2011/02/25

リビア関連のニュースを鵜呑みにするな

リビアの情勢は、日々、混乱の度合いを深めています。反政府デモ隊(protesters)はカダフィの退陣を迫っています。また、欧米諸国の一部は、これまでのカダフィの言動に対し辟易しており、恨みつらみがありますので、ここぞとばかりに退陣させようとしています。ウォールストリート・ジャーナル紙は「リビア軍による国民の殺りくが続けば、西側諸国はリビアの飛行場を空爆するだろう」と警告しました。[1] 

私は、リビアという国は経済的に大きく離陸(take-off)する---と信じていますので、この数年間、同国の動向、特にカダフィの後継者になるかもしれない次男のSaif al-Islam氏に注目してきました。(このブログでもリビアに関し、5本の記事を掲載しました。)

Saif氏は、2月21日、40分にわたってテレビ演説し、国民に事態を説明し、冷静になるように求めましたが、それを伝える新聞記事に次のような文がありました。

「最後の兵士、最後の弾まで戦う」。強権体制下で揺るがなかった首都をデモが襲う中、改革者と目された同氏の「別の顔」に人々は怒りを増幅させている。

私は、彼はこのようなことを言う人物ではない、と思い、記事の内容を確認するため、実際の映像を探したところ、複数のテレビ局が報道したものをYouTubeで見つけました。

演説の内容が「事実」かどうかについては、情報が限られており裏をとることはできないので、この大本営発表の内容を鵜呑みにはしません。しかし、少なくとも、彼が何を考えているのかが分かりますので、紹介します。


【 ニュース 】

カダフィ氏次男、演説で強硬姿勢 諸部族の反攻噴出 (産経新聞 2011/2/21) [2]

【カイロ=黒沢潤】リビアの最高指導者カダフィ大佐の後継者として有力視されている次男、サイフルイスラム氏が21日未明、国営テレビで緊急演説した。同氏はリビアの経済・社会改革に積極的とされ、国民からの期待も小さくなかったが、独裁体制放棄への明確な言及もなく、デモを容赦なく弾圧するという強硬姿勢が際立った。

「怒る国民への対処の仕方に関し、警察や軍に誤りがあった」。サイフルイスラム氏の演説は当初、抑制を効かせながら始まった。だが、デモの犠牲者数が300人以上とも指摘されていることに対し、「84人だ。メディアの誇張だ」と完全否定した。

同氏は「リビアは内戦の危機にある。首長国や小国家を作る陰謀が存在する」とも指摘。政権への徹底抗戦を叫ぶ北東部ベンガジでは、ムスラタ族など諸部族が街の支配権を握ったとされ、東部一帯のズワイヤ族にも欧州への石油輸出をとめる動きがある。演説はこうした“国家内国家”を作る動きに警鐘を鳴らした形だが、強権支配のタガが外れつつある部族の反攻を食い止められる保証はない。

サイフルイスラム氏は一方、諸外国をも牽制した。リビアに警告を発する国に対しては「(政権崩壊すれば)外国企業はリビアを去ることになる」と脅した。

リビアは国民参加の「直接民主制」を実践するとのカダフィ氏の革命理論を堅持し、憲法や政党が存在しない。サイフルイスラム氏は憲法制定協議を始めると語り、「国歌や国旗を変えたいならそれもやる」と懐柔策も口にした。しかし、ベンガジの弁護士は英BBC放送で「同じ約束の繰り返し。信じない」と一蹴した。

「最後の兵士、最後の弾まで戦う」。強権体制下で揺るがなかった首都をデモが襲う中、改革者と目された同氏の「別の顔」に人々は怒りを増幅させている。

とはいえ、リビアには政権崩壊後の“受け皿”がない。まがりなりにも野党が存在したチュニジアやエジプトとは異なる。約40年の独裁体制が崩れ去った場合、混乱が国家を襲うのもまた避けられない。


【 解説 】

Saif al Islam氏の40分間のTV演説の要旨

写真:クリックで拡大
私は、多くの人から、直接国民に話しかけるように言われた。何を言うか事前に書きものにしていない。正統アラビア語ではなく、リビア方言で、リビア人の一人として、皆さんに直接、原稿無しの即興で話しかける。事前に準備をしていない。心に感じたことを伝えたい。

一連の出来事の経緯を順を追って説明したい。我々は、この地域が地震に襲われ、嵐がふいているということを全員が知っている。それは、発展・変革・民主化・自由化を求める行動である。それは我々が、ずっと昔から望んできたことである。

この地域では多くの変革を必要としている。変革は政府がもたらすか、あるいは、国民がもたらすかどちらかである。それは多くのアラブ諸国で変化をみている。現在は難しい状況にある。我々は正直であるべきだし、また、真実が重要だ。この演説では真実のみを話す。

リビア国外には反体制のリビア人がおり、リビア国内に彼らの友人や支持者がいる。リビア国内にも政府に反対の人々がいるが、彼らはエジプトのFacebook革命をまねた。

2月17日に何が起こったのか?
まず、民衆がイタリア領事館を襲撃した。そして、警官が民衆を射殺した。それを理由に民衆が警官を襲った。外国にいる反体制の人々が、リビアをチュニジアやエジプトのようにするため、この出来事を利用し、インターネットやFacebookで情報を流した。そして、メディアのキャンペーンがあった。

政府は、チュニジアやエジプトが混乱した時、政府は事前の防御策として、2月17日以前に、危険分子を逮捕した。そのことに対し、小規模なデモが起こった。体制派と反体制派が対立し、何人かの死者が出た。

警官に対する暴力行為もあった。怒った民衆は、ベンガジでは軍隊を攻撃した。警官は防御し、死者が出た。

死者の葬式でもいざこざがあった。以上がベンガジで起こったことで、現在、騒乱、分離運動になってしまった。リビアという国の統一が危険にさらされている。

ベンガジで殺された人がいる。そのことがベンガジの人々を怒らせた。我々は、正直に話し合いをしなければならない。彼らは殺されたが、その理由はなんだろうか?
別の理由がある。
民衆は軍や警察に対し歯向かった。特に、軍にはそのような経験がないので、臆病(nervous)になり、危険を感じて(stress)、民衆に銃口をむけてしまった。軍に非があった。

私が聞いたことだが、反乱に加わった人々の多くは酒を飲んでおり、何人かは麻薬を使用していた。警察や軍は、彼らを射殺した。このようなことを聞いている。

死者の数はベンガジでは48人であり(*)、メディアは過大に報道しているし、人々も大げさに話している。リビアにいないであたかもリビアからの報道のように見せかけている、との報告がある。いくつかのテレビ局も彼らと協力している。たとえば、昨日の報道では250人が死亡、180人が負傷したと伝えているが、それは大げさな数字であり、そのような噂を広めるキャンペーンがある。
(*:数字の箇所については、理解できない。)

政府側と反政府側の両方に間違いがあった。警察、特に軍は、怒れる群衆に対処する準備ができていなかった。彼らは、軍本部、武器弾薬が収奪されないように守ることが精一杯であった。

民衆は、仲間が殺されたので怒る権利がある。両方に言い分(story)があるが、亡くなった方がいるという事実は悲しいことだ。

民衆と警察・軍の間にはメディアが存在するが、誇張した記事を流している。それは周知の事実である。さて、我々は、しっかりと現状を把握しなければならない。リビア東部での出来事、そしてそれがリビア全土に広がろうとしている出来事には、3つの原因がある。

第1のグループは、組織化されたグループであり、労組、弁護士は政治的主張や要求がある。彼らの要求は理解できるし、政府としては対処できる。

第2のグループは、イスラムグループである。Al Baydaで起こったことだが、彼らは逮捕されており、恩赦で釈放された人々である。彼らは軍のキャンプを襲撃し、軍人・警官を殺しており、軍のキャンプを襲い、兵器を盗んだ。

Al Baydaで何が起こったのか。私にはその街に家族がおり、電話で知らせてくれた。この数日間で、彼らは武器を盗み、兵士を殺した。街中をうろついており、al Baydaを「イスラム首長国」にすると言っている。彼らは、武装しており、軍事的目的がある。第1のグループとは違う。

第3のグループは、人数が最も多い。これは広く知られていることだが、その中には麻薬を使用している若者がいる。また、好奇心が強く、熱心にデモに参加する人々だ。デモに参加する理由を数えるならば10以上あるだろう。

私は事実を話している。好むと好まざるとにかかわらず、事実だ。

兄弟達よ、政府は新しいリビアを作る計画がある。

いずれTVで放映するが、保安部隊は何十人ものアラブ人、アフリカ人を逮捕した。反政府勢力が貧しい彼らを金で雇い、国を分割ししようとしている。金持ち・ビジネスマンは彼らを雇い、いろいろなオペレーションに使った。

その証拠がBenghaziとal Baydaでは、アラブ人とアフリカ人が武装している。これは秘密ではなく、皆知っていることだ。彼らは不法滞在者(illegal immigrants)だ。彼らはこの騒乱に利用された。

一部のグループは、リビアを統治したいと考えている。リビア東部のBenghaziとal Baydaに別の国をつくりたいと計画している。al Baydaでは「イスラム首長国」と名前を付けたようだ。

昨日、ある男が「私はイスラム共和国の皇太子だ」と言った。一部のグループはリビアを小さな首長国の集合体にしたがっている。彼らは既に計画を持っている。リビアのメディアが報道していないことに乗じて、アラブのメディアは本当に何が起こっているのかを報じていない。

黄色い帽子(=傭兵)、何百人も殺された-----アラブのメディア、外国のメディアは、噂を広げたり、誇張したり、嘘を報道したりしている。

別のグループがこの騒乱で利益を得ている。彼らは刑務所を脱出した囚人であり、Benghazi刑務所などを壊している。国が崩壊すると政府も警察もなくなり、彼らは自由になる。彼らは簡単に混乱状態を作り出せる。

説明したように、リビアが崩壊すると得をするグループが複数存在する。リビアの一部を統治しようとしたり、都市ごとに皇太子を置くことを認めたりするのは、国家反逆罪(national treason)だ。

アラブの兄弟達は、リラックスしながらコーヒーや紅茶を飲んで、リビア人がリビアを崩壊させている状況を見ながら、あざ笑っている。負け組はリビアだ。彼らではない。

道路をうろついている犯罪者がいることは、秘密ではない。家族・友人のみんなが、犯罪者が町を占領していることを知っている。犯罪者は武器をもっており、街中を混乱させている。

現状は極めて危ないことをわかってもらえたと思う。チュニジアやエジプトを見たリビアの若者が同じような変革を求めているということだけではない。リビアは、エジプトやチュニジアとは違うのだ。

リビアは違った状況におかれている。もしリビアが小国に分離するなら、3つ、あるいはそれ以上に分かれてしまう。それは60年、70年前にもどるということだ。

リビアがチュニジアやエジプトとは違う2つ目の理由は、リビアは部族が共同体を作っている国であるということだ。リビアは、政党(parties)があるような都市社会(urban society)ではない。リビアは部族が基礎となっている。人々は部族の中での役割を知っているし、部族の仲間を知っている。内戦(civil war)になってしまう。1936年のような内戦の時代に戻ってしまう。街中で殺し合いをすることになる。

リビアはチュニジアやエジプトとは違う。リビアには石油があり、石油がリビアを結びつけている。大部分の油田はリビア東部でもなく西部でもなく、中央内陸部にある。500万人が石油収入で生きている。

もしリビアが分裂するなら、誰が食料や水をくれるのだ?だれがリビアの油田を管理するのだ?

石油を管理する首都をどこに置く?トリポリか、al Baydaか、それともBenghaziなのか?だれが管理して、石油収入を分配するのか?だれが教育や病院の費用を負担するのか?

もし内戦が起き、リビアが分割された場合、石油収入の配分方法に合意することができると思うか?もし、できると思う人がいるなら、間違いだ。石油は燃やされ、ギャングや犯罪者、部族の民は、油田を占拠するために戦うだろう。誰も石油の恩恵に与れない。油田は中央内陸部や南部の砂漠地帯にあり、人が住めるようなところにはない。

リビア人口の4分の3はリビア西部にすんでいるが、そこには油田はない。Barcaにも石油は出ない。どのようにして食料を買うのか?

兄弟達よ、これからリビアに起こるかもしれないことは危険なことだ。国の統一や各種スローガンよりもっと大きな問題に直面する。教育や福祉が崩壊する。子供達が通う学校がなくなる。小麦粉も無くなる。我々の富は盗まれてしまう。これがBengahziとal Baydaで起こったことだ。

我々はリビアを離れ、移民することになるだろう。油田を管理できないし、石油収入を分配することができないからだ。産出された石油は燃やされるだろう。これから40年かけて石油収入の分配方法について議論することになる。皆がリーダーや皇太子になりたいからだ。

リビアはチュニジアでもないしエジプトでもない。今日、我々は非常に難しい歴史的試練に直面している。

まず話し合おう。正直に話し合おう。我々は皆、武器を持っている。犯罪者は、戦車、機関銃、大砲を持っている。

私がこうして話している時も、Benghaziでは戦車が酔っ払いを乗せて動き回っている。Baydaでは市民が機関銃を持っている。軍の武器保管庫から多数の武器弾薬が盗まれた。だから我々全員が武器を持っている。軍も武器を持っている。

多くの人々が武器を持っている。反政府勢力も武器を持っている。

だから内戦が起きる。リビアは全てのインフラを失うだろう。食料もなくなるだろう。そして現在実施している2,000億ドルの新都市計画に関与している外国企業もリビアを去るだろう。

誰がリビアに戻って、リビアを再建するのか?これまで作ったものは壊されるだろう。病院も閉鎖されるだろう。

私の言っているいることを良く聞いて欲しい。我々は岐路に立たされている。歴史的な決断をリビア人が下さなければならない。

(今まで説明したようになるのか、それとも)我々はリビア人であり、リビアは我々の国であり、我々は変革や自由を求め、真の意味でリビアを変えていようにするのかどちらかだ。変革は目の前にある。

500万人が武器をとり内戦をする前に、最終的な解決策を決めよう。我々はエジプトでもなくチュニジアでもない。我々全員が武器をもっているし、武器を手に入れられる状況にある。

84人が死亡したことを悲しむのではなく、これから何千人も死ぬかもしてない事態になっていることを悲しむ。リビアの全ての街で、血が川のように流れることになる。石油が生産されなくなるので、皆がリビアを離れるだろう。

明日になれば、外国の会社、外国人の全てがリビアを離れるだろう。石油会社もだ。石油は生産されなくなる。国家収入がなくなる。一片のパンもなくなるだろう。

本日、al Baidaでは、一片のパンは1.5ディナールで買える。来週になれは100ディナールになるだろう。私が皆さんに話すのがこれが最後になるだろう。内戦になれば、リビア人すべてが武器を持ち、内戦状態に入り、国が分断され、完全に混乱状態になる。武器を持ち、自衛するような状況になる前に、街中に血の川が流れるようになる前に、これから数日以内に歴史的なイニシィアチブをとらなければならない。

小さなことを罰するような古い規制は止めにして、新しい法律(new civil rules and regulations)を作る。そして、憲法制定のために国民の間で話し合い(national dialogue)が始まる。次に開催される国民集会(polular conference meeting)で憲法について議論することが、つい最近開催された会議で決まった。リーダーであるカダフィ大佐が合意した。ジャーナリストもいた。

もう1つ、リビアは分離するのではなく、地方自治(local government)の時代に戻ることになる。住民は選挙で首長を選ぶのだ。中央政府の権限を小さくする。地方自治体が厨民にサービスを提供するようになる。これまでの開発は継続されるが、2000億ドルを使って、リビア全土に配分され、街造りをする。

給与は上げる。若者が受けられる融資限度額を上げる。これについては即刻そのようにする。

我々は、改革する。血は流さない。国を開発する。リビアは発展する。隣の国よりも少ない数の犠牲者と損失で発展する。

チュニジアとエジプトでは問題が発生した。観光客が来なくなった、仕事がなくなった、そして安定も治安もなくなった。

リビアは、チュニジアやエジプトよりも、千倍以上悪い状況にある。もし明日にでも国民が合意すれば、流血は防げるし、歴史的な成果を上げることができるだろう。

我々は第一の共和国(first republic)から第二の共和国(second republic)に移行する。第一の政治体制(regime)を大きく変えて、全く新しい政治体制ができる。国民全員が望み、愛することができるような「明日のリビア」ができる。

その逆に、国民が対立して、リビアが分割され、内戦に入り、石油収入がなくなる事態にすることもできる。ガス収入もない。リビアは混乱に陥る。

Barcaで起こったような攻撃があるだろう。それが全土に広がる。子供達の教育はなくなる。病院もなくなる。Barca、Bayda、Shahhat、Benghaziではすでにそれが現実になってしまった。

私の父は東部出身で、母は国民の大部分と同様に、西部出身だ。

東部、特にBenghaziに住んでいる人に言いたい。リビアが分割されたら、どのようにしてリビアに入国するのか?リビア入国ビザを取るのか?そんな時代に戻るのか?あなたの奥さんはBenghaziにいて、あなたはトリポリにいるとする。お互い10年間訪問できない。

家族は分裂する。母親にも姉妹にも会えない。彼らは、国境の向こう側にいるのだ。

過去10年以上、我々リビア人は異なる地域の出身者と結婚している。Benghaziの人はトリポリの人と結婚してきた。地域間の交流が深まった。もし国が分割されたら、トリポリに来るにはビザが必要になる。

もし最初のシナリオに合意できないのなら、二番目のシナリオになるという心の準備をしておくがいい。

イタリア(*)の外務大臣が、リビアの現状を確認するため、私に電話してきた。国民の皆さん、リビアが再び植民地になる準備をしておいてくれ。植民地支配がまた来る。ヨーロッパ人とアメリカ人はリビアに来る、それも武器を使って。
(*二つのトランスクリプトがあるが、1つはイタリア、もう1つはイギリスとなっている)

ヨーロッパと北大西洋条約機構は、2日間で、2つのイスラム首長国が建国されるのを認めると思うか?1ヶ月後には15の首長国ができるだろう。彼らは地中海沿岸にイスラムの首長国が建国されることを認めると思うか?

彼らは、ソマリアでイスラム国が建国されることを認めなかった。リビアは、ギリシャのクレタ島にある米軍基地から30分のところにある。イタリアからは1時間で、地中海の中央に位置する。欧州諸国とその他の国は、リビアに介入しないと思っているのか? 正直に言おう、彼らは武力でリビアを占領するだろう。彼らはリビアを崩壊させる。西洋諸国と米国と欧州諸国は、リビアの土地において、犯罪者が支配するようなイスラム首長国を作るのを認めない。

リビアが産出する石油はどうなるか。西側諸国はリビアで混乱が続きテロ、麻薬、アフリカの不法移民を輸出するようなことは許さない。彼らはリビアに来て阻止するだろう、そしてリビアを占領するだろう。もし別のシナリオを考えているのであれば、間違いだ。

リビアの地中海沿岸は2000Kmあるが、ヨーロッパに近い。今日から2日間でイスラム首長国になる。彼らはそれを認めない。

私の話はここで終わる。リビア人、アラブ人が関与している麻薬問題、汚職の問題、不法移民の問題については話さなかった。エジプトでもチュニジアでも同じ問題がある。いずれ、それらの問題について証拠をお見せできる。

ロンドン、ニューヨーク、マンチェスターに住んでいるリビア人、あるいはドイツやカナダにいるリビア人達は、リビアにいるリビア人を挑発し、家をでて、あれをしろ、これをしろ、と指示している。彼らの子供達はヨーロッパと米国で勉強している。彼らには健康保険もあるし、居住国の国籍も取得している。一方、リビアにいる子供達は死にかけている。

軍隊から兵器弾薬を盗めと、指示している。彼らは今、ヨーロッパでリラックスしているところだ。リビア人はここで死ねという。それから、彼らはリビアに戻り、リビアを支配する。これが彼らのシナリオだ。リビアの国民同士が敵対し、殺し合った後に、リビアに戻り我々を支配する。イラクの状況と同じだ。海外にいるリビア人は、「わかった、リビアに戻り統治しましょう」と言うだろう。

我々には2つの選択肢がある。我々は今、変革できる。これは歴史的な瞬間である。変革しないのなら、これから何十年の間、何もないだろう。最初の選択肢を選ばない限り、ユーゴスラビアより悪い状況になるだろう。カダフィはムバラクやベン・アリとは違い、古典的支配者だ、人民のためのリーダーだ。何十万人の人々がカダフィを守るために、集まってくるだろう。沿岸の道を通ってカダフィを支援するために来るだろう。軍隊もいる。彼らは、自身の被害を省みずに大きな役目を果たすだろう。リビア軍はチュニジアやエジプトの軍とは違う。最後の最後までカダフィを支持するだろう。(反体制派は)ガーデン広場にいる人が発砲し、軍隊も発砲する。そのようなシーンを世界に見せたがっている。目を覚まさなければならない。

これからは、国家防衛隊と軍が出動する。我々はリビアの土地を1インチも明け渡さない。彼らは60年前、植民地主義者からリビアを守った。そして今は、麻薬中毒者から守る。リビアの大部分の人々には知性がある。悪党どもとは違う。(一部不明) 我々は最後の一人まで、最後の弾を使いきるまで戦う。リビアを守り、明け渡すことはない。我々は、アル・ジャジーラ、アル・アラビア、BBCに、罠(trick)を仕掛けさせない。


【 コメント 】

1.事実を確認すること

国際社会は、リビアで何が起きているのかという「事実」を遅滞なく確認し、事実に基づいて行動しなければならない。万一、国際社会が間違った情報に基づいて行動した場合、より大きな問題(悲劇)を起こしてしまう。特にリビア関係のニュースは鵜呑みにしてはならない。色々調べたが、私は次のことが判らない。

(1)リビア政府軍は、無防備の市民を殺しているのか?死者の数は?

国連事務総長は、「市民への攻撃は国際法違反で、流血を起こした者は罰せられなければならない」と発言した[3]。また、オバマ大統領も、暴力的なデモ弾圧は「国際的規範に違反する」との声明を出した。[4]

日本や西欧諸国でデモをする人々は単にプラカードをもって歩くだけで、当然ながら無防備である。しかし、反政府勢力の一部が、政府転覆を目的として武装しているのであれば、話は別だ。米国で同じことをすれば、撃ち殺されるだろう。


(2)アフリカからの傭兵(foreign mercenaries)は、だれが、何のために雇ったのか?

1つ目の説は、カダフィが政権を守るために雇った。
2つ目の説は、反政府勢力を支持する人達(=金持ち)が、反政府グループをを守るために雇った。あるいは、リビアを混乱に陥れるために雇った。
3つ目の説は、上記の両方。

(3)首都トリポリで空爆があったのか?[5]

空爆するのであれば飛行物体は爆音をたてるはずであるが、イタリア人(教授)がトリポリの親類に電話をかけて確認したところ、そのような音は聞こえなかったという[6]。トリポリには各国の大使館があるのだから、事実関係は容易に確認できると思うが、日本大使館から情報はないのだろうか。

なお、政府は、武器を反政府勢力に渡さないようにするため、郊外にある武器弾薬庫を空爆したことは事実のようだ。[7]

(4)反政府勢力の中には、麻薬を使っている者がいたのか?多数いたのか?

エジプトで麻薬が作られており、欧州等に持ち出される際に、リビアが中継点(transit trafficking )になっているようだ。リビアは、UNODC (国際連合薬物犯罪事務所)に加盟している。[8]


2.国際社会によるカダフィに対する報復

冒頭に、「欧米諸国の一部は、これまでのカダフィの言動に対し辟易しており、恨みつらみがある」と書いた。いくつかの例を紹介する。詳細はネットで調べて頂きたい。

①ロッカビー事件:1988年12月に、スコットランドのLockerbee上空で航空機爆破事件で、270人(大部分が米国人)が死亡した。真犯人と背後にいるのは誰かについては、複数の説がある。
②リビア人が犯人として逮捕され、国際裁判を経て、スコットランドの刑務所に収監された。しかし、スコットランド政府(及び英国政府)は、余命3ヶ月という理由で温情的にその囚人をリビアに帰国させた(2009年8月)。しかし彼は現在も生きている。米国人犠牲者が多かったこともあり、米国のメディアや議員はスコットランド・英国の対応を批難している。
③ブルガリア人看護婦6人がリビアで医療活動をしていたが、400人以上の子供達がAIDSに感染した。6人全員が死刑判決したが、結局多額の賠償金で釈放された。
④カダフィの五男をめぐって、スイスと問題になった。本ブログでも取り上げた。
⑤最近では、韓国人2名がスパイ容疑でリビアから数カ月出国できなくなった事件があった。李明博大統領と彼の兄である李相得ハンナラ党議員の尽力で、比較的短時間で解決した。

とにかく、カダフィは世界の嫌われ者なのである。今回の騒乱で「カダフィは市民を殺害しているので止めさせなければならない」という絶好の口実ができた。今回は、国際社会(国連と米国など)の動きは速かった。例えば、オバマ大統領は、リビアへの経済制裁など具体的な措置に取り組む姿勢を示した。[9]

アフリカ諸国には、程度の差はあるが、似たようなな元首は他にも存在するのである。リビアの一般市民を保護すること以外に、別の企みあるのではないか? 国際社会の「正義」を疑う。[10]

コメント欄もご覧下さい。(2011/3/6記)

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【 参考文献 】

[1]<米国>リビアに具体的行動を オバマ政権に世論の圧力(毎日 2011/2/23)
[2] 産経新聞 2011/2/21
[3] 「暴力停止せよ」国連事務総長、高官を中東に派遣(産経、2011/2/24)
[4] 「言語道断で許されない」米大統領が弾圧を非難、制裁示唆(産経、2011/2/24)
[5] リビア政権崩壊危機 カダフィ氏「私は殉教者」(産経 2011/02/23)
[6] LIBYA: ITALIAN-LIBYAN ACADEMIC, SCEPTICAL OVER TRIPOLI BOMBS (2011/2/22)
[7] Libya jets bomb arms depots (2011/2/22)
[8] UNODC Libya
[9] <米国>オバマ大統領、リビア制裁示唆…武力弾圧を非難 (2011/2/24)
[10]「リビアのカダフィ大佐:過去の暗殺の公開を求めた」(2011/2/22) by 米川正子
「リビアでの「虐殺」のダブル・スタンダード」 (2011/2/23) by 米川正子


Saif氏のテレビ演説の要約は英訳のトランスクリプトを日本語に翻訳した。ネットで見られるのは、2種類ある。
CNNによるもの。40分の演説のうち、最初の30分の部分のトランスクリプト。同時通訳のテープ起こししていると思われるので、内容が細かい。しかし同時通訳なので、一部正確でない可能性あり。
SultanAlQassemiというブロガーによるもの。40分の演説の要約になっている。要約なので、細かい内容ではないが、こちらの方が正確であると思われる。読者ご自身が確認するのであれば、まずこれを読まれることを勧める。

YouTubeには、CNN、BBC、AlJajeelaの映像がある。それぞれに英語の同時通訳(あるいは一旦英訳したものをダビングしたもの)がある。当然ならが、それぞれ微妙に違う。
CNNバージョン(最初の約30分。)(上記のトランスクリプト参照)
BBCバージョン(約4分半。)
③Al Jazeeraバージョン(15+14+10=約40分)
Saif al-Islam Gaddafi Addresses the Nation 1 of 3
Saif El Islam Gadaffi addresses the nation 2 of 3
Saif al-Islam Gaddafi Addresses the Nation 3 of 3


その他参考資料
「コラム:リビア、二つの革命の狭間で」 (2011/2/16 クドゥス・アラビー)

2011/02/13

マラウイ: 欧米諸国は「援助」で圧力をかけている

ネットで「マラウイ」を検索すると、「オナラ禁止令」がヒットします。国の品位を保つというのがその理由らしいのですが、国民から強い反対があり、法務大臣は、「オナラは刑罰の対象にしない。公害(pollution)を対象にする」と発表しました。[1]

マラウイでは日本人の感覚には馴染まないような法律や大統領令が制定されています。たとえば、
①大臣の権限で新聞・雑誌の出版を禁止することができる。[2]
②女性同士が性的関係を持つことを禁止する。(男性同士の関係は既に違法。)[3]
③警察官が泥棒を見つけた時、射殺することができる。(これまでは足などを撃つことはできた。)[4]
④ マラウイの平均寿命は53才なのに、公的年金の支給開始年齢を女性55才、男性60才とする法案をとおそうとしている。[5]

ドイツ、米国、EUは、上記①と②について強く反感をもっており、マラウイに対して、「good governanceを持たないと、援助しないぞ」と圧力をかけています。good governanceは日本語に訳しづらいのですが、「汚職をなくす。人権を尊重する」を意味します。[6]

マラウイは、一人あたりの国民総所得(Gross National Income)が280ドルで、国家予算収入の約40%を外国の援助に依存していますが[7]、欧米の圧力にどのように反応するか、日本としても注目する必要があります。


【 ニュース 】

マラウイと援助国との関係に関するニュースをまとめてみた。

1.英国

2010年3月、ムタリカ大統領がプライベートジェット機(9百万ポンド=$13.26 百万)を議会を通さずに購入した。英国は立腹して、援助予算を年間3百万ポンドを5年間減額することにした。(年間の援助額は、予定していた22百万ポンドを3百万ポンド減額して、19百万ポンドとした。)[8]

写真(クリックで拡大)


2.ドイツ

2011年2月1日、ドイツは、援助額を半額にすると発表した。報道の自由(anti-media freedom law)と同性愛禁止法を問題視している。援助として約束した金額は33百万ドルであり、その半額はすでに送金済であるが、残りの半額(現地通貨で 5,000百万Kwacha)については、これらの問題が解決するまでは援助しない、としている。[9]

3.米国

2011年1月5日、米国の援助庁であるミレニアム挑戦公社(MCC:Millinnium Challenge Corporation)はマラウイの電力インフラを整備するため、約350百万ドル(現地通貨では、52,000百万Kwacha)を援助すると発表した。[10] 

米国とマラウイが正式調印できるタイミングは、当該合意から議会通知期間である15日後であるが、その間に、マラウイでは報道の自由を制限する法律や同性愛に関する法律審議(通過)した。そのため、米国は正式調印することを延期した。


4.EU

EUは27ヶ国の加盟国があるので、まだ凍結するという結論に達したわけではない。しかしEUの在マラウイ大使は、「ガバナンスと人権問題を早急に改善しなければ援助を凍結する可能性がある」と示唆した。[11]


5.ノルウェー

ノルウェーは、マラウイに援助したお金が援助対象プロジェクト以外に使われたとして、21百万ノルウェークローネ(現地通貨では、588百万Kwacha)の返還を求めた。本件は、ノルウェー外務省の監査部の調査で判明したことであるが、汚職とか、ガバナンスとか無関係のことである。[12]

ただし、ノルウェーはマラウイの人権問題には注文をつけている。たとえば、2010年3月、ノルウェー国際発展省のエリク・ソルヘム大臣がマラウイを公式訪問した際に、マラウイに対して同性愛者に対してより寛容になること、ゲイ・レズビアンの迫害を止めることを求めた。[13]


【 解説 】

ビング・ワ・ムタリカ(Bingu Wa Mutharika、1934年2月生まれ、76才 )は、マラウイ共和国の経済学者、政治家。2004年5月から同国大統領(第3代目)である。2010年より1年間、アフリカ連合総会議長(Chairman)を務めている。

大統領は、援助国との関係に関して、次のように発言している。

(1) 2010年6月、プライベートジェットを購入した際に一部の国から批判された時、大統領は、「反対するのであれば、マラウイにある事務所を閉鎖すべきだ」と発言した。[14]

(2)2010年10月、韓国のプレス(聯合ニュース)による書面インタビューの中で、大統領は、「アフリカ諸国と供与国とは平等なパートナーになるべきで、主従関係になってはならないということも非常に重要だ。アフリカ諸国も供与国から抑圧的で退行的な援助条件を取り除き、開発議題を立案しなければならない」と答えた。[15]


【 コメント 】

1.オナラについてマラウイを笑うなかれ。

・フロリダ州では、公共の場所で木曜日の午後6時以降にオナラをすることは禁じられている。[16]
・多くの国で公共の場所で小便、吐痰、路上喫煙、吸い殻や空き缶などのポイ捨て 等は禁じられている


2.欧米の社会規範は普遍的なものではない。

欧米の援助国が被援助国に求めていること(汚職排除、人権尊重など)は、彼らの社会規範からみれば当然のことである。

私はこの点について、2つコメントしたい。

1つ目は、「援助国は『上から目線』で援助している」 と 民衆に思われないように 注意しなければしなければならない。

2つ目は、マラウイ大統領の考えは上述のとおりであるが、私は、大統領の考えにも一理ある、と考えている。(ただし、冒頭に述べた法律の内容から判断すると、大統領が取り組むべき問題の優先順位を取り違えていると思う。)

①これは日本の例であるが、欧州諸国は死刑制度を野蛮な制度だと信じており、日本に死刑制度の廃止を求めている。しかし、日本人の多数は死刑制度を支持しているので、そのような要求は無視している。マラウイも自国の価値観を守る権利はあるのである。

②仮定の話であるが、もし、マラウイが国際政治上重要な戦略的な国であったり、あるいは資源が豊富な国ならば、欧米諸国は援助を「圧力」の道具として使う(使える)だろうか? 恐らく欧米諸国は「国益」を優先するだろう。


3.欧米諸国だけが援助国ではない。

今後、次のような点に注目したい。
①欧米諸国が援助を凍結することで、国民にはどの程度の影響があるのだろうか?
②マラウイは、欧米諸国のように援助にあまり条件をつけない中国に対し、さらなる援助を求める、中国はその要請に応じるであろう。


4.米国ミレニアム挑戦公社(MCC)の評価基準

この記事を書いている中で、MCCが被援助国を評価する方法を知り得たので紹介する。下図が示すように、定量的かつ視覚的に評価している。評価基準は3つの大分類があり、その下にさらに小分類の評価基準がある。詳細は参考文献を参照されたい[17]。

図(クリックで拡大)

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【 参考文献 】

[1] Justice Minister admits anti-farting law gaffe (2011/2/4)
[2] Media freedom threatened in Malawi (2011/2/8)
[3] Malawi criminalizes lesbian sex (2011/2/10)
[4] Malawian president vindicates his "shoot to kill" order (2011/2/11-17)
[5] マラウイ年金、寿命後支給開始? 政府案に国民反発 (2010/11/20)
Pension Bill to benefit economy (2011/2/7)
[6] 「援助の流行語はロンドンから」 山本愛一郎
[7] 寒川富士夫駐マラウイ共和国特命全権大使より着任のご挨拶
[8] Malawi’s President Secretly Buys a Private Jet (2010/3/13)
Bingu Accused Of UK Aid Rip-Off (2010/8/8)
[9] Germany cuts aid to Malawi over homosexuality law(2011/2/4)
[10]プレス発表 MCC Board Selects Eligible Countries, Approves $350 Million Compact for Malawi
[11] EU may freeze aid for Malawi (2011/2/8)
[12] Norway asks Malawi to return aid funds (2011/02/09)
[13] ノルウェー、マラウイに対して拘留中のゲイカップルを釈放するよう要求 (2010/3/8)
[14] Luxury Jet 'cheap' for poor Malawi: Mutharika (2010/6/2)
[15] マラウイ大統領「アフリカの課題、韓国と協議したい」(2010/10/27)
[16] 25 Crazy Laws From Around the World
No Public Farting After 6pm And Other Strange Laws In Florida
[17] How Malawi can win back donor confidence, trust (2011/2/10)

●参考ブログ
スタートマラウイ (Start Malawi)
Malawi Voice

2011/02/05

エジプト:Enough is enough (もうたくさんだ)

エジプトでは何十万人という民衆が集合してムバラク大統領の退陣を要求しています。日本人はエジプトの情勢には無関心ではありませんが、彼らに共鳴したり連帯感を持つ人は少数派でしょう。なぜならば、生きている「世界」が違うからです。

日本に住んでいると認識しませんが、他国と比べると日本は住みやすい国です。政府を批判しても秘密警察に連れて行かれることもない。公正な選挙も実施されている。住居には物があふれているし、職業を選り好みさえしなければ飢えることもない。公務員や政治家の汚職はあるが、日常的ではない。貧富の差が開いているが、絶望的というまでには程遠い。日本人ははデモ行進をしなければならないほどの不満を社会に対して抱いてはいないのです。

エジプトと日本は対極にあります。現在のエジプトの民衆は、「堪忍袋の緒が切れた」、英語でいうと「tipping point」(限界点)を越えて元に戻れない状態になっているのではないでしょうか。

報道では現在の騒乱を「インターネット革命」などと伝えていますが、今回のエントリーでは市民運動に注目してその背景を調べてみました。


【 ニュース 】

エジプト、ムバラク政権正念場 長期独裁の矛盾露呈 (日経新聞、2011/1/28)[1]

【カイロ=花房良祐】エジプトで抗議デモが続き、29年間政権の座にあるムバラク大統領が正念場を迎えている。経済政策への批判をきっかけに長期独裁政権の矛盾が一気に露呈した。親米穏健派のエジプトが揺らぎイスラム原理主義勢力が台頭すれば、中東の不安定要因となる。

抗議デモはインターネット上で草の根組織「4月6日運動」などが呼びかけた。28日はイスラム教の休日の金曜日。礼拝のため集まったモスク(イスラム礼拝所)から街頭デモに合流した。
カイロのモスク前では市民がエジプト国旗を掲げ、「ムバラクは去れ」などと要求。あるデモ参加者は「政権は国民から血を吸う吸血鬼だ。ムバラクが去るまでデモを続ける」と話した。市内では警察車両やタイヤが燃やされ、黒煙があちこちで上がっている。治安当局がデモ隊を徹底的に弾圧しており、混乱が広がっている。

国民の怒りの背景には貧富の格差の拡大や若者の高い失業率がある。エジプトは経済自由化路線を進め、ここ数年は5%前後と高い経済成長率を誇る。一方、人口8300万人のうち6割を占める若年層の雇用を吸収しきれず、30歳未満の失業率は約2割に上るとの推計もある。
 
エジプトは秋に大統領選が予定され、ムバラク大統領か次男ガマル氏の出馬が見込まれている。反体制派はムバラク政権の継続に反発し、民主化を求めている。

ただ反体制派は長く弾圧されてきたため中核となる指導者が不在だ。焦点はエルバラダイ国際原子力機関前事務局長。27日に帰国し、支持者とともにデモに駆けつけた。反体制派が同氏の下に結集すれば台風の目となる。

同氏は2005年にノーベル平和賞を受賞するなど国際的な知名度は高く、最近はエジプトの民主化について積極的に発言。ただ海外在住が長く国内での人気はいまひとつ。抗議デモの主導者となれるかは不透明だ。

イスラム原理主義組織の動向も注目される。憲法上、宗教政党は禁じられているため同胞団は非合法だが、国内で強固な支持基盤を持つ。同胞団はこれまで政府の弾圧を恐れてデモから一定の距離を保ってきたが、AFP通信によると28日のデモの支持を表明。強力な動員力を武器に政権に立ち向かえば影響力はある。

ムバラク政権の行方は中東の安全保障環境にも直結する。同国は4回の戦争を経て1979年にアラブ諸国で初めてイスラエルを国家承認。同国と安定した関係を築き、中東和平交渉の仲介などで存在感を示す。政権が転覆するとイスラム原理主義勢力が台頭する可能性があり、地域の勢力図が大きく変わる。原油の産出量は湾岸産油国と比べると少ないが、中東地域の不安定要因となれば原油相場にも影響を与えかねない。


【 解説 】

1.Facebook

インターネットにFacebookというサービスがあり、個人が自由に情報(コメント・画像・ビデオ)を発信できる。携帯電話からもアクセスできる。アフリカにおけるFacebookの加入者は下図のとおりであり、エジプトの普及度は日本の約2倍である。

図 (クリックで拡大)




2.市民運動

(1) 「4月6日若者運動」 「4月6日運動」

英語の名称は、「April 6 Youth Movement」「April 6 Movement」。

2008年4月6日、エジプト北部の繊維工業の都市 Mahalla El-Kubraにおいて、食料高騰と低賃金を訴えるデモに参加した約2千人が警官隊と衝突した事件があったが[2]、その際、若者がインターネットの交流サイト「Facebook」を立ち上げて治安当局の弾圧や若者の高失業率、労働者の低賃金などに抗議するデモを呼びかたのが発足のきっかけである。代表者(general coordinator)は建築技師のAhmad Maher氏(28才)。[3]

このグループが求めているのは、大統領の即時退陣、憲法改正、緊急国家安全保障法(Emergency Law)に終止符をうつことなど。元IAEA事務局長・ノーベル平和賞受賞者のエルバラダイ(ElBaradei)事務局長を支持している。運動の基本方針は非暴力的に変化をもたらすこと(non-violent change)[4]。政治団体などには属していなかった人々などがこのグループを支援している。

写真(クリックで拡大)


(2) 「We Are All Khaled Said」

2010年6月6日、小さな店の店主であるKhaled Said(28才)は、自分のブログにビデオを投稿した。それは、警官が押収した麻薬を分けているビデオだった。数時間後、私服警官がインターネットカフェにいたSaidを連れ出した。20分後、彼は殴打されて死体で発見された。前歯が折れて、アゴが切れている写真ががネットで広がった。[5]

匿名のエジプト人青年がFacebookに「We are all Khalid Saeed」「私たち全員がKhaled Saidなのだ」というページを立ち上げたところ数週間で22万2000人近くが参加。エジプト内外で抗議のデモが発生した。[6]

ソーシャルメディア(Facebook, Twitter, ブログなど)が、警察の残忍性と人権侵害を告発する手段として使われたと考えられる。


【 コメント 】

ネットが普及したことにより、一般民衆が得られる情報は量的にも質的にも変わった。
①政府にコントロールされたメディア以外の情報にアクセスできる。
②デモの参加を呼び掛ける情報にアクセスできる。
③殺害された若者の写真なども見ることができ、「明日は我が身」という恐れを感じる。

まさに、他国の独裁政権が恐れているのはこのことだろう。

このブログを書いている時点では、ムバラク大統領は退陣していない。デモに参加している反ムバラク派の民衆は、ムバラク大統領の退陣を要求しているが、彼らはムバラク退陣後のリーダーについて明確な考えをもっていないのではないか。エジプトでは政府が承認している政党が24もあるので[7]、合理的に国をまとめていく体制ができるまで、何年もかかると思われる。政治・経済・社会、全てにおいて混乱が続くのではなかろうか。

米国は、ポスト・ムバラク政権において ①反米政権を樹立させないことこと、②イスラム過激派を台頭させないよういにすること ---に関心があると思われる。私は、もし、エジプトが民主化に成功し、大衆の生活が向上し、失業率が下がれば、イスラム過激派が台頭することはないだろう、と期待している。ただし、混乱が続けば、その逆の結果になるだろう。国際社会の役割は、まずは民衆の生活を安定化させるようにすることである。そのためには、①エジプトの治安が良くなった段階で、観光に行き外貨を落とすこと、また、②企業が予定しているエジプトへの投資を中止しないことである。

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【 参考文献 】

[1] エジプト、ムバラク政権正念場 長期独裁の矛盾露呈 (日経新聞、2011/1/28)
[2] Clashes in Egypt strike stand-off (BBC, 2008/4/6)
[3] Ahmad Maher氏のインタビュービデオと英訳(2010/11/8)
Young Egyptians mount unusual challenge to Mubarak (Los Angeles Times, 2011/1/27)

[4]April 6 Youth Movementの基本方針
[5]The murder of Khaled Said
(死者の顔写真があります。クリックする場合は覚悟して下さい。)

[6]Long Tail World (2011/1/29投稿ブログ by Satomi Ichimura)
How a brutal beating and Facebook led to Egyptian protests (The Globe and Mail、2011/1/28)

[7]List of political parties in Egypt(24党)


●市民運動家のサイト
(1) 「We are all Khaled Said」
http://www.facebook.com/elshaheeed.co.uk
http://www.elshaheeed.co.uk/

(2) 「6th of April Youth Movement」「April 6 Youth movement」
http://www.facebook.com/shabab6april (アラビア語)
http://www.facebook.com/group.php?gid=38588398289#!/group.php?gid=38588398289&v=wall(英語)
http://twitter.com/shabab6april(アラビア語)
http://6april.org/english/ (英語)

(3) 「25th of January」 ビデオを集めているサイト


●ニュース・サイト
BBC Live Egypt unrest
BBC News Africa
CNN Africa
Al Jazeera

●ブログ等
中東の窓(野口雅昭:京都文教大学、元外交官)
中東TODAY(佐々木良昭:東京財団)
水口章:国際・社会の未来へのまなざし(敬愛大学)
中東・エネルギー・フォーラム(畑中美樹、高橋和夫、江添久義)
All about FIFI (テレビでお馴染みのフィフィ、エジプト出身、2月3日以降の記事)
当ブログ「滞在者リンク集:エジプト」

●インターネット関係
アフリカのインターネットの普及率  INTERNET USAGE STATISTICS FOR AFRICA
Facebook ユーザー数 Facebook Statistics by country
インターネットのスピード

2011/02/02

海を越える そろばん

日本が発展できた理由の1つは、民衆が「読み・書き・そろばん」という基礎教育を受けていたからです。現在では、そろばんの他に、「100マス計算」や公文算数などで計算力をつけています。

発展途上国の子供たちにも同じような教育を受けさせたいものですが、そろばん教育が広がりつつあるようです。

【 ニュース 】

そろばん 海を越え1020丁再利用

そろばんの町・小野市が昨夏から始めた不用そろばんの回収が、年末までに5744丁に達した。当初予想していた「1年間で500丁」を大幅に超えた。思い出の詰まったそろばんは、海を越えて南太平洋のトンガと米国に計1020丁贈られ、再び利用される。(中略)

伝統産業会館にそろばんの回収箱が置かれたのは昨年8月末。旅行で小野市を訪れた千葉市の男性から「家庭で使わなくなったそろばんを海外へ贈ってはどうか」と提案されたのがきっかけだ。
そろばんの海外普及を進めるNPO法人・国際珠算普及基金(本部・東京)によると、海外ではトンガ、中欧のハンガリー、北アフリカのチュニジアなどに珠算教育が広がっている。しかし、頑丈で高品質な日本製は足りず、プラスチック製や手作りのものを使う学校もあるという。(中略)

市は、まず11月に国際協力機構(JICA)を通じてトンガに1千丁届けた。トンガは、小学校の授業で珠算を採用するほどそろばんに熱心な国だ。さらに、インターネットのニュースで知ったという米国アリゾナ州の日本人女性から「小学生に指導している。今後は大人にも広げていきたい」とメールが届き、12月に20丁を贈った。

「大きな反響でうれしい限り」と市の担当者。今後はチュニジアなどに届ける予定だ。回収は継続中。問い合わせは市産業課(0794・63・1928)へ。


写真をクリックで拡大

【 解説 】

1.そろばん回収運動

日本のそろばんの産地は、①兵庫県小野市で生産される「播州そろばん」と、②島根県仁多町・横田町(合併後名称は奥出雲町)「雲州そろばん」である。上記のニュースは小野市による不要そろばんの回収である。後者の島根県横田町は、1994年より「タイへそろばんを送ろう」運動を実施している。[2]


2.トンガのそろばん教育

30年以上前から、大東文化大・中野敏雄名誉教授はトンガからの算盤留学生を、毎年受け入れ教育してきた。教授は、珠算教育普及活動の功績が認められ、2009年9月、トンガ王国ツポウ5世陛下から「Commander of Order of the Crown」の勲章が授与された。[3][4]

JICAはトンガに珠算教師を派遣するようである。[5]


3.外国へそろばん普及運動

(1) 社団法人 大阪珠算協会は、『外国人のための珠算講座』を20年以上開催しており、この間82ケ国936名の外国人がそろばんを学び、たくさんの人が高い水準の珠算技術を身につけているとのこと。[6]

(2) NPO法人 国際珠算普及基金は、トンガ、チュニジア、ブラジルなどに使節団を派遣したりしている。[7]

(3) トモエ算盤㈱も啓蒙のために専門家派遣に協力している。[8]


【 コメント 】

1.発展途上国に、古着、古靴、サッカーボールなどが送られている。しかし、そろばんは物(ハード)というよりも教育(ソフト)そのものであることが決定的に違う。青年海外協力隊員の派遣前の研修でそろばん技術を磨き直してもらい、現地で教えることができる。あるいは、現地の先生を日本に招聘して訓練することもできる。

2.計算力をつけて、数字に馴染むようにするために「100マス計算」を広めてはどうだろうか[9]。 インドは高度の九九を教えているようだが、算数・数学は国の発展のための基礎である。

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【 参考文献 】

[1]朝日新聞 2011/1/21
その他報道 産経新聞 2010/11/08
[2] 日タイ修好120周年 姉妹都市・交流都市
そろばんを活用した国際協力 ~島根県横田町の取組み
[3]保坂さんぞう ブログ
[4]大東文化大学ニュース「中野敏雄名誉教授がトンガ王国勲章受章」
[5]平成22年度 秋 募集ボランティア要望調査票
[6]http://www.osaka-abacus.or.jp/
[7]http://www.geocities.co.jp/NeverLand/8812/isdf-top.html
[8]海外でのそろばん 
藤本トモエ社長チュニジアへ算盤指導に行く 
[9] 学び舎 基礎学力向上サイト 


南アフリカが「アジアにおける日本」になる日は来るか?「そろばん」の教育からはじめよう

「タイの国 JICAそろばん先生奮闘記」 by 西野啓子