2011/11/28

日米首脳会談の概要を外務省が修正:野田首相の発言はどの程度伝わったのか?

重要な会議に周到な準備をして臨んでも、時間切れになったため、言いたいことを十分伝えられなかったり、また、相手に正確に伝わったかどうかを確認するのが困難なことがある。しかし、日米首脳会談では、会議の内容が両サイドから発表されるので、それぞれの当事者の発言内容が相手にどの程度認識されたかを知ることができる。

今回のエントリーでは、外務省のHPが修正された事実を伝え、日米首脳会談について野田首相を評価してみたい。なお、本件はアフリカとは直接的には関係ないが、外交に関係するのでこのブログで紹介したい。

【 ニュース 】

TPP記述 書き換え 外務省HP 日米会談概要
琉球新報 2011/11/21 [1]

外務省のホームページ(HP)で公開している日本時間13日にハワイで行われた日米首脳会談の概要の中で、環太平洋連携協定(TPP)に関する記述が説明なく書き換えられていることが20日、分かった。会談直後の13日付で掲載されたTPPに関する野田佳彦首相の発言について、18日付で「昨年11月に決定した『包括的経済連携に関する基本方針』に基づき高いレベルの経済連携を進めていく」との文言が追加されている。

13日付の外務省HPでの会談概要では、TPPに関する野田首相の発言として「(前略)豊かで安定したアジア太平洋の未来を切り拓くため、自分自身が判断した、今後交渉参加に向けて米国をはじめとする関係国との協議を進めたく(後略)」と記述されていた。

しかし、会談概要の日付が18日付となり、首相の発言「自分自身が判断した、」の次に「昨年11月に決定した『包括的経済連携に関する基本方針』に基づき高いレベルの経済連携を進めていく、」が書き加えられた。

首脳会談でのTPPのやりとりをめぐっては、会談直後に米側が「野田首相が『すべての物品やサービスを貿易自由化交渉のテーブルに乗せる』と述べた」と発表。これに対し日本側は、「包括的経済連携に関する基本方針」を説明しただけと訂正を申し入れたが、米側は応じていない。

閣議決定した「包括的経済連携協定に関する基本方針」は、「センシティブ(微妙)な品目に配慮しつつ、すべての品目を自由化交渉対象とし、交渉を通じて、高いレベルの経済連携を目指す」としている。

HPの書き換えは、米側の発表を受け、文言を加えたとみられる。ただ、13日付では「すべての品目を自由化交渉対象とする」との基本方針に基づき協議を進める考えを、当初は国内向けに説明していなかったとも言え、今後、国会などでの議論を呼びそうだ。

【 解説 】

1.ガセネタではない

筆者は11/13付の外務省のHPの"ウエブ魚拓"を取っていない。しかし以下の事実により、外務省がHPに加筆したのは事実であると考える。

著者が知る限り、本件が公になったきっかけは、天木直人氏(元駐レバノン特命全権大使)の11/20付のブログ記事「『書き換えられた外務省HPの日米首脳会談概要』疑惑」である[2]。 翌11/21に、上記の琉球新報の記事が掲載された。(なお、本件に関しては、琉球新報が伝えただけで、大手の新聞は伝えていない(11/27現在)。)

同じ日に、三宅雪子議員(民主党・衆院)が Twitterで次のように発言している。

書き換えられた外務省ホームページ疑惑は調査中です。「慎重な会」山田会長には情報入れました。事実だったら由々しき問題。11月21日 [3]

外務省から18日にホームページ文書を付け加えた事実確認。理由は理解し難いもの。後程、ツイートします。11月21日[4]

外務省HP日米首脳会談概要の件。そもそも、HPに一言一句そのまま書いているわけではない、各方面から指摘があったので書き加えた、とのこと。こういう事が今まで日常的に行われていたのだろう(と疑念を持つ)今後、訂正する場合はその理由とともに、訂正の事実を明記するよう求めたい。11月21日[5]


2.修正箇所

上記の琉球新報で書かれているが、見やすくすると図1のとおり。

図1:外務省のHP修正箇所 (クリックで拡大表示)















3.経緯

ここで、日米首脳会談の前後の経緯をまとめておく。

11/11:衆参予算委員会における経済連携等の集中審議。

11/11(夕刻):野田首相:「私としては、明日から参加するホノルルAPEC首脳会合において、TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入ることといたしました。」と発言。[6]

11/12早朝 羽田発 (11/14深夜 羽田着)

11/12:ホノルルで開催されたAPEC首脳会議出席。日米首脳会談。(午後0時過ぎから約55分間:現地時間)

11/12:ホワイトハウスのプレス発表:「Readout by the Press Secretary on the President's meeting with Prime Minister Noda of Japan」[7]

11/12(米国): 産経新聞報道[8]
米側の報道発表資料には環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)について「野田佳彦首相が『すべての物品およびサービスを自由化交渉のテーブルに載せる』と述べた」と書かれていた。
これに対し、外務省は「そのような発言を首相が行った事実はない」として、米側の報道発表を否定する報道発表をして火消しに躍起となった。外務省によると、首相は「昨年11月に策定した『包括的経済連携に関する基本方針』に基づいて高いレベルでの経済連携を進める」と述べただけだという。

11/13:外務省が「日米首脳会談(概要)」を発表。

11/14(米国):産経新聞報道[9]
環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への日本の交渉参加表明をめぐり、日米首脳会談での野田佳彦首相の一部発言に関するホワイトハウスの発表内容を日本側が否定していることについて、アーネスト米大統領副報道官は14日、発表を訂正するつもりはないことを明らかにした。
12日の日米首脳会談後、ホワイトハウスは「全ての物品およびサービスを貿易自由化交渉のテーブルに乗せるとの野田首相の発言を、大統領は歓迎する」との報道文を発表。これに対して日本の外務省は「首相がそのような発言を行った事実はない」と否定するコメントを出した。
しかし、アーネスト氏は記者会見で、「発表は、両首脳が非公開で行った発言と、(これまでの)野田首相と日本政府による公式見解に基づくものだ」と説明した。

(参考)11/14アーネスト米大統領副報道官と記者のQ&A議事録(抜粋) [10]
報道官:What I can tell you is that the readout that we put out was based on the private consultations that President Obama and Prime Minister had.  It was based also on the public declarations from Prime Minister Noda and other members of his administration.(略)
記者:Did the Japanese ask the White House to revise the statement --
報道官:I’ll be honest with you, I don’t know the answer to that. 

11/16:産経新聞報道 [11]
野田佳彦首相は16日午前の参院予算委員会で、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)をめぐる日米首脳会談の両政府の発表の食い違いについて、米政府に訂正を要求したが受け入れられなかったことを明らかにした。その上で、米政府の発表について「自分の発言そのものを引用していないと確認されている」とし、今後も訂正を求めない考えを重ねて示した。

11/17:野田首相帰国。衆議院本会議でその報告。

11/18:外務省が「日米首脳会談(概要)」を発表。(修正版)[12]

11/20:「天木直人のブログ」で、「『書き換えられた外務省HPの日米首脳会談概要』疑惑」という記事掲載。(上記)

11/21:琉球新報で、「TPP記述 書き換え 外務省HP 日米会談概要」という記事掲載。(上記)

11/21: 三宅雪子議員(民主・衆)がTwitterで、外務省HP日米首脳会談概要について書く。(上記)


【 コメント 】

1.挿入部分の意味は?

「昨年11月に決定した『包括的経済連携に関する基本方針』に基づき高いレベルの経済連携を進めていく」という部分が挿入されたが、これは、一年前の2010/11/9、菅内閣が閣議決定した 「包括的経済連携に関する基本方針」)を指している。

FTAAPに向けた道筋の中で唯一交渉が開始している環太平洋パートナーシップ(TPP)協定については、その情報収集を進めながら対応していく必要があり、国内の環境整備を早急に進めるとともに、関係国との協議を開始する。[13]


野田首相と側近は、「TPPの協議に参加するのは、特に新しいことではなく、菅内閣が決めたことを実施しているだけだ」---と言いたいのではなかろうか。


2.日米首脳会談は成功したか?


野田首相にとって日米首脳会談が成功したのだろうか? 米国のプレス発表と日本と米国のプレス発表がほぼ同じ内容であれば、少なくともお互いの言い分が相手に理解された---と判断できるが、内容は程遠いものであった。正確に伝えたいことや強調したいことについては、何回も繰り返すべきであった。


(1)日本の外務省発表

外務省が発表した「日米首脳会談(概要)」によると、主な話題は、①APEC、②TPP、③牛肉、④EAS(東アジア首脳会議)、⑤北朝鮮、⑥ハーグ条約(子の親権)であり、それぞれ、ほぼ同じ比重で説明している。[14]


(2)米国のプレス発表

米国が「聞いたこと」あるいは「聞きたかったこと」は、ホワイトハウスがのプレス発表に表れている。図2は、プレス発表を視覚的に表示したものであるが、TPPは65%、牛肉が15%を占めている。拉致問題については全く言及されていない。[15]

また、外務省が、TPPに関する野田首相の発言内容に関して、米国のプレス発表の修正を求めても(求めたされるが)、米国はこれに応じていない。

図2:米国のプレス発表 (クリックで拡大表示)















3.国民との信頼関係

野田首相は次のように発言している。
今後のプロセスについては、関係国との協議を開始し、各国が我が国に求めるものは何かということをしっかり把握、情報収集し、十分に国民的議論を経た上で、あくまで国益の視点に立って、TPPについての結論を得る、というプロセスである。[16]

外務省が説明なしに文書を挿入したことは、政府がTPPに関して国民に正確な情報を提供してくれるだろうという信頼感を損なうものであった。政府は早急に信頼関係を回復しなければならない。



【 参考文献 】

[1] http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-184288-storytopic-3.html
[2] http://www.amakiblog.com/archives/2011/11/20/
[3] http://twitter.com/#!/miyake_yukiko35/status/138442899359670272
[4] http://twitter.com/#!/miyake_yukiko35/status/138508549037887488
[5] http://twitter.com/#!/miyake_yukiko35/status/138557300481851392
[6] http://www.kantei.go.jp/jp/noda/statement/201111/11kaiken.html
[7] http://www.whitehouse.gov/the-press-office/2011/11/12/readout-press-secretary-presidents-meeting-prime-minister-noda-japan
[8] 産経新聞 2011.11.13 17:57
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/111113/plc11111317580026-n1.htm
[9] 産経新聞 11/15 08:43
http://sankei.jp.msn.com/world/news/111115/amr11111508480004-n1.htm
[10] http://www.whitehouse.gov/the-press-office/2011/11/14/press-briefing-principal-deputy-press-secretary-josh-earnest-11142011
[11] 産経新聞 11月16日(水)13時13分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20111116-00000531-san-pol
[12]
日本語 http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_noda/apec_2011/j_usa_1111.html
英語 http://www.mofa.go.jp/region/n-america/us/meeting1111.html
[13] http://www.kantei.go.jp/jp/kakugikettei/2010/1109kihonhousin.html
[14] 日本語 http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_noda/apec_2011/j_usa_1111.html
英語 http://www.mofa.go.jp/region/n-america/us/meeting1111.html
[15] http://www.whitehouse.gov/the-press-office/2011/11/12/readout-press-secretary-presidents-meeting-prime-minister-noda-japan
[16] APEC首脳会議内外記者会見 2011/11/13 @ホノルル
http://www.kantei.go.jp/jp/noda/statement/201111/13naigai.html

2011/11/08

大化けする東アフリカの天然ガス事業

アフリカの石油・ガスの探鉱開発事業は北部と西部で盛んであり、東部は「処女地」であった。モザンビーク沖合の2鉱区で巨大ガス田が発見されたので、《探鉱が活発化し、新たな油・ガス田が発見され、更に探鉱が活発化する》 という好循環になることが期待される。

以下の記事は、韓国ガス公社に関する記事だが、本件は三井物産も関係している。

【 ニュース 】

アフリカで韓国消費1年分のガス田を確保

韓国ガス公社が出資したアフリカ・モザンビークの海上鉱区で大規模なガス田が見つかり、国内消費量のほぼ1年分の天然ガスを確保した。

ガス公社は20日、モザンビ-ク北部の海上4鉱区で大規模な天然ガス田を発見した、と発表した。 鉱区運営会社のイタリアEni社によると、今回発見された潜在資源量は15Tcf(約3億4000万トン)。 これを受け、鉱区の株式10%を保有するガス公社は約3400万トンのガスを確保できるという評価だ。

ガス公社の関係者は「これは昨年国内に供給した天然ガス量(3360万トン)とほぼ同じで、金額にすれば約20兆ウォン規模」と明らかにした。

ガス公社は07年に4鉱区の株式を取得した後、Eni社と共同で探査作業を行ってきた。 今年9月には初めて探査ボーリングに入ったが、5000メートルまで掘る過程で計212メートルのガス層を確認した。

この鉱区にはガス公社のほか、Eni社が70%、モザンビ-ク国営石油会社ENH社が10%、ポルトガルのエネルギー企業が10%出資している。 契約期間は2045年1月まで。 ガス公社は2013年1月までこの鉱区で3カ所を追加でボーリング調査する計画で、ガス発見量はさらに増える可能性がある。

2011年10月21日 中央日報日本語版 [1]


【 解説 】


1.処女地だった東アフリカ

図1のとおり、東アフリカでは掘削坑数が著しく少なく、その大部分は陸上での掘削である。まさに処女地であった。モザンビークとタンザニア沖合において巨大ガス田が発見されたことにより、探鉱活動が活発になることは間違いない。

図1:東アフリカの掘削本数[2]  (クリックで拡大)













2.探鉱の成果

表1、図2のとおり、最近、モザンビークでは33 TCF (33兆立方フィート)以上、タンザニアでは 10TCFの埋蔵量が発見されている。アフリカのガス埋蔵量は、ナイジェリア(187 TCF)、アルジェリア(159 TCF)、エジプト(78 TCF)、リビア(55 TCF)に次いで、モザンビーク(33 TCF)の順になる[3]。

なお、上記の記事でENIは15TCFの埋蔵量を発見したと発表しているが、更に掘削したところ、深部で新しい層を発見したため、22.5TCFと上方修正された[4]。22.5TCFというのは、LNG換算約2,300万トン×20年の規模である[5]。


表1:モザンビークとタンザニアの探鉱成果










図2:モザンビークの2つの鉱区














3.今後の予定

今後、追加掘削をしてガス田の埋蔵量を確認する作業がある。早いケースでは、2018年~2019年頃にLNGをインド、中国、韓国、日本向けに輸出する計画がある[6]。


【 コメント 】

モザンビークがLNGを輸出したとき、収入を管理できないならば富は「呪い」になってしまうが、その対策はとられつつある。

1.同国政府は、EITI(採取産業透明性イニシアティブ)に参加し、ナイジェリアなどの轍を踏まないようにしている。

2.石油・ガス会社においても、賄賂など不明朗な支払いをしないようにしなければならない。
(1) 米国では、2010年7月、「Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act」が法律として大統領に承認された。これにより、米国市場に上場している石油・ガス・鉱物資源の会社が米国政府あるいは相手国政府に支払った全費用の詳細を国毎に公開することが義務付けられた。[7]

(2) 欧州委員会は、2011年10月、Country-by-Country Reporting (CBCR)を提案した。鉱業及び林業の会社は、企業の社会的責任(CSR)として、税金・ロイヤリティ、ボーナスなどの支払いを公開しなければならない、という提案である。[8]

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【 参考文献 】

[1] http://japanese.joins.com/article/847/144847.html
[2] http://www.afren.com/afreneax/why-east-africa.html
[3] BP統計(2011年版)http://www.bp.com/sectionbodycopy.do?categoryId=7500&contentId=7068481
[4] http://www.eni.com/en_IT/media/press-releases/2011/10/2011-10-27-eni-mamba-south-mozambique.shtml?menu2=media-archive&menu3=press-releases
[5] ダイヤモンド・ガス・オペレーションhttp://www.dgoweb.com/news/
[6] http://www.cove-energy.com/communicraft-cms-system/uploads/Presentation_UBS_Conf_-_Update_26_September.pdf
[7] http://www.revenuewatch.org/news/qa-us-financial-reform-and-transparency-oil-gas-and-mining
http://www.dir.co.jp/souken/research/report/esg/cg/10092801cg.pdf
[8] http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=IP/11/1238&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en

その他参考文献
「最後?の処女地:東アフリカの石油・天然ガス」 by 石田 聖
http://oilgas-info.jogmec.go.jp/pdf/0/666/200605_001a.pdf