2013/05/07

LNG輸入価格を下げるための方策

2013年4月26日、政府は「燃料調達コスト引下げに向けた当面のアクションプラン」を発表した。いくつか基本的な問題点があるので指摘しておきたい。

アクションプランは、同年4月17日に経済産業省が開催した「総合資源エネルギー調査会 総合部会 電力需給検証小委員会(第3回)」を基にしているので、最初に紹介する。次にアクションプランの内容を紹介し、最後に問題点を指摘する。


1.原子力発電の稼動停止の影響と今後の取り組み [1]

(1) 原子力発電の稼働停止に伴う火力発電の焚き増しによる燃料費の増加

原子力発電所停止による電力9社合計の燃料費の増減(2010年と2013年の比較)

石油 2兆4000億円
LNG 1兆6000億円
石炭   1000億円
原子力 ▲3000億円
  計 3兆8000億円の増加(1年間で)


(2) 今後の取り組み

①米国で安価に生産されるシェールガスをLNGにして早期に輸入する。民間事業者が日本の年間輸入量の20%に当たる1500万トンを輸入する契約を締結したが、米国政府の承認が必要であるし、承認を得られたとしても輸入できるのは早くとも2017年になる。
②供給源を多角化して、競争を促進する。ロシア・ウラジオストクLNGプロジェクトやモザンビークのLNGプロジェクトに参加する日本企業を支援する。また、オーストラリアで日本企業がオペレーターとなって実施しているLNGプロジェクトを支援して、「メジャー・産ガス国企業による寡占状態に風穴を開ける。」
③バーゲニングパワー強化する。具体的には、LNG輸入価格は石油価格にリンクしているのを改める。また、LNG輸入価格の引き下げにつながるプロジェクトを支援する。そして石炭火力を導入して日本の交渉ポジションの強化する。


2.アクションプランの内容

アクションプランには4つの項目がある。[2]

1.低廉なLNG確保に対する支援強化
    (1)米国からの LNG輸入の実現
    (2)供給源の多角化による競争の促進
    (3)LNG輸入価格の低減に資するプロジェクトの支援の強化
    (4)LNG消費国間の連携強化
2.国内制度改革の推進
3.エネルギー選択肢増強による交渉ポジションの強化
4.戦略的かつ効果的な情報発信の展開

アクションプランは、経済産業省だけでなく、外務省、環境省、内閣官房の共同で発表されている。外務省は、「外交日程・在外公館・ODAの戦略的活用等による資源国との包括的かつ互恵的な二国間関係の強化を図るとともに、戦略的かつ効果的な情報発信の展開を行っていきます。」と発表している[3]。 また、環境省が関与しているのは、石炭火力には「環境面に課題がある」ためである[4]。


3.アクションプランの問題点

(1) LNGの調達先を増やしても、LNG価格を下げるのは困難である。

LNGは特殊な商品であるからである。石油はLNGの開発と違い相対的に短期間で生産でき、費用も安く、世界中どこにでも販売できる。一方、LNGは、巨額の生産設備資金が必要であるため、買い手が一定期間、一定の価格で購入することをコミットした場合に限り、投資決定される。そして買い手が約束した数量を供給できるだけの規模の液化施設を建設する。洋服でいえば、既製服でなく、注文服のようなものである。

参考まで、通常は、突然需要が増えたからといって供給できる余剰能力はない。福島の原発事故のためLNGの需要が増えたが、たまたまカタールなどで余剰生産能力があったため、対応してくれているのである。

(2) 日本企業に資金援助しても、安いLNGを買えるわけではない。

LNGユーザー(電力・ガス会社)が、自らガス田権益を取得して、日本に持ち込む場合に限ってのみ、LNG価格が安くなる。商社や石油開発企業が関与してもLNG価格は安くならない。なぜならば、市場価格で販売するより安くすると、安くした分利益を失うため、株主から訴えられる危険性があるからである。

(3)日本市場の根本的な問題点について言及していない。

現状では、電力・ガス会社は、メジャー、産ガス国企業、商社などからLNGを国際価格で購入しており、自らがガス田権益を取得しようとしない。その理由は、電力、ガス会社の料金設定は、総括原価方式なので、LNG価格が高くとも、料金に転嫁できるし、地域独占なので競争がない。あえてリスクが高いガス田の探鉱・開発事業に参加する必要はないのである。(一部の電力・ガス会社も上流権益を取得している例があるが、取得権益は数%である。)経済産業省としても、無理強いはできないのだろう。

(4)価格交渉力を持たせる仕組みについて言及していない。

日本の電力・ガス会社がLNGを調達する際は、各社が別々に交渉している[6]。日本は世界のLNGの33%を輸入しているので[7]、一致団結して交渉する仕組みにできれば、価格交渉力を持てるはずである。アクションプランでは、「日韓ガス対話を実施する等により、韓国との連携を深化させる」と書かれている。悪い考えではないが、先ずは国内で新たな仕組みを考えるべきであり、そのほうが現実的かつ効率的である。


(5)資源外交でLNG価格を下げるのは困難である。

外交努力をすることで、日本企業がガス田の権益を取得する際の産ガス国の承認を受けやすくなったり、各種トラブルがあった際に解決しやすくなるのは確かである。しかし、産ガス国、特にカタールやロシアにとってはガス資源は国の財産なので、日本向けに特別に安くすることはできない。


以上、LNG輸入価格を下げるためのアクションプランの問題点を指摘した。経済産業省は、既存の枠組みのなかにあるツールを強化するだけで、抜本的な改革をあえて避けていると考えられる。



参考資料

[1] 燃料コスト増の影響及びその対策について(平成25年4月17日、第3回電力需給検証小委員会 資料3)
[2]「燃料調達コスト引下げに向けた当面のアクションプラン」(平成25年4月26日、内閣官房・外務省・経済産業省・環境省)
[3] 燃料調達コスト引下げに向けた当面のアクションプランについて(2013/4/26、外務省発表)
[4] 東京電力の火力電源入札に関する関係局長級会議取りまとめ(2013/4/25、経済産業省・環境省)
[5]安倍総理のモンゴル訪問(概要)平成25年3月31日
[6]一部の会社では連携の動きがある。
「東ガスと東電、来月からLNGを相互融通-熱量に応じ交換、燃料費軽減」(2013/3/27、日刊工業)
[7]World LNG Report 2011


その他の資料

1. ガス価格の決め方の種類、ガス価格の推移など
Wholesale Gas Price Formation 2012
2. 世界のLNG液化設備、LNG受入れ設備の一覧
World's LNG Liquefaction Plants and Regasification Terminals (As of January 2013)
3. アジア向けLNG価格が原油価格とリンクしているグラフ(Sカーブ)
Global LNG: will new demand and new supply mean new pricing?

2013/01/24

政府は、テロリストに身代金を支払うのか?

今回のアルジェリアでの人質事件では、いくつかの課題を残した。たとえば、

①企業は、海外進出をする際に、どのようにリスクを回避するのか?
②在外公館は、どのようにリスク関連の情報収集・分析能力を高めるのか?
③政府は、海外での動乱などに巻き込まれた在外邦人をどうやってに救出するのか?
④国際社会は、どのようにテロを撲滅するのか?
⑤政府は、邦人が人質にとられた場合、身代金を支払うのか?


企業と政府は、危機管理にあたり、様々な事態を想定し、シミュレーションをしなければならないが、2つの報道から、現時点で次のような想定をすることは、非現実的ではないと思われる。

「日本人の1名はチュニジアあるいは別のところで生存しており、テロリストは身代金を要求してくる。」

報道1:1月24日時点での日本人の安否情報は、生存7名、死亡9名、安否不明1名。

報道2:1月16日、テロリスト犯人が車両2台でチュニジアに逃れた。

アルジェリアで拉致された日本市民5人を含む外国人労働者らは、イスラム過激派に連れられて国境を越え、チュニジアに入った。EFE通信によるインタビューの中でリビアの国境警備員が伝えた。
この国境警備員によれば、アルジェリア、リビア、チュニジアの国境地域では、リビアの治安部隊と武装組織との間で、オフロード車で並走しての銃撃戦が行われた。銃撃戦の後、武装集団はチュニジアに向っていった。[1]
Islamists, who kidnapped 8 foreign workers in Algeria, have escaped to Tunisia.
This is what a Libyan border guard says. He claims that he was a witness of how a group of armed people in two cars appeared from the Algerian side at a point where Algeria's, Tunisia's and Libya's borders meet. Although the border guards opened fire at them, they managed to flee to Tunisia.[2]

報道によると、アルジェリア軍は、29人の犯人を殺し、3人を逮捕している。しかし、実際に犯行に直接加わらなくとも、指示したグループが存在しているはずである。

どこの政府も、「テロリストとは交渉しない」という立場をとっている。しかし、多数の犠牲者が出たことを確認した後で、実は人質が生きている、ということになれば、その立場を貫くのはなかなかできないだろう。

2004年4月に発生した「イラク日本人人質事件」では、3人の日本人が人質になり、最終的には解放された。政府は水面下で支払ったのではないか、との噂が流れたが、政府は支払いはなかったと否定しており[3]、その真偽は不明である。

今回のアルジェリア人質事件は最後の事例ではなく、将来も類似の事件が発生するだろう。今のところ言えることは、危険地域に派遣される社員は、リスクに見合った給与を受け取るべきだし、万一の場合に備えた保険に入っておくことが、当面できることである。


[1] The Voice of Russia(2013/1/16)「アルジェリアで拘束されている日本人、チュニジアに連れ去られる」
[2] The Voice of Russia(2013/1/16) 「Kidnappers of 8 BP workers flee from Algeria to Tunisia」
[3] 共同通信(2004/04/20)「身代金一切ない-逢沢氏 イラク日本人人質事件」