私は、リビアという国は経済的に大きく離陸(take-off)する---と信じていますので、この数年間、同国の動向、特にカダフィの後継者になるかもしれない次男のSaif al-Islam氏に注目してきました。(このブログでもリビアに関し、5本の記事を掲載しました。)
Saif氏は、2月21日、40分にわたってテレビ演説し、国民に事態を説明し、冷静になるように求めましたが、それを伝える新聞記事に次のような文がありました。
「最後の兵士、最後の弾まで戦う」。強権体制下で揺るがなかった首都をデモが襲う中、改革者と目された同氏の「別の顔」に人々は怒りを増幅させている。
私は、彼はこのようなことを言う人物ではない、と思い、記事の内容を確認するため、実際の映像を探したところ、複数のテレビ局が報道したものをYouTubeで見つけました。
演説の内容が「事実」かどうかについては、情報が限られており裏をとることはできないので、この大本営発表の内容を鵜呑みにはしません。しかし、少なくとも、彼が何を考えているのかが分かりますので、紹介します。
【 ニュース 】
カダフィ氏次男、演説で強硬姿勢 諸部族の反攻噴出 (産経新聞 2011/2/21) [2]
【カイロ=黒沢潤】リビアの最高指導者カダフィ大佐の後継者として有力視されている次男、サイフルイスラム氏が21日未明、国営テレビで緊急演説した。同氏はリビアの経済・社会改革に積極的とされ、国民からの期待も小さくなかったが、独裁体制放棄への明確な言及もなく、デモを容赦なく弾圧するという強硬姿勢が際立った。
「怒る国民への対処の仕方に関し、警察や軍に誤りがあった」。サイフルイスラム氏の演説は当初、抑制を効かせながら始まった。だが、デモの犠牲者数が300人以上とも指摘されていることに対し、「84人だ。メディアの誇張だ」と完全否定した。
同氏は「リビアは内戦の危機にある。首長国や小国家を作る陰謀が存在する」とも指摘。政権への徹底抗戦を叫ぶ北東部ベンガジでは、ムスラタ族など諸部族が街の支配権を握ったとされ、東部一帯のズワイヤ族にも欧州への石油輸出をとめる動きがある。演説はこうした“国家内国家”を作る動きに警鐘を鳴らした形だが、強権支配のタガが外れつつある部族の反攻を食い止められる保証はない。
サイフルイスラム氏は一方、諸外国をも牽制した。リビアに警告を発する国に対しては「(政権崩壊すれば)外国企業はリビアを去ることになる」と脅した。
リビアは国民参加の「直接民主制」を実践するとのカダフィ氏の革命理論を堅持し、憲法や政党が存在しない。サイフルイスラム氏は憲法制定協議を始めると語り、「国歌や国旗を変えたいならそれもやる」と懐柔策も口にした。しかし、ベンガジの弁護士は英BBC放送で「同じ約束の繰り返し。信じない」と一蹴した。
「最後の兵士、最後の弾まで戦う」。強権体制下で揺るがなかった首都をデモが襲う中、改革者と目された同氏の「別の顔」に人々は怒りを増幅させている。
とはいえ、リビアには政権崩壊後の“受け皿”がない。まがりなりにも野党が存在したチュニジアやエジプトとは異なる。約40年の独裁体制が崩れ去った場合、混乱が国家を襲うのもまた避けられない。
【 解説 】
Saif al Islam氏の40分間のTV演説の要旨
写真:クリックで拡大
私は、多くの人から、直接国民に話しかけるように言われた。何を言うか事前に書きものにしていない。正統アラビア語ではなく、リビア方言で、リビア人の一人として、皆さんに直接、原稿無しの即興で話しかける。事前に準備をしていない。心に感じたことを伝えたい。
一連の出来事の経緯を順を追って説明したい。我々は、この地域が地震に襲われ、嵐がふいているということを全員が知っている。それは、発展・変革・民主化・自由化を求める行動である。それは我々が、ずっと昔から望んできたことである。
この地域では多くの変革を必要としている。変革は政府がもたらすか、あるいは、国民がもたらすかどちらかである。それは多くのアラブ諸国で変化をみている。現在は難しい状況にある。我々は正直であるべきだし、また、真実が重要だ。この演説では真実のみを話す。
リビア国外には反体制のリビア人がおり、リビア国内に彼らの友人や支持者がいる。リビア国内にも政府に反対の人々がいるが、彼らはエジプトのFacebook革命をまねた。
2月17日に何が起こったのか?
まず、民衆がイタリア領事館を襲撃した。そして、警官が民衆を射殺した。それを理由に民衆が警官を襲った。外国にいる反体制の人々が、リビアをチュニジアやエジプトのようにするため、この出来事を利用し、インターネットやFacebookで情報を流した。そして、メディアのキャンペーンがあった。
政府は、チュニジアやエジプトが混乱した時、政府は事前の防御策として、2月17日以前に、危険分子を逮捕した。そのことに対し、小規模なデモが起こった。体制派と反体制派が対立し、何人かの死者が出た。
警官に対する暴力行為もあった。怒った民衆は、ベンガジでは軍隊を攻撃した。警官は防御し、死者が出た。
死者の葬式でもいざこざがあった。以上がベンガジで起こったことで、現在、騒乱、分離運動になってしまった。リビアという国の統一が危険にさらされている。
ベンガジで殺された人がいる。そのことがベンガジの人々を怒らせた。我々は、正直に話し合いをしなければならない。彼らは殺されたが、その理由はなんだろうか?
別の理由がある。
民衆は軍や警察に対し歯向かった。特に、軍にはそのような経験がないので、臆病(nervous)になり、危険を感じて(stress)、民衆に銃口をむけてしまった。軍に非があった。
私が聞いたことだが、反乱に加わった人々の多くは酒を飲んでおり、何人かは麻薬を使用していた。警察や軍は、彼らを射殺した。このようなことを聞いている。
死者の数はベンガジでは48人であり(*)、メディアは過大に報道しているし、人々も大げさに話している。リビアにいないであたかもリビアからの報道のように見せかけている、との報告がある。いくつかのテレビ局も彼らと協力している。たとえば、昨日の報道では250人が死亡、180人が負傷したと伝えているが、それは大げさな数字であり、そのような噂を広めるキャンペーンがある。
(*:数字の箇所については、理解できない。)
政府側と反政府側の両方に間違いがあった。警察、特に軍は、怒れる群衆に対処する準備ができていなかった。彼らは、軍本部、武器弾薬が収奪されないように守ることが精一杯であった。
民衆は、仲間が殺されたので怒る権利がある。両方に言い分(story)があるが、亡くなった方がいるという事実は悲しいことだ。
民衆と警察・軍の間にはメディアが存在するが、誇張した記事を流している。それは周知の事実である。さて、我々は、しっかりと現状を把握しなければならない。リビア東部での出来事、そしてそれがリビア全土に広がろうとしている出来事には、3つの原因がある。
第1のグループは、組織化されたグループであり、労組、弁護士は政治的主張や要求がある。彼らの要求は理解できるし、政府としては対処できる。
第2のグループは、イスラムグループである。Al Baydaで起こったことだが、彼らは逮捕されており、恩赦で釈放された人々である。彼らは軍のキャンプを襲撃し、軍人・警官を殺しており、軍のキャンプを襲い、兵器を盗んだ。
Al Baydaで何が起こったのか。私にはその街に家族がおり、電話で知らせてくれた。この数日間で、彼らは武器を盗み、兵士を殺した。街中をうろついており、al Baydaを「イスラム首長国」にすると言っている。彼らは、武装しており、軍事的目的がある。第1のグループとは違う。
第3のグループは、人数が最も多い。これは広く知られていることだが、その中には麻薬を使用している若者がいる。また、好奇心が強く、熱心にデモに参加する人々だ。デモに参加する理由を数えるならば10以上あるだろう。
私は事実を話している。好むと好まざるとにかかわらず、事実だ。
兄弟達よ、政府は新しいリビアを作る計画がある。
いずれTVで放映するが、保安部隊は何十人ものアラブ人、アフリカ人を逮捕した。反政府勢力が貧しい彼らを金で雇い、国を分割ししようとしている。金持ち・ビジネスマンは彼らを雇い、いろいろなオペレーションに使った。
その証拠がBenghaziとal Baydaでは、アラブ人とアフリカ人が武装している。これは秘密ではなく、皆知っていることだ。彼らは不法滞在者(illegal immigrants)だ。彼らはこの騒乱に利用された。
一部のグループは、リビアを統治したいと考えている。リビア東部のBenghaziとal Baydaに別の国をつくりたいと計画している。al Baydaでは「イスラム首長国」と名前を付けたようだ。
昨日、ある男が「私はイスラム共和国の皇太子だ」と言った。一部のグループはリビアを小さな首長国の集合体にしたがっている。彼らは既に計画を持っている。リビアのメディアが報道していないことに乗じて、アラブのメディアは本当に何が起こっているのかを報じていない。
黄色い帽子(=傭兵)、何百人も殺された-----アラブのメディア、外国のメディアは、噂を広げたり、誇張したり、嘘を報道したりしている。
別のグループがこの騒乱で利益を得ている。彼らは刑務所を脱出した囚人であり、Benghazi刑務所などを壊している。国が崩壊すると政府も警察もなくなり、彼らは自由になる。彼らは簡単に混乱状態を作り出せる。
説明したように、リビアが崩壊すると得をするグループが複数存在する。リビアの一部を統治しようとしたり、都市ごとに皇太子を置くことを認めたりするのは、国家反逆罪(national treason)だ。
アラブの兄弟達は、リラックスしながらコーヒーや紅茶を飲んで、リビア人がリビアを崩壊させている状況を見ながら、あざ笑っている。負け組はリビアだ。彼らではない。
道路をうろついている犯罪者がいることは、秘密ではない。家族・友人のみんなが、犯罪者が町を占領していることを知っている。犯罪者は武器をもっており、街中を混乱させている。
現状は極めて危ないことをわかってもらえたと思う。チュニジアやエジプトを見たリビアの若者が同じような変革を求めているということだけではない。リビアは、エジプトやチュニジアとは違うのだ。
リビアは違った状況におかれている。もしリビアが小国に分離するなら、3つ、あるいはそれ以上に分かれてしまう。それは60年、70年前にもどるということだ。
リビアがチュニジアやエジプトとは違う2つ目の理由は、リビアは部族が共同体を作っている国であるということだ。リビアは、政党(parties)があるような都市社会(urban society)ではない。リビアは部族が基礎となっている。人々は部族の中での役割を知っているし、部族の仲間を知っている。内戦(civil war)になってしまう。1936年のような内戦の時代に戻ってしまう。街中で殺し合いをすることになる。
リビアはチュニジアやエジプトとは違う。リビアには石油があり、石油がリビアを結びつけている。大部分の油田はリビア東部でもなく西部でもなく、中央内陸部にある。500万人が石油収入で生きている。
もしリビアが分裂するなら、誰が食料や水をくれるのだ?だれがリビアの油田を管理するのだ?
石油を管理する首都をどこに置く?トリポリか、al Baydaか、それともBenghaziなのか?だれが管理して、石油収入を分配するのか?だれが教育や病院の費用を負担するのか?
もし内戦が起き、リビアが分割された場合、石油収入の配分方法に合意することができると思うか?もし、できると思う人がいるなら、間違いだ。石油は燃やされ、ギャングや犯罪者、部族の民は、油田を占拠するために戦うだろう。誰も石油の恩恵に与れない。油田は中央内陸部や南部の砂漠地帯にあり、人が住めるようなところにはない。
リビア人口の4分の3はリビア西部にすんでいるが、そこには油田はない。Barcaにも石油は出ない。どのようにして食料を買うのか?
兄弟達よ、これからリビアに起こるかもしれないことは危険なことだ。国の統一や各種スローガンよりもっと大きな問題に直面する。教育や福祉が崩壊する。子供達が通う学校がなくなる。小麦粉も無くなる。我々の富は盗まれてしまう。これがBengahziとal Baydaで起こったことだ。
我々はリビアを離れ、移民することになるだろう。油田を管理できないし、石油収入を分配することができないからだ。産出された石油は燃やされるだろう。これから40年かけて石油収入の分配方法について議論することになる。皆がリーダーや皇太子になりたいからだ。
リビアはチュニジアでもないしエジプトでもない。今日、我々は非常に難しい歴史的試練に直面している。
まず話し合おう。正直に話し合おう。我々は皆、武器を持っている。犯罪者は、戦車、機関銃、大砲を持っている。
私がこうして話している時も、Benghaziでは戦車が酔っ払いを乗せて動き回っている。Baydaでは市民が機関銃を持っている。軍の武器保管庫から多数の武器弾薬が盗まれた。だから我々全員が武器を持っている。軍も武器を持っている。
多くの人々が武器を持っている。反政府勢力も武器を持っている。
だから内戦が起きる。リビアは全てのインフラを失うだろう。食料もなくなるだろう。そして現在実施している2,000億ドルの新都市計画に関与している外国企業もリビアを去るだろう。
誰がリビアに戻って、リビアを再建するのか?これまで作ったものは壊されるだろう。病院も閉鎖されるだろう。
私の言っているいることを良く聞いて欲しい。我々は岐路に立たされている。歴史的な決断をリビア人が下さなければならない。
(今まで説明したようになるのか、それとも)我々はリビア人であり、リビアは我々の国であり、我々は変革や自由を求め、真の意味でリビアを変えていようにするのかどちらかだ。変革は目の前にある。
500万人が武器をとり内戦をする前に、最終的な解決策を決めよう。我々はエジプトでもなくチュニジアでもない。我々全員が武器をもっているし、武器を手に入れられる状況にある。
84人が死亡したことを悲しむのではなく、これから何千人も死ぬかもしてない事態になっていることを悲しむ。リビアの全ての街で、血が川のように流れることになる。石油が生産されなくなるので、皆がリビアを離れるだろう。
明日になれば、外国の会社、外国人の全てがリビアを離れるだろう。石油会社もだ。石油は生産されなくなる。国家収入がなくなる。一片のパンもなくなるだろう。
本日、al Baidaでは、一片のパンは1.5ディナールで買える。来週になれは100ディナールになるだろう。私が皆さんに話すのがこれが最後になるだろう。内戦になれば、リビア人すべてが武器を持ち、内戦状態に入り、国が分断され、完全に混乱状態になる。武器を持ち、自衛するような状況になる前に、街中に血の川が流れるようになる前に、これから数日以内に歴史的なイニシィアチブをとらなければならない。
小さなことを罰するような古い規制は止めにして、新しい法律(new civil rules and regulations)を作る。そして、憲法制定のために国民の間で話し合い(national dialogue)が始まる。次に開催される国民集会(polular conference meeting)で憲法について議論することが、つい最近開催された会議で決まった。リーダーであるカダフィ大佐が合意した。ジャーナリストもいた。
もう1つ、リビアは分離するのではなく、地方自治(local government)の時代に戻ることになる。住民は選挙で首長を選ぶのだ。中央政府の権限を小さくする。地方自治体が厨民にサービスを提供するようになる。これまでの開発は継続されるが、2000億ドルを使って、リビア全土に配分され、街造りをする。
給与は上げる。若者が受けられる融資限度額を上げる。これについては即刻そのようにする。
我々は、改革する。血は流さない。国を開発する。リビアは発展する。隣の国よりも少ない数の犠牲者と損失で発展する。
チュニジアとエジプトでは問題が発生した。観光客が来なくなった、仕事がなくなった、そして安定も治安もなくなった。
リビアは、チュニジアやエジプトよりも、千倍以上悪い状況にある。もし明日にでも国民が合意すれば、流血は防げるし、歴史的な成果を上げることができるだろう。
我々は第一の共和国(first republic)から第二の共和国(second republic)に移行する。第一の政治体制(regime)を大きく変えて、全く新しい政治体制ができる。国民全員が望み、愛することができるような「明日のリビア」ができる。
その逆に、国民が対立して、リビアが分割され、内戦に入り、石油収入がなくなる事態にすることもできる。ガス収入もない。リビアは混乱に陥る。
Barcaで起こったような攻撃があるだろう。それが全土に広がる。子供達の教育はなくなる。病院もなくなる。Barca、Bayda、Shahhat、Benghaziではすでにそれが現実になってしまった。
私の父は東部出身で、母は国民の大部分と同様に、西部出身だ。
東部、特にBenghaziに住んでいる人に言いたい。リビアが分割されたら、どのようにしてリビアに入国するのか?リビア入国ビザを取るのか?そんな時代に戻るのか?あなたの奥さんはBenghaziにいて、あなたはトリポリにいるとする。お互い10年間訪問できない。
家族は分裂する。母親にも姉妹にも会えない。彼らは、国境の向こう側にいるのだ。
過去10年以上、我々リビア人は異なる地域の出身者と結婚している。Benghaziの人はトリポリの人と結婚してきた。地域間の交流が深まった。もし国が分割されたら、トリポリに来るにはビザが必要になる。
もし最初のシナリオに合意できないのなら、二番目のシナリオになるという心の準備をしておくがいい。
イタリア(*)の外務大臣が、リビアの現状を確認するため、私に電話してきた。国民の皆さん、リビアが再び植民地になる準備をしておいてくれ。植民地支配がまた来る。ヨーロッパ人とアメリカ人はリビアに来る、それも武器を使って。
(*二つのトランスクリプトがあるが、1つはイタリア、もう1つはイギリスとなっている)
ヨーロッパと北大西洋条約機構は、2日間で、2つのイスラム首長国が建国されるのを認めると思うか?1ヶ月後には15の首長国ができるだろう。彼らは地中海沿岸にイスラムの首長国が建国されることを認めると思うか?
彼らは、ソマリアでイスラム国が建国されることを認めなかった。リビアは、ギリシャのクレタ島にある米軍基地から30分のところにある。イタリアからは1時間で、地中海の中央に位置する。欧州諸国とその他の国は、リビアに介入しないと思っているのか? 正直に言おう、彼らは武力でリビアを占領するだろう。彼らはリビアを崩壊させる。西洋諸国と米国と欧州諸国は、リビアの土地において、犯罪者が支配するようなイスラム首長国を作るのを認めない。
リビアが産出する石油はどうなるか。西側諸国はリビアで混乱が続きテロ、麻薬、アフリカの不法移民を輸出するようなことは許さない。彼らはリビアに来て阻止するだろう、そしてリビアを占領するだろう。もし別のシナリオを考えているのであれば、間違いだ。
リビアの地中海沿岸は2000Kmあるが、ヨーロッパに近い。今日から2日間でイスラム首長国になる。彼らはそれを認めない。
私の話はここで終わる。リビア人、アラブ人が関与している麻薬問題、汚職の問題、不法移民の問題については話さなかった。エジプトでもチュニジアでも同じ問題がある。いずれ、それらの問題について証拠をお見せできる。
ロンドン、ニューヨーク、マンチェスターに住んでいるリビア人、あるいはドイツやカナダにいるリビア人達は、リビアにいるリビア人を挑発し、家をでて、あれをしろ、これをしろ、と指示している。彼らの子供達はヨーロッパと米国で勉強している。彼らには健康保険もあるし、居住国の国籍も取得している。一方、リビアにいる子供達は死にかけている。
軍隊から兵器弾薬を盗めと、指示している。彼らは今、ヨーロッパでリラックスしているところだ。リビア人はここで死ねという。それから、彼らはリビアに戻り、リビアを支配する。これが彼らのシナリオだ。リビアの国民同士が敵対し、殺し合った後に、リビアに戻り我々を支配する。イラクの状況と同じだ。海外にいるリビア人は、「わかった、リビアに戻り統治しましょう」と言うだろう。
我々には2つの選択肢がある。我々は今、変革できる。これは歴史的な瞬間である。変革しないのなら、これから何十年の間、何もないだろう。最初の選択肢を選ばない限り、ユーゴスラビアより悪い状況になるだろう。カダフィはムバラクやベン・アリとは違い、古典的支配者だ、人民のためのリーダーだ。何十万人の人々がカダフィを守るために、集まってくるだろう。沿岸の道を通ってカダフィを支援するために来るだろう。軍隊もいる。彼らは、自身の被害を省みずに大きな役目を果たすだろう。リビア軍はチュニジアやエジプトの軍とは違う。最後の最後までカダフィを支持するだろう。(反体制派は)ガーデン広場にいる人が発砲し、軍隊も発砲する。そのようなシーンを世界に見せたがっている。目を覚まさなければならない。
これからは、国家防衛隊と軍が出動する。我々はリビアの土地を1インチも明け渡さない。彼らは60年前、植民地主義者からリビアを守った。そして今は、麻薬中毒者から守る。リビアの大部分の人々には知性がある。悪党どもとは違う。(一部不明) 我々は最後の一人まで、最後の弾を使いきるまで戦う。リビアを守り、明け渡すことはない。我々は、アル・ジャジーラ、アル・アラビア、BBCに、罠(trick)を仕掛けさせない。
【 コメント 】
1.事実を確認すること
国際社会は、リビアで何が起きているのかという「事実」を遅滞なく確認し、事実に基づいて行動しなければならない。万一、国際社会が間違った情報に基づいて行動した場合、より大きな問題(悲劇)を起こしてしまう。特にリビア関係のニュースは鵜呑みにしてはならない。色々調べたが、私は次のことが判らない。
(1)リビア政府軍は、無防備の市民を殺しているのか?死者の数は?
国連事務総長は、「市民への攻撃は国際法違反で、流血を起こした者は罰せられなければならない」と発言した[3]。また、オバマ大統領も、暴力的なデモ弾圧は「国際的規範に違反する」との声明を出した。[4]
日本や西欧諸国でデモをする人々は単にプラカードをもって歩くだけで、当然ながら無防備である。しかし、反政府勢力の一部が、政府転覆を目的として武装しているのであれば、話は別だ。米国で同じことをすれば、撃ち殺されるだろう。
(2)アフリカからの傭兵(foreign mercenaries)は、だれが、何のために雇ったのか?
1つ目の説は、カダフィが政権を守るために雇った。
2つ目の説は、反政府勢力を支持する人達(=金持ち)が、反政府グループをを守るために雇った。あるいは、リビアを混乱に陥れるために雇った。
3つ目の説は、上記の両方。
(3)首都トリポリで空爆があったのか?[5]
空爆するのであれば飛行物体は爆音をたてるはずであるが、イタリア人(教授)がトリポリの親類に電話をかけて確認したところ、そのような音は聞こえなかったという[6]。トリポリには各国の大使館があるのだから、事実関係は容易に確認できると思うが、日本大使館から情報はないのだろうか。
なお、政府は、武器を反政府勢力に渡さないようにするため、郊外にある武器弾薬庫を空爆したことは事実のようだ。[7]
(4)反政府勢力の中には、麻薬を使っている者がいたのか?多数いたのか?
エジプトで麻薬が作られており、欧州等に持ち出される際に、リビアが中継点(transit trafficking )になっているようだ。リビアは、UNODC (国際連合薬物犯罪事務所)に加盟している。[8]
2.国際社会によるカダフィに対する報復
冒頭に、「欧米諸国の一部は、これまでのカダフィの言動に対し辟易しており、恨みつらみがある」と書いた。いくつかの例を紹介する。詳細はネットで調べて頂きたい。
①ロッカビー事件:1988年12月に、スコットランドのLockerbee上空で航空機爆破事件で、270人(大部分が米国人)が死亡した。真犯人と背後にいるのは誰かについては、複数の説がある。
②リビア人が犯人として逮捕され、国際裁判を経て、スコットランドの刑務所に収監された。しかし、スコットランド政府(及び英国政府)は、余命3ヶ月という理由で温情的にその囚人をリビアに帰国させた(2009年8月)。しかし彼は現在も生きている。米国人犠牲者が多かったこともあり、米国のメディアや議員はスコットランド・英国の対応を批難している。
③ブルガリア人看護婦6人がリビアで医療活動をしていたが、400人以上の子供達がAIDSに感染した。6人全員が死刑判決したが、結局多額の賠償金で釈放された。
④カダフィの五男をめぐって、スイスと問題になった。本ブログでも取り上げた。
⑤最近では、韓国人2名がスパイ容疑でリビアから数カ月出国できなくなった事件があった。李明博大統領と彼の兄である李相得ハンナラ党議員の尽力で、比較的短時間で解決した。
とにかく、カダフィは世界の嫌われ者なのである。今回の騒乱で「カダフィは市民を殺害しているので止めさせなければならない」という絶好の口実ができた。今回は、国際社会(国連と米国など)の動きは速かった。例えば、オバマ大統領は、リビアへの経済制裁など具体的な措置に取り組む姿勢を示した。[9]
アフリカ諸国には、程度の差はあるが、似たようなな元首は他にも存在するのである。リビアの一般市民を保護すること以外に、別の企みあるのではないか? 国際社会の「正義」を疑う。[10]
コメント欄もご覧下さい。(2011/3/6記)
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【 参考文献 】
[1]<米国>リビアに具体的行動を オバマ政権に世論の圧力(毎日 2011/2/23)
[2] 産経新聞 2011/2/21
[3] 「暴力停止せよ」国連事務総長、高官を中東に派遣(産経、2011/2/24)
[4] 「言語道断で許されない」米大統領が弾圧を非難、制裁示唆(産経、2011/2/24)
[5] リビア政権崩壊危機 カダフィ氏「私は殉教者」(産経 2011/02/23)
[6] LIBYA: ITALIAN-LIBYAN ACADEMIC, SCEPTICAL OVER TRIPOLI BOMBS (2011/2/22)
[7] Libya jets bomb arms depots (2011/2/22)
[8] UNODC Libya
[9] <米国>オバマ大統領、リビア制裁示唆…武力弾圧を非難 (2011/2/24)
[10]「リビアのカダフィ大佐:過去の暗殺の公開を求めた」(2011/2/22) by 米川正子
「リビアでの「虐殺」のダブル・スタンダード」 (2011/2/23) by 米川正子
Saif氏のテレビ演説の要約は英訳のトランスクリプトを日本語に翻訳した。ネットで見られるのは、2種類ある。
①CNNによるもの。40分の演説のうち、最初の30分の部分のトランスクリプト。同時通訳のテープ起こししていると思われるので、内容が細かい。しかし同時通訳なので、一部正確でない可能性あり。
②SultanAlQassemiというブロガーによるもの。40分の演説の要約になっている。要約なので、細かい内容ではないが、こちらの方が正確であると思われる。読者ご自身が確認するのであれば、まずこれを読まれることを勧める。
YouTubeには、CNN、BBC、AlJajeelaの映像がある。それぞれに英語の同時通訳(あるいは一旦英訳したものをダビングしたもの)がある。当然ならが、それぞれ微妙に違う。
①CNNバージョン(最初の約30分。)(上記のトランスクリプト参照)
②BBCバージョン(約4分半。)
③Al Jazeeraバージョン(15+14+10=約40分)
Saif al-Islam Gaddafi Addresses the Nation 1 of 3
Saif El Islam Gadaffi addresses the nation 2 of 3
Saif al-Islam Gaddafi Addresses the Nation 3 of 3
その他参考資料
「コラム:リビア、二つの革命の狭間で」 (2011/2/16 クドゥス・アラビー)
「Saif al Islam氏の40分間のTV演説の要旨」の要約について、若干修正しました。(2月26日、午前8時50分)
返信削除以前は、日本のメディアと政府を完全に信じきっていた私ですが、ここ2年くらい、鵜呑みにしてはいけないな、と思ってきたところです。フランスのメディアも偏るところがあり、いろいろな情報を平行してみる大切さが分かりました。
返信削除1(3)のイタリアの教授の電話の件ですが、もしかしたら、その親族が本当のことをしゃべれなかったのかもしれないかな?と思いました。先日FRANCE2(ずばり欧米よりですね^^;人権・平民・民主主義第一!)かアルジャジーラ(何寄りかは知りません)どちらでだったか忘れましたが、リビアから逃げてくる人が、アルジェリアかチュニジアの国境だったかな?で、リビアに置いてきた親族や、自分の身のために、あることについては(すいませんあやふやで。ご飯を食べながら見ているもんで…)ノーコメントという状況が報道されていました。もしかしたら、その親族の方も、盗聴を恐れて、本当のことを言えない状況という可能性があるかも?国連では、国際刑事裁判所への提訴を決定したようです。http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110227-00000029-jij-int国連、確かに欧米よりだけど、ある程度情報がないと、提訴はしないんじゃないかな?と思いました。イラクのときも結局アメリカに追従した事実もあるので、はっきりとは言えないのですが…。
情報源として、欧米や国連のものと平行して、アフリカ発、例えばjeuneafrique(私のクラスメイト達決も結構これ見てる),afrik.com,allafrica.comも、たまーーーに、時間があるときに見ていますが、セネガルのバグボ支持の友達(国際情勢にすごい詳しい人でなく理系研究者)によると、jeuneafriqueは欧米よりだというし、もう、何を信用していいのか分かりません。どこの息もかかってないメディア、Miyaさん、ご存知ですか?私的にはアルジャジーラかな?っと思ってたのですが、んー、最近「ちがうよー」と言う人もちらほらいて。
いつもコメントありがとうございます。以下思いつくままに書きます。
返信削除1.メディアの中立性
中立性を追求しているジャーナリストは多いと思いますが、一般論としては以下の理由で難しいと考えます。
①新聞の場合、紙面も時間も限られている中で記事を書くので、事実を調べてから書く余裕はないし、両論併記する余裕もない。(欧米の新聞の要約を書く方法は楽だと思います。)
②新聞には広告収入が必要なので、広告主にとって都合の悪い情報は安易には報道できない。
③新聞社には編集方針があるので、取り上げたくないニュースは記事にしない。
2.空爆
①イタリア人の教授の親類が本当のことを言えなかった可能性を否定する情報は私にはありせん。でも、各国の政府は、在トリポリ大使館の職員に、戦闘機あるいはヘリコプターの飛行音、射撃の発射音、着弾音を聞いたかかどうか、確認できるはずです。
②戦闘機のパイロットがマルタに亡命しました。彼らの言い分は、「空爆を拒否するために」と報じられていますが、命令されたことが「市民を殺すこと」だったのか、「武器倉庫を爆撃すること」だったのか、それを確認したいです。
3.報道の目的
リビアを報じているの新聞社・TVの一部は、報道の内容が事実・真実かどうかは二の次で、カダフィを退陣させることが目的になっているのではないでしょうか。
4.その他
①イラク攻撃を正当化させる際、インテリジェンス専門家はWMDの存在を主張して、連合軍はそれを信じましたが、結局のところ存在しなかったようです。本当に確実な情報に基づかない限り、リビアへの軍事介入すべきではない、と私は考えます。
②国連安保理がリビア問題をICCに付託することを全会一致で決議しましたが、米国はICC条約に署名も(批准も)していません。何か、しっくりきません。
2011/3/1 追加情報
返信削除Saif氏の演説(同時通訳)に、悪党、殺し屋、暴漢、凶悪犯という意味の「thugs」という単語が数回使われています。彼は、反体制を3つのグループに分類しましたが、その1つに 脱獄囚などの悪党が武装している、と主張しています。
さて、2月28日、クリントン国務長官がジュネーブで開催された国連人権理事会において、リビアを非難する演説をしました。「Clinton accused Mr. Gadhafi and his followers of using mercenaries and thugs to attack unarmed civilians.」(カダフィとその一派は、外国人傭兵と悪党どもを使って、無防備の市民を攻撃している。)
彼女は「thugs」という同じ単語を使って巧みにリビアを攻撃しています。さて、どちらの言い分が正しいのでしょうか?
Clinton Says It Is Time For Gadhafi To Go (VOA, 2011/2/28)
http://www.voanews.com/english/news/Clinton-to-Meet-EU-Officials-in-Geneva-Press-for-New-Libya-Sanctions-117049343.html
Asharq Al-Awsat紙は、3月3日、Saif al-Islam氏との電話インタビューの一問一答を掲載した。大本営発表ですが、念のため、一部要約して掲載しておきます。
返信削除http://aawsat.com/english/news.asp?section=1&id=24364
・反体制勢力が占領しているのは、Darna、Benghaziと Tobrukの一部であり、90%は政府が統制している。
・私が批判しているのはAl Qaedaではなく、武装している連中だ。
・私は、先日のTV演説で、人々に恐怖心を煽るのではなく、警告した。
・リビアにはいろいろな人種もいる。黒人の軍人がいたとしても、外国人傭兵とは言えない。ビデオが流されているが、陰謀だ。
・トリポリで空爆はない。現在、200人の外国人記者がいるが、爆弾の落下地点を探せないでいる。ただ、Fahsloum、Tajuraなどの軍事キャンプは爆撃した。
・もしカダフィの隠し財産がスイスなどにあるのならば、差し上げる。そんなものは初めからない。
・(問:米国はカダフィに退陣しろと言っているが・・・)米国は過去40年間ずっと言っている。今回の米国の要求は、別に新しいことでもない。
・国際社会に言いたいことは、この問題はリビアが解決できるので、leave us alone。(介入するな。)
・今回のことはリビアが民主国家になる歴史的機会だ。
佐々木良昭氏(東京財団 主任研究員)が、帰国した在リビア日本大使館員の話を、3月13日付のブログに掲載しています。一部引用します。
返信削除http://www.tkfd.or.jp/blog/sasaki/2011/03/no_999.html
NO・1914「混乱と情報の規制・日本とリビア」
現状はどうか分からないが、1週間ほど前にリビアのトリポリ市から、日本の戻ったリビアの外交官と連絡した。
彼はリビアのトリポリ空港から出国してきたわけだが、全く通常と変わりがなかった、と言っていた。そしてアルジャズイーラの報道が、ことさらにリビアの内情を、刺激的に伝えている、と言っていた。
その後、サウジアラビアにいる友人と、メールでやり取りしたところ、彼の奥さんはパレスチナ人であり、奥さんの兄弟や親戚が、トリポリ市やベンガジ市、その他のリビアの町に住んでいるのだが、何時もと変わりない、と伝えてきたということだった。
それから時間が経過した今は、どうか分からないが、少なくとも、1週間から10日前のリビア国内の状況は、あまり危険なものではなかった、ということであろう。
報道が過剰に危険な部分だけを、取り上げるために、外部には危機的状況というイメージをばら撒き、国際社会が騒ぎ過ぎて、国内的に解決できる問題も、解決出来ずに、より悪い状態になることは多分にあろう。