コメント
アフリカ諸国において、まともな選挙により政権交代するのは、極めて稀なことである。政権交代は、軍の支援をうけてクーデターによるものが多い。一方、国際社会はいつまでも放置できないので、国民の反応をみながら、新政権を承認するか決めることになる。マダガスカルにおいては、隣国による国際的な仲介は、誰が主導権をとるかということを決めることができないので、機能していないようだ。

■参考文献
[1] ニュース
  ①「Madagascar cabinet 'breaks deal' 」 (2009/09/08, BBC)
  ②「Madagascar Government Doesn't Oppose Negotiations, Says Minister」(2009/09/22, VOA)
[2] 新旧大統領の経歴
  ①BBC
  ②Wikipedia(Marc Ravalomanana)
  ③Wikipedia(Andry Rajoelina)
[3]マダガスカルの最近の経緯
[4]「『新植民地主義』を回避するCSR調達」(2008/12/08,藤井敏彦)


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2009/09/21

ルワンダ虐殺の犯人が引き渡される

■ニュース
コンゴ民主共和国は、ルワンダ虐殺の犯人(Gregoire Ndahimana)を、ルワンダ国際刑事裁判所に引き渡した。[1]

■解説
ルワンダでは、1994年4~7月の約3ヶ月間で、推定80万人~100万人のTutsi(ツチ族)が虐殺された[1]。国連は、1994年11月に、ルワンダ国際刑事裁判所(ICTR)をタンザニアに設置し[2]、約120人を起訴した[3]。

Ndahimanaは逃亡していた13人の内の1人だが、当時は、ルワンダのKivumuという村の村長であった。その村では、約44,000人の住民の内、4,400人が殺害されたが[4]、Tutsi族は全滅したが[5]、村長らは、教会に逃れていた約2000人を虐殺したとして起訴された[5]。

■コメント
ルアンダからNdahimanaのような人物がコンゴ民主共和国などの周辺国に逃亡している。(コンゴはルアンダの犯罪人を匿っていることになる。)一方、コンゴ民主共和国内でも政府軍と反政府軍の戦いあり、反政府軍はルアンダなどの周辺国に根拠地置いている。(ルアンダはコンゴの犯罪人を匿っていることになる。)犯人を引き渡しあうことにより、両国の政情は安定化に向かうと期待されている。

それにしても、tutsi とhutuの部族間の和解(conciliation)はすすんでいるのであろうか。

■参考文献
[1]「DR Congo deports genocide suspect 」2009/09/20,BBC
[2] 「ルワンダ・1994~何が起こったのか~アムネスティ・インターナショナル1995年年次報告書より~」
[3] ①「ルワンダ国際戦犯法廷」ウィキペディア
International Criminal Tribunal for Rwanda
[4] International Criminal Tribunal for Rwanda---Status of Cases
[5]「Death and survival during the 1994 genocide in Rwanda」by Philip Verwimp
[6] International Criminal Tribunal for Rwanda:Case No. ICTR-20016-8-I THE PROSECUTOR AGAINST GREGOIRE NDAHIMANA

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