2010/03/25

Road to Rwanda (フツ族難民がルワンダに帰国する)

BBCは、2010年3月22日に「Road to Rwanda」という音声番組を放送しました。1994年のルワンダ虐殺事件の後に隣のコンゴ民主共和国に家族と共に逃れた当時16歳の女の子が15年後に祖国ルワンダに帰国した際に、ジャーナリストが同行して約20分の番組にまとめたものです。15年以上の難民生活と、被害者の少数派ツチ(tutsi)族と加害者の多数派フツ(hutu)族がどのような考えで同じ村に住んでいるのかが判る番組ですので、BBCにアクセスしてみて下さい。
http://www.bbc.co.uk/worldservice/documentaries/2010/03/100315_road_to_rwanda.shtml

なお、ルワンダ大虐殺とは、1994年4~7月にかけて、フツ族(hutu:多数派)が、ツチ族であるという理由だけでツチ族(tutsi:少数派)約80万人~100万人を殺害した事件であるが、事件の後、ツチ族の仕返しを恐れて、多数のフツ族が周辺国に逃れていました。


今回のエントリーでは、①その番組の概要と、②ルワンダの最近の出来事(虐殺事件に関連すること)を紹介します。

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【 ニュース 】

その女性の名前は、Vestine。ルワンダのフツ族で、1994年のルワンダ大虐殺の後に、一家でコンゴに逃れてきた。当時彼女は16才だった。父親が亡くなり、母親も1997年に行方不明になってしまった。コンゴ人の男性が彼女を養女として引き取った。その人の子供を身ごもり、結婚し、5人の子供を産んだ。

難民の多くは森の中に隠れるように住んでいる。食料事情が厳しい時には、カタツムリを食べることもあったし、服をはぎ取られ、鍋などが盗まれることもあった。もっとひどいめにあう場合もある。

Vestineは、難民達に「ルワンダに帰ると殺されるぞ」と、脅かされていた。帰るきっかけとなったのは、ルワンダに帰国していた姉(妹)が会いに来て、ルワンダに帰国しても殺されることはない、と連絡を受けたから。また、自然分娩で子供を生めないので、金がかかるという理由で離縁されたからである。

彼女は子供を連れて帰国することにしたが、子供全員を連れて帰ると、離縁された夫に何をされるか分からなかったので、身を守るために1人はコンゴに残した。

Vestineと子供達は、彼女が16年前まで住んでいた故郷に向かう。昔住んでいた家に住めるかどうか、父親が耕していた畑を所有できるかどうかが気になる。

コンゴを出発して数日後、故郷の村に着いたが、その家には老女が住んでいた。村長によると、畑は1年契約で貸与されており、村長が世話をして、公平な形でその畑がVestineに返還されるように取りはからってくれるとのこと。

インタビューしているジャーナリストは、シエラレオネ出身のSorious Samura氏だが、話はここで終わらない。ツチ族とフツ族が一緒に1つの共同体に一緒に住んでいることを不思議に思い、村長、ツチ族住民、フツ族住民に質問している。

村長によると、虐殺が起こる前、村には2,000人が住んでおり、ツチ族のうち205人が殺され45人が生存したが、今では平和的に共存しているとのこと。

加害者のフツ族の一人は、インタビューに「『殺せ』と言われたので殺してしまった」と告白した。殺人者は村の集会(裁判)で許しを乞うことで、減刑された。「村の一員として住んでいる。近所に病人がでれば病院に連れていくし、ツチ族とフツ族の結婚もある。」と話す。

被害者のツチ族もインタビューされている。彼女は当時10才だったが、12人家族のうち、生き残ったのは彼女の他一人だけだった。「毎年4月になると、事件のショックから精神的に不安的になり、入院する」と話す。「本当に殺人者を許したのか?」との質問に対し、「水も食べ物も分け合っている。心の底から許している。」と答えた。

コンゴには、現在ルワンダのフツ族難民が35,000人、そして、ルワンダ反政府兵士が5,000人いるが、国連、コンゴ、ルワンダは、難民に帰国を促している。その中には、虐殺とは無関係な、当時に子供だったVestineのような若者が多く含まれている。

インタビューアーは、「ルワンダはデリケートな問題を抱えている」とコメントしながらも、Vestineが親類に囲まれている姿を伝えて、このインタビュー番組を終えた。



【 解説 】

1.インタビューしているSorious Samura氏は、ドキュメンタリー映画などを制作しているが、BAFTA賞、Emmy賞2つ、Amnesty International Media賞3つなどを受賞している。レオナルド・ディカプリオが主演した Blood Diamondの助言を(コンサルタント)している。

2.ルワンダ虐殺の規模

1994年当時、ルワンダの人口は8,200,000人。800,000人が殺されたとすると、国民の10人に1人が殺されたことになる。

民族構成は、フツ族85%、ツチ族14%、トウク族1%なので、ツチ族の人口は1,150,000人。800,000人が殺されたとすると、ツチ族の70%が殺されたことになる。

また、800,000人が100日間で殺害されたということは、1日8,000人の虐殺が100日続いたということである。


【 コメント 】

1.ルワンダのポール・カガメ(Paul Kagame)大統領は、村の裁判で告白/懺悔することで減刑される「Gacaca」と呼ばれる方法を作った。恐らくこの方法が最善の策なのだろう。


2.ルワンダでは、日本・日本人と同じで、「水に流す」という文化があるのかもしれない。

3.東アフリカ共同体が数年後にできた段階で、物・人・労働力・サービス・資本は、原則自由に移動することができるようになるので、人口密度が高いルワンダに変化が生じる可能性があると思われる。


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【 参考文献 】

ルワンダの大虐殺 ~恐怖が現実になる瞬間、3か月間で100万人が殺された!~
http://members.jcom.home.ne.jp/invader/works/works_8_m.html

ルワンダにおける1994年のジェノサイド ― その経緯,構造,国内的・国際的要因 ―  饗場和彦
http://web.ias.tokushima-u.ac.jp/bulletin/pdf/soc-19-3.pdf

人道的介入の事例  上野友也
http://www2.odn.ne.jp/kamino/hi4.html


(参考)虐殺事件に関係する近年出来事

2006/11:フランス司法当局が、当時の反政府勢力指導者だったカガメ現大統領(ツチ)が、ハビャリマナ(Habyarimana)大統領(当時)らが搭乗した航空機の撃墜を命じたと認定した。ルワンダはフランスとの国交を断絶した。

2008/8/5:ルワンダ政府は、1994年のルワンダ大虐殺にフランスが積極的に加担したとする報告書を発表した。報告書は、フランスの複数の政治家や軍幹部の氏名を挙げ、彼らは訴追されるべきとしている。それに対し、フランス国防省のスポークスマンは、報告書はフランスの関与に関する証拠を寄せ集めたに 過ぎず、「独立性と公平性」に欠けるとの談話を発表した。

2008/11:ドイツ警察がフランス当局の逮捕状に基づき、カガメ大統領の長年の側近で、カガメ政権で儀典長を務めているカブイエ容疑者をフランクフルトの空港で拘束。その後、カブイエ容疑者の身柄はフランス当局者に引き渡され、パリへ移送された。

2009/11/28: ルワンダは54番目の英連邦の加盟国になる。

2009/11/29:ルワンダ政府は、フランスとの国交を回復する決定を発表した。

2010/1/6:ルワンダ政府による報告書が発表される。(少数派ツチ人との和解を模索していたハビャリマナ大統領に反対する多数派フツ人主体の政府軍が首謀した、という内容。)
Report of the Investigation into the Causes and Circumstances of and Responsibility for the Attack of 06/04/1994 Against The Falcon 50 Rwandan Presidental Aeroplane Registration Number 9XR-NN  通称:Mutsinzi Report http://mutsinzireport.com/

2010/1/26:クシュネル(Bernard Kouchner)仏外相が、国交再開後初めて、ルワンダの首都キガリを訪問。

2010/2/25:サルコジ大統領は、ルワンダの首都キガリでカガメ大統領と会談し、1994年の大虐殺を防げなかった責任の一端が仏にあったと認めた。

2010/3/2:フランス政府は、アガト・ハビャリマナ氏(67)を一時拘束し、尋問した。彼女はルワンダの元大統領夫人で、1994年の大虐殺の首謀者の1人とされる。2008年から、仏大使館の保護を得てルワンダ国内法廷から国際手配を受けていた。

2010/03/21

資源外交: ロシア と 日本


今回のエントリーでは、英国と日本の会社が保有していたナミビアのガス田の権益を、ロシアが「上手に」に取得した、という案件を紹介します。ハゲワシが死んだ動物を食べている姿を思い浮かべました。ロシアは、ウラニウムや原油・ガスを求めて、アフリカへの進出を具体化させています。













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【 ニュース 】

1.ナミビアの鉱山・エネルギー省は、新たに、Kuduガス田生産ライセンスを付与した。
①鉱区権者は、Gazprom(ロシアのガス会社ガスプロム)とNamcor(ナミビア国営石油会社)の合弁会社 及び Tullow Oil(英国)、伊藤忠商事。
②鉱区期限は2年間であり、その間にKuduガス田を生産させることが条件。
2.Gazpromは、既存の権益保有者が過去に支払った費用に対する対価を支払わない。
3.Gazpromはナミビアで800MWのガス火力発電所を建設する。[1]


【 解説 】

1.Kuduガス田

・1974年、ナミビア沖合いでガス田(Kudu)が発見された。LNGとして輸出する程の大きさはなかった。
・1997年、NamPower(ナミビア電力会社)、Energy Africa(後にTullow Oilに買収された)、Texaco、Shell、Eskom(南ア電力会社)がKuduガス田のためのコンソーシアムを組成したがうまくいなかった。[2]
・2007年4月、伊藤忠商事が権益の20%を取得した。その結果、英国Tullow Oil 70%、伊藤忠 20%、ナミビア国営石油会社10%が保有することになった。[3]
・2007年9月、ガス田の大きさを確認するための評価井(Kudu-8)が掘削されたが、芳しい結果ではなかった[4]。しかし、埋蔵量はあるのだから、何とかして生産して商業化することを模索していた。
・2009年6月、ロシアのMedvedev大統領がナミビアを訪問したが、その際、Gazprombank(ロシアのガス会社系のファイナンス会社)とナミビア国営石油会社が覚書(Memorandum of Cooperation)に調印した。
・Gazpromが、800MWのガス火力発電所を建設し、電力をナミビアの電力会社と南アフリカの電力会社に供給することを計画した。
・2009年8月、Kuduガス田の鉱区期限が切れた。
・新たな契約として、Gazpromが参入した。

           旧      新
Tullow 70% → 31%
伊藤忠 20% → 15%
Namco 10% → 54% (NamcoとGazpromの合弁会社)



2.ロシアとナミビアの関係

1999年12月、プーチン(Putin)がロシア大統領に就任したが、その後のロシアの元首によるアフリカ諸国訪問は以下のとおりである。最も新しい訪問は、2009年6月、メドヴェージェフ(Medvedev)大統領が300人以上のビジネスマンを引き連れてエジプト、ナイジェリア、ナミビア、アンゴラを訪問している。

2005/4:Putin→エジプト
2006/9:Putin→南アフリカ、モロッコ
2008/4:Putin→リビア
2009/6:Medvedev→エジプト、ナイジェリア、ナミビア、アンゴラ

ナミビアでの合意事項は以下のとおりである。(その他の訪問国での実績は、末尾参照。)

公式発表[5]によると、次の文書に調印している。
①GazprombankとNational Petroleum Corporation of Namibia (NAMCOR)の覚書(Memorandum of Cooperation)
②貿易の推進と保護に関する二国間協定
③ロシア漁業庁とナミビア漁業海洋資源省との覚書(Memorandum of Intention)


今回のエントリーで関係しているのが上記①である。報道によれば、
・Gazpromは既に南アフリカの電力会社Eskomと話し合いをしている。
・800MWを発電し、内500 MW をEscomに売電し、残りの300 MWをナミビア国内用とする。
・火力発電所の燃料にはKuduガス田のガスを使う。
----という計画を立てている。[6]


Gazpromは、Namco(Kuduガス田の権益を保有している国営石油会社)とだけ交渉しており、NamPower(国営電力会社)やKuduガス田のオペレーターであるTullowとは、全く交渉していない。そのため、「NamPowerとTullowは激怒している」との報道されている。[7]


ウラニウムについても話し合っている。ロシア国内で、今後15年間に24以上の原子力発電所を建設するが、ウラニウムが不足しているとのこと。ロシアのメドヴェージェフ大統領は、記者団に対し「ナミビアの資源を得るには遅すぎるのではないか?---と問われれば、正直なところ、なんとか間に合った、というところだろう。米国や中国はナミビアでウラニウム資源を確保している。鉱物資源、原子力エネルギー、農業、観光等について話しあった。」と発言した。ナミビアのポハンバ(Pohamba)大統領就任は、「ソビエト連邦が1960年代から1980年代にかけてナミビアが独立するのを支援してくれたことを忘れない。」と発言した。[8]



【 コメント 】

本件の関係者である4者(Tullow、伊藤忠、Gazprom、ナミビア政府)の主張を想定してみる。

伊藤忠がどのように考えているのか発表されていないが、もし権益の20%を堅持したいのなら、日本政府も外交力で支援すべきではないか。こんなことを言うと露骨過ぎるかもしれないが、このような時こそODA提供して築いた外交関係を利用して、資源外交をすべきではないのだろうか[9]。それとも、伊藤忠の権益が5%しか減らされていないが、既に資源外交が実行された結果なのだろうか。


1. Tullowの主張(想定)

・契約の期限は切れているのは確かだが、重大な問題がない限り契約が延長されるというのが業界の「常識」だ。
・これまで開発努力を怠っていたわけではない。潜在的販売先である、ナミビア電力会社(NamPower)、南アフリカ電力会社(Eskom)、南アフリカの大口需要家などと交渉してきたが、南アフリカの安い石炭と比べると競争力がない。CNGにする方法、なども検討している。[10]
・Kuduガス田を開発するためには、投資に見合う収入を確保しなければならない。
・Gazpromがプロジェクトに参加したいのであれば、過去の費用を負担すべきだ。
・これまでオペレーターとして得た知見と情報が必要であるので、オペレーターから外して欲しくない。


2. 伊藤忠の主張(想定)

・Gazpromが火力発電所を建設してくれなければ、権益を失うところだった。
・当初のシェア20%が15%に減らされたが、Tullowの減らされ方よりは大きくはない。
・火力発電所の資機材の販売のほうでビジネスチャンスがある。


3. ナミビア政府の主張(想定)

・Kuduはナミビアで発見されている唯一のガス田である。
・ナミビアでは電力が不足しているので、資源を有効利用し発電に利用する必要がある。これを早急に実行してくれる会社(=Gazprom)が現れたので、そこに協力を仰ぎたい。
・これまで貢献してくれた会社を追い出すことはしたくない。Tullowと伊藤忠のシェアを低くしたことは我慢して欲しい。そもそもTullowと伊藤忠との契約は2009年8月で切れている。
・Gazpromを絶対視しているわけではない。新しいJVにも期限を設定し、その期限内にKuduガス田を開発して、火力発電所も建設してもらうことになる。TullowのProduction Licenseの期間は4年だったが、Gazpromは2年しか与えない。それほど問題は逼迫しているということを理解してもらいたい。


4. Gazpromの主張(想定)

・契約期限が切れていない段階で、Tullowと伊藤忠の仲間に入れてもらうのであれば、応分の費用を支払うのが業界の常識だ。しかし、今回の場合、契約期限は切れている。
・Gazpromとしては、Tullowと伊藤忠の貢献を考慮している。だから新しいコンソーシアムに入って欲しいと思っているし、Tullowにはオペレータをしてもらって結構だ。(注:「不毛地帯」というドラマでもそうだったが、リスク軽減のため、他社とコンソーシアムを組むのが常識である。)
・Tullowはこの数年間南アフリカの電力会社と交渉してきたが、何ら進展がなかったではないか。しかし我々(Gazprom/ロシア政府)は、既に南アフリカと話をつけてきた。この貢献を認めて欲しい。


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【 参考文献 】

<参考> Medvedev大統領のアフリカ諸国訪問 [5]

2009年6月、100人以上のビジネスマンを引き連れてエジプト、ナイジェリア、ナミビア、アンゴラを訪問した。特にエネルギーに関する情報を集めた。(ナミビアについては上述。)

(1)エジプト
ロシアはエジプトに対し兵器などを10年間供給することに合意した。
RosAtomは原子力発電所を建設したいようだ。また、Gazpromはエジプトにある2つのLNG施設への参加を目論んでいるようだ。[11]

(2)ナイジェリア
ナイジェリア国営石油会社(NNPC)と2500百万ドルの契約を締結した。GazpromはNNPCとJV会社(Nigaz)を設立し、製油所、パイプライン、ガス火力発電所を建設する。また、Gazpromは、ナイジェリアからアルジェリアまでのガスパイプラインにも関心があると表明している。[12]

(3)アンゴラ
サテライト(Angosat)の発射を支援するため300百万ドルを融資する。ロシアの石油会社Zarubezhneftはアンゴラの油田の権益取得を目論んでいるようだ。[13]


[1]
Deadline set for Kudu production (New Era、2010/03/12)
http://www.com.na/article.php?articleid=9926

Gazprom acquire majority stake in Kudu gas field (Namibia Economist、2010/3/12)
http://www.economist.com.na/index.php?option=com_content&view=article&id=21151:gazprom-acquire-majority-stake-in-kudu-gas-field&catid=571:headlines&Itemid=62

[2] Namibia's Kudu gets go-ahead (African Business、2004/10/1)
http://www.allbusiness.com/accounting-reporting/corporate-taxes-joint/912286-1.html
[3]南西アフリカ・ナミビア共和国の海上ガス田の20%権益取得へ(伊藤忠プレスリリース、2007/4/4)
http://www.itochu.co.jp/ja/news/2007/070404_2.html
[4] Prospecting abandoned at Namibian block after 'disappointing' results (Engineering News、2007/10/5)
http://www.engineeringnews.co.za/print-version/prospecting-abandoned-at-namibian-block-after-039disappointing039-results-2007-10-05
[5] Official visits of the President of the Russian Federation -- Dmitry Medvedev to a number of African states (在カナダ・ロシア大使館プレス発表、2009/7/2)
http://www.rusembcanada.mid.ru/pr2009/048.pdf
[6] Gazprom Intl to help fund Namibia Kudu gas project(Reuters、2009/6/27)
http://in.reuters.com/article/oilRpt/idINLQ88904720090626
[7]Namcor Move Fuels Anger (All Africa、2009/7/6)
http://allafrica.com/stories/200907060629.html
[8]Russia's Medvedev seeks uranium deals in Namibia (Reuters、2009/6/25)
http://af.reuters.com/article/topNews/idAFJOE55O0N620090625?sp=true
[9]ナミビアに対するODA
http://www.mofa.go.jp/MOFAJ/GAIKO/oda/data/gaiyou/odaproject/africa/namibia/index_01.html
http://www.jica.go.jp/namibia/activities/index.html
[10]Tullow mulling options for Kudu gas (International Oil Letter、2009/3/23)
http://energy.ihs.com/News/oil-gas-exploration/2009/Tullow-options-Kudu-gas.htm
[11]Russia-Africa Ties: Kremlin for a Mideast Meet (2009/7/5)
http://www.kashmirwatch.com/showworldwatch.php?subaction=showfull&id=1246201593&archive=&start_from=&ucat=4&var0news=value0news
[12] Gazprom seals $2.5bn Nigeria deal (BBC、2009/6/25)
http://news.bbc.co.uk/2/hi/8118721.stm
[13] Russia's New Scramble For Africa (Wall Streen Journal Asia、2009/7/2)
http://www.heritage.org/Research/Commentary/2009/07/Russias-New-Scramble-for-Africa

その他参考資料
The Return of Russia-Africa Relations (bilig、2010年冬号)
http://yayinlar.yesevi.edu.tr/files/article/322.pdf

2010/03/07

豊田通商のパイプライン建設計画(南部スーダン~ケニア)

フジテレビのドラマ『不毛地帯』[1]をご覧になっている方が多いと思います。(2010年3月11日(木)が最終回です。)近畿商事は、米国の独立系石油開発会社オリオン・オイル社と組んで、イラン・サルベスタン鉱区で60億円の費用を投じて4坑の試掘井を掘削したが失敗した---というフィクションです。

実際は、
①帝人(大屋晋三社長)と三井物産などが入札でイランのロレスタン鉱区を取得した。
②入札する時に、日本側は、石油化学プロジェクトを実施することを 鉱区入札の付帯条件とした。
③落札後、イラン側の要請により、日本側の権益の1/3をモービルに譲渡した。
④石油探鉱プロジェクトと石油化学プロジェクトができた。[2]

石油探鉱プロジェクトは、1971年から1979年にかけて9坑を掘削したのですが、撤退しました。一方、石油化学プロジェクトは、1973年4月、三井物産を主幹事とする日本側とイラン側の折半JVによりイラン・ジャパン石油化学(IJPC)が設立され、建設作業に着手したのですが、1979年1月のイラン革命、80年9月のイラン・イラク戦争による攻撃による工事中止、その後、日本の事業者とイラン側と資金負担などを巡る紛争が1990年まで長期化しました。

『不毛地帯』では、商社が中東で鉱区権益を取得するために、石油化学プラント建設を付帯条件としましたが、今回取り上げるのは、商社がアフリカで鉱区権益を取得するために、パイプライン建設を条件とした(と考えられる)---という話題です。

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【 ニュース 】

Financial Timesの記事[3] の要約

・2011年1月に、南部スーダンで住民投票(スーダンから独立を問う)が行われる予定である。
・スーダンの石油の大半は南部スーダン地域から生産されているが、北部スーダンを通って紅海に面した輸出施設に至るパイプラインを通じて輸出されている。
・独立した場合、南部スーダンとしては、北部スーダンに依存せず、ケニアを通じた新しい輸出ルートを確保したいと考えている。
・豊田通商は、南部スーダンからケニアの海岸までパイプラインを敷設計画を検討している。全長 1400キロ、総額15億ドル。中国も同様の計画を検討している。
・執行役員の服部孝氏は、「恐らく中国企業との協力は選択肢の1つになるだろう。我々はケニア政府およびスーダン政府との間で、あらゆる計画を検討していきたい」「国際協力銀行(JBIC)から資金を確保することが『重要な成功の要因』になるだろう。」と発言した。

豊田通商は、その報道を受けて「お知らせ」を発表した。「現在、様々な分野の事業を構想しており今後具体的な検討を始めていきますが、一部報道のあった石油パイプライン敷設もその中のひとつであり、現在決定している事項はございません。」[4]


【 解説 】

1.石油上流ビジネスとは?

・世界を見回すと探鉱プロジェクトに取り組んでいるのは石油会社だが、日本では「商社」も参加している。
・リスクが高い鉱区の権益を取得するのは比較的容易だが、既に油田が発見されている鉱区、あるいは生産が始まっている鉱区の権益を取得するには、リスク軽減された分のプレミアムを支払うことになる。
・鉱区を取得する際は、価格だけでなく、いろいろな条件がつく場合がある。
・石油ビジネスには政治的・地政学的問題が絡んでいる場合が多い。


2.商社の石油・ガス上流ビジネス

7大商社(三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸紅、豊田通商、双日)はあらゆるビジネスに関係しているが、石油ガス上流・LNG事業も例外ではない[5]。三菱商事、三井物産、伊藤忠商事は多数のプロジェクトに関与しているが、特に豊田通商の遅れが目立つ。

同社の石油ガス上流部門でのプロジェクトは、世界中で 2つしかなく、アフリカでは皆無である。
①豪州のガス探鉱鉱区(WA-294-P鉱区)の権益7.5%取得(2008年3月)[6]
②豪州Queensland Curtis LNGプロジェクト向け炭層メタン(CBM)鉱区(ATP651P鉱区)の権益15%取得(2009年12月)[7]

その他、鉱区権益取得ではないが、エネルギー関連部門への投資は、DME、バイオディーゼル、掘削請負事業、ジェトロファなどがある。[8]


3.南部スーダンの位置づけ

北部のアラブ系(イスラム教徒)と、南部の黒人(先祖伝来のアニミズムを信仰する人々、あるいはキリスト教徒)とが対立していた。
1955年~1972年:第一次スーダン内戦
1983年~2005年:第二次スーダン内戦
2005年1月、南北包括和平合意(CPA: Comprehensive Peace Agreement) に調印し、6年後の2011年1月に、南部の分離独立を問う住民投票が実施することが決められた。

2010年1月20日、CPAの記念日において、スーダンのオマル・バシル(Omar al-Beshir)大統領は次のように発言している。[9]
・統一の方が望ましいとの立場だが、住民投票で分離独立の結果が出た場合はそれを配慮し、支持する。北部と南部は良い隣人になるだろう。
・南部が独立した場合でも、南部スーダンの収入の98%を占める石油は、精製と輸出のために北部へ供給する。

スーダンの確認埋蔵量(proven reserves) 63億バーレルだが、その75%は南部スーダンにあり、北部地域を通るパイプラインを経由して輸出される。南部スーダンの国家収入(援助を除く)の98%は石油収入であり、北部のそれは60~70%である。[10]


【 コメント 】

1.スーダンへの投資について

(1)南部政府が独立できるケース

南部本件は、南部スーダンが来年2011年1月の住民投票で、独立できることが大前提である。そして、独立できた場合、原油の輸出方法については南部スーダン政府が独自に判断できる事柄である。それを建設すれば、南部スーダンからは、大いに感謝されるであろう。

しかし、北部スーダン政府としては、既にあるパイプラインをつかってもらうことにより利用料を稼ぎたいと考えている。これは、オマル・バシル大統領が、「南部が独立した場合でも、南部スーダンの収入の98%を占める石油は、精製と輸出のために北部へ供給する。」(上記)と発言したことでも明らかである。南部スーダンからケニアに原油パイプラインを建設すると、北部スーダンはその利用料を得られないことになる。このパイプラインは南北部スーダンにとって火種になるし、最悪の場合、妨害工作により南部スーダンの独立が妨げられることも想定される。

(2)南部政府が独立できないケース

もし南部スーダンが独立しないにも関わらず、ケニアを経由したパイプラインを新設するのであれば、それは、「南部スーダン」のためのパイプラインではなく、「スーダン」のためのパイプラインということになる。その場合、スーダン政府はダルフール問題(30万人が虐殺されたと言われている)を抱えているので、国際的に避難される可能性がある。その矛先は豊田通商ではなく、親会社であるトヨタ自動車に向けられるだろう。過去、イランのアザデガン油田開発について、米国は日本に開発に参加しないように圧力をかけたところ、そのプロジェクトのコンソーシアムの一員であったトーメン(豊田通商に合併される)の親会社であったトヨタは米国での不買運動を恐れて、そのプロジェクトからトーメンを撤退させたと伝えられている。[11]

いずれのケースにおいても、政治的な問題が発生すると考えられる。このように、パイプラインの建設は、時には極めて政治的なことなのである。


2.出遅れの回復

上記のように、豊田通商は、石油ガス上流部門においては、同業他社と比べると相当出遅れている。

憶測であるが、同社は、パイプラインの建設という相当のプレミアムを支払うことで、既に生産している鉱区、あるいは石油が見つかっている鉱区の権益を取得しようとしているのではないだろうか。パイプラインを建設するように条件をつけられたのか、あるいは、能動的に、「パイプラインを建設するからファームインさせてくれ」と言うつもりなのかもしれない。

石油ビジネスのバリューチェーンで儲かるのは、石油を見つけ、開発し、販売するところである。High Risk, High Returnである。それに比べて、パイプラインビジネスは、一定の量(バーレルとかトン)に対し、一定の金額($)が支払われるだけであり、ある程度のROI (return on investment、投資利益率)はあるが、大きな利益は出ない。豊田通商はこのような事情は百も承知の上であろう。


3.ウガンダへ枝分かれパイプライン

上述の政治的問題が発生しないという前提での話しであるが・・・・

隣国のウガンダでは、石油が発見されており、数年以内に生産される予定である。中国のCNOOCが参加することが決まっている[12]。ウガンダ国内に製油所を建設し石油を供給するが、残りは輸出する予定である。当然、パイプラインが建設されることになるが、それを南部スーダンからケニア向けのパイプラインに繋ぎ、ウガンダの原油も輸送できるようにすれば、一石二鳥になる。南部スーダンの鉱区だけでなく、ウガンダの鉱区権益も取得できるかもしれない。

中国の石油会社CNOOCはまずウガンダからケニアへのパイプラインを建設しておき、スーダンの政治状況を見極めてから、南部スーダンからのパイプラインを繋ぎこむようにすることを計画しているはずである。豊田通商とは逆のアプローチである。あるいはもっとしたたかに、中国は日本の会社とJVを組むことにより、国際的批判を和らげることを考えているのかもしれない。

(3月9日に加筆修正しました。)


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【 参考文献 】

[1] 不毛地帯の番組案内
http://www.fujitv.co.jp/fumouchitai/index.html
[2]化学業界の話題
http://knak.cocolog-nifty.com/blog/2010/02/post-4bf8.html
[3] FT記事 「Japan group eyes pipeline plan」(Financial Times、2010/3/4)
http://www.ft.com/cms/s/0/a583d4ea-272d-11df-b84e-00144feabdc0.html
FT記事邦訳 「スーダンでパイプライン計画を狙う日本企業:15億ドルの大型プロジェクトに名乗り」(JB Press、2010/3/5)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/2923
現地新聞 「Toyota proposes Kenya-Juba oil pipeline bypassing Port Sudan」(Sudan Tribune、2010/3/4)
http://www.sudantribune.com/spip.php?article34317
[4] 「一部報道(スーダン~ケニア石油パイプライン敷設計画)について」(豊田通商発表、2010/3/5)
http://www.toyota-tsusho.com/sudan_kenya_.cfm

[5] 商社のエネルギー事業
三菱商事:http://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/bg/energy/
三菱石油開発:http://www.mcexploration.com/business/index.html
三井物産:(LNG以外)http://www.mitsui.co.jp/business/intro/energy/index.html
(LNG) http://www.mitsui.co.jp/business/intro/energy02/index.html
三井石油開発:http://www.moeco.co.jp/
伊藤忠商事:http://www.itochu.co.jp/ja/business/metal/field/03/
伊藤忠石油開発:http://www.itochuoil.co.jp/j/
住友商事:http://www.sumitomocorp.co.jp/business/unit/resource_chemical/index.html
丸紅:http://www.marubeni.co.jp/division/energy.html
双日:http://www.sojitz.com/jp/divisions/energy/business.html

[6] ガス探鉱事業へ進出―豪州で鉱区権益取得 (会社発表、2008/3/6)
http://www.toyota-tsusho.com/press/20080306_1.cfm
[7] 豪州Queensland Curtis LNGプロジェクト向け炭層メタン(CBM)供給事業に参画 (会社発表、2009/12/18)
http://www.toyota-tsusho.com/press/20091218_1.cfm

[8]他のエネルギー部門への投資
・2002/2/5:DME技術開発会社を共同で設立
http://www.toyota-tsusho.com/press/20020205_1pasttoyotsu.cfm
・2008/1/21:バイオディーゼル燃料製造の新たなプロセスを開発
http://www.toyota-tsusho.com/press/20080121_1.cfm
・2008/9/29:エジプトで海洋ガス田掘削請負事業開始
http://www.toyota-tsusho.com/press/20080929_1.cfm
・2009/6/10:バイオ油原料植物研究販売企業への出資~ジャトロファ種苗を使ったバイオディーゼル(BDF)事業への取り組み~
http://www.toyota-tsusho.com/press/20090610_1.cfm

[9]スーダン大統領、「南部スーダンの独立を承認する用意がある」(AFPBBニュース、2010/1/20)
http://www.afpbb.com/article/politics/2684878/5201587
[10]「Oil revenue in Sudan slashed by 60% in 2009: GoSS」(Sudan Tribune、2010/3/2)
http://www.sudantribune.com/spip.php?article34298
[11] 化学業界の話題
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/2006-10-1.htm#Azadegan
[12]「Cnooc, Total Put Final Uganda Oil Proposals To Govt - Sources」(Wall Street Journal、2010/3/5)
http://online.wsj.com/article/BT-CO-20100305-704222.html?mod=WSJ_World_MIDDLEHeadlinesEurope


その他 参考文献

Fuelling Mistrust: A Report by Global Witness (September 2009)
http://www.globalwitness.org/media_library_get.php/1027/en/v12_final_sudan_fuelling_mistrust_lowres.pdf

「アフリカにおける資源開発に向けた戦略的取り組みへの指針」by 前田匡史
(日本貿易会月報、2008/4)
http://www.jftc.or.jp/shoshaeye/contribute/contrib2008_04f.pdf