2010/12/31

在外公館(アフリカ)のHP評価 (2回目)

アフリカにある在外公館のホームページ(HP)を評価してみました。1回目は1年前で、今回が2回目です。


【 結果 】


1.HPの有無

アフリカ53ヶ国のうち、
・大使館があり、HPがあるのは20ヶ国、
・大使館があるのに、HPがないのは11ヶ国、
・大使館がない(HPもない)のは、22ヶ国。

2.評価のやり方

評価対象は、①2010年1月~12月の情報、及び ②日本語の情報。(現地語の情報は評価していない。)評価項目は
・更新頻度が多いか?
・独自情報(大使レポート、月次報告書、滞在者のレポート等)があるか?
・滞在者にとっての有用な情報が多いか?----などである。
要するに、在留者にとって有用な情報源になっているか、また、非在留者にとってそのHPを訪問してみたいか、ということである。


3.評価結果

20ヶ国にある大使館のHPを3段階で評価した結果、A評価 9ヶ国、B評価 7ヶ国、C評価 4ヶ国であった。
(1) A評価(再度訪問したい。)
アンゴラ      
ブルキナファソ  
セネガル      
ウガンダ      
タンザニア     
南アフリカ     
ボツワナ      
スーダン      
モザンビーク    


(2) B評価(必要であれば訪問する。)
エチオピア    
リビア       
エジプト      
チュニジア    
ルワンダ     
モロッコ     
ケニア      

(3) C評価(再度訪問することはないだろう。)
アルジェリア   
ザンビア     
コンゴ民主共和国  
ジンバブエ    

(4) 大使館があるのに、HPがない (11ヶ国  12ヶ国)
ガーナ、ガボン、カメルーン、ギニア、コートジボワール、ナイジェリア、ベナン、マダガスカル、マラウイ、マリ、モーリタニア、ジブチ
1/9修正:ジブチには日本大使館があるとのご指摘がありました。(コメント欄参照)




<追記>
ガーナ              開設(2011/3)
ガボン              開設(2011/1)
カメルーン         開設(2011/3)
ギニア              開設(2011/3)
コートジボワール 開設 (2011/2)
ナイジェリア         開設(2011/3)
ベナン              開設(2011/3)
マダガスカル        開設(2011/3)
マラウイ             開設(2011/1)
マリ                  開設(2011/3)
モーリタニア         開設(2011/3)
ジブチ              開設(2011/3)


(5) 大使館がなく、HPもない (22ヶ国 21ヶ国)
エリトリア、カーボヴェルデ、ガンビア、ギニアビサウ、コモロ、コンゴ共和国、サントメ・プリンシペ、シエラレオネ、ジブチ 、スワジランド、セーシェル、赤道ギニア、ソマリア、チャド、中央アフリカ、トーゴ、ナミビア、ニジェール、ブルンジ共和国、モーリシャス、リベリア、レソト。




【 コメント 】

1.評価結果

前回のA評価は、アンゴラ、タンザニア、ブルキナファソ、ボツワナ、南アフリカであったが、今回は セネガル、ウガンダ、スーダン、モザンビークが加わった。特に、ウガンダは、1年前にはHPがなかったが、今回堂々A評価である。また、リビアもHPがなかったが、B評価の上位になった。

2.HPがない大使館

(1) 大使館があるのにもかかわらず、HPがない(11ヶ国)のは残念なことである。2010年6月に開館し、その4ヶ月後にはHPを立ち上げたルワンダ大使館を見習って欲しい。11ヶ国の大部分には、多数の青年海外協力隊員が滞在しているので、隊員達とその家族への情報を提供すするためには、HPは有効な手段である。JICAの事務所はあるが、大使館の人数には及ばない。以下()内は青年海外協力隊員の人数。(図参照)
ガーナ(90)、ガボン(24)、カメルーン(23)、ギニア(0)、コートジボワール(0)、ナイジェリア(0)、ベナン(51)、マダガスカル(34)、マラウイ(74)、マリ(4)、モーリタニア(0)。

また、ナイジェリアなどは大産油国であり、人口が多いので日本製品の大きな市場になり得る国である。

図:(クリックで拡大)



(2) 大使館がない22ヶ国全てにおいて、HPがない。管轄しているのであるから、是非ともHPを作って頂きたい。
①たとえ在留者が少なくとも、地元の人を対象に情報を発信すべきである。ネット環境が劣るという事情もあると思うが、このブログにはほとんどの国からアクセスがあのである。(これまでアクセスがないのは、ソマリア、中央アフリカ、モーリタニアの3ヶ国のみ。)
②22ヶ国の内、3ヶ国には多数の青年海外協力隊員が派遣されている。ジブチ(15)、ナミビア(20)、ニジェール(80)。()内は人数。
③人手が足りない場合は、本省に手伝ってもらうこともできるはずである。

3.欲しい情報

情報はいろいろなところから入手できる。例えば、現地で発行されている英字新聞や、青年海外協力隊員が書いているブログなど。しかし、国家公務員である大使館員の情報収集能力と分析能力は別格なので、期待度は高い。なお、他国の大使館の内容も参考なるはずである。

次のような情報を発信して欲しい。
・地元に住んでいないと得られない情報
・大使や大使館職員によるレポート
・現地に滞在されている方のレポート
・日本企業が投資するために役立つ情報

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【 参考文献 】

2010/12/25

中国与非洲的経貿合作 (中国とアフリカの経済貿易協力)

【 ニュース 】

中国、中国とアフリカの協力に関する白書を発表 (2010/12/23) [1]

中国国務院報道弁公室は23日『中国とアフリカの経済貿易協力』と題する白書を発表しました。白書は貿易、投資、インフラ整備、発展能力向上、民生改善などの面で、近年来の中国とアフリカの経済・貿易の協力と発展をまとめたものです。
白書は「2000年中国・アフリカフォーラムが発足したことをきっかけに、双方の経済貿易協力はより強化され、より活気に満ち溢れ、貿易、投資、インフラ整備、発展能力向上、金融、観光などの分野における双方の協力がさらに拡大された。同時に、南南協力の重要な構成部分として、中国・アフリカフォーラムは南南協力に新たな活力を注ぎ込んだ。更に国際政治経済枠組みにおける発展途上国の地位を高め、公正かつ合理的な国際政治経済新秩序の構築にも重要な役割を果たしている」としています。(翻訳:コオリ・ミン)


【 解説 】

『中国とアフリカの経済貿易協力』(China-Africa Economic and Trade Cooperation)の白書の英訳が公表されている[2]。 白書は7章で構成されており、シングルスペースで12~13頁の長さである。以下、数字で説明されている部分を列挙する。


第1章  均衡がとれた貿易を促進する

(1)中国とアフリカの貿易総額
・1950年:US$12 百万
・1960年:US$100 百万
・1980年:US$1,000百万
・2000年:US$10,000百万
・2008年:US$100,000百万超(中国の輸出額US$50,800百万、輸入額US$56,000百万)
2000~2008年の中国アフリカの貿易伸び率:33.5%
・2010年(11月まで):US$114,810百万(前年比43.5%増)

図: (クリックで拡大)


中国の全世界の貿易量に占めるアフリカとの貿易量:2.2%(2000年)→4.2%(2008年)
アフリカの全世界の貿易量に占める中国との貿易量:3.8%(2000年)→10.4%(2008年)

(2)輸出の変化
①中国の対アフリカ輸出:
1980年代~1990年代は、軽工業品、食品、化学製品等
2000年以降は、機械、自動車、電気用品。(機械と電気用品は50%を占める。)

②アフリカの対中国輸出:
以前は、綿花、リン鉱石、一次産品
近年では、スチール、銅、化学肥料、電気製品、農産物

中国は、アフリカの45ヶ国と二国間貿易協定の締結した。2010年7月までに、アフリカからの輸入品の4,700品(輸入品の95%)、US$1,320百万(累計ベース)が非課税扱いになった。


第2章  投資領域を相互に拡大する

(1)中国からアフリカへの直接投資額
・2003年迄:US$490百万
・2009年末:US$9,330百万

相手国は、49ヶ国(内、主要投資先は、南アフリカ、ナイジェリア、ザンビア、スーダン、アルジェリア、エジプト)
投資案件は、鉱山、金融、製造、建設、観光、農業、林業、畜産。
投資形態は、第三国の会社とJVを組んで、アフリカで資源開発するなど、多様化している。
投資家は、国営の大・中規模の会社、個人企業など広範囲にわたる。

二カ国間投資協定締結国:33ヶ国
二重課税防止協定締結国:11ヶ国

中国企業によるアフリカ進出を支援するため、「中国アフリカ開発基金」を創設した。既に、農業開発、機械製造、発電、建設資機材等、30プロジェクトを支援した。第一段階としてUS$1,000百万を支出済で、更にUS$5,000百万まで支援する予定。

海外経済貿易協力地帯(overseas economic and trade cooperation zones)を作り、中国企業を誘致する。現在、ザンビア、モーリシャス、ナイジェリア、エジプト、エチオピアにおいて協力地帯を建設中である。ザンビアが最初のケースだが、既に13企業が進出し、US$600百万を投資して、6,000人の雇用を創出した。


第3章  インフラ建設を重視する

2009年末までに、中国は500以上のインフラ・プロジェクトを支援した。2007~2009年にかけてUS$5,000百万を、2010~2012年にかけてUS$10,000百万(予定)の低金利融資を供与した。


第4章  発展する能力を強化する (capacity building)

2009年末までに、107の学校が建設され、29,465人のアフリカ人が奨学金を得て中国で勉強している。年間5,000人に奨学金を受け取っている。2010年6月末までに、30,000人が、20の分野で教育訓練を受けた。

・104人の中国人農業専門家(シニアクラス)が33ヶ国の農業発展計画立案を支援した。
・600人以上の農業専門家・技術者がモーリタニア、ガーナ、ガボン等で支援した。
・312人が、中国語教育、医療・衛生、体育、PC教育などの分野で奉仕活動に従事した。



第5章  民衆の生活水準向上を支援する

・2009年末までに、142の農業プロジェクトを実施した。14の農業技術デモンストレーションセンターを開設した。
・2009年末までに、54の病院、30のマラリア予防・治療センターを建設し、35ヶ国に200百万元相当の坑マラリア薬を援助した。
・1963年以降、46ヶ国に医療団(累計18,000人)を派遣した。現在、41ヶ国において1,000人以上の医療従事者が働いている。
・アフリカ35ヶ国向けの融資(312件、18,960百万元)の返済を免除した。


第6章  中国とアフリカの協力の領域を拡大する

28のアフリカ諸国が、中国から「観光目的対象国(ADS:APPROVED DESTINATION STATUS)」として認定された。
2009年の、中国本土からアフリカへの観光客は、381,000人(前年比18.5%増)、アフリカから中国を訪問客は401,000人(前年比6%増)。


第7章  中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)の精神を達成する

この章ではFOCACについて説明あり。


【 コメント 】

1.中国はアフリカ諸国に「安かろう悪かろう」の製品だけを売っているのではない。「中国とアフリカの経済貿易報告2010」で発表されたように、金融、電信、エネルギー、観光、航空など新しい分野に投資の分野を拡大しつつある。[3]

2.中国は、白書の前文において、平等、互恵互利、結果重視、共同発展の原則でお互いに発展する、ということを謳っているが、大前提として、「中国とアフリカ」という枠組みで考えている。しかし、「アフリカ」は53ヶ国で構成されており、トータルにしてやっと中国と対等になれる。また、中国との関係で、出超の国、入超の国などいろいろある。それぞれの国は、「自国と中国」あるいは「小国である自国と巨大な中国」という枠組みで考えているはずである。そのことを中国が認識できれば、中国の行動も変わるのではないだろうか。

3.白書の最初に「中国是世界上最大的発展中国家」(中国は世界で最大の発展途上国である」と書かれている。中国は、世界で3番目に有人宇宙船の打ち上げを成功させた国であるし、ミサイルで衛星を破壊できる技術力を保有する国である。そんな国が「発展途上国」とは・・・。


この白書が発表されるの2ヶ月前の2010年10月14日に、商務省の国際貿易経済協力研究所が『中国とアフリカとの経済貿易報告2010』[4] を発表している。中東・エネルギー・フォーラムが概要を発表しているので参照されたい[5]。


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【 参考文献 】

[1] China Radio International (CRI) (2010/12/23)
[2] 中国語  英語 
[3] 「中国とアフリカの経済貿易報告2010」が北京で発表 (中国国際放送局、2010/10/15)
[4] 原文(英語)『China-Africa Trade and Economic Relationship   Annual Report  2010』
[5] http://www.energyjl.com/2010_folder/October/10new1019_8.html

2010/12/20

中国とナミビアの関係: 低利融資とインフラ整備

ウィキリークス(Wikileaks)が米国の外交関係の文書をネット上で暴露した事件は、2010年の10大ニュースに入ると思います。そして、これから次のような問題点が議論されるでしょう。
①情報の入手方法は正当であったか?
②政府が外交を遂行するために公開にしたくない情報について、報道機関は自由に報道できるのか?また、国民はどこまで「知る権利」があるのか?

いずれにしても、これは国際問題の片鱗を知る貴重な資料であることは間違いないと思います。ただし、それが真実であるかどうかは、周辺情報を集めて判断する必要があります。

今回のエントリーでは、①WikiLeaksが暴露した記事、及び ②中国がナミビアの鉄道建設を請け負うようになった事情を紹介します。

【 ニュース 】

2010/12/15、VOA (Voice of America)は、WikiLeaksがナミビアと中国に関する暴露記事について、報道した。[1]
1.ナミビアは中国から融資を受けたが、返済できていない(defaultしている)。ナミビアが期限どおりに返済しない代わりに、中国から5,000家族を受け入れている。
2.ナミビアの人権団体(NAMRIGHTS)によれば、
①この事実が本当なら、「驚き」をとおりこして「ショック」である。
②ナミビア政府は、中国から借り入れをしているという事実は認めたが、具体的な金額は公表していない。US 8,000百万ドルという説もある。
③ナミビアにいる中国人は、ナミビア人の人権を侵していることで有名。我々(NAMRIGHTS)は、反中国運動をしようとしているのではなく、中国人を招いたナミビアの指導者が問題であると主張している。


【 解説 】

1.WikiLeaks

WikiLeaksが暴露した外交文書は、2006年2月、駐フランス米国大使館に勤務していた Josiah Rosenblatt参事官が本国に送った文書である。彼は、コートジボワールからトーゴへ武器密輸について調査するなかで、パリ在住の弁護士(Allain Feneon氏)から中国とナミビアに関する情報を得た。記事の原文[2]を要約する。

Feneon氏は次のように述べた。

・500社以上の中国会社がアフリカ進出に関心がある。その大部分は政府系の企業である。彼らは全てのビジネス分野に関心を示していた。
・ナミビアは中国からの借入金を返済できないことがあった。その時、中国は、「心配するな。5,000のパスポート(ビザ)と滞在許可をくれればよい。」と言った。その結果、5,000家族が中国からナミビアに来て、大なり小なりのビジネス活動をしている。
・中国にとって2つの問題が解決できた。1つ目は、人口増加の問題の対策であり、2つ目は、アフリカに中国コミュニティーをつくり、それが後々役立つ。


2.中国企業の仕事の取り方

上記のWikiLeaksの記事に関する情報を調べる過程で、ナミビア北部(Oshikango-Ondangwa間)の鉄道建設工事を中国企業が請け負うことになった事情が、断片的ではあるが分かった。中国の融資に関係するので紹介する。

図:  (クリックで拡大)

2009/2/3: ナミビア政府は、鉄道建設工事を入札にすることを発表した[3]。その前に、中国企業と南アフリカの企業が交渉していたようだ。
2009/7/1: 秘密メモが内閣に提出された。(内容は後述)
2009/7: 応札した唯一の会社であるShetu Trading社は入札資格がないと通告され、入札は取りやめになった。[3]
2009/7:
閣議決定により、中国企業に鉄道建設を請け負わせることが決まった。中国政府はナミビアに低利の融資(ソフトローン)を提供する。その代り、ナミビア政府は、鉄道建設に係る資機材の調達、労務、サービスについて入札にせず、中国側と交渉で決める。
2010/2:Shetu Tradingは、高等裁判所に対し、中国企業へ仕事をまわすのを中止するよう申請した。[3]


<秘密メモの内容> [4]
ナミビアは、中国のChina National Machinery and Equipment Import and Export Corporation (CMEC:中国機械設備進出口総公司)と南アフリカのLenning Rail Servicesと交渉していた。中国側が提示したのは、N$300百万を融資する代わりに、随意契約とする。金額は、①線路建設として N$773 百万、②レール代金として N$290 百万の合計 N$1,063 百万。一方、南アの会社が提示したのは、N$114 millionであった。ナミビア側が値下げ交渉をした結果、中国側は N$1,063 百万をN$597百万に値下げしN$1,000百万を融資することにした。


【 コメント 】

1.中国が融資する際には、人権問題、汚職、透明性などについての条件をつけないと言われてきたが、実際には、
①『一つの中国』政策を認めること。
②中国の内政に干渉しないこと。(先のノーベル平和賞受賞式に参加しないよう圧力をかけたことで明白である。)
③そして、本件のように、国際入札にしないこと。
----という条件をつけている。

2.アフリカ諸国にとって上記①と②の条件は経済的に損失ではないが、上記③については、損失になることがあるので、アフリカ諸国はいつまでも中国の言うことには従えないであろう。

3.中国から多数の"移民"がナミビアに存在する理由を、ナミビア国民が知ることになった。現在の指導者に対する国民の反感は強くなったはずだが、どの程度の反感になるのか、注目する必要がある。

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【 参考資料 】

[1] WikiLeaks: Namibia Allows Chinese Immigration to Repay Loans (2010/12/15)

その他、報道記事:
WikiLeaks: Lid lifted on Chinese-Namibia relations (2010/12/14)
WikiLeaks Reveals a Back-Door-Deal Culture on Chinese-Namibia relations (2010/12/14)

[2] Viewing cable 06PARIS741, TOGO: EX-MINISTER BOKO DISCUSSES RECENT EVENTS
[3] Railway tender to Chinese firm heading to court(2010/2/21)
[4] China heavily overcharges Namibia for railway projects (2009/7/23)

その他資料
中東、アフリカも自分の庭にしてしまう中国 (by 宮家邦彦)

2010/12/12

アルジェリアのソーラープロジェクト

日本のグループ、ドイツのグループが、アルジェリアにおいて、ソーラー・プロジェクトを進めています。

【 ニュース 】

1.日本の「サハラ・ソーラー・ブリーダー計画」
11月下旬から12月上旬にかけて、CBS Newsなどの外国の報道機関が、日本のグループが提唱している「サハラ・ソーラー・ブリーダー計画」(Sahara Solar Breeder Project)について報道した[1]。

2.ドイツによる「Desertecソーラー計画」
2010/12/8、アルジェリアのブーテフリカ大統領はドイツを訪問し、メルケル首相と面談した。両国は、再生可能エネルギーの分野と、石油・ガス開発の分野との分野において、協力することについて合意し、また、10年以内に欧州の電力の20%を供給するという「Desertecソーラー計画」の推進を確認した[2]。

3.住友電気工業の超電導線増産計画
2010/11/25、日経新聞は、「住友電気工業と昭和電線ホールディングスはそれぞれ2011年から、電気抵抗をなくし電気の利用効率を高める超電導線を量産する。」と報道した。(記事は末尾参照)


【 解説 】

1.サハラソーラーブリーダー計画(Sahara Solar Breeder Project)とは?

(1)概要は?
①サハラ砂漠にソーラー発電所を建設し、②別に砂漠の砂に含まれるシリコンを生産する。
生産されたシリコンを使ってソーラーパネルを生産し、そのソーラーパネルを使って発電所を建設する。これを増殖的に(ブリーダー的に)繰り返す。

初期においては、
①アルジェリアのオラン科学技術大学に「サハラ太陽エネルギー研究センター」を設置する。
②シリカと炭材の高純化技術を開発し、ソーラー級シリコン新合成法を開発する。
③年間1トン規模プラントを建設する。
④センターを拠点とする新エネルギー工学に関する人材育成などを行う。[4]

発電方式は太陽光発電[5]、送電方式は高温超伝導直流送電[6]を想定している。

(2)実施者は?
研究代表者は鯉沼秀臣教授(東京大学大学院新領域創成科学研究科)[4]
共同研究機関は、東京大学、弘前大学、物質・材料研究機構、東京工業大学、中部大学、国立情報学研究所。

(3)目標は?
2050年には人類の使うエネルギーの50%を太陽光により変換した電気エネルギーで賄う。[1]

(4)予算は?
現在は基礎研究の段階にあるので、5年間の予算は5~6億円程度であると想定される。鯉沼教授は、次のように発言している。「これは5年のタームで年間トータルで1億円の研究費で、国内には3千万円ですから、とてもそんなお金では完成までは行きません。」[8] 



英語版

2.Desertec projectとは?

(1)概要は?
Desertecとは、サハラ砂漠(Desert)に高圧直流送電(HVDC)網太陽熱発電所を建設し、とTechnology(技術)を組み合わせた造語である。

発電方式は太陽熱発電、送電方式は高圧直流送電 (high-voltage, direct current: HVDC) を想定している。

(2)実施者は?
エンジニアリング企業、送電線の会社、電力会社、銀行、再保険会社など12社が、推進母体であるDESERTEC Industrial Initiative (DII)を設立した。[9]

(3)目標は?
2050年までに、①欧州の電力需要の15%と、②発電する現地の電力需要の大半を賄う。

(4)費用は?
400,000百万ユーロ(520,000百万ドル=43兆円)[10]


【 コメント 】

1.2つのプロジェクト

どちらのプロジェクトも巨額な費用がかかるので、実現できるかどうかは分からない。

あえて2つのプロジェクトの違いを述べると、
①Desertecは、電力会社を含む12社が参加しているし、マーケットも決まっている。
②一方、サハラ・ソーラー・ブリーダー計画は、基礎研究の段階ということもあり、企業は参加していないし、予算も小さい。

サハラ・ソーラー・ブリーダー計画については、企業に参加してもらうことが重要だと考える。北アフリカにおけるソーラーエネルギーの利用は、最終的にはビジネスとして成り立つか否かという問題であり、また、それは他のプロジェクトとの競争であるからである。

2.費用の調達

メキシコ・カンクンで行われた気候変動枠組み条約第16回締約国会議(COP16)が終了したが、先進国は、地球温暖化で損害を被る発展途上国に、資金援助することになるだろう。恐らく主に土地利用に係る被害を補うために使われるのだろうが、今回紹介したようなソーラーエネルギーの開発の費用も、その基金から支出するような仕組みができないものか。

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【 参考文献 】
[1]
2010/12/2: Sahara desert project aims to power half the world by 2050
2010/12/1: Sahara Seen as Key to Self-Replicating Energy
2010/12/1: Scientist wants to solve energy crisis with Saharan sand
2010/11/30: Sun and sand breed Sahara solar power
2010/11/28: Sahara Solar Breeder Project Would Power World With Sand
2010/11/24: Sahara Solar Breeder Project aims to provide 50 percent of the world’s electricity by 2050

[2] http://bikyamasr.com/wordpress/?p=23039
[3] http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920013&sid=assGmOU3EE.0
[4] http://www.jst.go.jp/global/kadai/h2202_algeria.html
[5] ソーラー発電の種類には2つの種類がある。
①太陽光発電は、光を直接エネルギー(電気)に変換する発電方法です。一般家庭の屋根の上に設置しているものです。
②太陽熱発電は、凹面鏡などを使って太陽光を集めて得られた熱で水を沸騰させ、タービンを回して発電する方法です。日中に熱貯蔵タンクに熱を貯め、夜間にその熱で発電することが可能です。(この方法については、過去のブログ記事を参考にして下さい。)
[6] 住友電工は、「世界初 200メートル超電導直流送電に成功」した。「直流の超電導送電は、交流送電に比べて送電損失を1/10に抑える」ことができる。そして、この量産体制が整った。[7]
[7] http://www.sei.co.jp/newsletter/2010/04/7a.html
[8] http://jp.diginfo.tv/2010/10/10-0135-r-jp.php
[9] http://www.munichre.co.jp/public/PDF/Press_j_D2.pdf
http://www.desertec.org/en/press/press-releases/090713-01-assembly-desertec-industrial-initiative/
[10] http://www.monstersandcritics.com/news/europe/features/article_1602834.php/Europe-turns-to-Africa-for-energy-from-the-sun-Feature

その他資料
東京大学生産技術研究所 「Sahara Solar Breeder Project (SSB計画)」
化学業界の話題「DESERTEC プロジェクト スタート」
大型太陽熱発電プロジェクト構想イニシアティブ“Desertec”

以下の2つの記事はいずれも抜粋。

住友電工など超電導線量産 次世代送電網やエコカーに (2010/11/25、日本経済新聞)

住友電気工業と昭和電線ホールディングスはそれぞれ2011年から、電気抵抗をなくし電気の利用効率を高める超電導線を量産する。国内外でスマートグリッド(次世代送電網)やエコカーのモーター向けに供給を目指す。競合する米国や韓国勢に先駆けて本格的な量産に入り、世界市場で優位に立つ。
一般的な銅電線から超電導線に置き換えると、電力の損失が大幅に減り、電気の節約や機器の性能向上につながる。大規模工場では電気を2割以上節約できるという。電気自動車などのモーターに使うと走行距離を十数~25%程度延ばせる。(略)
超電導線は特殊な合金でつくった線を液体窒素を満たした管に入れ、冷やしながら電気を流す。一般の銅電線に比べて製造工程が複雑で現状の製造コストは2倍だが、それでも生産技術の改良などにより過去7年ほどでコストは半減し、電力会社などが実用化を考える水準に近づいた。
しかも電気の利用効率を高める技術への関心は高まっている。スマートグリッドでは遠隔地の太陽光や風力発電からの効率的な送電が重要。ガソリン車に比べて走行距離が短い電気自動車も電気をいかに節約するかが普及のカギで、超電導線への期待は高い。


住友電工株が反発、超電導線事業の将来寄与を期待-生産能力倍増へ (2010/11/25、ブルームバーグ) [3]

11月25日(ブルームバーグ):電線大手の住友電気工業の株価が一時、前日比4.3%高の1126円まで反発。大容量の電力を低損失で送電できる超電導線の量産化にめどが立ったため、同社の技術力への評価や将来の収益寄与への期待が高まった。
住友電工は2011年中に大阪製作所(大阪市)で、ビスマス系と呼ぶ送電網に向いた超電導線の生産能力を年間1000キロメートルに倍増する計画だ。同社広報担当の酒井茉莉氏が25日付の日本経済新聞朝刊の報道を認める形で明らかにした。同紙によると、増産によって生産規模で米アメリカン・スーパーコンダクターを抜き世界最大手となり、生産コストも量産効果で現状から約3割下がるという。(略)
ブルームバーグ・ニュースは9月24日に、住友電工が超電導線の電流密度を従来比1.5倍に引き上げる技術を確立したと報道。超電導線の生産能力についても、年間約500キロメートルの現状から「1-2年後には倍ぐらいにすることを検討している」という超電導担当技師長の佐藤謙一氏の発言を載せている。(略)

2010/12/04

差別されるHIV陽性の子供

生まれながらエイズに感染していたケニアの女の子が、学校や家庭でどのように扱われたか? --- BBCが一人の女性をインタビューしました。

【 ニュース 】

以下はインタビューの要点 [1]

・Sylvia Mueni(現在23才)は、ナイロビで生まれた。小さくて病弱だった。ある時、急激に痩せて、立てなくなった。検査結果はHIV陽性だった。
・祖母によると、両親はHIVで死亡している。彼女は、輸血、外科手術、性交渉の経験がないので、母子感染によるHIV陽性であることが分かった。
・自分がHIV陽性であることが同級生に知られてしまった。誰も話しかけてくれなくなり、無視された、勉強机(テーブル)にも同席してくれなかった。
・おばさんの家に住まわせてもらった時、家族と一緒のテーブルで食事をとることはできず、食事は自分の部屋に運ばれてきた。おばさんから売春婦と呼ばれたこともある。
・別のおばさんに引き取られた。経済的には貧しかったが良い人だった。勉強を続けるよう励ましてくれ、自宅で猛勉強して、高校卒業統一試験(KCSE)に合格することができた。



【 解説 】

1.差別
この話は、彼女が中学あるいは高校の時のものと考えられる。彼女は23才なので、おそらく8~9年前の話である。しかし、現在でも差別は続いているのだろう。[2]

2.母子感染の予防
Unicefや「国境なき医師団」などが活動している。Unicefによれば、「適切なケアと治療があれば、HIVの母子感染は2%までおさえられます。しかし、HIV/エイズに苦しむ国々で、予防の恩恵を受けられる妊産婦はわずか1割未満・・・」であるとのこと。[3]


【 コメント 】

私はHIV/エイズについてあまり知識がないので、大阪府のメッセージを書きます。

「エイズを予防し、共に生きる社会を」
HIVは非常に感染力の弱いウィルスですから、患者や感染者と一緒に生活していても、日常の生活ではうつりません。患者や感染者は、病気だけでなく、様々な偏見や差別と闘っています。同じ時代を生きるなかまとして、共に手を取り合ってゆきましょう。[4]

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【 参考文献 】

[1] BBC News Africa
Living with HIV: Kenyan orphan(2010/12/1のラジオ番組)

[2]
REDUCING STIGMA AND DISCRIMINATION TO MEET HIV-POSITIVE WOMEN'S REPRODUCTIVE HEALTH NEEDS IN KENYA (2010年3月)

[3] Unicef (日本語)

[4] http://www.pref.osaka.jp/jinken/what/aids.html

その他資料

平成21(2009)年エイズ発生動向年報(1月1日~12月31日)平成22年5月27日 厚生労働省エイズ動向委員会

エイズ予防のすすめ

HIV検査相談マップ

2010/12/02

視覚的にアフリカを見る方法

今回のエントリーは番外編です。

アフリカの現状を「定量的」に把握するには、統計資料を使う必要があります。①どこにどんなデータがあるかを調べ、②データを入手し、③表計算ソフト使います。面倒ですね。

そのようなことをしなくても、今回紹介するツールを利用すれは、グラフを作れるのです。しかも表計算以上のものを作れるのです!

Googleは、「Google public data explorer」というツールを本年(2010年)3月に発表しました。例えば世界銀行が提供するデータには簡単にアクセスできます。ブラフを「動かす」こともできるので、より視覚的にすることができます。

以下、手順を説明します。

1。グラフを作成する

①データの種類を選択する。ここでは「人口推移」を選択する。
アクセス先は:http://www.google.com/publicdata/directory
World Development Indicators (subset) (世銀)をクリック。
World viewの項目の Population,total をクリック。
②国を選ぶ。
③数秒でグラフが表示されます。(図1)
別の国を追加するには、チェックをつけるだけです。

2。動きをつけるためには図2の「年」のところをクリックする。
(図をクリックで拡大)

図1

図2

図3

3.今回紹介したのは、一番シンプルなグラフの作成方法です。
サンプルがありますので、参考にして下さい。
http://www.google.com/publicdata/home

(追加情報-2010/12/4)
グラフの左上にある「リンク」をクリックすると、①メールにリンクを貼りつけたり、②HTMLを貼りつけてブログなどに埋め込むことができます。


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2010/12/01

オランダは開発援助の政策を修正した

オランダの援助に関する記事(11/29付)を紹介します。複数の記事で事実関係を確かめたかったのですが、現時点ではこの記事しか見つかりませんでした。

【ニュース】

「オランダは、新しい分野に開発援助の焦点を当てる」 [1]

・オランダ政府は、開発援助の予算を、GNPの0.8%から0.7%にする。全体で1,900百万ユーロの減額する。
・教育と公衆衛生に係る援助は減額される。最も縮小されるのは、教育に係る援助で、160百万ユーロの減額になる。
・NGOの「Oxfam Novib」は50百万ユーロの補助金を減額されたため、今月(2010/11)、70人の職員を解雇した。
・一方、増額されるのは、農業と水資源管理の援助であるが、これはオランダの企業が得意な分野である。企業による開発援助には40百万ユーロの予算がついた。


【解説】

恐らく、オランダ政府は次のように考えているのだろう。

1.オランダ政府が発展途上国を援助する際、オランダ企業も恩恵を受けるべきだ。
①アフリカには農業が必要である。[2]
②オランダは、米国に次ぐ世界第2位の農業生産物輸出国である[3]。その技術を利用(=輸出)することにより、アフリカの自給率が向上し、同時に、オランダの農業関係の企業が潤う。一石二鳥だ。
2.オランダは、他国に比べて多く援助している。(下図参照) [4]

図 人口一人当たりのODA支出(純額:2008暦年)
(クリックで画像拡大)


【コメント】

日本の外務省は、平成22年度の国際協力重点方針の1つとして、「『新しい公共』の担い手であるNGOの諸活動及び基盤強化を柔軟に支援するとともに、連携を強化する。」という考えをもっている。

オランダもそのような考えであることは、今も変わらないと思うが[5]、NGO以外に企業も援助に参加させるために補助金を支給することにしたのだろう。発展途上国の援助と自国の企業育成がwin-winの関係になるならば、それは望ましい姿であると思う。

ただし、同じ記事の中で、Oxfam NovibのTom van der Le氏(キャンペーン・マネジャー)の発言には、留意する必要がある。
「産業界が援助に参加することの効率性を検証するような科学的な調査はまだ実施されていない。補助金に対する説明責任(accountability)をどうするのか。援助においてガバナンスの問題があるが、民間企業では更に複雑になる。」

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【参考文献】

[1] New focus for Dutch development aid (2010/11/29, Radio Netherland Worldwide)
http://www.rnw.nl/africa/article/new-focus-dutch-development-aid
[2] 「World Development Report 2008 Agriculture for Development」by World Bank
http://siteresources.worldbank.org/INTWDR2008/Resources/WDR_00_book.pdf
[3] オランダの農業事情 by オランダ大使館 農業・自然・食料安全部
http://www.food-safety-holland.com/-agriculture,now-jp.html
[4] http://www.jica.go.jp/faq/10_01.html

[5] オランダの援助についての参考文献

ODA(政府開発援助)とNGO: 第3 のODA ルートの意義
長坂 寿久
季刊 国際貿易と投資 2004年春号
http://www.iti.or.jp/kikan55/55nagasaka.pdf

オランダ政府の開発援助政策 by 石橋太郎
開発金融研究所報 2004年11月第21号 
http://www.jica.go.jp/jica-ri/publication/archives/jbic/report/review/pdf/21_05.pdf

平成18年度 外務省委嘱
主要援助国・機関のNGO支援のための資金供与に関する調査報告書
─プロジェクトベースとは異なる政策的な支援を中心として─
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shimin/oda_ngo/shien/shikinkyouyo/pdfs/shikinkyouyo.pdf