2012/03/27

アフリカの小型武器問題

バナナの貿易より、通常兵器の貿易のほうが簡単だそうだ[1]。その結果、アフリカではAK-47という自動小銃が広範に出回っており、治安が脅かされている。

2012年7月には、国連で武器貿易条約(Arms Trade Treaty)を議論する交渉会議が開催される。また、2013年6月には、横浜で第5回アフリカ開発会議(TICAD Ⅴ)が開催され、小型武器の問題も議論される。(下記のニュース参照)

今回のブログでは、両方のイベントに関係することだが、最近発表された武器貿易統計を紹介する。加えて、小型武器に関する日本の支援に対してコメントする。


【 ニュース 】

アフリカ開発会議 横浜で開催へ (NHK、2012/3/20) [2]

   日本政府は、来年、アフリカ諸国の首脳級を招いて横浜市でTICAD=アフリカ開発会議を開き、小型武器の廃棄などについて、新たな支援策を示す方針を明らかにしました。
   これは、ニューヨークの国連本部で19日から始まった拳銃や機関銃など小型武器の管理強化策を話し合うための会議で、日本の兒玉国連次席大使が明らかにしたものです。
   この中で、兒玉次席大使は「アフリカでは、小型武器の不法取引が増加し、紛争の長期化や政治状況の不安定化を招いている。日本は武器の回収や廃棄などの分野で支援を強化する」と述べました。
   そのうえで、来年6月に、アフリカ諸国の首脳級の代表を招いて、「TICAD=アフリカ開発会議」を横浜市で開催し、小型武器の管理について、日本としての新たな支援策を示す方針を明らかにしました。
   アフリカ開発会議は日本政府の主催で5年ごとに日本で開かれていて、横浜での開催は前回に続いて2度目です。


【 解説 】

1.武器の種類

武器は次のように分類できる。

(1) 大量破壊兵器(WMD):核兵器、生物化学兵器など
(2) 通常兵器
①特定通常兵器:戦車、装甲戦闘車両、大口径火砲、戦闘用航空機、攻撃ヘリ、軍艦、ミサイルの7種の通常兵器。
②小型武器(SALW)
        a.小火器(Small Arms): 一人で携帯・使用が可能な武器
        b.軽兵器(Light Weapons):数名で運搬・使用が可能武器
        c.弾薬及び爆発物


2.通常兵器の統計

(1)世界レベルの統計

2012年3月19日、ストックホルム国際平和研究所(Stockholm International Peace Research Institute) が2011年の通常兵器輸出入の統計を発表した。表1は、世界レベルでの輸出国と輸入国をグラフ化したものであるが、米国、ロシア、ドイツ、フランス英国の順で、輸出が多い。[3]

(2)アフリカに限定した統計

表2は、同じ統計資料を使って、アフリカ主要輸出入国の武器貿易額をマトリックスにしたものである。輸出が大きい順に、ロシア、米国、フランス、スウェーデン、オランダであり、輸入は、モロッコ、アルジェリア、エジプト、ウガンダの順である。南アフリカとナイジェリアは輸出国でもある。個別には、フランスからモロッコ、ロシアからアルジェリア、米国からモロッコの額が顕著である。[4]

参考まで、表3は、2010年軍事費(上位10位)である。10国の合計は、日本の軍事費の39%に相当する額である。[5]


表2には、中国の数字がない。表4は、ストックホルム国際平和研究所が別の統計を2011年12月に発表しているものだが、中国とウクライナが武器市場のシェアを拡大していることがわかる[6]。また、統計には出てこない不法取引の問題がある。



3.事実上のWMDである小型武器

(1) 小型武器の暴威

国連では統計はとっておらずあくまでも参考値ではあるが、小型武器の蔓延を示す数字として以下のようなものがある。合法・非合法を問わず世界中に蔓延している小型武器の数は7億5千万から10億。紛争に関連して主に小型武器によって命を落とす人は年間30万人。紛争以外の状況で小型武器によって命を落とす人は年間20万人。小型武器の製造数は年間800万。小型武器の貿易額は年間40億ドル。[7]

(2) AK-47

自動小銃AK-47は、単純な構造なため、安価であり、故障しないで長持ちする。そして猿でも扱える操作性を持っているので、少年兵でも扱えるのである。[8]


【 コメント 】

アフリカでは、住民の多くが銃を保有している地域があり、現地政府は回収して焼却している。日本も支援している。今後、日本人が現地に赴き、「銃は平和をもたらさないので、放棄すべきだ。」というキャンペーンをしても、大半の人々は銃を手放すはずがない。なぜならば、次の3つのシステムが確立されていないからである。「日本で刀狩が成功したのだから、アフリカでも成功するはずである」と考えてはいけない。
 ①警察あるいは軍が住民を守るシステム。
 ②対立する部族が均衡をとりつつ武器を放棄するシステム。
 ③不法武器の流入を阻止するシステム。

現在のアフリカの状況下においては、「武器は自衛のために必要なものである」と考えた方がよさそうである。なぜならば、アフリカ中部ではレイプ事件が発生しているが[9]、武器で抵抗されるということを知れば、乱暴者はそのような事件を起こさなかったかもしれないからである。

日本政府がアフリカの小型武器の問題解決をする「姿勢」を示すことは重要である。しかし、大金を使ってもそれは「焼け石に水」であると考えられるので、費用に見合った効果を得られることに限定して支出してもらいたい。ちなみに、日本はアジア・アフリカ等において、2001年から2005年までで総計約305億円(269百万ドル)を武器回収などに使っている。[10]

上記①~③のシステム構築の内、
①の警察あるいは軍が住民を守るシステム構築: 日本政府が警察官や自衛官を派遣して、現地の人材育成、日本の規律を教えることは、費用対効果が良いと考える。
②の部族間で均衡をとりつつ武器を放棄させるシステム構築: 現地の責任者が実施することである。
③の不法武器が不法武器を流入させないシステム構築: 国際的に取り組むことであり、まさに現在検討されている武器貿易条約が重要な役割を果たすことが期待される。


【 参考文献 】

[1] Arms Easier to Trade Than Bananas (2012/2/19, IPS)
[2] NHKニュース (2012/3/20)
[3] Economist (2012/3/20)
[4] ストックホルム国際平和研究所
[5] ストックホルム国際平和研究所(エクセル表)
[6] Arms Flows to Sub-Saharan Africa (SIPRI、2011/12)
China's presence grows in murky world of arms trading (2012/3/8)
[7] 「小型武器問題-国連行動計画の履行と日本の取組み」(2007/7/12) 益子崇、大村周太郎
議事録  質疑応答 
[8] History Of AK-47 必見
Ape With AK-47 (サルでも撃てるAK-47) 笑える
[9] コンゴ242人レイプ被害 「国連『武装勢力に裁きを」(2010/9/3、産経新聞)
[10] 小型武器問題について(外務省HP)