2010/10/17

ソマリアの海賊対策:今のやり方では永遠に税金が使われてしまう

ソマリアの海賊問題について、このブログでは既に2回とりあげました[1]。 実状を知れば知るほど、私は税金が無駄に使われている、と感じており、最近その度合いが益々高まっています。

ソマリアの海賊に関するニュースは多数ありますが、今回は、英国、スペイン、日本の動向を紹介します。

【 ニュース 】


1.英国(保険会社)の対応
[2]

・英国の保険会社Jardine Lloyd Thompson Group (JLT) は、ソマリアの海賊から商船を守るために、民間護衛艦(private navy)計画があることを、英国のIndependent紙のインタビューに答え表明した。JLTは、世界の商船の14%の保険を引き受けている。
・英国政府(国防省、運輸省、外務省)は、議論に関与している。
・約20隻の民間護衛艦は、正式な海軍の指揮下で、スエズ運河からインド洋にかけて護衛する。
・主要な船舶会社は、武装したセキュリティ要員を乗船させているが、民間護衛艦の考えに前向きである。船会社はこれまで、武器の使用すると海賊との関係を悪化させてしまう、と考えていたが、最近は民間護衛艦について真剣に考えている。
・海運協会と船員組合は、英国政府に対し、より多くの資源をソマリア海賊対策に向けるよう要請した。

2.スペイン政府の対応 [3]

2010/10/11、スペインの環境田園海洋省(MARM:Ministry of Environment and Rural and Marine Affairs)は、スペインのマグロ・カツオ漁船がインド洋で操業する際に、プライベートセキュリティ(private security)が乗船する場合には、費用の一部について補助金を出す、---と発表した。[y]
補助金上限割合:費用の25%を政府が負担し、残りは漁船が負担する。
補助金上限金額:2010年108万ユーロ、2011年84万ユーロ、合計192万ユーロ(2億2,000万円)
対象期間:2009年11月~2011年1月

3.日本(自民党)の対応 [4]

給油支援法案を提出へ=海賊対策にも適用-自民 (時事ドットコム、2010/10/14)

自民党は14日の「影の内閣」で、インド洋でのテロ対策とソマリア沖の海賊対処活動に従事する各国艦船に海上自衛隊による給油活動を実施するため、今国会に特別措置法案を提出することを決めた。石破茂政調会長は記者会見で「日本外交の重要なツールになり得る法案だ。成立を図るため各党に説明している」と述べた。
海自によるインド洋での給油活動は、今年1月に特別措置法が失効し、終了した。同党の法案はこれを復活させるとともに、新たに海賊対策への支援を活動に加えた。


【 解説 】

2007年以降、450船が攻撃され、約2,400人が人質に取られた。(下図参照)
2010年9月末現在、16船が乗っ取られており、354人の船員が人質になっている。
過去1年間で、一件当たりの身代金の支払額は2倍になり400万ドルになった。解放されるまでの期間も2倍になり117日になった。[2]

図:(クリックで拡大)


【 コメント 】

1。海賊対策

海賊とスズメバチを比べてみよう。
写真:


多数のスズメバチが人家の近くを飛んでいた場合、次のような対策が考えられる。
①巣を除去する。
②蜂が近づいてきたら、殺虫剤を噴射する。
③蜂に刺されないように、厚着してネットを被る。

現在の海賊対策は、上記③と同じであり、これでは何年やっても海賊の件数は減らない。海賊は身代金を高性能の船・武器・通信機の購入に再投資し、益々強くなってしまう。

上記①が最善の策だ。海賊を沖合に出させないようにするか、あるいは近海で阻止するのだ。具体的には、
・ソマリランド、プントランドの警察を訓練して強化する。漁民には小舟を保有する許可証を与え、許可証を保持していない場合は、海賊と見なし、船を取り上げる。
・ソマリアの隣国の沿岸警備隊を訓練し、巡視船を贈り強化する。警備船には海賊が保有するAK-47自動小銃やロケット推進式榴弾 (Rocket Propelled Grenade)などに対抗できるだけの武器を装備していなければならない。

次善の策は上記②だ。商船は自らが身を守るのだ。具体的には、
・ソマリア沖に派遣されている軍艦は、海賊を確認した場合は、発砲を躊躇しないことである。海賊達に、「海賊ビジネスは殺されるリスクがある」と認識させなければならない。
・プライベートセキュリティガード(=プロの民兵)を乗船させる。民間の護衛艦(private navy)を雇う。もちろん自衛のために発砲し、結果として海賊を殺した場合、訴追されないような国際的仕組みをつくる必要がある。


2。他国の戦艦への給油

自民党は給油支援法案を提案しようとしている。その目的は、
①海賊対策のため。
②「日本外交の重要なツール」とするため。(石破茂議員の発言)
③2010年1月に期限切れになっているインド洋での補給支援活動を再開できるようにするため。(上記新聞記事による。)

目的が海賊対策というのは、あまりにも意味がない。スズメバチの例でいえば、蜂よけネットを被った警備員に弁当を差し入れするようなものだ。

給油すれば、他国は喜ぶだろう[5]。しかし、それを「外交の重要なツール」というのならば、あまりにも稚拙な外交だ。

日本は、アフガニスタン及びその周辺におけるテロ対処のために軍艦を派遣していないが、その代償として他国の軍艦に補給支援を再開したいのであれば、そのための法案を再度通せば良い。

日本はソマリア海賊対策のために、護衛艦ニ隻とP3Cニ機を派遣している。ソマリア沖合いで活動中の他国の軍艦に無償で給油するのではなく、その金を本質的な海賊対策費用に使うべきである。


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【 参考資料 】

[1]  ①2010/05/05: ソマリアの海賊
②2010/08/29: ソマリア海賊:法的手続きの統一化
[2]  Insurance firms plan private navy to take on Somali pirates(The Independent、2010/9/29)
[3]  Ministers approve grants for private security onboard tuna vessels(Fish Info & Services、2010/10/11)
[4]  給油支援法案を提出へ=海賊対策にも適用-自民 (時事ドットコム、2010/10/14)
[5]補給支援特別措置法の成立に関する各国の反応 (外務省、平成20年1月)

<その他の資料>
グローバル・フォーラム「日米対話」非伝統的安全保障における日米協力の推進:海賊対策をめぐって 報告書 (グローバル・フォーラム、2010/5/14)

海賊問題の現状と日本の取組 (外務省、2010/6)

Maritime Security: Actions Needed to Assess and Update Plan and Enhance Collaboration among Partners Involved in Countering Piracy off the Horn of Africa (GAO、2010/9/24)
※上の図はこの書類のものを加工しました。

ソマリア海賊対策と自衛隊派遣問題 (arsvi.com)


<謝辞>
スズメバチの写真は  「舞岡公園を歩く」 より使わせて頂きました。
多数の美しい写真が掲載されています。



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◆追加情報◆

2010/10/15、アフリカ連合の平和安全保障委員会は、「国連安全保障委員会がソマリア上空(の一部)を飛行禁止に設定し、港も閉鎖すべきである」----と決議した。目的は、ソマリアに武器・弾薬が入り込むことを阻止し、AUソマリア平和維持部隊(AMISOM:African Union Mission in Somalia)の支援するため。
AU urges UN to impose naval blockade, no-fly zone in Somalia (Sudan Tribune、2010/10/18)


ソマリア警察5百人訓練へ ジブチ、日本が資金協力 (2010/10/11、共同通信)
【カイロ共同】長い紛争で治安が極度に悪化しているアフリカ東部ソマリアで、イスラム過激派組織と戦闘を続ける暫定政府の治安維持機能を強化しようと、日本が資金協力した暫定政府の警官500人に対する訓練が、今月中旬から隣国ジブチで始まる。在ケニア日本大使館が11日までに明らかにした。
大使館によると、訓練期間は約3カ月。ジブチ人警官らが講師となり、首都ジブチ郊外の警察学校でソマリア人警官を訓練する。訓練には、日本が国連を通じ、ソマリア警察の給与や装備調達のために拠出した1千万ドル(約8億2千万円)の一部が使われる。
今月中旬、警察学校に日本やソマリアの関係者が集まり、訓練開始を祝う式典が開かれる予定。式典の日取りは16日で調整中。
ソマリアでは1990年代初頭から内戦が拡大。国連安全保障理事会決議に基づく多国籍軍派遣が決まり、一時は米海兵隊などが展開したが、95年に全面撤退し、2007年からアフリカ連合(AU)の平和維持部隊が駐留。近年イスラム過激派組織アッシャバーブと暫定政府軍などとの戦闘が激化している。

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