2012/12/19

ルワンダはコンゴ反政府勢力(M23)を支援しているのか??

コンゴ民主共和国(以下「コンゴ」)では、2012年11月20日から12月1日にかけて、反政府勢力(M23)が東部の都市を占拠した。現時点では「嵐の前の静けさ」の状況にあるが、これから内戦に突入して多数の住民に死傷者がでる危険性がある。

日本のメディアはあまり報じていないが、欧米のメディアは5月頃から報道している。本件は次のような重要な問題を惹起している。
①政治的・軍事的な脆弱国において、国内紛争を回避するにはどうすべきか?
②一部の有識者は「ルワンダがコンゴの反政府勢力を支援している」と注意喚起しているが、安保理、当事国、国際社会はどのように対処すべきか?

ルワンダがコンゴの反政府勢力を支援しているのか否かの認定は、公平な立場にいる第三者が関係者の意見を聞き、事実確認をしなければならないほどの難しい問題である。このブログでは、有識者とルワンダ政府の両方の意見を紹介し、ネットに掲載されている第一次資料のURLを紹介する。

ルワンダに対する援助を凍結するか否かで、英国の「国際開発省」と「下院国際開発委員会」が議論しているが、日本の政治システムを改善するために参考になるはずである。多くの衆議院選挙の立候補者は「官僚支配を打破する」と主張していたが、そのヒントを得られるはずである。



【 ニュース 】

英国、ルワンダへの資金援助を凍結へ [1]2012.12.01 (CNN) 
英国は、アフリカ中部ルワンダ共和国が隣のコンゴ(旧ザイール)の反政府武装勢力を支援しているとして、ルワンダへの資金援助の凍結を決めた。英閣僚が30日に明らかにした。英国は12月に、ルワンダに総額2100万ポンド(約28億円)の資金援助を予定していた。
コンゴの反政府武装組織M23は10日前、数日間に及ぶ政府軍との激しい戦闘の後にコンゴ東部の都市ゴマを制圧。その後、アフリカ連合(AU)や周辺諸国の首脳はM23をゴマから撤退させる計画を練り、M23も撤退を示唆していたが、30日になってもゴマにとどまっていた。
英国のグリーニング国際開発相は、「ルワンダがM23に関与しているとの信頼性のある複数の報告があり、英政府は懸念を示してきた」とし、さらに「われわれは、この地域の紛争の持続的な解決策を模索しており、コンゴ東部の状況を打開するための平和的解決策を確保すべくルワンダ、コンゴ両政府と連携していく」と述べた。
国連や多くの援助国は、ルワンダが武器や兵士の供給を通じてM23を支援していると非難してきたが、ルワンダのカガメ大統領はこの疑惑を繰り返し否定してきた。
ルワンダのムシキワボ外相は今回の英国の措置について遺憾の意を示した。
外相は「英国の(援助凍結の)決定は誤った疑惑に基づいている。われわれは半年前からこの疑惑が誤りだと指摘してきた」とし、さらに「援助を政治目的に利用すべきではない。コンゴの平和はルワンダに依存していない。英国の措置は逆効果だ」と付け加えた。

【 解説 】

1.コンゴ東部の現状

M23を説明するには、本来であれば少なくとも1990年代まで遡らないといけないが、ここでは直近の事情を説明する。ただ、植民地の傷跡、多数の部族の存在と部族間の怨念、豊富な資源の存在、腐敗・独裁・民主主義が欠如しており、コンゴ内戦では 540万人以上、ルワンダ虐殺では 80万人以上が死亡している---という歴史があることを、覚えておく必要がある。(簡単だが、図1に、コンゴとルワンダの「相関図」を描いた。)

(1) M23の構成員

2006年12月、CNDP(人民防衛国民会議)という反政府勢力(ツチ族)が ヌクンダ(Nkunda)将軍により組織された。2009年1月、ヌクンダ将軍がルワンダに拘束された後は、ンタガンダ(Ntaganda)将軍が代表となった。同年3月、カビラ(Kabila)大統領は融和政策をとり、CNDPとの間に「3月23日合意」が結ばれ、CNDPはコンゴ国軍に合流した[2]。だだし、実際には、国軍はCNDPを同化・統合できずにおり、実質的に2つの軍隊が存在していた。

なお、ンタガンダ将軍は、2006年以降2回にわたり国際刑事裁判所により逮捕状が出されている人物であるが、カビラ大統領は「正義より平和」という理由で彼を保護していた。しかし、国際社会の圧力などがあり、2012年4月、カビラ大統領がンタガンダ将軍を逮捕する可能性があると発表した。

2012年4月、元CNDPの兵士は国軍を離脱し、自らの組織を「March 23」(M23)と名乗った。3月23日の合意内容が満たされていないという不満、そして、ンタガンダ将軍を守ることなどが主な理由だと言われている。

当初のM23の人数は300名で、軍のリーダーはマケンガ(Sultani Makenga)将軍、軍以外のリーダーはルニガ司教(Bishop Jean-Marie Runiga Lugerero)である。

図1:コンゴの軍と反政府勢力の相関図



(2) M23の勢力拡大

2012年5月になると、人権NGO団体、米国国務省、安保理などが注目し、警告を発するようになった。2012年5月、BBCは国連の内部資料に基づき、ルワンダがM23を支援していると報道した。[3]

M23は勢力範囲を広げるに伴い(図2 参照)、住民が避難した。現在では50万人以上とも推定されている[4]。そして、2012年11月20日、東部の都市ゴマ(Goma)を制圧した。

ルワンダとウガンダの仲介があり、12月1日にM23はゴマから20Km程度離れた場所に移動して、現在待機中である。最新の報道では、コンゴ政府はM23と交渉する用意があると発表した。もし交渉が決裂して内戦になった場合、M23が使える武器・弾薬が問題になるが、ゴマを占拠した際にM23兵士の一人が「ゴマだけで、我々は500トンの武器を手に入れた。ミサイル、武器、戦車さえ手に入れた。」と発言している。[5]

図2: M23の勢力範囲(2012年6月と9月)



2.国連専門家グループの主張

コンゴ内戦を再発させないために、国連コンゴ民主共和国安定化ミッション(MONUSCO)が派遣されている。武装勢力への武器禁輸を強化するために、専門家グループ(Group of Experts)が設置され、年に2~3のレポートが安保理・制裁委員会に提出されている。レポートには、5~6名の専門家の名前が列挙されている。

(1) 専門家グループの主張

・ルワンダ国軍(RDF)が訓練した兵士がM23に入隊している。
・ルワンダはM23に武器・弾薬を供給している。
・M23を支援している中心人物(准将)はGisenyi(コンゴとの国境に近いKivu湖畔の町)に滞在しており、M23はGisenyiからBakavu(コンゴ)に船で移動している。
・コンゴのビジネスマンがルワンダを訪問し、M23への資金援助について話し合った。
・ルワンダ防衛省の将軍が資金、後方支援をしている。
・Bosco Ntaganda将軍は、ルワンダで家を所有している、など。

(2) 専門家グループによるレポート一覧[6]

 ①安保理が公開しているもの
2012年6月21日付「中間報告書」(137頁)
2012年6月27日付「中間報告書の添付資料」(48頁)
2012年11月15日付「最終報告書」(204頁)
 ②現在のところ未公開のもの
2012年11月26日付レター (16頁)
 ③米国上院外交委員会が公開しているもの
2012年12月11日 Steven Hegeの証言 (11頁)



3.ルワンダの対応

専門家グループの報告書に対し激怒したルワンダは、下記の一連の手段で対抗している。

ルワンダは、ニューヨークの法律事務所を雇い、7月下旬には長文の反駁レポートを国連に提出した。10月中旬、外務・協力大臣(Louise Mushikiwabo)は、専門家グループを提訴する用意があると発言した[7]。しかし、国際社会はルワンダの主張を無視している。12月上旬、財務・経済計画大臣(John Rwangombwa)は、「ルワンダは国連の資料に反駁しているにもかかわらず、援助国はルワンダに対し反応を示さない。これは援助支援国と被支援国との間の『援助の効果向上(aid effectiveness)とパートナーシップに関する原則』に反している。」と発言している。[8]


(1)国連専門家グループの報告書を否定

①2012年5月28日のBBCの放送があった当日に外務・協力大臣は、反論のコメントを発表した。[9]
 ・ルワンダ政府はコンゴ東部には如何なる関与もしていない。
 ・MONUSCOはコンゴ東部に於ける一触即発の状況悪化を狙って、誤った噂を広めている
 ・ヒューマン・ライツ・ウォッチのようなロビー団体の無責任な言葉は、銃弾やナタに劣らず危険である。
②2012年7月27日、安保理に対し、反論書 (131頁)を提出した。[10]
③2012年10月9日、安保理に対し、米国の法律事務所(Akin Gump Strauss Hauer & Feld LLP)が作成したレポート(9頁)を提出した。[11]
④外務・協力大臣は、ビデオでも情報を発信している。[12]


(2)安保理非常任委員の地位獲得

2012年10月18日、国連安全保障理事会の非常任理事国にルワンダが選ばれた。5ヶ国の常任理事国に加えて10ヶ国の非常任理事国があり、内、5ヶ国の任期(2年間)が2012年12月に終了するので、今回選挙があった。[13] なお、5議席の再選の内、1議席はアフリカに割り当てられており、ルワンダ以外に立候補がなかった。[14]


(3)Agaciro運動の推進

2012年8月23日、カガメ大統領はアガチロ開発基金を開始を宣言した。それは、2011年の国民対話で提唱されたもので、広く国民から寄付が集められる。この基金を財源とした開発プログラムを通じ、長期開発目標(Vision 2020)の達成に貢献しようとするものである。(ただし、カガメ大統領は、この基金は先進国の援助凍結を代替するものではないと発言している。)[15]



4.援助国の動向

2012年6月に発表された専門家グループの「中間報告及び添付資料」を受けて、米国(7/22)、英国とオランダ(7/26)、ドイツ(7/28)、スウェーデン(8/13)、EU(9/27)の順番で、ルワンダに対する援助が凍結された。

(1) 英国

マスコミを賑わしたのが英国であった。英国は、2012-2013年度の援助金37百万ポンドを2回に分けて供与する予定であった。(1回目は2012年7月に16百万ポンド。2回目は12月に21百万ポンド。)しかし、ルワンダがM23を支援しているとの疑惑がでたので、英国国際開発省のAndrew Mitchell大臣は、1回目の供与を凍結した。調査のために大臣自らがルワンダを訪問し、カガメ大統領に面談した後、半分の8百万ポンドを供与することにし、残りは2回目で調整することになった。[16]

一度凍結を発表しておきながら、内閣改造(9月4日)でその職を離れる直前に駆け込みでその決定をしたこともあり、野党や世論の反対の声が上がった。議会や国際開発省を監督する下院国際開発委員会の審議を経て、後任者のJustine Greening大臣は、11月30日、第2回給付を凍結すると発表した。[17]  (この間の議会等の審議は、文末「コメント欄」を参照。)

英国が援助を凍結する決定を下す前、ブレア元首相は、11月24日、以下の趣旨の声明を発表した。[18]
「ルワンダは衛生と教育部門で急速に発展しており、援助を有効に利用している国の一つである。
コンゴ(東部)の問題はICFLRと国際社会が向き合う問題であり、ルワンダの人々への援助を停止させるのは反対である。ルワンダの人々の生活を向上させる援助は継続されるべきである。」

ルワンダが援助国の支援を有効に使っているという点は、下図をみても判る。2000/2001年と2010/2011年の10年間を比べた場合、貧困層は59%が45%に、極貧層は40%が24%に減少している。[19]

図3:ルワンダ貧困層削減の成果

(2) 米国

ルワンダに対する援助を最初に凍結したのは米国であるが、それは軍事費に限定したものであり、金額は20万ドルであった。過去10年間に1,000百万ドル 10億ドルを援助していることを考えれば20万ドルなどは「バケツのなかの一滴だ」との批判がある。[20]

米国のスタンスは、国務省アフリカ局Johnnie Carson次官補が発言しているように、「公開の場でカガメ大統領を非難するよりも、静かな外交のほうが良い(quiet diplomacy was better than publicly calling out Mr. Kagame)」というものである。

2012年11月20日、安保理は、M23がゴマから即時撤退する決議(決議2076)を採択した。審議では、コンゴ代表がルワンダを避難しているが、決議文には「M23を支援している外部の支援者(any and all external support to the M23)」と書くだけで、ルワンダを名指しで非難していない[21]。Susan Rice米国国連大使が強く働きかけていた、との指摘がある。[22]

2012年12月、議員の一部やNGOなどは、コンゴの不安定な情勢に対し、オバマ大統領が積極的政策をとるよう要請した。
①下院委員会が公聴会を開催し、4人の証人からヒアリングをした。[23]
②下院民主党議員(13人)が大統領宛にレターを提出した。[24]
③NGO(14団体)が大統領宛にレターを提出した。[25]


【 コメント 】

1.「専門家グループ報告書」の取り扱い

ルワンダは、既に報告書の内容に反駁し、また、国連が「専門家」を選任する際の審査方法にも問題を提起した。ルワンダは2013年1月から2年間、安保理の非常任理事国となるが、どのように説明責任を果たすのか?

国連専門家グループの代表者(Steve Hege)は、2012年12月11日に開催された米国上院外交委員会において、「個人の資格」で証言し、再反駁している。

組織としての安保理はどのように対応するのか?
 ① 専門家グループは11月30日に任期切れになっているが、更新するのか?
 ② ルワンダが非常任理事国になる以上、安保理はルワンダの要求を無視できないはずだが、どのようにして報告書の事実関係を検証するのか?


2.ルワンダへの援助国の対応周辺国と英米の対応

コンゴ正規軍とM23との間の内戦を防ぐには、国連、周辺国と先進国の圧力が必要である。

(1) 国連

残念ながら、国連コンゴ民主共和国安定化ミッション(MONUSCO)には過度の期待はできない。 MONUSCOのマンデートは市民、NGO、国連職員・施設を守ることであり、19,000人以上(その内、東部に6,000人)の制服組が派遣されている[26]が、日常的に発生しているレイプ事件さえ解決できないでいる。(一説には1日平均1,100件発生している[27]。)ましてや、ゴマのような市街地を反乱軍から守ることではないのである。

(2) 周辺国とルワンダの援助国

現実には、ルワンダ、コンゴ、タンザニアなどの周辺国による外交力と軍事力が果たす役割が大きいが(例えば、大湖地域国際会議(ICGLR) )、その力を発揮させるには、援助国による後押しが必要である。援助国は以下の選択肢の中から、どれを選ぶべきか?

 ① M23を支援しないように圧力をかける。(ルワンダがM23を支援しているという前提で。)
 現在、メディアや一部の国は、ルワンダがM23を支援しているという嫌疑を前提にしており、ルワンダの反駁を無視している。このような状況で、ルワンダから最大の協力を引き出すのは困難だろう。
 ② M23を支援しないように圧力をかける。(M23が支援しているとの前提には立たない。)
 これは一般論であり、必ずしもルワンダを敵視していないので、特段の問題はないだろう。
 ③ 内戦そのものが発生しないように関係諸国の協力を求める(圧力をかける)。
 これが最も重要であると思うが、これまでのところ、この立場で書かれている記事はあまり見ない。

欧米諸国は「援助」をテコにして圧力をかけようとしている。ルワンダの国家予算の40%を援助に依存しているので[28]、軍事予算だけでなく、貧困層も影響を受けるのは必須である。また、ルワンダだけでなく、周辺国の経済にも影響があるだろう。そのため、欧米諸国は援助凍結のメリットとデメリットのバランスをとりながら圧力をかける必要がある。今回の出来事でルワンダは国の発展を「援助」に頼るのはリスクであることを痛感したであろう。今後は、外国の「投資」を誘致するはずである。



3.英国に学ぶ

本件を調べていくなかで、英国と日本の政治家のレベル、政治体制の違いを改めて認識させられた。英国では、議員には専門知識があり、自分の言葉で議論できる能力がある。また、議会は委員会に権限を持たせ、情報収集・公開に努めている印象を受けた。議会が省庁を監督し、方向性を示している。

(1)省と委員会

英国下院は、「国際開発省」(Department for International Development)の支出、業務、及び大臣の政策を監督(examine)するために、「下院国際開発委員会」(International Development Committee)を設置している。この関係は他の省でも同じである。

(2)情報収集と公開

同委員会が下院に提出する報告書には、問題の所在と背景、結論、議会への勧告、会議録(oral evidence)、参考意見書(written evidence)が添付されている。参考意見書は専門家やロビー団体が委員会に提出したものだが、英国の議会には「Have your say (意見を言おう)」というスローガンがあり、意見書を提出できるシステムになっている[29]。 報告書は委員会のホームページで公開されている。[30]


委員会・議会の様子(各画像をクリックすると、新しいウインドウを開いて、ビデオのページにジャンプします。)

ビデオ-1:委員会:Andrew Mitchell前大臣がルワンダに対して本年度第1回の援助金を交付したことに対し、委員会が長時間にわたり事情聴取している。(2012/11/8)[31]










ビデオ-2:委員会:Justine Greening現大臣に対する事情聴取(2012/11/13)[32]










ビデオ-3:議会:Justine Greening大臣(2012/10/31)[33]










ビデオ-4:議会:Justine Greening大臣(2012/11/19)[34]












【 参考資料 】

[1] CNN記事(2012/12/1) 「英国、ルワンダへの資金援助を凍結へ」
[2] Mach 23 Agreement の内容
[3] 国際社会による最初の警告
BBC(2012/5/28)「Rwanda 'supporting DR Congo mutineers'」
HRW英語版(2012/6/4)「DR Congo: Rwanda Should Stop Aiding War Crimes Suspect」
HRW日本語版(2012/6/12) 
[4] 米国国務次官補Johnnie Carsonの証言(2012/12/11)
[5] 2012/12/8記事「A Moment of Dialogue in the Chaos of Congo」
[6]専門家グループのレポート入手先
安保理が公開
2012年6月21日「Interim report of the Group of Experts」(S/2012/348)
2012年6月27日「Addendum to the Interim report of the Group of Experts」(S/2012/348/Add.1)
2012年11月15日「Final report of the Group of Experts」(S/2012/843)
②未公開
2012年11月26日付レター 
2012年11月26日「Letter dated 26 November 2012 from the Coordinator of the Group of Expert」(S/AC.43/2121/COMM.64)
③米国上院外交委員会が公開
米国上院外交委員会 
Steve Hege 
[7]Metro(2012/10/16) 「Exclusive interview: Louise Mushikiwabo Rwandan Foreign Minister」
[8] Global Times (2012/12/6) 「Rwanda concerned with no response to DR Congo accusations' rebuttal」
[9] Rwanda Rejects Fulse and Dangerous Claims May 28
[10] RWANDA'S RESPONSE TO THE ALLEGATIONS CONTAINED IN THE ADDENDUM TO THE UN GROUP OF EXPERTS INTERIM REPORT
 (a)完全版(添付資料あり)
 (b)2012/8/2 All Africa記事 「Rwanda's Response to the Allegations Contained in the Addendum to the UN Group of Experts Interim Report」
[11] METHODOLOGICAL AND INVESTIGATIVE SHORTCOMINGS OF THE GROUP OF EXPERTS' INTERIM REPORT
Review of the Interim Report (S/2012/348) and Addenda (S/2012/348/Add.1 and S/AC.43/2012/Note.14)
(Prepared at the Request of the Government of Rwanda by Akin Gump Strauss Hauer & Feld LLP) October 9, 2012
[12]
2012/6/25「Rwandan Foreign Minister - Press Conference at UN about situation in eastern DRC」 
2012/8/29「Rwanda's Mushikiwabo Tells Inner City Press UN Looks for Excuses」
http://www.youtube.com/watch?v=sQPTuK2wq8Q
http://www.innercitypress.com/rwanda5hege082912.html
2012/9/6「Louise Mushikiwabo, Rwandan Foreign Minister」 
[13] 朝日新聞(2012/10/18)「安保理理事国に韓国など5カ国 任期満了による改選で」 
[14] Security Council Elections 2012
[15] All Africa記事(2012/10/4) 「Nyaruguru District - Muganza Residents Raise Rwf 5 Million in Agaciro Development Fund」
在ルワンダ日本大使館「ルワンダ月報」(2012年8月号)
[16] 英国下院議事録(Written Ministerial Statements)(2012/9/4)
[17] 国際開発省プレス発表(2012/11/30)「Rwanda: UK freezes budget support to government」
[18] ブレア事務所(2012/11/24)「Statement on Rwanda」
[19] ルワンダ国立統計研究所(2012/2) THE EVOLUTION OF POVERTY IN RWANDA FROM 2000 T0 2011: RESULTS FROM THE HOUSEHOLD SURVEYS (EICV)
貧困層とは年間一人当たりの収入が2001年価値で、100ドル以下、極貧層とは71ドル以下をいう。
[20] (2012/12/11) 「Obama administration defends Congo policy, rejects congressional criticism」
[21] SECURITY COUNCIL, ADOPTING RESOLUTION 2076, DEMANDS IMMEDIATE WITHDRAWAL OF ‘M23’  REBELS FROM KEY CONGOLESE CITY, END TO ‘ANY AND ALL’ OUTSIDE SUPPORT
[22] NY Times(2012/12/9)「U.N. Ambassador Questioned on U.S. Role in Congo Violence」
Foreign Policy(2012/12/3)「How Rice dialed down the pressure on Rwanda」
[23] The Devastating Crisis in Eastern Congo 下院外交委員会(2012/12/11)
[24] 議員のレター (2012/12/11)
[25] NGOのレター (2012/12/10)
[26] 国連コンゴ民主共和国安定化ミッション(MONUSCO)
「Neutral force proposed to replace much-maligned UN peacekeepers」(2012/12/10)
[27] AFP記事(2011/5/11)「More than 1,100 women raped every day, report says」
[28] ロイター(2012/11/9)「West must lift Rwanda aid freeze or risk crisis: AfDB」
[29] Have your say 
[30] 国際開発省作成の報告書「UK Aid to Rwanda」
Volume I 
Volume II
[31] Andrew Mitchell前大臣
[32] Justine Greening現大臣
[33] International development questions
[34] Ministers deny 'profound error' on Rwanda aid


<その他>
MONUSCOとOHCHRの共著 北部キブにおける人権侵害調査(2012年4月~9月)報告書
報告書に関するプレス発表

「世界最悪の紛争『コンゴ』― 平和以外に何でもある国 ― 米川正子(創成社)

コンゴの平和構築と国際社会-成果と難題-  武内進一 (2007/3)

2012/09/30

アフリカ投資を加速する豊田通商

日本企業がアフリカに進出する件数は、まだまだ少ない。新聞が取り上げる件数は、月に平均4、5回程度である[1]。内容をみても、テスト的なものであったり、ODAを利用したものが多い。しかし、本格的に投資する企業が現れた。豊田通商だ。

今回のブログ記事では、最初に南スーダンで産出する石油を輸出するための新規のパイプラインに関するニュースを取り上げ、以下の3点を説明し、最後に若干のコメントを付け加えることとしたい。
 (1) Kenya Vision 2030 と LAPSSET
 (2) ケニアと南スーダンを結ぶ石油パイプライン構想
 (3) アフリカに本格的に投資する豊田通商


【 ニュース 】

日本の豊田通商、パイプライン建設に向けた調査を実施 (2012年6月17日)

南スーダンは、同国で産出する石油を国際市場へ、販売するルートを確立するため、ケニアに接続できる、新たな石油パイプラインの建設をもうすぐ開始する予定だ。

ケニア、新たな石油パイプラインの経由地へ

   南スーダンは、北側の隣国、スーダンを経由して、紅海港へ続く、石油パイプラインを使用してきたが、スーダン側とそのパイプラインの使用料をめぐって対立、今年1月に石油の生産を停止させた。
   南スーダンは、東アフリカを経由して、インド洋へと続く、新たな石油パイプラインの建設を計画、ケニアが、新たな石油パイプラインの経由地となることを承諾した。
   日本の豊田通商は、パイプライン建設に向けた調査を実施、南スーダン政府と契約を交わす準備が整ったという。
   スーダンの新聞社、Sudan Tribuneによると、南スーダンのRiek Machar副大統領の報道官、James Gatdet Dak氏は、豊田通商は、プロジェクト資金を担う準備が整い、政府による返済方法に関する契約について、石油鉱山省とともに案出するという。 [2]


【 解説 】

1.Kenya Vision 2030 と LAPSSET

ビジョン2030とは、ケニア政府が2006年に発表した2030年を見据えた長期戦略である。「Kenya Vision 2030」というホームページで、ケニアをどのような国にしたいか、という国民の『夢』を列挙している。[3]

・権利と自由が保障され、民主主義が機能する国
・食料に困らず、働く場所がある国
・道路が整備されており、商売に支障がない国
・多くの観光客が訪れて、観光の仕事がある国
・経済を発展させて、より多くのケニア人が働ける国
・訓練された教師が子供達を教育し、潜在能力を引き出してくれる国
・全ての国民が設備の整った病院で、資格のある医者から診療を受けられる国
・他国から技術的助言を求められる国

それらの夢を実現するため、100のプロジェクトを実行することで、経済・社会・政治を変革していこうとしている。(表1参照)
 (1)経済:2030年まで毎年10%のGDP年平均成長率を達成することで、全国民を豊かにする。(19プロジェクト実施)
 (2)社会:人材に投資するという形で、個人・社会に生活の質を向上させる。(55プロジェクト実施)
 (3)政治:1つの国として団結するために、民主主義を確立して、政府が国民に対し責任を取るシステムをつくる。(6プロジェクト実施)
 (4)Vision 2030の基礎:国際クラスのインフラ設備とサービス普及するため、20の大プロジェクト実施する。特に費用がかかるのがインフラ整備に係る分野であり、発電、港湾、空港、道路、鉄道、パイプライン、製油所のプロジェクトがある。ケニアは、隣国の南スーダン、エチオピア、ウガンダと協力してインフラを整備しようとしている。それがLAPSSET (Lamu Port and New Transport Corridor Development to Southern Sudan and Ethiopia: ラム港開発、及び ラム港から南部スーダン・エチオピアへの新回廊開発)である。(表1、図1&2参照) 

表1:Kenya Vision 2030 と LAPSSET


図1:LAPSSETのルート


図2:鉄道と道路の概念図



2.ケニアと南スーダンを結ぶ石油パイプライン構想

LAPSSETの7つのプロジェクトの1つが、ケニアと南スーダンを結ぶ石油パイプライン構想である。現在、南スーダンは石油輸出をスーダンの石油パイプラインに依存しており、その通油料についてなかなか合意できないでいる。しかし、ケニアを通すことができるようになると、スーダンとの交渉が有利になるし、安全保障でも有利になる。

ケニアにとってのメリットは、南スーダンから通油料をとれる。また、2012年3月にケニア北部で原油が発見されたが[4]、数年後に生産された場合に、新パイプラインを使うことができる。(図3参照)

図3:ケニア北部Ngamia油田



3.アフリカに本格的に投資する豊田通商

(1)石油パイプライン

石油パイプラインの関係者(ケニア政府、南スーダン政府、豊田通商)に係る報道を列挙することで、経緯とその概要をみてみよう。

2010年3月、豊田通商はケニアのパイプライン建設について発表した。[5]
2012年1月、南スーダンとケニアが南スーダンからケニア北部ラム港まで原油パイプラインを敷設することに合意した。業界のアナリストによると、パイプライン建設には少なくとも3年間かかり、費用は最高で40億ドル(3,120億円)。[6]
2012年3月、南スーダンとエチオピアが石油パイプラインに係る覚書(MOU)に調印した。[7]
2012年4月、豊田通商はパイプラインのコスト調査を計画している。[8]
2012年6月、豊田通商は南スーダン石油省に対し、F/Sの結果を提出した。[9]
2012年8月、南スーダンの財務大臣は、「ケニアまでの 2,000Kmのパイプライン建設費用には 3,000百万ドルかかる。南スーダンは現在のところ建設費用を負担できないが、パイプラインの権益は持つ」と述べた。[10]
2012年8月、豊田通商はケニアと包括的な覚書を締結した。内容は、Kenya Vision 2030の実現に向け、自動車分野、電力・エネルギー分野、石油・鉱物資源分野、環境保全分野、農業産業化分野において、両者が協力して包括的に取り組むというもの。今後、各事業分野でプロジェクトチームを組成する。[11]
2012年8月、豊田通商はケニアに対し30億ドル(2,340億円)を投資するとの意思表示した。[12] 注:50億ドル(3,900億円)という報道がある。[13]
2012年8月、F/Sの結果、パイプラインの長さは2,000 kmで、資本支出額は30億ドル(2,340億円)。豊田通商と南スーダン政府は、EPC(設計・調達・建設)についての契約について議論している。[14]


(2)自動車関連事業

豊田通商はアフリカを「成長著しいアフリカを重点地域の一つと位置付け」おり[15]、アフリカでの基盤を強化するために、フランス系の商社であるCFAO社を傘下に収めるため、公開買付を実施中である。完全子会社化できた場合、買収金額は約2,270億円(2,307百万ユーロ)である。[16]

CFAO社は、西アフリカを中心に 自動車(2011年の売上げの60%)、医薬品(同28%)、消費財(同12%)を手掛けている。[17] 同社の連結売上高は推移は2,970億円(3,124百万ユーロ)である。(図4「連結売上高推移」参照)。また、2011年12月期の連結総資産は 2,315百万ユーロであり[18]、買収金額とほぼ同額である。 

2012年9月、豊田通商は、アフリカでの売上高を2017年度までに12年度見通しの2倍にあたる1兆円に増やす計画を発表した。[19]


図4:CFAO社の連結売上高推移



【 コメント 】

1.援助よりも民間投資

上述したケニア国民の『夢』は、基本的なものであり、要求度は高くないので、実現は可能だ。先進国がケニアをどのように支援するかが問題になるが、ケニアは最貧国の段階を卒業しておりビジネスができる段階になっていると思われるので、ODAで援助する割合を小さくして民間企業の投資の割合を増やすべきである。実際、ケニアのオンゲリ外務大臣が来日した際、「LAPSSET回廊の開発は日本とケニアの政府間だけではなく民間の相互協力の非常に大きな機会となる」と述べている。[20]

日本政府の役割は2つあると思う。1つは、民間企業の投資を促進するような環境を作ること。2つ目は、開発に係るマイナス要因を克服するための援助をすることである。ケニアの田舎が開発されることで、雇用の機会ができて、ケニアや近隣諸国の経済に貢献することができる。しかし、ケニアの人々の生活水準は底上げされるとしても、貧富の差が大きくなるだろうし、環境にも悪影響があるだろう。また、隣国のソマリアが無政府状態にあることがリスク要因である。それらのマイナス要因を克服する施策を一緒に考えることが大切だ。

ちなみに、最近(2012年9月) 南アフリカのRand Merchant Bankが発表した「Where to Invest in Africa(2012年版)」によれば、アフリカ諸国の投資先として、ケニアは第9番目にランキングされている。[21]

図5:投資先ランキング


2.パイプラインの意義

このパイプラインを使って石油を輸出できるのは、当面は、石油を生産している中国、マレーシア、インドの企業である。日本企業がパイプラインの建設に投資したとしても、南スーダンの生産中の鉱区にファームイン(権益の一部を買う)することは簡単ではないだろう。しかし、パイプラインの近辺(エチオピア南部を含む)における石油探鉱事業が進むと予想されるので[22]、それに参加することはできるだろう。

3.豊田通商

豊田通商は社運をかけていると思えるほどの金額を投資しようとしている。吉と出るか凶と出るか判らないが、勇気ある「最初のペンギン」に対し、エールを送るとともに、幸運を祈りたい。


【 参考文献 】

[1]「アフリカのニュースと解説」の「日本企業 in アフリカ」
[2]新石油パイプラインの建設計画 (アフリカビジネスニュース、2012/6/17)
[3] Kenya Vision 2030のホームページ
[4] Tullow Oilのプレス発表
2012/3/26付 Ngamia-1 oil discovery in Kenya Rift Basin
2012/5/7付 Ngamia-1 well in Kenya Rift Basin discovers further oil
[5]豊田通商のパイプライン建設計画(南部スーダン~ケニア)
Business Daily(2010/3/29)
[6] South Sudan in Kenyan oil pipeline deal (2012/1/25)
[7]South Sudan, Ethiopia Sign MoU (2012/3/4)
[8]豊田通商:南スーダン・ケニアのパイプラインでコスト調査へ(2012/4/13)
[9] SOUTH SUDAN PIPELINE STARTS AFTER INTERGOVERNMENTAL DEAL(2012/6/22)
[10] South Sudan says oil pipeline via Kenya to cost $3 billion (2012/8/10)
[11] 豊田通商プレス発表 (2012/8/15)
Vision 2030 Delivery Board (VDB)プレス発表 (2012/8/15)
[12] Toyota bids for Juba-Lamu Oil Pipeline (2012/8/20)
[13] Motor firm bids $5Bn to build the Juba-Lamu pipeline (2012/8/17)
[14] Toyota Tsusho to work on the $3 billion Kenya pipeline(2012/08/23)
[15] 平成25年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)平成24年7月31日
[16] 買収金額の試算は、「アフリカのニュースと解説」の「日本企業inアフリカ」(2012/8/28)というタブページを参照。
[17] Annual Shareholders' Meeting (2012/5/25)プレゼン資料
[18] 平成25年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)平成24年7月31日
[19] 豊田通商、アフリカ事業を5年で1兆円に (2012/9/14)
[20] ケニア共和国外務大臣の日本公式訪問(2012/6/15)
[21] Where to Invest in Africa(2012 Edition)
http://www.politicsabroad.com/news/trade-and-investment/rmb-latest-report-on-where-to-invest-in-africa/
投資先として魅力的な国はどこ?(2012/9/22)
[22] 大化けする東アフリカの天然ガス事業 (2011/11/8) の図1参照

2012/07/16

台湾の外交政策: 中国との付き合い方のモデル

中国(中華人民共和国)の大物政治家達は頻繁にアフリカを訪問し、大盤振る舞いで援助している。企業も積極的に投資しており、中国とアフリカ間の貿易額は指数関数的に伸びている[1]。物や金だけでなく、多くの中国人がアフリカに入っている。僻地で活動している日本の青年海外協力隊員のブログを読めば判るが、彼らはいつも中国人に間違えられるという[2]。

一方、台湾(中華民国)と外交関係があるアフリカ諸国は4ヶ国にすぎない。馬英九(Ma Ying-jeou)氏は、2008年5月に台湾総統に就任し、2012年5月に2期目に入る直前の4月に初めてアフリカを訪問した。当初4ヶ国を訪問するはずであったが、土壇場でキャンセルされ、3ヶ国を訪問した。

今回の記事で 馬英九氏の外交政策 及び アフリカ歴訪について概観してみたが、本件は日本外交のヒントになると思う。


【 ニュース 】

馬総統、外遊の成果強調 アフリカ訪問終了

 (2012/04/18)   (桃園 18日 中央社)アフリカ歴訪を終えて帰国した馬英九総統は18日、外遊の成果を強調するとともに、スポーツを通じて友好国の国家元首と異なる関係を構築したことについて「意外な効果があった」と喜んだ。
   12日間の日程でブルキナファソ、ガンビア、スワジランドの3カ国を訪問した馬総統は、これら友好国との関係強化や共同コミュニケ調印など、外遊の成果をアピールする一方、台湾がアフリカで進める職業訓練の実績に驚いたとし、「スワジランドの公共工事担当閣僚も台湾の訓練を受けていた」と説明した。
   また、ガンビアのヤヤ・ジャメ大統領、スワジランドのムスワティ三世との腕立て伏せ競争など今度の「スポーツ外交」については「異なる関係を築いたのは予想外の効果だ」と喜びを語った。[3]



【 解説 】

台湾と外交関係があるのは、世界中で23ヶ国あるが、アフリカでは4ヶ国である[4]。馬英九総統が訪問したのはブルキナファソ(3泊)、ガンビア(4泊)、スワジランド(2泊)であり、「仁誼の旅」(思いやりと友好の旅)と位置づけた。残り1ヶ国はサントメ・プリンシペであるが、直前にキャンセルになった(後述)。 以下、①台湾の外交政策、②台湾とアフリカ友好国との関係について述べる。


1.台湾の外交政策

馬英九総統は節目節目で彼の考えを公表しており、台北駐日経済文化代表処(大使館に相当)のホームページ(HP)、国民党(政権与党、彼が主席)のHPにおいて、日本語で読むことができる[5]。 なお、以下は台湾の外交政策というより、馬英九総統の外交政策である。

(1)外交政策の基本

 ①「先急後緩、先易後難、先経後政」 の原則
  ・急ぎのものを先に、その他の問題はゆっくりと、
  ・解決しやすい問題を先に、難しい問題は後から、
  ・先に経済に対処し、後から政治問題を話し合う。[6]

 ②「和解休戦」と「活路外交」
  ・「和解休戦」とは、台湾と中国が和解して両国関係を安定させること。
  ・「活路外交」とは、台湾と中国が和解したことを、他国との「外交領域へ延伸させる」ことである。[7]

以下は馬英九総統の2008年8月の発言である。
われわれは常に相手を驚かせるようなことをしてはならず、国際的なパートナーが新聞を見てはじめて事情の変化に気づくようであってはならない。できる限りハイレベルの相互信頼を構築し、われわれの動向を相手方に知らせなくてはならない。われわれは一方的に海峡両岸の現状を変更することはなく、「統一しない、独立しない、武力を用いない」の政策を推進する。その他の方面においてもわれわれは注意を払う。但し、これは事を恐れたり争う勇気がないのではない。われわれは自己のはかりが必要であり、小さなことに拘るあまり大きなものを失ったり、また得ることより失うことの方が多いようであってはならない。[7-後半]



(2) 対中融和政策の目標

馬総統は、台湾と中国がお互いの友好国を奪おうとして「金銭外交」をするという「悪性競争」[7-前半] を止めるように路線変更した 。

台湾と中国の関係が改善すると、中国は台湾の友好国と実質的関係(substantive relations)を持つことになる。同様に、台湾は中国の友好国と同じような関係を持つことができる[8]。それが台湾にとってメリットになる。

ちなみに、今回の外遊において、「人道的援助を提供する役割を果たす」[9] と発言しているが、それは、①中国と競争しているわけでない、という中国へのメッセージと、②独裁的色彩が強い国への援助は人道的なものだ、という世界へのメッセージであると考えられる。

(3)活路外交の成果

馬総統は第2期目の総統就任演説(2012/5/20)で、第1期(4年間)を総括し、台湾と中国との和解は実質的な利益をもたらしていると発言している。[7]

「過去60年で最も平和な台湾海峡情勢を作り出し、長期的なパートナーたちの信頼と国際社会の評価を得て、中華民国の国民は127の国と地域に、あらかじめビザを取得せずに行けるようになったのです。」なお、馬総統が総統に就任した2008年5月には54ヶ国であった。[10]

図1はアフリカ諸国の台湾と中国に対するビザ免除待遇の状況を表示したものだが、台湾は政治的には劣勢だが、経済交流の面からは優勢であることが判る。

図1


(4)外交課題

台湾が国連に加入(復帰)することが最終目標だが、現在は国連の専門的機関へオブザーバー資格で参加することが当面の外交目標となっている。そのために、台湾は友好国の推薦を必要としている。なお、専門的機関とは、国際民間航空機関(ICAO)と国連気候変動枠組条約(UNFCCC)である。[11]


2.台湾とアフリカ友好国との関係

台湾は国際合作開発基金(ICDF)を通じて援助を実施している。アフリカ 7ヶ国で実施中のプロジェクトは表1のとおりである。[12]

表1

(1)ブルキナファソ (布吉納法索)

今回の訪問に際し、台湾は、マリから4万人の難民に対処する資金として、160万ユーロ(150百万円)を寄付した[13]。

台湾とは、1961年12月に国交樹立し、1973年10月に断交し、1994年2月に回復している。[14]

在台湾ブルキナファソ大使館によれば、ブルキナファソの米生産量の34%が台湾の農業技術協力援助によるものであるとのこと。[15]

台湾は、「A Light for Africa」プロジェクト(BOPビジネス)を推進している。台湾製のLED太陽光発電ライト(価格10ドル、充電時間30~40分、使用時間4時間)を販売するものである。ブルキナファソの都市部において停電しない世帯は15%に満たないし、全土の電気普及率は5%以下である。[16]


(2)ガンビア(甘比亞)

今回の訪問に際し、台湾は、食料危機対策として、3百万ドル(240百万円)を寄付した。[13]

台湾とは、1968年1月に国交樹立し、1974年12月に断交し、1995年7月に回復している[14]。ガンビアは、台湾と同様な国際関係問題を抱えているため、親近感をもって接していると考えられる。というのも、1982年当時、ガンビアと隣国セネガルは関係が良かったので、「セネガンビア国家連合」を形成したが、方向性の不一致により1989年に解消した。2000年に陳水扁総統がガンビアを訪問した際、ジャメ大統領は、「ガンビアはセネガルのが一地方政府だと見なされていた。外部の圧力にもガンビア国民の主権独立を求める意志は変わらなかった。台湾も同様に、中国の圧力に負けることなく国連復帰の決意を貫くにちがいない」と語っている[17]。その他の背景は、ジャメ中佐(当時)は1994年にクーデターにより大統領になったが、西側諸国が冷たく扱った時に台湾から恩を受けたということが考えられる。

台湾は、農業、教育、医療保健、科学技術の分野でガンビアに協力している。過去10年間で300人以上の留学生を受け入れており、現時点で約200名の学生が留学中である[18]。なお、ガンビアは中国にも留学生(本年は12名)を送っておいる。[19]


(3)スワジランド(史瓦濟蘭)

今回の訪問に際し、台湾は30万ドル相当(24百万円)のノートブックPC 300台、周辺機器、ソフトを寄付した。[13]

台湾とは、1968年9月に国交樹立した。[14]
援助に関しては、農耕団、手工芸団、医療団が訪問して、職業訓練をおこなっている。台湾企業(約25社)が縫製工場などに投資をして、同国に1万余の就労の機会が創出されたとのことである。ただし、低賃金を問題として訴訟が起こされているようだ。[20]


(4)サントメ・プリンシペ(聖多美普林西比)

台湾とは1997年5月に国交樹立した[14]。

ポルトガルから独立した1975年、初代大統領Mannuel Pinto de Costa(任期:1975~1991年)が中国と外交関係を樹立した。1997年5月、Miguel Trovoada首相は、政府の反対を押し切って、台湾と外交関係を樹立した[21]。現在の首相(2010/8就任)のPatrice Emery Trovoadaは、Miguel Trovoadaの息子である。一方、現在の大統領はMannuel Pinto de Costa(初代大統領で2011年8月に返り咲いた)であり、中国派である。要するに、首相は台湾派、大統領は中国派であり、台湾にとっては不安定要因であると考えられる。

1997年5月に外交関係を樹立してから、台湾は140百万ドル以上を援助している。2009年の援助額は、台湾(13百万$)、ポルトガル(3百万$)、EU(2百万$)、国連(1.3百万$)であり、台湾の比率が際立っている。[22]

馬総統がサントメ・プリンシペの訪問を取り止めた理由は、Mannuel Pinto de Costa大統領がキューバを訪問するので不在であるということであった。台湾としては訪問に係る事前交渉に合意してから発表しているはずなので、大統領が土壇場でキャンセルしたに違いない。(最近の台湾とサントメ・プリンシペの出来事にいては末尾参考文献を参照のこと。)



<最近の台湾とサントメ・プリンシペの出来事>

2011年1月14日、サオトメ・プリンシペの首相(Patrice Emery Trovoada、2010/8/14首相就任)が初めて台湾を訪問した。[23]
3月14日、総統府は馬総統はサントメ・プリンシペを含む4ヶ国を訪問する旨発表した。[24]
3月26日、外交部は馬総統はサントメ・プリンシペを訪問しない旨発表した。[25]
3月29日マカオの新聞は、「中国は3月28日に『中国とポルトガル語諸国経済貿易協力フォーラム』の事務レベル協議をマカオで開催したが、サオトメ・プリンシペからも参加した」と報道した。[26]
4月6日、外交部は「サオトメ・プリンシペはマカオでの会議に参加しなかった。ただし民間部門が参加したかどうかは不明」と発表した。[27]
4月7日、馬総統は、アフリカ諸国訪問のため出発。(18日に帰国)
5月20日、Trovoada首相は、馬総裁の第13代(2期目)の総統就任式列席のため台湾を訪問した。[28]



【 コメント 】


1.台湾の外交(アフリカ関連)

(1) サントメ・プリンシペと中国

サントメ・プリンシペの大統領が馬英九総統の訪問をキャンセルしたことは、台湾ではなく中国と関係を持ちたいという現れであると思う。台湾の活路外交は「中国との関係が悪化しない」という前提に立っており、中国もそれを認識しているはずである。中国は台湾を刺激しないよう安易にサントメ・プリンシペと外交関係を樹立することはないと思うが、今後の動向に注目したい。


(2) アフリカへの援助

馬英九総統はアフリカ歴訪から帰国して次のように発言している。

・「国際社会に参与するためには、台湾が評価に値する実力を備え貢献のできる良質な国であり、台湾が国際社会に参加することで実質的な利益がもたらされることを示さなければならない。実際、民主的で開放され、世界に進んで報いようとする台湾は、さまざまな面で国際社会からの評価を受けている。もしわれわれが国際舞台に回帰したいならば、貢献の出し惜しみをしていては台湾の国際参加を支持するよう説き伏せるのは難しいであろう。経済協力開発機構(OECD)では、対外援助経費を国内総生産(GDP)の0.28%と規定しているが、わが国はまだ0.1%と比較的低い水準である。 」[29]

・「訪問の過程で、解決しなければならない新しい問題が見つかった。帰国した後、プロジェクトチームを成立させて、アフリカの友好国が直面している新困難を克服する。例えば医療援助については、詹啓賢・総統府資政を招いて衛生署と共同研究し、部会を横断したチームを成立させて、医療資源を整合し、我が国の医療管理様式で支援を推進する」[30]


今後、台湾はアフリカ諸国のためにどの程度の援助を増額するのか、また、具体的にどのような援助をするのか注目したい。


2.日本と台湾の関係

(1)中国に遠慮するなかれ

民主党政権下の日本政府は、中国との関係を悪化させないようにしている。例えば、尖閣諸島中国漁船体当たり事件では、主張すべきことを主張しなかった。また、東日本大震災一周年追悼式において、台湾代表に指名献花の機会を与えず、多大な支援を頂いた台湾の人々に失礼なこともした。日本は主張すべきことは主張すべきだし、また、中国が台湾と関係を拡大しているのと同様に、日本も台湾と関係をさらに拡大すべきである。中国に遠慮していては真の友好関係を築くことはできない。

(2)領土問題への一案


日本と台湾の唯一の政治問題である尖閣諸島については、「先急後緩、先易後難、先経後政」で先送りにしてはならない。政府間で定期的に意見交換の場を作るべきである。ノルウェーが石油資源が期待されるバレンツ海の領海線の設定に40年以上ロシアと粘り強く交渉を重ね、2010年に妥結した事例がモデルになると思う[31]。関係国が意見交換をしている事実を積み上げていけば、国民はその推移を見守るだろうし、紛争が発生する蓋然性は小さくなるはずだ。

日本人は、相手の機嫌を損ねるだろうと慮って、言うことを躊躇しがちになる傾向がある。そもそも外交とは自国の主張を言い合い、妥協点を探ることである。解決するまで何十年を要するかもしれないが、定期的に話し合うことだ。


3.日本の政治

東アジア諸国の元首の任期は以下のとおりであるが、日本政治が脆弱であることを改めて認識した。
・台湾の総統の任期は4年/期(最長2期)。馬英九の任期は2008/5~2016/5(8年間)である。
・中国の国家主席の任期は5年/期(最長2期)。胡錦濤の任期は2003/3~2013/3(10年間)である。
・韓国の大統領の任期は5年(再任不可)。李明博の任期は2008/2~2013/2(5年間)である。

日本の総理大臣は、安倍(就任時:2006/9)、福田(2007/9)、麻生(2008/9)、鳩山(2009/9)、菅(2010/6)、野田(2011/9)と、1年毎に交代している。外務大臣においては、2006/9から数えると、現在9人目である。首相や外務大臣が国際会議などで一回のみ発言しても、その発言には重みがない。これが国際社会で日本の発言力が低下している要因である。「日本のODAの金額が減少すると、外交上の発言力が低下する」という意見があるが、枝葉末節の話だ。

低迷する日本経済(図2)を立て直し、外交的に発言力を待つためには、ふさわしい人物が首相に選出されて、十分な任期が与えられていなければできない。

図2

【 参考文献 】

[1] The Chinese are coming...to Africa (The Economist, 2011/4/22)
[2] アフリカのニュースと解説「滞在者リンク集」の検索機能を利用
[3] 中央通訊社 (2012/04/18)
[4] 中華民国外交部
[5] 台北駐日経済文化代表処
国民党ニュースネットワーク
[6] 馬英九・中華民国第13代総統就任演説 (2012/5/20)
[7] 馬英九総統「活路外交」の理念と戦略 (2008/8/6)
(前半)
(後半)
[8] Taiwan welcomes allies developing relations with China: president (2008/8/18)
[9] ガンビア大統領「いつまでも中華民国を支持」と表明 (2012/4/13)
[10] 活路外交が国際社会への扉開くカギ (Taiwan Today、2011/10/10)
[11] 台湾の国連加盟と活路外交 (2010/9)
[12] Taiwan ICDF > Bilateral Projects > Africa
[13] Trip to African allies is valuable in establishing stronger relations: Ma(2012/4/17)
[14] 中華民国(台湾)と外交関係を持つ国(邦交國・23カ国) 2008年1月15日現在
[15] Cooperation with Taiwan (在台湾ブルキナファソ大使館)
[16] Africa could illuminate Taiwan's LED sector: Ma (2012/4/12)
馬英九総統が「気候変動対策会議」を招集、グリーン産業発展強化を提唱(2010/5/27)
[17] 中華週報1970号(2000.9.14)
[18] 馬英九総統がガンビアを公式訪問 (2012/4/19)
[19] 12 Gambian students set to leave for China (2012/4/5)
[20] 馬英九総統がスワジランド王国を公式訪問(2012/4/26)
Exploitation by Taiwan Textiles (2012/4/17)
[21] Sao Tome and Principe: The Butterfly Effect from Macau to Taipei
[22] Taiwan donated US$13 million to Sao Tome and Principe in 2009(2010/5/24)
[23] President Ma meets Sao Tome and Principe Prime Minister Patrice Emery Trovoada (2011/01/14)
[24] Office of the President announces President Ma to visit African allies starting April 7
[25] 馬総統のアフリカ訪問スケジュール サントメ・プリンシペ取消し (2012/3/27)
[26] Sino-Lusophone Forum to promote Macau (2012/3/29)
なお、同フォーラムは、これまで2003/10、2006/9、2010/11に3回の閣僚会議が開催されている。
[27] African ally Sao Tome and Principe did not attend Macau forum: MOFA (2012/4/6)
[28] President Ma receives congratulatory delegations from Sao Tome and Principe and the Kingdom of Swaziland
[29] 全国民の資産「外交」を共に守ろう (2012/4/19)
なお、0.28%というのは2007年のOECD諸国の平均値であり、1970年に約束したのはGNIの0.7%である。  Achieving the Millennium Development Goals in Africa
[30] アメリカ訪問終了 馬総統:友好関係を固め、台湾に徳を積んだ (2012/4/18)
[31]
ノルウェーとロシアが大陸棚境界画定交渉で合意 (2010/4/28)
ノルウェーとロシアがバレンツ海の境界線問題に合意 (2010/5/20)
ロシア・ノルウェー、海の国境画定 40年越し合意(2010/9/15)


(参考ビデオ)
【仁誼之旅】Part1-馬總統獲頒大十字勳章
【仁誼之旅】Part2 -馬總統參訪?保雷國家醫院及職訓中心
【仁誼之旅】Part3 - 非洲一盞燈
【仁誼之旅】Part4 - 總統間的約定
【仁誼之旅】Part5 - 赴賈梅總統家?Kanilai
【仁誼之旅】Part6 - 總統款宴駐甘館團員眷及旅甘國人

2012/06/04

在外公館(アフリカ)のHP評価 (3回目)

アフリカには54ヶ国あるが、32の国に日本大使館が設置されており、全ての大使館がホームページ(HP)を作っている。このブログでは、2010年1月と同年12月に各HPを定性的に評価したが[1]、今回は「サイト解析」ができるソフトウエアを使って定量的に評価してみた。結果を言うと、32のHPの半数以上に落第点をつけざるを得ない。

調べてみたところ、総務省は在外公館の行政評価を実施していた。今回のブログでは、①最初にそれを紹介し、②次に、私の評価方法と評価結果を説明し、③最後に、コメントを述べる。日本の在外公館のHPが良くなることを期待する。


1.総務省による行政評価 及び 外務省の対応

総務省の「在外公館に関する行政評価・監視結果に基づく勧告」は、2009年から2012年にかけて実施された。2010年5月、「在外公館に関する行政評価・監視結果に基づく勧告」を発表しているが、調査の1項目である広報文化業務 については以下の勧告がなされた。[2]

在外公館が管轄する国・地域の治安状況、通信等各種のインフラの整備状況等の違いを踏まえつつ、次の措置を講ずること。
○在外公館における広報文化業務の実施体制及び実施状況を的確に把握・分析し、他の在外公館に比べ実績が乏しい在外公館に対しては、必要な指導を強化すること。
○在外公館に対し、「在外公館ホームページの運営の手引き」に即したホームページ運営をするよう徹底すること。また、当該手引に新設在外公館におけるホームページの開設までの目安となる期間を定めホームページの早期開設を推進すること。さらに、在外公館におけるホームページの運営状況を定期的にフォローアップし、効果的な取組事例や要改善事項を取りまとめ、在外公館に情報提供・指示すること。

一方、外務省は、総務省の勧告を受けて、諸対策を講じた。2012年3月には以下のような報告を総務省に報告している。(下記は抜粋)

・在外公館におけるホームページの開設については、平成23年3月末までに、全211公館がホームページを開設。
・各在外公館に対しては、平成23年4月に「在外公館ホームページ(運営状況等フォローアップ:第2回自己評価)」を発出し、ホームページ運営体制の改善、定期的な更新、リンク切れの対処を求めたほか、在外公館における効果的な取組事例も周知。
・第1回自己評価結果と第2回自己評価結果を比較すると、ミニマムコンテンツの記載達成率90%以上の公館が、日本語版では81公館から96公館、現地語版では105公館から127公館に増加。


2.評価方法と評価結果

(1)評価方法

「Website Explorer」というソフト "サイト解析ツール"を使って、HPに収納されているファイルの「総サイズ」(メガバイト)を計測した[3]。

(2)評価結果

各大使館のHPの「総サイズ」は図のとおりである。(一部の大使館の棒グラフを赤色で表示している理由は、後述する。)

図:在外公館(アフリカ)のホームページの総サイズ(2012/5/31現在)



3.コメント

(1) 望ましいHP

HPが評価されるかどうかは、リピーターを獲得できるかどうかで決まる。下記の日本大使館は独自のレポートやエッセーなどを定期的に提供していることを評価する。(図の赤色の棒グラフ参照)

a. 政治経済情報

日本の新聞などはアフリカ関連の記事が少ないので、大使館が発信する政治・経済ニュースを期待したい。なお、過去のレポートは少なくとも数年間はアーカイブとして読めるように公開して頂きたい。

b. 大使のエッセー

また、事実関係だけでなく、大使の意見も読みたい。例えば、在タンザニア大使(岡田眞樹氏)、在ザンビア大使(江川明夫氏)がエッセーを書いている。今は離任したが、在コートジボワール大使(岡村善文氏)はブログを書いて情報発信していた。[4]

c. 在留邦人のエッセー

日本にいる読者にとっては在留邦人のエッセーも読み応えがある。在アンゴラ大使館の「アンゴラ奮闘記」、在ケニア大使館の「活躍する日本人紹介」及び「ケニアこぼれ話」など、情報発信しようという意思が感じられる。


南アフリカ:月刊南ア・ニュース、Fact Sheet、他
エジプト:Information Bulletin - JAPAN
マラウイ:ニューズレター(英文)
タンザニア:大使レター
エチオピア:ニュースレター(年4回)
アンゴラ:アンゴラ経済月報 アンゴラ奮闘記(在留邦人記)
ザンビア:ザンビア便り(大使)
ボツワナ:「ボツワナ情報」「ボツワナでの生活」
ケニア:「『ケニアの現場から』~活躍する日本人」「ケニアこぼれ話」「JOCVの広場」
ルワンダ:ルワンダ月報
モザンビーク:モザンビーク月例報告
リビア:リビアに関する報道


(2) 特に評価したい大使館

今回の評価では、特に3つの大使館を評価したい。在南アフリカ大使館と在エジプト大使館は、情報の量が飛びぬけており、HPを担当された歴代の担当者に敬意を表したい。

もう1つは、、わずか半年で目覚しく改善した在ジンバブエ大使館である。半年前までは、1年以上更新していない悲惨な内容だった。しかし、新しい大使(福田米蔵氏)が赴任してから、上位に食い込んでいる。HPを良くするもの悪くするのも、大使のやる気次第であることがわかる。

形式的にHPを作成しているだけの大使館(図の下部にある大使館)は改善し、外務省においては在外公館のHPに期待するミニマムコンテンツのレベルを上げて適切に監督して頂きたい。


【 参考文献 】

[1] 過去の評価
1回目(2010/1/10)在外公館(アフリカ)のWeb Page評価

2回目(2010/12/31)在外公館(アフリカ)のHP評価(2回目)


[2] 総務省と外務省
2009/4~2010/5: 総務省による外務省の調査
2010/5/7: 総務省による外務省への勧告 --- その1
2010/12/10: 外務省からの総務省への回答(1回目)
2012/2/16: 外務省からの総務省への回答(2回目)
2012/3/13: 総務省による2回目のフォローアップ---その2

(その1)
http://www.soumu.go.jp/main_content/000064691.pdf
http://www.soumu.go.jp/main_content/000064692.pdf
http://www.soumu.go.jp/main_content/000064693.pdf
http://www.soumu.go.jp/main_content/000064694.pdf
(その2)
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/55495.html
http://www.soumu.go.jp/main_content/000150378.pdf

[3] Website Explorerについて
1.ダウンロード先は http://www.umechando.com/webex/index.html
2.料金は、「個人での非商用利用に限り無償」とのこと。
3.具体的な設定方法
(1)ソフトを起動して、[アクション] → [詳細設定] → [フィルタ] → [スタートページのみ解析] する。このようにしないと、リンク先のファイルの大きさまで計測してしまう。
(2)最上部のURLに設定する。

4.注意点
(1)今回のような分析は、32のHPの相対的な大きさがわかった。しかし次のような問題点があることを指摘したい。
・重い画像ファイルがあるとHPの総サイズが見かけ上、大きくなる。(在ベナン及び在チュニジア大使館のHP)
・古いHPにはそれなりにファイル数が多いので、新しいHPが古いHPと競うのはあまり意味がない。
(2)各HPの大きさの年毎の推移を計測するために適している。

[4] コートジボワール日誌 by 岡村善文氏

(参考)大使館のHP(図の順番)
南アフリカ 
エジプト  
マラウイ  
ブルキナファソ 
ジンバブエ 
タンザニア 
ベナン 
チュニジア
エチオピア
セネガル
アンゴラ
ザンビア
モロッコ
スーダン
ボツワナ
ウガンダ
アルジェリア
コンゴ民主共和国
ケニア
ルワンダ
モザンビーク
コートジボワール
ガボン
リビア
ナイジェリア
ガーナ
マリ
ギニア
ジブチ
カメルーン
モーリタニア
マダガスカル

2012/05/07

今のままでは安くならないシェールガス

最近 「シェールガス革命」 という用語を頻繁に見聞きするようになった。メディアが注目しだした要因は、停止した原発を補うためLNGの重要性が増したこと、また、日本のLNG輸入価格が米国の天然ガス価格を大きく上回っていることだと思われる。

シェールガスは米国だけでなく世界中で生産できる可能性がある。その埋蔵量は莫大であるが、生産に伴う環境汚染問題が指摘されており、一部の国は生産を許可していない。

今回の記事では、
①シェールガスに関する南アフリカのニュースを取り上げ、次に
②シェールガスに関する基本的な解説をして、最後に
③日本のメディアがあまり取り上げていない見解を述べる。

【 ニュース 】

南アフリカのシェールガス埋蔵量は世界第5位である。大手石油会社が技術評価を終えており、掘削するための政府承認を待っている。シェールガス開発に関する主な出来事は以下のとおり。

1.2011年4月、南アフリカ鉱物資源大臣がシェールガス開発のモラトリアムを宣言した。新規に申請を受理しないし、既に受理しているものについては決定の判断をしない、という内容である。[1]

2.2012年2月の報道によると、
①鉱物エネルギー大臣、科学技術大臣、貿易工業大臣、及び、石油公社社長で構成されるチームが、シェールガス開発に係るリスク評価を実施している。[2]
②鉱物エネルギー大臣は、「2012年3月末迄に評価レポートを内閣に提出する」と発言したが[3]、4月末現在、提出されたという報道はない。


【 解説 】

1.シェールガスの地質構造図、賦存状況、埋蔵量

シェールガスとは、頁岩(けつがん、shale)を人工的に破砕し、割れ目(fracture)をつくり、その中に閉じ込められている天然ガスを採取したものである。

水平掘りの技術(図1)、割れ目を作る技術(図2)が必要であるが、それらの技術が進歩したため、商業的に生産できるようになった。この割れ目を作る方法が、水圧破砕法(hydrocracking, cracking)である。[4]

現在は、主に米国で生産されているが、世界中に埋蔵量がある。世界の天然ガスの埋蔵量 1,274TCFに対し、技術的に生産可能なシェールガス 6,622TCFと5~6倍の量である[5]。地域的には、中南米29%、オーストラリア27%、南米18%、アフリカ16%、欧州10%である。南アフリカは世界第5位である。(図3)

図1:ガス田の地質構造図

図2:シェールガス地質構造図





図3:シェールガス埋蔵量



2.シェールガス開発の問題点

(1) 危惧されている問題点

水圧破砕には各社秘密の化学物質が、生産層の上部にある岩盤層の小さな亀裂を通って浸透し、飲料水に使われる水を含む帯水層に混入し汚染するのではないか、という危惧がある。また、水圧破砕している最中は坑井内の化学物質は強い圧力下にあるが、それが坑井の壁面(セメントとスチールのケーシングで防護されている)に割れ目を作り、帯水層に漏れることが危惧される。[6]

このような問題があるため、フランス、ブルガリア、南ア、スイス、オランダでは国全土においてシェールガス開発が禁止されている。また、他国では108地域において禁止されている。[7]

(2) 米国EPAの調査

米国環境保護局(Environmental Protection Agency: EPA)が2011年12月に発表したドラフト報告書[8]によると、ワイオミング州Pavillion地域におけるシェールガスの水圧破砕法が水質汚染の原因となっていると結論付けた。ただし当該地域に固有な地質は、他の地域のそれとは違うので、因果関係については慎重な立場をとっている。[9] なお、EPAの第一次レポートは2012年末に、そして最終報告書は2014年に発表される予定である。[10] 現在モラトリアム宣言をしている国・地域は、このレポートの結果を待っているはずである。

(3) 水を使わない方法(GasFrac)

カナダの会社(GASFRAC Energy Services)が開発したLPG破砕法(LPG fracturing technology) という新技術が2つの意味で注目される[11]。第1に、水質汚染の原因である水を使わないので、諸問題の突破口となる可能性がある。第2に、LPGを使うことで、より大きな体積のシェール層を破砕できるとされており、より多くのガスを生産できるという[12]。同社は2011年11月に「World Shale Gas Award for Technological Innovator」という賞を受賞している。[13]


3.南アフリカにおける状況

南アフリカでは、Shell、Sasol、Statoilなど大手石油会社が技術評価をするために鉱区を与えられており、実際に掘削する段階にきているが、現在のところシェールガス開発はモラトリアムになっている。

図4:外国企業の鉱区申請状況


冒頭のニュースの欄において述べたように、政府はシェールガス開発の問題点を評価しているところであり、遅かれ早かれ公表するはずである。しかし、この問題が技術的問題だけでなく、政治的な問題になりつつある。

南アフリカの黒人権利拡大政策(BEE 政策)[14]の一環として、Shellは Thebe Investment Corporationとマーケティング事業と精製事業でパートナーを組んでいる。そして、Thebeの大株主であるBatho Batho Trustは南アの与党であるANC (African National Congress, アフリカ民族会議)と密接な関係にある。野党第一党であるDA(Democratic Alliance, 民主同盟)は、「ThebeはShellとの合弁を解消すべきである」という趣旨の発言をしている。[15]

政府/ANC が実施しているシェールガス開発の評価の内容が、Shellに都合が悪いのであれば、そのレポートの公表は延期されるかもしれない。あるいは、Shellに都合が良いのであれば、ANCも利益を得ることになる。このように、政治が絡む要素があるのである。


【 コメント 】

1.シェールガス開発のリスクを割り引いても、南アフリカのシェールガスに注目する価値があると考える。


2.近年、商社などが北米のシェールガス事業に参加するようになり、国は資金的支援するようである[16]。ここで注意しなければならないことは、
①「業界の支援」と「日本国民の支援」は違うし、
②「安定供給の確保」と「低廉な供給」は違う
③石油・ガス開発には「上流」「中流」「下流」という段階がある---ということである。

商社などが、シェールガスの上流権益を取得して、ガス開発して、LNGを日本に持ち込んで電力・ガス会社に販売する場合、販売価格は、日本が中東などから輸入するLNG価格と同じである。もし大幅に割り引いて販売したならば、株主から訴訟を起こされるのは必須だ。

国が商社のシェールガス事業を支援するということは、「安定供給の確保」には役立つが、消費者が支払う電力料金やガス料金は下がらないのである。

要するに、日本の電力・ガス会社が鉱区の「上流権益」を取得して、自らがガス開発しなければ安価なLNGを調達できないのである。(上流権益を取得するということは、リスク度合いが高い探鉱・開発の費用を負担することであり、成功した場合には権益分のガスを引き取ることである。)自由化が進んで競争をせざるを得ない欧州の会社は、ガス田の上流権益を取得しているのである。

日本の電力・ガス会社が高いLNGを購入している理由は、「総括原価方式」を採用しているため、高価なLNGであっても、消費者に転嫁できる仕組みになっているためである。日本の電力・ガス会社の全てが同じようなLNG価格を支払っているので、「皆で渡れば怖くない」仕組みになっている。制度上、安定供給を求めればよいのであり、上流事業のリスクをとってまで安価なLNGを調達しようという企業努力をする必要がないのである。

消費者が支払う電力・ガス料金を下げるためには、電力・ガス会社自らがガス田の上流権益を取得して、国際価格以下の安いLNGを調達するしかない。国が資金援助する場合において、商社よりも電力・ガス会社を優遇することで政策誘導することは可能である。

【 参考文献 】

[1] Minister of Mineral Resourcesのメディアリリース(2011/4/29)
[2] 水・環境大臣はメンバーには入っていない。
Gas Exploration: More reasons why a moratorium is in order(2011/4/13)
[3] Bid to keep veil over fracking task team (2012/02/01)
[4] 掘削ビデオ
[5] World Shale Gas Resources:An Initial Assessment of 14 Regions Outside the United States (APRIL 2011)
[6] 非在来型天然ガスセミナー ヴィンソン・アンド・エルキンス外国法事弁護士事務所
[7] Fracking bids ‘are fatally flawed’(2012/2/17)
[8] EPAドラフト報告書(2011/12/8) 
[9] 本件を報じた記事 EPA Report Links Fracking To Water Pollution (NPR、2011/12/8)
「シェールガスの環境問題」の具体的な中身: 地下水汚染やメタンガスの漏洩だけではない (日経ビジネス、2012/4/23、大場紀章)
[10] http://www.epa.gov/hfstudy/
[11] http://www.gasfrac.com/
紹介記事 
[12] http://www.gasfrac.com/operator-advantages.html
[13] http://www.gasfrac.com/assets/docs/PDFS/GASFRACreceivesprestigiousaward.pdf
[14] 南アフリカ共和国におけるBEE政策
[15] DA calls for ANC to divest from firm set to gain from fracking (2012/4/10)
[16] 財政投融資分科会(平成23年11月15日開催)資料一覧
資料1-2

2012/03/27

アフリカの小型武器問題

バナナの貿易より、通常兵器の貿易のほうが簡単だそうだ[1]。その結果、アフリカではAK-47という自動小銃が広範に出回っており、治安が脅かされている。

2012年7月には、国連で武器貿易条約(Arms Trade Treaty)を議論する交渉会議が開催される。また、2013年6月には、横浜で第5回アフリカ開発会議(TICAD Ⅴ)が開催され、小型武器の問題も議論される。(下記のニュース参照)

今回のブログでは、両方のイベントに関係することだが、最近発表された武器貿易統計を紹介する。加えて、小型武器に関する日本の支援に対してコメントする。


【 ニュース 】

アフリカ開発会議 横浜で開催へ (NHK、2012/3/20) [2]

   日本政府は、来年、アフリカ諸国の首脳級を招いて横浜市でTICAD=アフリカ開発会議を開き、小型武器の廃棄などについて、新たな支援策を示す方針を明らかにしました。
   これは、ニューヨークの国連本部で19日から始まった拳銃や機関銃など小型武器の管理強化策を話し合うための会議で、日本の兒玉国連次席大使が明らかにしたものです。
   この中で、兒玉次席大使は「アフリカでは、小型武器の不法取引が増加し、紛争の長期化や政治状況の不安定化を招いている。日本は武器の回収や廃棄などの分野で支援を強化する」と述べました。
   そのうえで、来年6月に、アフリカ諸国の首脳級の代表を招いて、「TICAD=アフリカ開発会議」を横浜市で開催し、小型武器の管理について、日本としての新たな支援策を示す方針を明らかにしました。
   アフリカ開発会議は日本政府の主催で5年ごとに日本で開かれていて、横浜での開催は前回に続いて2度目です。


【 解説 】

1.武器の種類

武器は次のように分類できる。

(1) 大量破壊兵器(WMD):核兵器、生物化学兵器など
(2) 通常兵器
①特定通常兵器:戦車、装甲戦闘車両、大口径火砲、戦闘用航空機、攻撃ヘリ、軍艦、ミサイルの7種の通常兵器。
②小型武器(SALW)
        a.小火器(Small Arms): 一人で携帯・使用が可能な武器
        b.軽兵器(Light Weapons):数名で運搬・使用が可能武器
        c.弾薬及び爆発物


2.通常兵器の統計

(1)世界レベルの統計

2012年3月19日、ストックホルム国際平和研究所(Stockholm International Peace Research Institute) が2011年の通常兵器輸出入の統計を発表した。表1は、世界レベルでの輸出国と輸入国をグラフ化したものであるが、米国、ロシア、ドイツ、フランス英国の順で、輸出が多い。[3]

(2)アフリカに限定した統計

表2は、同じ統計資料を使って、アフリカ主要輸出入国の武器貿易額をマトリックスにしたものである。輸出が大きい順に、ロシア、米国、フランス、スウェーデン、オランダであり、輸入は、モロッコ、アルジェリア、エジプト、ウガンダの順である。南アフリカとナイジェリアは輸出国でもある。個別には、フランスからモロッコ、ロシアからアルジェリア、米国からモロッコの額が顕著である。[4]

参考まで、表3は、2010年軍事費(上位10位)である。10国の合計は、日本の軍事費の39%に相当する額である。[5]


表2には、中国の数字がない。表4は、ストックホルム国際平和研究所が別の統計を2011年12月に発表しているものだが、中国とウクライナが武器市場のシェアを拡大していることがわかる[6]。また、統計には出てこない不法取引の問題がある。



3.事実上のWMDである小型武器

(1) 小型武器の暴威

国連では統計はとっておらずあくまでも参考値ではあるが、小型武器の蔓延を示す数字として以下のようなものがある。合法・非合法を問わず世界中に蔓延している小型武器の数は7億5千万から10億。紛争に関連して主に小型武器によって命を落とす人は年間30万人。紛争以外の状況で小型武器によって命を落とす人は年間20万人。小型武器の製造数は年間800万。小型武器の貿易額は年間40億ドル。[7]

(2) AK-47

自動小銃AK-47は、単純な構造なため、安価であり、故障しないで長持ちする。そして猿でも扱える操作性を持っているので、少年兵でも扱えるのである。[8]


【 コメント 】

アフリカでは、住民の多くが銃を保有している地域があり、現地政府は回収して焼却している。日本も支援している。今後、日本人が現地に赴き、「銃は平和をもたらさないので、放棄すべきだ。」というキャンペーンをしても、大半の人々は銃を手放すはずがない。なぜならば、次の3つのシステムが確立されていないからである。「日本で刀狩が成功したのだから、アフリカでも成功するはずである」と考えてはいけない。
 ①警察あるいは軍が住民を守るシステム。
 ②対立する部族が均衡をとりつつ武器を放棄するシステム。
 ③不法武器の流入を阻止するシステム。

現在のアフリカの状況下においては、「武器は自衛のために必要なものである」と考えた方がよさそうである。なぜならば、アフリカ中部ではレイプ事件が発生しているが[9]、武器で抵抗されるということを知れば、乱暴者はそのような事件を起こさなかったかもしれないからである。

日本政府がアフリカの小型武器の問題解決をする「姿勢」を示すことは重要である。しかし、大金を使ってもそれは「焼け石に水」であると考えられるので、費用に見合った効果を得られることに限定して支出してもらいたい。ちなみに、日本はアジア・アフリカ等において、2001年から2005年までで総計約305億円(269百万ドル)を武器回収などに使っている。[10]

上記①~③のシステム構築の内、
①の警察あるいは軍が住民を守るシステム構築: 日本政府が警察官や自衛官を派遣して、現地の人材育成、日本の規律を教えることは、費用対効果が良いと考える。
②の部族間で均衡をとりつつ武器を放棄させるシステム構築: 現地の責任者が実施することである。
③の不法武器が不法武器を流入させないシステム構築: 国際的に取り組むことであり、まさに現在検討されている武器貿易条約が重要な役割を果たすことが期待される。


【 参考文献 】

[1] Arms Easier to Trade Than Bananas (2012/2/19, IPS)
[2] NHKニュース (2012/3/20)
[3] Economist (2012/3/20)
[4] ストックホルム国際平和研究所
[5] ストックホルム国際平和研究所(エクセル表)
[6] Arms Flows to Sub-Saharan Africa (SIPRI、2011/12)
China's presence grows in murky world of arms trading (2012/3/8)
[7] 「小型武器問題-国連行動計画の履行と日本の取組み」(2007/7/12) 益子崇、大村周太郎
議事録  質疑応答 
[8] History Of AK-47 必見
Ape With AK-47 (サルでも撃てるAK-47) 笑える
[9] コンゴ242人レイプ被害 「国連『武装勢力に裁きを」(2010/9/3、産経新聞)
[10] 小型武器問題について(外務省HP)

2012/01/27

コンゴ回想録

TBSテレビ日曜劇場『南極大陸』をご覧になったでしょうか? 1956年秋から1957年春に派遣された第1次南極観測隊は、敗戦国日本の復興を掛けた一大プロジェクトでした。

それからわずか4年後の1960年、日本は国連の援助要請に応えて、コンゴ共和国(現コンゴ民主共和国)に医療班を派遣しています。外務省のホームページに次のように記載されております。

コンゴー(レオポルドヴィル)共和国動乱による医療サーヴィスの窮状を打開するため、国連事務総長の要請でWHO(世界保健機関)を経て赤十字国際委員会が同国の援助に乗り出すことになり、昨年七月末、日赤に対しても医療班のコンゴー派遣方要請があった。日赤は経費につき政府の援助を得て、日赤中央病院内科宮本貴文医学博士、同外科荒木洋二博士および外事部員渡辺晃一(通訳)の三氏をコンゴーに派遣した。同医療班はコンゴー到着後赤十字国際委員会によりレオポルドヴィル州北東部イノンゴ地方に派遣され、八月から三カ月間にわたり同地方住民の治療に当った後、十二月始め無事任務を終了、帰国した。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/1961/s36-contents.htm
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/1961/s36-2-2-8.htm#8


派遣された宮本貴文医師の回想録を入手しました。当時のコンゴの事情などが詳細に書かれており、歴史的価値がある内容だと考えますので、ご子息の宮本幸夫 慈恵医大教授 のお許しを得て、ここに紹介します。なお、これは1979年~1980年の『水戸医師会報』に掲載されたものです。

本文は 「アフリカのニュースと解説」のタブページ(コンゴ回想録)でお読み下さい。(↓をクリック)
http://let-us-know-africa.blogspot.com/p/congo.html

2012/01/06

難民問題:正義だけでは国が滅ぶ

2011年6月、米国の公共ラジオ局(NPR)が、日本では難民申請者は困難に直面しているというラジオ番組を放送した。ナイジェリアの女性が成田空港の入国管理事務所で難民宣言をしたところ、直ちに手錠をかけられ、それから4年間も難民収容所に収容されている、---という内容であった。[1] 

難民を支援するボランティア団体は、日本は難民受け入れに消極的である、と批判している。批判があるにも関わらず簡単に解決できないでいる理由は、
①入管が不法移民のなかから難民を見分けることが容易ではないこと。
②入管が複雑な国際政治情勢を理解していなければならないこと。
③その他、政治的問題(日本国内の治安確保、永住権の付与)など様々な問題が絡み合ってこと。

2011年7月、フジテレビがビルマの難民を題材とした「ザ・ノンフィクション『となりの難民たち』」という番組を放映したが[2]、在日ビルマ難民たすけあいの会 会長の大瀧妙子さんの発言が忘れられない。

難民として認めるハードルが高いために、よその国では認められる難民が日本では認められない。難民の人が命からがら国から逃げてくる時に、自分の本名でパスポートをとったら、飛行場で引っかかるかもしれない。そうすると日本の入管が自分の正規のパスポートで逃げてきた人には、「あなた、自分のパスポートで国を出られたんでしょう。あなた、危なくないですよ。」そう言うんですよ。だから難民ダメですよ。今度は偽のパスポートで逃げてきた人には、「あなた、不法入国でしょ。そんなのはどんでもない。難民じゃない。」と。どちらも認めない、と。


しかし数年以内に大きな変化が訪れるかもしれない。理由は、北朝鮮の政情不安により脱北者が日本にたどり着く可能性があること、及び、民主党が脱北者の難民認定を緩和して日本に定住させようとしているからである。

今回は、日本の政治家(特に民主党)が、難民や移民問題についてどのように考えているのか、ということを中心に紹介したい。

【 ニュース 】

2011/12/25: 北朝鮮の難民保護に自治体協力 政府検討、米と連携も [3]

政府は北朝鮮の金正日総書記死去を受け、同国からの大量難民流入を想定した対策の検討に入った。難民の一時保護などで日本海側の自治体の協力を得るため事前協議を進め、受け入れが可能な施設を選定。朝鮮半島が不安定化した場合の韓国在留邦人輸送に備え、米軍との連携緊密化を図る。政府関係者が24日明らかにした。

北朝鮮情勢について日本政府は「現時点で特異な事象はない」と分析。だが権力継承が安定的に進む保証はなく、野田佳彦首相は19日に「不測の事態に備えた万全の態勢整備」を指示した。関係府省庁は直ちに、1994年に金日成主席が死去した際に作成された緊急事態に関するシナリオを参照し練り直しに入った。

【 解説 】

1.難民受け入れの統計


(1) 主要国の難民受け入れ実績 [4]

図1のとおり日本の難民受け入れ数は少ない。そもそも日本には難民が来ないし、日本の「難民認定率」は西欧並みである。[5]

図1:










(2) 日本の実績 [6]

「難民条約」による認定以外にも、人道的配慮から滞在を認めている。図2でみると、近年人道配慮による庇護数が大幅に増えている。

図2:
















(3) 韓国が受け入れた脱北者の数 [7]

図3は韓国の各年の受け入れ人数であり、累計数では17,000人以上である。韓国にたどり着ける人はごく一部で、中国には数万人から数十万人が中国国内に潜伏しているとみられている。古い数字であるが、2004~2005年の時点において、96%が経済的理由から脱北している[8]。日本には、約150人(2008年頃の数字)滞在している[9]。

図3:















2.国会の決議

2011年11月、衆参両議院において、全議員による全会一致の賛成で「難民の保護と難民問題の解決策への継続的な取り組みに関する決議案」が採択された。難民保護及び人道支援について日本がリーダーシップをとることが表明された。[10]

3.国会議員の考え方(難民・移民政策)

(1) 難民問題に深く関与している議員

難民問題に積極的に関与している代表的な議員は、(敬称略)
①裁判官や弁護士出身の議員:江田五月(民主)、千葉景子(民主)、福島瑞穂(社民) 他
②党の勉強会(民主党難民問題WT)などの経験がある議員:中川正春、稲見哲夫、中村哲治、今野東(民主) 他
③「UNHCR 国会議員連盟」に所属している議員:逢沢一郎(自民) 他50名以上
④NGOでの勤務経験がある議員:山内康一(みんな) 他

(2) 外国人労働者(移民)を増やしたい議員

難民問題と移民問題は切り離せないが、移民問題について提案しているグループが民主党と自民党に存在する。どちらも1,000万人の移民を受け入れることを提案している。ちなみに、日本の人口は約1億2,700万人、就業者数は 6,260万人[11] である。

a. 2003年9月、民主党の若手6議員が「1,000万人移民受け入れ構想」を発表した。[12]
b. 2008年6月、自民党の「外国人材交流推進議員連盟」(会長:中川秀直、約80人)が、今後50年間で1,000万人の移民を受け入れる提言を総会でまとめた。[13]


4.民主党が目指す難民・脱北者 政策

民主党は与党であり、難民問題や北朝鮮問題に積極的に取り組んでいるので、同党の政策を概観してみる。

(1) 難民に対して大きく門戸を開く国する。[14]
(2) 難民認定行政を法務省から切り離し、難民問題を専門に扱う新しい機関を設立する。[15]
(3) 難民認定申請者や在留難民等の生活の支援に関する法的規定を整備する。[16]
(4) 韓国における脱北者支援施設「ハナ院」のようなものを日本でもつくる。[17]
(5) 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR) が認定した難民は、原則として受け入れる。[18]
(6) 北朝鮮人権法の改正
同法においては、脱北者支援が日本人・特別永住者等に限定されているが、その縛りをとりはずして、脱北者全体を助けるという形に現行規定を改正する。[19]


【 コメント 】

1.脱北者の取扱い

日本の海岸に脱北者がたどり着いたならば、原則、韓国に引き渡さなければならない。なぜならば、韓国は憲法第3条において、「大韓民国の領土は、朝鮮半島とその近隣の島々により構成される」と宣言しており、韓国は彼らを「自国民」と想定されるからである。[20]


2.難民の受け入れ

(1) 「理由付け」に注意

①人道的観点を重視する議員は、できるだけ多くの難民を受け入れることを主張するだろう。
②難民問題にそれほど熱心でない議員であっても、前述の2011年11月に衆参両議院において決議した「難民の保護と難民問題の解決策への継続的な取り組みに関する決議案」が難民を受け入れる「お墨付き」だと考え、多くの難民を受け入れることについて積極的に反対はしないだろう。
③老齢化社会対策として移民を受け入れたい議員は、できるだけ多くの難民受け入れることを主張するだろう。

(2) 人数

難民を受け入れると、彼らの生活費や教育費を何年にもわたって国(国民)が負担し、最終的には永住権や国籍を与えることになり、日本の政治にも影響する。そのため、事前に国民的合意がなければならない。参考になるのが米国のやり方であるが、大統領と議会が協議して、①受け入れる人数の上限、②難民の出身地の割り当人数を決めている[21]。日本は難民申請者の全員(=100%)を受け入れることもできないし、受け入れない(=0%)こともできない。合理的かつ冷静に妥当なレベルの人数を決めなければならない。

(3)認定方法

民主党のマニフェスト(INDEX2009)では、「国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が認定した難民は、原則として受け入れることとします。」と書かれている[22]。これには少なくとも2つの問題がある。

①このことは、実質的な審査を国際機関に任せることであり、主権国家の責任を放棄していると同じことである。民主党は、「難民認定行政を法務省から切り離し、難民問題を専門に扱う新しい機関を設立する」ことを主張しているが、その機関は事務的な処理をする形式的な機関になるだろう。

②UNHCRが年間に認定する数の内、日本に難民申請してくる人数が分からないのに「原則として受け入れる」とするのは無責任である。2010年にUNHCRは、845,800件の難民申請を受領しており、1次審査を認定したのは 96,800件であった[22]。日本を庇護国として申請する人は少ないのだが、それなりの人数が来るであろう。

【 参考文献 】

[1] Asylum Seekers In Japan Face Difficult Obstacles (NPR, 2011/6/1)
[2] ザ・ノンフィクション『となりの難民たち』
[3] 「北朝鮮の難民保護に自治体協力 政府検討、米と連携も」(2011/12/25、共同通信)
[4] 「UNHCR Global Trends 2010」
(Fig5 Major refugee hosting countriesのdataの箇所をクリックしてエクセルデータをダウンロードして作成した。)
[5] 「UNHCRの歴史と活動、今後の展望. 国連大学ライブラリー連続講座. UNHCR駐日代表 滝澤三郎 2008/3/24」
Refugee and Asylum-Seeker Inflows in the United States and Other OECD Member States
(Fig 6)には2004~2007年の難民人定率の平均値があるが、日本はドイツより高い。
[6] 法務省入国管理局 平成22年における難民認定者数等について(平成23年2月25日)
別表4 庇護数の推移
[7] Wikipedia 韓国版 (脱北者)
[8] 辺真一のコリア・レポート
[9] 在日本大韓民国民団
[10]「難民の保護と難民問題の解決策への継続的な取り組みに関する決議案」
衆議院(2011/11/17)
参議院(2011/11/21)
[11] http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/tsuki/index.htm
[12] 6名とは、浅尾慶一郎 (民主党からみんなの党に移籍)、大塚耕平、細野豪志、古川元久、松井孝治、松本剛明。
月刊Voice 2003年9月号 「1000万人移民受け入れ構想」のコピー 
http://www.oh-kouhei.org/library/pdf/voic0309.pdf
http://www.asyura2.com/11/senkyo109/msg/766.html
報道記事(フォーリン・プレスセンター、2003/9)
[13] 「自民党『移民1000万人受け入れ』の実現性」(日経ビジネス2008/6/19)
[14] 2011/1/18 法務大臣就任に関する質疑(江田五月)
[15] 2011/6/20  法務大臣政務官の発言
[16] 2009/7 民主党政策集 INDEX2009
[17] 2011/12/25 中川正春(文部科学相)発言(脱北者支援民団センターが開催した交流会での発言)
なお、それより10ヶ月前の2011年2月、政府は浜田和幸議員が提出した質問趣意書に対する答弁書において、「政府としては、御指摘の「日本版ハナ院」のような定着支援施設を設立する考えはないが、(以下略)」と答えている。
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/177/touh/t177002.htm
[18] 民主党政策集
[19] 第174回国会 北朝鮮による拉致問題等に関する特別委員会(2010/3/36)中井洽拉致問題担当大臣の見解
[20] 「日本に北朝鮮「難民」は来ない  韓国国民を韓国に送るだけ」島田洋一
South Korea - Constitution
[21] Refugees: A Fact Sheet, American Immigration Council
[22] UNHCR Global Trends 2010