2012/01/27

コンゴ回想録

TBSテレビ日曜劇場『南極大陸』をご覧になったでしょうか? 1956年秋から1957年春に派遣された第1次南極観測隊は、敗戦国日本の復興を掛けた一大プロジェクトでした。

それからわずか4年後の1960年、日本は国連の援助要請に応えて、コンゴ共和国(現コンゴ民主共和国)に医療班を派遣しています。外務省のホームページに次のように記載されております。

コンゴー(レオポルドヴィル)共和国動乱による医療サーヴィスの窮状を打開するため、国連事務総長の要請でWHO(世界保健機関)を経て赤十字国際委員会が同国の援助に乗り出すことになり、昨年七月末、日赤に対しても医療班のコンゴー派遣方要請があった。日赤は経費につき政府の援助を得て、日赤中央病院内科宮本貴文医学博士、同外科荒木洋二博士および外事部員渡辺晃一(通訳)の三氏をコンゴーに派遣した。同医療班はコンゴー到着後赤十字国際委員会によりレオポルドヴィル州北東部イノンゴ地方に派遣され、八月から三カ月間にわたり同地方住民の治療に当った後、十二月始め無事任務を終了、帰国した。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/1961/s36-contents.htm
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/1961/s36-2-2-8.htm#8


派遣された宮本貴文医師の回想録を入手しました。当時のコンゴの事情などが詳細に書かれており、歴史的価値がある内容だと考えますので、ご子息の宮本幸夫 慈恵医大教授 のお許しを得て、ここに紹介します。なお、これは1979年~1980年の『水戸医師会報』に掲載されたものです。

本文は 「アフリカのニュースと解説」のタブページ(コンゴ回想録)でお読み下さい。(↓をクリック)
http://let-us-know-africa.blogspot.com/p/congo.html

2012/01/06

難民問題:正義だけでは国が滅ぶ

2011年6月、米国の公共ラジオ局(NPR)が、日本では難民申請者は困難に直面しているというラジオ番組を放送した。ナイジェリアの女性が成田空港の入国管理事務所で難民宣言をしたところ、直ちに手錠をかけられ、それから4年間も難民収容所に収容されている、---という内容であった。[1] 

難民を支援するボランティア団体は、日本は難民受け入れに消極的である、と批判している。批判があるにも関わらず簡単に解決できないでいる理由は、
①入管が不法移民のなかから難民を見分けることが容易ではないこと。
②入管が複雑な国際政治情勢を理解していなければならないこと。
③その他、政治的問題(日本国内の治安確保、永住権の付与)など様々な問題が絡み合ってこと。

2011年7月、フジテレビがビルマの難民を題材とした「ザ・ノンフィクション『となりの難民たち』」という番組を放映したが[2]、在日ビルマ難民たすけあいの会 会長の大瀧妙子さんの発言が忘れられない。

難民として認めるハードルが高いために、よその国では認められる難民が日本では認められない。難民の人が命からがら国から逃げてくる時に、自分の本名でパスポートをとったら、飛行場で引っかかるかもしれない。そうすると日本の入管が自分の正規のパスポートで逃げてきた人には、「あなた、自分のパスポートで国を出られたんでしょう。あなた、危なくないですよ。」そう言うんですよ。だから難民ダメですよ。今度は偽のパスポートで逃げてきた人には、「あなた、不法入国でしょ。そんなのはどんでもない。難民じゃない。」と。どちらも認めない、と。


しかし数年以内に大きな変化が訪れるかもしれない。理由は、北朝鮮の政情不安により脱北者が日本にたどり着く可能性があること、及び、民主党が脱北者の難民認定を緩和して日本に定住させようとしているからである。

今回は、日本の政治家(特に民主党)が、難民や移民問題についてどのように考えているのか、ということを中心に紹介したい。

【 ニュース 】

2011/12/25: 北朝鮮の難民保護に自治体協力 政府検討、米と連携も [3]

政府は北朝鮮の金正日総書記死去を受け、同国からの大量難民流入を想定した対策の検討に入った。難民の一時保護などで日本海側の自治体の協力を得るため事前協議を進め、受け入れが可能な施設を選定。朝鮮半島が不安定化した場合の韓国在留邦人輸送に備え、米軍との連携緊密化を図る。政府関係者が24日明らかにした。

北朝鮮情勢について日本政府は「現時点で特異な事象はない」と分析。だが権力継承が安定的に進む保証はなく、野田佳彦首相は19日に「不測の事態に備えた万全の態勢整備」を指示した。関係府省庁は直ちに、1994年に金日成主席が死去した際に作成された緊急事態に関するシナリオを参照し練り直しに入った。

【 解説 】

1.難民受け入れの統計


(1) 主要国の難民受け入れ実績 [4]

図1のとおり日本の難民受け入れ数は少ない。そもそも日本には難民が来ないし、日本の「難民認定率」は西欧並みである。[5]

図1:










(2) 日本の実績 [6]

「難民条約」による認定以外にも、人道的配慮から滞在を認めている。図2でみると、近年人道配慮による庇護数が大幅に増えている。

図2:
















(3) 韓国が受け入れた脱北者の数 [7]

図3は韓国の各年の受け入れ人数であり、累計数では17,000人以上である。韓国にたどり着ける人はごく一部で、中国には数万人から数十万人が中国国内に潜伏しているとみられている。古い数字であるが、2004~2005年の時点において、96%が経済的理由から脱北している[8]。日本には、約150人(2008年頃の数字)滞在している[9]。

図3:















2.国会の決議

2011年11月、衆参両議院において、全議員による全会一致の賛成で「難民の保護と難民問題の解決策への継続的な取り組みに関する決議案」が採択された。難民保護及び人道支援について日本がリーダーシップをとることが表明された。[10]

3.国会議員の考え方(難民・移民政策)

(1) 難民問題に深く関与している議員

難民問題に積極的に関与している代表的な議員は、(敬称略)
①裁判官や弁護士出身の議員:江田五月(民主)、千葉景子(民主)、福島瑞穂(社民) 他
②党の勉強会(民主党難民問題WT)などの経験がある議員:中川正春、稲見哲夫、中村哲治、今野東(民主) 他
③「UNHCR 国会議員連盟」に所属している議員:逢沢一郎(自民) 他50名以上
④NGOでの勤務経験がある議員:山内康一(みんな) 他

(2) 外国人労働者(移民)を増やしたい議員

難民問題と移民問題は切り離せないが、移民問題について提案しているグループが民主党と自民党に存在する。どちらも1,000万人の移民を受け入れることを提案している。ちなみに、日本の人口は約1億2,700万人、就業者数は 6,260万人[11] である。

a. 2003年9月、民主党の若手6議員が「1,000万人移民受け入れ構想」を発表した。[12]
b. 2008年6月、自民党の「外国人材交流推進議員連盟」(会長:中川秀直、約80人)が、今後50年間で1,000万人の移民を受け入れる提言を総会でまとめた。[13]


4.民主党が目指す難民・脱北者 政策

民主党は与党であり、難民問題や北朝鮮問題に積極的に取り組んでいるので、同党の政策を概観してみる。

(1) 難民に対して大きく門戸を開く国する。[14]
(2) 難民認定行政を法務省から切り離し、難民問題を専門に扱う新しい機関を設立する。[15]
(3) 難民認定申請者や在留難民等の生活の支援に関する法的規定を整備する。[16]
(4) 韓国における脱北者支援施設「ハナ院」のようなものを日本でもつくる。[17]
(5) 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR) が認定した難民は、原則として受け入れる。[18]
(6) 北朝鮮人権法の改正
同法においては、脱北者支援が日本人・特別永住者等に限定されているが、その縛りをとりはずして、脱北者全体を助けるという形に現行規定を改正する。[19]


【 コメント 】

1.脱北者の取扱い

日本の海岸に脱北者がたどり着いたならば、原則、韓国に引き渡さなければならない。なぜならば、韓国は憲法第3条において、「大韓民国の領土は、朝鮮半島とその近隣の島々により構成される」と宣言しており、韓国は彼らを「自国民」と想定されるからである。[20]


2.難民の受け入れ

(1) 「理由付け」に注意

①人道的観点を重視する議員は、できるだけ多くの難民を受け入れることを主張するだろう。
②難民問題にそれほど熱心でない議員であっても、前述の2011年11月に衆参両議院において決議した「難民の保護と難民問題の解決策への継続的な取り組みに関する決議案」が難民を受け入れる「お墨付き」だと考え、多くの難民を受け入れることについて積極的に反対はしないだろう。
③老齢化社会対策として移民を受け入れたい議員は、できるだけ多くの難民受け入れることを主張するだろう。

(2) 人数

難民を受け入れると、彼らの生活費や教育費を何年にもわたって国(国民)が負担し、最終的には永住権や国籍を与えることになり、日本の政治にも影響する。そのため、事前に国民的合意がなければならない。参考になるのが米国のやり方であるが、大統領と議会が協議して、①受け入れる人数の上限、②難民の出身地の割り当人数を決めている[21]。日本は難民申請者の全員(=100%)を受け入れることもできないし、受け入れない(=0%)こともできない。合理的かつ冷静に妥当なレベルの人数を決めなければならない。

(3)認定方法

民主党のマニフェスト(INDEX2009)では、「国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が認定した難民は、原則として受け入れることとします。」と書かれている[22]。これには少なくとも2つの問題がある。

①このことは、実質的な審査を国際機関に任せることであり、主権国家の責任を放棄していると同じことである。民主党は、「難民認定行政を法務省から切り離し、難民問題を専門に扱う新しい機関を設立する」ことを主張しているが、その機関は事務的な処理をする形式的な機関になるだろう。

②UNHCRが年間に認定する数の内、日本に難民申請してくる人数が分からないのに「原則として受け入れる」とするのは無責任である。2010年にUNHCRは、845,800件の難民申請を受領しており、1次審査を認定したのは 96,800件であった[22]。日本を庇護国として申請する人は少ないのだが、それなりの人数が来るであろう。

【 参考文献 】

[1] Asylum Seekers In Japan Face Difficult Obstacles (NPR, 2011/6/1)
[2] ザ・ノンフィクション『となりの難民たち』
[3] 「北朝鮮の難民保護に自治体協力 政府検討、米と連携も」(2011/12/25、共同通信)
[4] 「UNHCR Global Trends 2010」
(Fig5 Major refugee hosting countriesのdataの箇所をクリックしてエクセルデータをダウンロードして作成した。)
[5] 「UNHCRの歴史と活動、今後の展望. 国連大学ライブラリー連続講座. UNHCR駐日代表 滝澤三郎 2008/3/24」
Refugee and Asylum-Seeker Inflows in the United States and Other OECD Member States
(Fig 6)には2004~2007年の難民人定率の平均値があるが、日本はドイツより高い。
[6] 法務省入国管理局 平成22年における難民認定者数等について(平成23年2月25日)
別表4 庇護数の推移
[7] Wikipedia 韓国版 (脱北者)
[8] 辺真一のコリア・レポート
[9] 在日本大韓民国民団
[10]「難民の保護と難民問題の解決策への継続的な取り組みに関する決議案」
衆議院(2011/11/17)
参議院(2011/11/21)
[11] http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/tsuki/index.htm
[12] 6名とは、浅尾慶一郎 (民主党からみんなの党に移籍)、大塚耕平、細野豪志、古川元久、松井孝治、松本剛明。
月刊Voice 2003年9月号 「1000万人移民受け入れ構想」のコピー 
http://www.oh-kouhei.org/library/pdf/voic0309.pdf
http://www.asyura2.com/11/senkyo109/msg/766.html
報道記事(フォーリン・プレスセンター、2003/9)
[13] 「自民党『移民1000万人受け入れ』の実現性」(日経ビジネス2008/6/19)
[14] 2011/1/18 法務大臣就任に関する質疑(江田五月)
[15] 2011/6/20  法務大臣政務官の発言
[16] 2009/7 民主党政策集 INDEX2009
[17] 2011/12/25 中川正春(文部科学相)発言(脱北者支援民団センターが開催した交流会での発言)
なお、それより10ヶ月前の2011年2月、政府は浜田和幸議員が提出した質問趣意書に対する答弁書において、「政府としては、御指摘の「日本版ハナ院」のような定着支援施設を設立する考えはないが、(以下略)」と答えている。
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/177/touh/t177002.htm
[18] 民主党政策集
[19] 第174回国会 北朝鮮による拉致問題等に関する特別委員会(2010/3/36)中井洽拉致問題担当大臣の見解
[20] 「日本に北朝鮮「難民」は来ない  韓国国民を韓国に送るだけ」島田洋一
South Korea - Constitution
[21] Refugees: A Fact Sheet, American Immigration Council
[22] UNHCR Global Trends 2010