2011/05/23

原油・LNGタンカーが爆破されるリスク

過去、「ソマリア沖の海賊」についての記事を書きましたが、今回は「原油・LNGタンカーがテロリストに爆破されるリスク」についてです。日本のエネルギーは原油とLNGに大きく依存していますが、万一、タンカーが爆破された場合の被害は甚大ですし、その発生確率が高くなっています。政府と船舶会社は対策を考えなければなりません。

過去の記事
2010/05/05 ソマリアの海賊
2010/08/29 ソマリア海賊:法的手続きの統一化
2010/10/17 ソマリアの海賊対策:今のやり方では永遠に税金が使われてしまう

【 ニュース 】

最初に記憶を新たにするために、10ヶ月前の出来事を紹介します。それから最新のニュースを2つ紹介します。

1.M.Star号に対するのテロ攻撃

2010/7/28:ホルムズ海峡で商船三井が保有する大型タンカーM.Star号が攻撃を受けて、船体後部が損傷した。
8/2:アルカイダ系テロリストグループ「アブドラ・アッザム旅団」(Brigades of Abdullah Azzam)が犯行声明を発表し、日本タンカーへの自爆攻撃を敢行したと主張。
8/6:UAE当局がテロ攻撃の痕跡を発見した。[1]
11/19:米運輸省の海事当局は警告書で以下を発表した。
①「アブドラ・アッザム旅団」が犯行声明を出したが、根拠がある(valid)。
②ホルムズ海峡やペルシャ湾南部、オマーン湾西部でさらなる攻撃を実行することが可能である。
③この海域を通行する船舶は特に、夜間に小型船の動きに注意すること。[2]

2.アルカーイダ、石油タンカー攻撃に関心(2011/5/21、産経新聞) [3] 
米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)によると、米国土安全保障省の広報担当者は20日、国際テロ組織アルカーイダが昨年、石油タンカーや海上の石油施設を狙ったテロ攻撃に強い関心を示していたことを明らかにした。
アルカーイダの指導者ウサマ・ビンラーディン容疑者の隠れ家から押収した資料を分析した結果、判明したとしている。具体的なテロ計画は見つかっていないという。
同紙は、中東のホルムズ海峡で昨年7月に発生した日本のタンカー損傷に関し「捜査当局はテロ攻撃を受けたと結論付けた」と指摘。アルカーイダとの直接的な関係には言及していない。(共同)


3.国際海事機関(IMO)第89回海上安全委員会(MSC)の結果

IMO・MSCが、2011/5/11~20に開催された。民間の武装警備要員(PCASP: privately contracted armed security personnel)を乗船させることについて議論した結果、リスク評価を実施するという条件つきで、認めた。[4]


【 解説 】

1.テロリストには原油やLNGタンカーを爆破する「意図」と「能力」があるか?

商船三井のM.Star号がテロリストから攻撃を受けたので、「意図」があることは確実になった。これは憶測だが、M.Star号への攻撃は、外部からの攻撃がどの程度有効なのかを探る実験ではなかったのではなかろうか。ちなみに、M.Star号はダブルハル構造であったため、原油は流出しなかった。(写真1) 

5月21日、FBIとアメリカ国土安全保障省は、警察とエネルギー関係者に対し、内々に警告を発した。ビンラディンの自宅から押収した資料から、アルカイダは「内部から爆破するのが簡単であると考えている。(determined that blowing them up would be easiest from the inside…) 」----との分析を示した。[5]

海賊がタンカーに乗船できるのだから、テロリストも乗船する「能力」がある。

写真1 (クリックで拡大)


2.テロ行為を封じ込める方法はあるのか?

海賊は身代金が目的なので、その良し悪しは別にして、身代金を支払えばとりあえず問題は解決する。しかし、テロリストは、爆破することが目的なので、金銭では解決することはできない。

各国は戦艦をソマリア沖に派遣して警備行動をしているが、海賊の件数は増えるばかりである(グラフ参照)。

グラフ (クリックで拡大)

3.これまでIMOや船舶会社は海賊にどのように対応してきたか?

(1)IMOの対応
IMOは、海賊を乗船させないような工夫をするように提案してきた。たとえ、船に武器があったとしても使用しないように指導している。(DO NOT use firearms, even if available. )[6]

別の資料において、①武器を領海内に持ち込む場合、その国の法律に従うことになること、②可燃性の貨物を運んでいる船舶に武器を持ち込むことは、災害を招くおそれがあることを注意喚起している。[7]

(2)日本の船舶会社の対応
現在、日本の原油タンカーは海賊に対処するための武器を保持していないようだ。

「アデン湾における海賊対処のための手引書」(09年8月 改訂版)が船主、海員組合、石油・LNG 業界や戦争委員会連合等によって作成された。典型的な攻撃事例と教訓が与えられている。船舶側の武器自衛論の是非について、国際海事機関(IMO)は、自衛のための武器持込は民間船にはかえって危険で、海賊側を挑発し、砲火を受けて危険物が爆発すれば油流出事故など2次災害の危険性が高まると警告した。」[8]


(3)外国の船舶会社の対応
2011/5/21付のBBCによると、ソマリア沖で航行する船舶の10%は、武器を携帯している警備員(armed guards)を乗船させている、と報道した。[9]


【 コメント 】

テロリストや海賊の攻撃を防ぐためには、個々のタンカー自らが護衛しなければならないと考える。武装した民間の警備員(傭兵)を乗船させて、自衛のために戦う以外の方法はないのではないか(写真2)。

将来、民間警備会社に警備を委託するタンカー会社は増えると予想される。テロリストは、攻撃しやすいタンカーを狙うはずだが、タンカーが爆破されて世界経済に影響を与えた場合、その船舶会社だけでなく、指導を怠った国の責任が問われることになるだろう。

福島原発の事故から学ぶべきことの1つは、『リスクマネジメント』である。あらゆるリスクを想定し、それぞれの発生確率と被害額を予想し、リスクを回避・低減・移転・保有する方法を考えることだ。原油・LNGタンカーがテロリストに襲われる確率は高くなっており、想定被害額も莫大なものになる。「テロリストの攻撃は想定外であった」という言い訳は通じないのである。

写真2 (クリックで拡大) 

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【 参考文献 】

[1]商船三井タンカーの損傷、テロ攻撃と判定=UAE報道(2010/8/6)
[2]VESSELS TRANSITING IN THE STRAIT OF HORMUZ, SOUTHERN ARABIAN GULF, AND WESTERN GULF OF OMAN.
自爆テロ声明は「根拠ある」 タンカー損傷で米海事当局(2010/11/22)
[3] 2011/5/21、産経新聞
[4] Interim guidance on use of privately contracted armed security personnel on board ships agreed by IMO Maritime Safety meeting
[5] Al-Qaida eyed oil tankers as bombing targets (2011/5/21、ABC3340.com)
[6] 40頁、「BMP3  Best Management Practices to Deter Piracy off the Coast of Somalia and in the Arabian Sea Area (Version 3 ? June 2010) Suggested Planning and Operational Practices for Ship Operators, and Masters of Ships Transiting the Gulf of Aden and the Arabian Sea」
[7] 第59項目「MSC.1/Circ.1334  23 June 2009  PIRACY AND ARMED ROBBERY AGAINST SHIPS」
[8]「産業振興基盤としての石油供給確保に向けた基礎調査報告書」(平成22年3月)by 財団法人 日本エネルギー経済研究所 中東研究センター
[9] Piracy: IMO endorses use of armed guards on ships (2011/5/21, BBC)

(その他資料)
海賊発生件数が4年連続で増加 ―2010年の海賊事件発生状況― (日本船主協会)
KIRK REPORT: OUT OF CONTROL SOMALI PIRACY HELPING TO FUND LARGEST TERRORIST TRAINING CAMPS ON EARTH (2011/5/10)

1 件のコメント:

  1. 第177回国会(常会)における海賊行為への対処並びに国際テロリズムの防止及び我が国の協力支援活動等に関する特別委員会ニュース
    http://www.shugiin.go.jp/itdb_rchome.nsf/html/rchome/News/kaizoku177.htm

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