2010/08/29

ソマリア海賊:法的手続きの統一化

重要物資を運んでいる船舶が、テロや海賊のターゲットになっています。最近マスコミの話題になったのは、ペルシャ湾(アラビア湾)で日本のタンカー(商船三井所有のM.Star号)がテロ攻撃の対象になり、鉄板の一部がへこんだ事件がありました。犯行声明を出した犯人は、いまだ逮捕されていません。[1]

ソマリア、アデン湾では、約30ヶ国が艦艇を派遣して船舶を護衛していますが、護衛範囲が限定されているため、海賊は手薄の地域で悪事をはたらいています。

海賊が捕まったとしてもその大部分は、その場で解放されたり、ソマリア近辺で解放されており、実際に裁判にかけられていません。裁判等の手続きが複雑だからです[2]。まさに、国連ではそれを検討しています。
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【 ニュース 】

 国連事務総長、海賊問題特別顧問を任命 [3] 

国連事務総長の報道官は26日に、パン・ギムン事務総長は、逮捕した海賊に対応する法律問題を解決するため、フランスのラング前教育相を国連の海賊問題特別顧問に任命したことを明らかにしました。

これにより、ラング特別顧問は、関連各国による海賊の逮捕や起訴を支援するため、必要とされる特別措置を確認します。また、パン・ギムン事務総長が提案した一つの国またはいくつかの国で海賊を審判する特別法廷を設置することなどについて、関連各国との協議を進めます。

国連の統計によりますと、今年ソマリアでの海賊行為が多発し、これまでの7ヶ月間で、139件の強奪事件が発生しました。船舶30隻が襲撃を受け、そのうち17隻が乗っ取られ、乗員450人が人質にされ、身代金が要求されました。(朱丹陽)

【 解説 】

1.国連の動き

2010/4/27、国連安保理は国連事務総長に対し、海賊の裁判のやり方(裁判所の場所、国連のかかわり合い方等のメカニズム)をどうするか報告書を提出するよう、要請した。

2010/7/26、事務局長は報告書を安保理に提出し、以下の7つ選択肢を示した。[4]

①国連が、ソマリア周辺地域の国のキャパシティービルディング(capacity building)をして、それらの国が海賊を起訴できるようにする。
②ソマリア以外に「ソマリア裁判所」(Somali court)を設置する。国連の参加が有るケースと無いケースがある。
③「特別法廷」(Special chamber)を一国あるは複数国に設置する。国連は参加しない。
④上記③と同じだが、国連が参加する。
⑤ソマリア周辺地域が多国間協定を結び、「地域法廷」(regional tribunal)を1つ設置する。国連は参加する。
⑥「国際法廷」(international tribunal)を、受け入れ国と国連との協定に基づき、設置する。
⑦「国際法廷」(international tribunal)を、国連憲章7章 (平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為に関する行動) に基づき設置する。


2010/8/27、上記の報告書を議論するため国連で会合が開催され[5]、フランスの法学者Jack Lang氏が、海賊に関するポリシー・アドバイザーに任命された。[6]


2.各国の訴訟の動き

(1)米国

3件の海賊事件でソマリア人が米国で起訴されている。[7]
①貨物船Maerst Alabamaへの海賊行為(2009/4/8)で、1名が逮捕された。海賊行為を認めており、2010/10/19に判決される予定。[8]

②米国戦艦 USS Nicholasへの海賊行為(2010/3/31)で、5名が逮捕された。海賊は、暗かったため、米国艦船を貨物船と間違ったようだ。8/17、裁判官は、「乗船されなかったし、船を占拠されたわけではない」という理由で、海賊行為にはあたらない、という判断をした。[9] 海賊達は、他の罪状でも起訴されている。

③米国戦艦 USS Ashlandへの海賊行為(2010/4/10)で、6名が逮捕された。


(2)ケニア

ケニアは、EU、米国、英国、カナダ、中国、デンマークとの間で、其々の国の艦艇が捕獲した海賊を裁判にかけるという協定があるが、2010/4/1、ケニアの外相は、「負担が大きすぎるので、これ以上海賊の被疑者を受け入れることはできない」と発言した[10]。しかし、翌月、ケース・バイ・ケースで起訴することに合意した。[11]


(3)オランダ

2009/1、5人のソマリア人海賊は、オランダ戦艦に逮捕された。2010/6/17、オランダの裁判所は5人に有罪判決(5年投獄)を下した[12]。これは、欧州で最初のソマリア海賊の裁判であり、オランダ以外に、スペイン、ドイツ、フランスが海賊を裁判にかける予定である。[13]

刑を終えて出所した後、オランダ政府が彼らをソマリアに帰国させることができるかが問題となるだろう。ソマリアの海賊は、留置所の生活は、ソマリアの生活より良いと考えている。被告の一人は、「ソマリアに帰国させられないよう、申請したい。オランダは人権を重視しているし、私はここにいたい。」「留置所の中でさえ、サッカーができ、テレビも見ることができるし、トイレも清潔だ。どんなところでもソマリアより良い。」[14]


(4)セーシェル

2010/7/26、セーシェルの裁判所は11人のソマリア人海賊を懲役10年の有罪判決を下した。
セーシェルには、その他29名が裁判を待っている。[15]


3.その他 (ロシアの行動)

原油タンカー Moscow Universityが、ソマリア沖合い560kmの地点で海賊に乗っ取られたが、2010/5、ロシア戦艦 Marshal Shaposhnikov が駆け付けて、特殊部隊がヘリコプターで降下し、10人の海賊を拿捕した。ロシア当局は、海賊をモスクワで起訴すると発表したが、結局、航行装置を取り外した上で解放した[16]。海賊は、陸にたどり着けず死亡したようである。


【 コメント 】

1.ソマリア沖合いで海賊になって逮捕されても、どこで裁判されるかによって、刑罰が違ってくる。そのために、統一したメカニズムをつくる必要がある。

2.今回のニュース記事は、中国のメディアの記事を引用した。日本の新聞があまり報道していないからである。また、船を護衛してもらっている日本の船舶関係の団体などが、海賊に関する情報を公開していないからである。

3.海賊行為を少なくする方法としては、以下のような選択肢があるが、どれを選ぶかは、最終的には「費用対効果」で決めることになるだろう。日本政府は艦艇やP-3C哨戒機を派遣しているが、どのくらいの費用がかかっているのだろうか?

①現状のように、各国政府が軍艦を派遣する。
②周辺国(イエメンなど)の海軍を増強して、警備を強化させる。
③ソマリアの漁村にPKO部隊を派遣して、海賊の船を出航させないようにする。
④海賊行為はビジネスになっているので、海賊を操っている組織を一掃する。
⑤長期的な課題だが、ソマリアの経済・治安を復興させる。


 なお、海賊船と漁船の判別の方法は、梯子の有無であるので、P-3C哨戒機は役立っているようだ[17]。ちなみに、漁船は自衛のためにAK-47自動小銃を保持しているとのこと。[18]


4.海賊が使うスピートボートには必ずといって良いほど「YAMAHA」の船外モーターが使われている。ソマリア近辺では販売しない、あるいは修理点検をしないなど、何か方法はないだろうか。


【 参考文献 】

[1] ホルムズ海峡タンカー爆発:損傷「テロ」 商船三井の被害船に爆薬痕跡--UAE報道
(毎日新聞、2010年8月7日)
http://mainichi.jp/select/world/news/20100807ddm001040016000c.html
[2] http://www.bbc.co.uk/podcasts/series/docarchive
[3] 国連事務総長、海賊問題特別顧問を任命 (China Radio International、2010/8/27)
http://japanese.cri.cn/881/2010/08/27/163s162946.htm
[4] Security Council (S/2010/394)
http://www.securitycouncilreport.org/atf/cf/%7B65BFCF9B-6D27-4E9C-8CD3-CF6E4FF96FF9%7D/Somalia%20S2010%20394.pdf
[5] News & Media (ビデオあり)
http://www.unmultimedia.org/tv/unifeed/d/15777.html
[6] Ban taps veteran French politician as special adviser on piracy off Somali coast (UN News Centre、2010/8/26)
http://www.un.org/apps/news/story.asp?NewsID=35729&Cr=&Cr1=
[7] U.S. charges 11 Somalis with piracy in ship attacks (2010/4/21、Reuters)
http://www.reuters.com/article/idUSTRE63M3BX20100423
[8] Somali admits in U.S. court to ship hijacking  (2010/5/18、Reuters)
http://www.reuters.com/article/idUSN18181095
[9] US Judge Throws Out Piracy Charges Against 6 Somalis (VOA、2010/8/17)
http://www.voanews.com/english/news/usa/US-Judge-Throws-Out-Piracy-Charges-Against-6-Somalis-100928709.html
[10] Kenya courts no longer accepting Somalia piracy cases (Jurist、2010/4/1)
http://jurist.org/paperchase/2010/04/kenya-courts-no-longer-accepting.php
[11] Kenya Agrees to Resume Prosecution of Somali Pirates (Business Week, 2010/5/19)
http://www.businessweek.com/news/2010-05-19/kenya-agrees-to-resume-prosecution-of-somali-pirates-update1-.html
[12] http://edition.cnn.com/2010/WORLD/europe/06/17/netherlands.pirate.trial/index.html
June 17, 2010
[13]http://www.globalpost.com/notebook/benelux/100525/somali-pirates-trial-rotterdam
(2010/5/25)
[14] Somali pirates embrace capture as route to Europe (2009/5/19、Daily Telegraph)
http://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/piracy/5350183/Somali-pirates-embrace-capture-as-route-to-Europe.html
[15]
Seychelles says 11 Somali raiders convicted in nation’s first piracy case
(Global Mail、2010/7/26)
http://www.theglobeandmail.com/news/world/africa-mideast/seychelles-says-11-somali-raiders-convicted-in-nations-first-piracy-case/article1651879/
[16] Captured Somali pirates 'evidently dead': Russia (France 24、2010/5/11)
http://www.france24.com/en/20100511-captured-somali-pirates-evidently-dead-russia
[17] 第6回「ソマリア沖海賊対策に関するコンタクト・グループ(CG)会合」(概要と評価)2010/6/11
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/pirate/somali_cg6.html
[18] Hi-tech navies take on Somalia's pirates (2010/6/16、Reuters)
http://www.reuters.com/article/idUSTRE65F2CS20100616


防衛省・自衛隊 ソマリア沖・アデン湾における海賊対処
http://www.mod.go.jp/j/approach/defense/somaria/index.html

総合幕僚監部
http://www.mod.go.jp/jso/kaizokutaisyo.htm

ソマリアの海賊
http://let-us-know-africa.blogspot.com/2010/05/blog-post.html

2010/08/24

英国のエネルギー外交

このブログの「ご挨拶」のところにも書きましたが、日本の政治家が日本企業のビジネスを支援することは重要です。

2010年5月に就任した英国のキャメロン首相は、最近、英国企業を支援すると宣言しました。ドイツ、フランス、中国、韓国などに負けないぞ、という意思表示です。

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【 ニュース 】

英国のエネルギー・気候変動省Charles Hendry大臣は、Daily Telegraph紙のインタビューに答え、次のように発言した。[1]

・英国の石油会社がロシアなどの鉱区を取得する際の調印式に、政治家である首相、エネルギー大臣が同席することは重要なことだ。
・産油国と長期契約を結ぶこと(=英国の石油会社が権益を取得すること)により、エネルギー供給の安定性を確保し、価格変動の影響を和らげることができる。
・ドイツの会社が契約に調印する際は、メルケル首相が立ち会い、フランスの場合はサルコジ大統領が立ち会っている。英国の場合、これまで大使が立ち会っていたが、それでは政治的な意味合いが弱い。
・最近、在外公館の大使を召集し会議を開いたが、その際、政府は次のように訓辞した。(石油・ガスの)安定供給を確保をするため、また産油国の発展を支援するため、各国に派遣されている大使は、英国の石油会社が契約できるよう積極的に支援すること。


同じ記事の中で、CBI(英国産業連盟)のRichard Lambert理事長は、次のようにコメントしている。
・Hendry大臣の発言は、エネルギー産業を支援するという「強いメッセージ」である。
・フランス政府、米国政府も同じように自国の産業を支援している。
・ただし、政治が商売に結びつく時は、「透明性と高潔さ」(transparency and integrity)が重要である。


【 解説 】

この記事には、具体的な国としてはロシアのことが書かれているが、英国政府は大使全員に指令を出していることから、全世界でのビジネスチャンスを狙っている。アフリカでは、本腰を入れて石油資源、鉱物資源などの確保に動いてくると考えられる。

英国では本年5月の総選挙で労働党(ブレア→ブラウン)から、保守党(キャメロン)に政権交代した。ブレア元首相はエネルギー産業と防衛産業の売り込みに努力してきたが、今回の記事をみると、保守党もその路線を踏襲することが明らかになった。

石油・ガスに関して言うと、英国は、原油とガスの純輸出国であったが、今日では、純輸入国に転じている。昨今の原油価格の変動率は大きく、経済活動に大きな影響を及ぼすので、英国企業による「自主開発原油」比率を高めることで、市場で調達する原油量を減らそうとしている。

英国の石油会社BPは、米国メキシコ湾で油濁事故を起こしており、財務が悪化している。政府としても、テコ入れをするということなのであろう。


【 コメント 】

英国産業連盟の理事長の発言---「政治が商売に結びつく時、「透明性と高潔さ」(transparency and integrity)が重要である。」    さすが、英国紳士の発言である。

しかし、見方を変えれば、それは英国が犯した間違いから学んだことかもしれない。サッチャー時代に英国の軍事産業がサウジアラビアの王族へ賄賂を払ったことに対し、英国の捜査当局が捜査していたところ、ブレア元首相が捜査を打ち切らせたという事件があったことを思い出した。[2]

【 参考文献 】

[1] Ministers to help UK energy firms win deals abroad (The Daily Telegraph, 2010/8/22)

[2] 'Secrecy needed' in Saudi deals (BBC, 2008/3/3)

2010/08/21

投資先としてのアフリカ

アフリカを投資先として考えている日本の会社はまだ少数ですが、日本でアフリカ向けの投資信託の発売されるようになりましたので、この流れは少しずつ変化しているように思えます。

今回のエントリーでは、外国のファンドマネージャー12人がアフリカをどうみているのか、紹介します。

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【 ニュース 】

1.日経新聞記事 [1]

高い経済成長が続くアフリカを投資対象にした投資信託の設定が相次いでいる。今年に入って野村アセットマネジメントなどが運用を始めたほか、9月には損保ジャパン・アセットマネジメントが新ファンドを設定する。新興国で運用する投信の人気が続く中、運用各社はインフラ整備や資源開発の進むアフリカを「ポストBRICs」の有力候補として位置付け、商品の投入を急ぐ。

損保ジャパン・アセットが9月30日に設定する投信の名称は「パン・アフリカ株式ファンド」。南アフリカやナイジェリアといったアフリカ諸国の通信や金融業など20~60銘柄で運用する。同月2日からマネックス証券などのネット証券や中小証券で販売する。

国際通貨基金(IMF)によると、サハラ砂漠以南のアフリカの2010年の経済成長率の見通しは5.0%で、先進国・地域の2.6%を大きく上回る。損保ジャパン・アセットは「高成長の続くアフリカは株式運用で有利な環境にある」(商品企画部)と話す。

アフリカ関連の投信では、今年に入ってピーシーエー・アセット・マネジメントが南アの債券で運用する商品を設定。野村アセットやキャピタルアセットマネジメントも南アの株式で運用する商品を投入した。


2.外国のファンドマネージャーの意見 [2]

・中国、インド、ロシア、ブラジルがアフリカに投資している。
・資源、農地があり、人口が増加している。マーケット、労働力も魅力だ。
・個人投資(provite equity investments) は、企業の直接投資(DFI)の呼び水(starter)になる。
・問題がある国や地域をみて、アフリカ全体に問題があると評価するのは間違いだ。
・安全性と成長がないと、投資資金は入ってこない。政府がインフラを整備し、衛生、教育、セキュリティー、法の整備などをすれば、金は自然にやって来る。
・中東・北アフリカ(MENA)向けのファンドが多いが、アフリカ向けのファンドも出てきた。
・アフリカが安全な投資先になるには何年もかかるので、直接投資をするより、既にアフリカに進出している国に投資すべきだ。
・アフリカの過去10年間の成長率は5.3%だ。
・南アフリカ、ガーナ、ガボンなどが成長する。
・ある国の経済が急激に成長するのは一人当たりのGDPが3,000ドルを越えてからだ。現在は中国・インドネシア・インドがそれだ。アフリカは、15年後だろう。
・30年前、ブラジル、ロシア、インド、中国(BRICs)や韓国・台湾が今のようになると予想した人はあまりいない。平均寿命、都市人口増加などをみると、アフリカは、既に転換点(tipping point)を越えたことがわかる。
・2003年以降、アフリカの株式は世界でもっとも上昇している。
・ポートフォーリオ投資家はアフリカに潜在力に気がつくのが遅い。中国、インド、中東諸国は近年巨額の資金を直接投資につぎ込んでいる。


【 解説 】

投資には、直接投資(企業による資源開発、工場建設など)と、間接投資(それらの企業の株を購入)がある。アフリカへの直接投資の推移は、図1のとおり。

図1



【 コメント 】

私は、15年前に中国の株に注目しなかったことを、悔んでいる。15年を長く感じることができれば、購入してもよいだろう。ただし、アフリカの株式市場は、他の市場と比べて、まだ流動性が小さいので、ボラティリィティが高いので、high risk, high return (loss)である。


【 参考文献 】

[1] アフリカ投信続々 損保ジャパン系など(日経新聞、2010/8/18)
[2] Will Africa ever become a major investment destination?  (Investment Week, 2010/8/17)


その他:

投資信託SQUARE [投資信託ランキング]
UNCTAD World Investment Report 2010

2010/08/09

石鹸で手を洗う運動

発展途上国では、不衛生が原因で子供たちが下痢などになり亡くなっています。石鹸で手を洗うことにより、その病気は予防できますが、水道が完備されていないサブサハラのアフリカの住民が、その習慣をつけるためにはどうしたら良いでしょうか?

今回は、「石鹸を使って手を洗う運動」を取り上げますが、これはPPPとBOPの代表的な例として多くの文献で紹介されていますので、ご存じの方も多いと思います[1]。このブログでは、新しい追加情報を2つ紹介します。
①Publicの立場でこのキャンペーンを推進している大学の先生の発言。
②水道が整備されていない地域で、水を確保する方法。

石鹸で手を洗えば下痢の発病率が下がる---こんなことは子供でも知っていることですが、いざ普及活動を実践するのは大変なことで、いろいろな分野の専門家が知恵を出し合い取り組むことが必要です。

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【 ニュース 】

ロンドン大学公衆衛生学・熱帯医学大学院のValerie Curtis博士は、BBC等のインタビューに以下のように応えた。(一部抜粋) [2]
・世界で年間200万人が下痢で死んでいる。もし石鹸で手を洗う習慣ができれば年間100万人は救える。
・石鹸て手を洗うことは、最も費用対効果が高い。Do it Yourselfのワクチンと同じだ。石鹸の種類はあまり関係なく、洗うこと自体が重要だ。
・石鹸で手を洗う運動 (Global Public-Private Partnership for Handwashing with Soap)はパブリックセクターであるCurtis博士などが運動を始めたが、石鹸の売上があがるのは必須なので、石鹸メーカーをその運動に呼び込んだ。
・公的セクターと企業は文化的な違いがある。企業は公的セクターの行動学の研究などを得ることできる。一方、また公的セクターは企業のマーケティングの手法や、行動力を得ることができる。公と民が協力することで「1+1=11」になった。
・企業では担当者が頻繁に交代するのが問題だ。
・一般論だが、「多国籍企業」は発展途上国においては、必ずしも良い印象を持たれていない。「The global Public-Private Partnership for Handwashing with soap (PPPHW)」という組織で、公的な組織と一緒に活動することで、私企業(3社)の活動が信頼を得ることができた。[3]


【 解説 】

1.衛生観念の普及

実際の調査・インタビューの結果を2つ示す。

ユニリーバ―社がウガンダで民衆約150人を集めて聞いたところ、
①朝食を食べた人数:ほとんど全員が挙手した。
②食事をとる前に、手を洗った人:約30人
③石鹸で手を洗った人:2人 [4]


エチオピアでは、不衛生が原因で、38人のうち1人が5歳になる前に死ぬ。
(この学校では)、過去2週間で、4人のうち1人が下痢になった。
石鹸で手を洗うことにより、下痢と下痢が原因の死者の数を半分に減らせる。
(下のYoutube参照)


2.石鹸の普及
・石鹸の大きさを小さくしたり(ここがBOPのミソ)、長持ちするようにする。
・運動をエキサイティングにする必要がある。たとえば、
①2008年10月、バングラディッシュでは1,213人が同時に手を洗う人数を競い、ギネスブックに登録された。
②国連を巻き込み、毎年10月15日を「Global hand washing day」に決めて、世界的な運動にした。[5]


3.手水器(ちょうずき)の普及

石鹸は手に入るとしても、水はあるのか?

手作りの手水器が作られている。木の枠、ビニール袋、木製のストッパーなど、現地で容易に入手できるもので作られている。のこぎりでなく、家にあるブッシュの木を切るなたで作っている。

http://www.youtube.com/watch?v=bZmbb9dMxbg


図1

①水のストッパーの一部
②木枠にストッパーの一部をはめ込む
③ 同上
④木枠の中に、水を貯めるビニール袋を入れる


図2



【 コメント 】

1.強力な推進者

先日(8月5日)、政策大学院大学で開催された「アフリカ産業戦略」勉強会に参加した[6]。発表者の小松啓一郎氏は、1996年に世界銀行・海外民間促進コンサルタントとして、マダガスカルに日本の中小企業を誘致するため、40社以上参加した現地ミッションを実現した方である。残念ながら投資は成立しなかったが、改善点の1つとして、「オタク的に入れ込んだスキーム・リーダーの人材不足」---と発言されていた。

「石鹸で手を洗う運動」においては、まさにそういう人物として Valerie Curtis博士が存在したのである。


2.先人の知恵

石鹸で手を洗うという行為は、日本人にとっては常識的なことで驚くことではないが、人々に新しい行動をとらせることに挑んでいる人達には敬服する。

昭和30年代の日本では、田舎の家のトイレは屋外にあり、水道が完備されていなかったこともあり、手水器で手を洗っていた。サブサハラで、手作り手水器が使われつつあるとは驚きだった。アフリカを援助するには、物資がなかった昭和20年代~30年代の暮らしを知る人達の知恵が必要だと思う。

先人の知恵を活かす こんなアイディアはどうだろう?
・「援助の知恵袋」というホームページを作る。
・海外青年協力隊の隊員が現地で遭遇した問題をそこに書き込む。
・誰か解決策を書き込む。


3.PPPの日本語訳

Public Private Partnershipは、「官民連携」あるいは「公民連携」と訳されるが、私は 援助のPPPにおいては、「公民連携」の方が適しているのではないか、と思うようになっている。理由は、「官」より「公」の方が範囲が広く、政府以外の公的機関(例えば大学など)が含まれ、実態を表していると思われるからである。



【 参考文献 】

[1]BOPビジネスの現状とこれまでの取組について
平成21年8月 経済産業省 貿易経済協力局
http://www.meti.go.jp/committee/materials2/downloadfiles/g90804c05j.pdf
ユニリーバ インドでのシャクティプロジェクト (You tube) (2009/8/3)
http://bopstrategy.blogspot.com/2009/08/you-tube_03.html
途上国の手洗い普及に企業が協力(2010/7/2)
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20100702-00000001-natiogeo-int
「石鹸で手を洗おう!」10月15日は グローバル・ハンドウォッシング・デイ(2008/10/14)
http://www.afpbb.com/article/pressrelease/contribution/2528489/3425454

[2]Val Curtis博士の略歴
http://www.lshtm.ac.uk/people/curtis.val

Val Curtis博士による啓蒙活動(各種インタビュー)
The Global Campaign to Promote Handwashing with Soap (2010/6/30)
記事 http://www.lidc.org.uk/news_detail.php?news_id=94
録音 http://audio.openair.fm/lblog/audio/EP6_Final_Edit.mp3

Now Wash Your Hands Please(2010/5/18)
記事と録音 http://www.bbc.co.uk/programmes/p007kqsh


[3] PPPHWの構成員

石鹸会社
・Unilever
・Procter & Gamble
・Colgate-Palmolive
英米の医療機関/NGO 等
・London School of Hygiene & Tropical Medicine
・Johns Hopkins University School of Public Health
・International Centre for Diarrhoeal Disease Research
・Centers for Disease Control and Prevention
・Academy for Educational Development
・The Water and Sanitation Program
・The Water Supply and Sanitation Collaborative Council
国際機関等
・The World Bank
・UNICEF
・USAID

[4]「Unilever looks to clean up in Africa」(Financial Times, 2007/11/15)
http://www.ft.com/cms/s/0/47b3586c-931f-11dc-ad39-0000779fd2ac.html

[5] The Global Public-Private Partnership for Handwashing with Soap
http://www.globalhandwashing.org/

[6]「アフリカ産業戦略」勉強会
http://www.grips.ac.jp/forum/newpage2008/industrialstrategy.htm
小松啓一郎氏の会社(Komatsu Research & Advisory)
http://komatsuresearch.com/index_files/jp_events.htm

その他参考資料:

アフリカ子供白書 2008 子どもの生存
(The State of Africa's Children 2008)
http://www.unicef.or.jp/library/pdf/africa_hakusho_2008.pdf (日本語版)
http://www.unicef.org/wcaro/SOAC-08-en-lores.pdf (英語版)

手水器について
「まひるのサンタ」
http://plaza.rakuten.co.jp/eggrider/diary/200804050000/
「映画の心理プロファイル」
http://kiyotayoki.exblog.jp/7415665/
神戸学院大学図書館 明石文博資料展 展示会通信 創刊号
http://opac2.kobegakuin.ac.jp/ilis/infomation/publication/tenjikaitsushin_a/vol_001.pdf