2010/05/05

ソマリアの海賊

ソマリア沖合いの海賊行為の件数は増加傾向にあり、身代金が巨額になり、厄介な存在となっています。2009年3月、日本政府が護衛艦をソマリア沖アデン湾に派遣した時に比べて、新聞は海賊問題を取り上げることが少なくなりましたので、最近の動向をまとめてみました。一言でいうと、米国やEUの艦隊は、海賊に強い態度をとるようになってきた。一方、海賊には資金力がついてきたため、件数が増加し、海賊行為の範囲を広げている。----というのが現状だと考えられます。

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【 ニュース 】


●2010/3/24、貨物船「MV Al Mezaan」に乗船中の民間護衛会社の社員が海賊と交戦し、海賊1名を射殺した。これは初めてのケース。EU海軍が駆け付け、他の海賊を捕獲し、海賊船を沈没させた。しかし貨物船の船長が証言を拒んだため、海賊は釈放された。[1]


●2010/4/13、オバマ米国大統領は「ソマリアに関する大統領令」を出し、軍事的活動に関係したソマリア人への資金援助を提供を禁じた[2]。 米国は、ソマリアの Al-Shabaabというイスラム勢力とアルカイダが繋がっていると考えている[3]。 米国財務省は、「大統領令は軍事活動の資金提供を禁止するものである。捕虜の解放のため努力している人(=身代金支払い)を起訴することには関心はない」と発言しているものの、同省の職員は、「大統領令には、具体的な組織と人物の名前が添付されており、海賊に支払った身代金の一部が彼らに渡ることになる場合は、問題となる可能性がある」とも、発言している。[4]


●2010/4/15、米海軍大将 Mark P. Fitzgerald氏は、「海賊の問題は大きすぎる。軍艦だけで商船を護衛することはできない。」と発言し、商船が武装すべきであることを示唆した。[5]


●2010/4/27、国連安保理は潘基文事務総長に対し、ソマリア沖で拘束した海賊の訴追のため、国際法廷の設置などに関する案を作成することを要請した[6]。EUや米国は、海賊を逮捕した後は、ケニアで訴追・収監しようとしているが、ケニアは負担が大きすぎるので反対している。[7]


●2010/4/23、APFは、「自衛隊が4,000万ドル(約36億円)をかけてジブチにarmy base(宿舎と倉庫)を建設する」と伝えた。それを受けて、新華社やVoice of Russiaも報道した。[8]


【 解説 】


1.海賊の行動について

国際海事機関(IMO)によれば、2009年の世界における海賊行為発生件数は406件であり、そのうち東アフリカでは222件発生している。2010年4月中旬までに、65件攻撃(attack)され、17件拿捕(seized)され、362人が捕虜となった。海賊は、グレネードランチャーやAK47で武装しており、母船(mother ship)と小型船2隻が船団を組み、沖合いから離れた場所にも現れている。

海賊行為が増加している要因として、「人民網日本語版」は次のように分析している。[9]
①海賊が活動範囲を広げたため、各国の海軍がそれを防ぎきれなくなっている。ソマリア海域の海賊の活動範囲は260万平方キロとも言われ、東と南の方向にさらに広がる傾向にある。
②海賊グループの間での協力が増強されている。
③ソマリア海域の海賊が装備を高めている。海事衛星電話を使ってボスと連絡を取っているとされる。装備のランクアップで怖いものがなくなった海賊は、人質解放のための身代金の要求額を吊り上げている。

(全ての図と写真はクリックで拡大します。)




2.自衛隊・海上保安庁の活動

(1)警護活動実績
水上部隊(2隻の護衛艦)は、2009/3/30~2010/4/28にかけて、131回の警護活動を実施し、累計834隻の船舶を警護した。
航空隊(2機のP3C)は、2009/6/11~2010/4/25にかけて、204回の飛行により、護衛艦、諸外国の艦艇及び民間商船等へ情報を提供した。[10]

(2)勤務環境
勤務は、約5ヶ月である(末尾表1参照)。「3交代3時間シフト」すなわち、1勤務を終えても6時間後には次の勤務に入るので、まとまった睡眠がとれるのは、拠点のジブチ港に寄港した時だが、寄港は約12日に1度である[11]。ジブチ港では、米軍のベースキャンプを利用している。





【 コメント 】

1.海賊対策について

(1)長期化になる

以下の理由により、ソマリア沖の海賊問題を解決するには長期化すると考えられる。

①海賊が活動している海域を管轄している国(ソマリア)が海賊を取り締まるべきだが、ソマリアは破綻国家であり実質的な政府が存在していない。東南アジアにおける海賊行為発生件数が減少しており、そこから学ぶことができると主張する説もあるが、東南アジアには「国家」が存在する。破綻国家ソマリアの海賊とは状況が異なる。
②多数の海賊グループがバラバラに存在していると考えられ、海賊行為を止めるように説得する交渉そのものが成立しない。


(2)「ハイリスク・ローリターン」にすること

海賊行為はビジネスである。海賊行為を企画する者(経営者)は、必要な物資を調達するため金持ち(投資家)に出資をもちかける。貧しい若者(労働者)は海賊になる。そして海賊のプロ(マネージャー)が指揮する。

身代金は1件当たり、300万ドル(2億7,000万円)~700万ドル(6億3,000万円)であり[12]、2009年の身代金総額1億ドル(約92億6000万円)になると想定されている。また、ケニアやエチオピアでは海賊が住宅を購入して、住宅ブームになっているという[13] 。

短期的対策として、海賊にとってのリスクを大きくし、リターンを小さくすれば、海賊行為は減少するはずである。長期的には、海賊に志願しなくても暮らしていけるような国造りをするように国際社会が援助すべきである。

①リスクを大きくするために、
・銃撃戦で殺される可能性があることを海賊に認識させる。
・海賊船を撃沈する。
・逮捕したら、裁判にかける。(過去、海軍には逮捕権がなかったため、海賊を捕まえても、釈放していた。)

②リターンを小さくするために、
・身代金を支払わないことが一番だが、船主としては、乗組員・荷物に危害が与えられることことを回避せざるを得ないので、難しいであろう。
・次善の策は、なによりも海賊に拿捕されないよう、自己防衛することである。


(3)自己防衛

前述の米軍の大佐が言うように、商船は民間護衛会社を雇うことを検討せざるを得ないだろう。その場合、外国の護衛会社を雇うのではなく、自衛隊OBで組織する護衛会社を設立してはどうだろうか。商船に長距離音響発生装置(LRAD:Long Range Acoustic Device)を装備し、3キロ先の「攻撃対象」に対し大音量で警告したり、撃退用の不快な音を出して対応するのである。しかし、海賊はグレネードランチャーを持っているので、本物の武器も必要となるが、交戦した場合の法的な問題などの課題を解決しなければならない。


2.海上自衛隊の「ベース建設」の報道について

護衛艦の隊員(約400人)がジブチに寄港した際、またP3Cの隊員(約150人)が毎日ジブチに滞在する際、米国の駐屯地(Camp Lemonier)(図)を利用させてもらっている。参考まで、米軍は、数年前まで18,000人駐屯していたが、その大部分は16人用のテントに住んでおり、2007年から住居環境が整備され、現在ではコンテナー(右の写真)のような住居に住んでいるようだ[14]。自衛隊がどのような住居等を作るのかについて報道されていないが、恐らく同じような施設を作るのではないだろうか。

中国やロシアの新聞の記事は、当然ながら海上自衛隊が宿舎などを建設することについて否定的な視点で記事を書いているが、以下の事実があることを踏まえると、的を得ていない批判であることが分かる。

①中国はアデン湾に駐屯地を作ることを計画している。[15]
②中国はパキスタンのGwadarなどで既に港湾を整備済であり、潜水艦の基地として利用できる。[16]
③ロシアは、グルジア(黒海沿岸)に排他的な軍港を持っていること。






【 参考文献 】

経緯

2008/10/7 安保理決議1838(2008)[17] など
2008/10/30 新テロ特措法改正案 制定
2009/1/28: 閣議により海上自衛隊の艦艇派遣決定
2009/3/14: 護衛艦派遣(さみだれ&さざなみ)(その後の派遣状況は表1参照)
2009/4/3: 日本・ジブチ地位協定締結
2009/4/6: 護衛鑑のジブチ初寄港
2009/6/19: 海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律(海賊対処法)が成立


表1:海上自衛隊と海上保安庁による派遣状況 [18]

■派遣海賊対処行動水上部隊
①派遣期間
②護衛開始から終了までの期間

1次隊(さざなみ・さみだれ) (約400名)
①2009/3/14~8/16 ※5ヶ月
②2009/3/30~7/22
2次隊(はるさめ・あまぎり) (約420名)
①2009/7/6~11/29 ※4ヶ月半
②2009/7/28~11/2
3次隊(たかなみ・はまぎり) (約410名)
①2009/10/13~2010/3/18 ※5ヶ月
②2009/11/7~2010/2/20
4次隊(おおなみ・さわぎり)
2010/1/29~ (約430名)

■派遣海賊対処行動航空隊
1次隊(約150名) 2009/5/28~
2次隊(約150名) 2009/10/5~2010/2/10  ※4ヶ月
3次隊(約150名) 2010/2/3~


[1]The Journal of Commerce Online、2010/3/24
http://www.joc.com/maritime/private-security-guards-kill-somali-pirate
2010/3/25産経新聞
http://sankei.jp.msn.com/world/mideast/100325/mds1003250002000-n1.htm

[2]http://www.whitehouse.gov/the-press-office/executive-order-concerning-somalia
http://www.whitehouse.gov/sites/default/files/2010somalia.annex_.pdf
[3]http://www.clydeco.com/knowledge/articles/president-obamas-executive-order-on-somalia-and-piracy-on-us-and-non-us-insurance-companies.cfm
[4]「Obama Creates Confusion on Pirate Ransom」(Associated Press、2010/4/21)
http://www.military.com/news/article/obama-creates-confusion-on-pirate-ransom.html
[5]「Admiral Urges Arming of Vessels to Combat Piracy」(米国国防総省、2010/4/16)
http://www.defense.gov/news/newsarticle.aspx?id=58776
[6]「海賊の訴追・収監徹底策を=事務総長に報告要請-国連安保理」(時事通信、2010/04/28)
http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2010042800094
[7]「海賊収容もう限界!訴追引き受けケニア『連れてくるな』」(朝日新聞、2010/4/5)
http://www.asahi.com/international/update/0405/TKY201004050101.html

[8]「Piracy rattles Japan to open first foreign military base」(AFP、2010/4/23)
http://www.google.com/hostednews/afp/article/ALeqM5jvlyKeSUEy8lsdNPRIFVIz_6b5OA
「Japan's first overseas base aimed at expanding military boundaries」(新華社、2010/4/28)
http://news.xinhuanet.com/english2010/indepth/2010-04/28/c_13270876.htm
「ジブチに建設される海上自衛隊基地をめぐって」(The Voice of Russia、2010/4/28)
http://japanese.ruvr.ru/2010/04/28/7048749.html

[9]人民網日本語版、2009/4/13
http://j.peopledaily.com.cn/94474/6635790.html
[10]「ソマリア沖・アデン湾における海賊対処のための活動」統合幕僚監部
http://www.mod.go.jp/jso/escort_activity.htm
[11]「ソマリア海賊対策 過酷任務の海自艦上ルポ」(産経新聞、2009/06/07)
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/politics/politicsit/263305/
[12]http://www.montrealgazette.com/Somali+Canadians+getting+piece+pirates+ransom+Intelligence+expert/2967788/story.html#ixzz0mYcYJ4LM
[13]「ソマリア海賊、昨年1億ドルの身代金奪う 周辺国では住宅ブーム」
(産経新聞、2010/1/10)
http://sankei.jp.msn.com/world/mideast/100110/mds1001102122001-n1.htm
[14] http://usforeignpolicy.about.com/od/africa/ig/Scenes-from-Djibouti.--1q/Container-Living-Units--CLUs--.htm

[15]「China may build Middle East naval base」(Telegraph、2009/12/30)
http://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/asia/china/6911198/China-may-build-Middle-East-naval-base.html
「Chinese navy seeks to establish overseas base」(AP、2010/1/3)
http://www.navytimes.com/news/2009/12/ap_china_navy_base_123009/

[16]「China's navy mulls push into Arabian Sea」(UPI、2009/12/30)
http://www.upi.com/Science_News/Resource-Wars/2009/12/30/Chinas-navy-mulls-push-into-Arabian-Sea/UPI-24731262213319/
[17]http://www.un.org/News/Press/docs/2008/sc9467.doc.htm
[18]「ソマリア沖・アデン湾における海賊対処のための活動」(総合幕僚監部)
http://www.mod.go.jp/jso/kaizokutaisyo.htm

2 件のコメント:

  1. はじめまして、

    「日本カタンガ協会」の田邊と申します。
    アフリカ情報ありがとうございます。
    貴重です。

    よろしければ小生のサイトもご訪問ください。
    http://www.saturn.dti.ne.jp/~davidyt/katanga/
    http://associationkatanga-japon.blogspot.com/
    そして個人の日誌
    http://davidyt-etoiledafrique.blogspot.com/
    ついでに
    http://www.saturn.dti.ne.jp/~davidyt/

    田邊拝

    返信削除
  2. 田邊様

    書き込みありがとうございました。

    実は、田邊さんのブログは昨年11月に見つけていました。
    Dar es Salaamに到着した頃です。また、ニエンバさんの
    メッセージを読んで、驚いたことを覚えています。

    何をされていらっしゃる方かな?と思っていました。
    コンゴ民主共和国に滞在されている数少ない方からの
    情報発信源として田邊さんのブログは貴重だと思います。

    今年2月に、アフリカ在住の方(あるいは在住されていた方)の
    ブログリンク集を作ったのですが、最初から載せさせて
    頂いております。本来であれば、連絡しなければならない
    のでしょうが、事後承諾ということでよろしくお願いします。


    「アフリカ居住者のブログ (リンク集)」
    http://let-us-know-africa.blogspot.com/2010/02/blog-post_15.html

    おまけに、「アフリカ進出日本企業と在留邦人数」
    http://let-us-know-africa.blogspot.com/2010/04/blog-post_29.html

    今後ともよろしくお願いします。

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