2011/04/17

転換期を迎えたリビアへの軍事介入

アフリカ諸国に限らないが、発展途上国において政権交代をするには、①選挙、②軍部が非合法的手段で政府を転覆させるクーデター、そして ③反体制派による反乱(革命)のいずれかになると思われます。1960年~1999年の間にアフリカ諸国の大統領選挙とクーデターの回数を調べたレポートによると、1980年代までの政権交代はクーデターが一般的であり、1990年代になってからは選挙による政権交代が広くみられるようになりました。[1]

選挙制度がない国で、かつ、軍が政権を支持している国において政権交代を実現するには、第三の手段である反体制派による反乱になります。プラカードを持ったデモ行進では政権交代はできないので、武器があれば、民衆はそれを使うでしょうし、一方、政府は暴徒化した民衆を鎮圧するために軍隊を出動させます。

マスメディアが、リビア軍隊が"一般市民"を殺している映像を伝えました。国際社会は、リビア市民の安全を守るために、いわゆる 「保護する責任」(Responsibility to Protect)という考えの下、軍事介入しました。しかし、2ヶ月が経過してもカダフィ政権は倒れません。もし反体制側が負けて、カダフィ政権が継続することになれば、①軍事行動を起こした仏・英・米などの会社が保有する権益(石油利権など)が取り上げられるし、また、②リビア以外の民主化運動、人権擁護運動に水をさすことになる----と仏・英・米は考えているはずです。そのため、軍事行動を中途半端で終わらすことができなくなり、カダフィ政権を倒すことが目的になってしまったと考えられます。

今回紹介する2つのニュースでわかるように、国際社会は意見が大きく分かれました。


【 ニュース 】
 リビアでの武力行使に反対、BRICSが共同声明 (AFP、2011/4/15) [2] 

【4月15日 AFP】ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカで構成する新興5か国(BRICS)首脳会議は14日、リビアやアラブ諸国における武力行使に反対する共同声明を発表した。ロシアのドミトリー・メドベージェフ(Dmitry Medvedev)大統領は、武力行使は国連に認められていないと述べた。 首脳会議は中国海南(Hainan)省三亜(Sanya)市で開催。閉幕後に「われわれは、武力行使は回避すべきだとの原則を確認した」との声明を発表した。 

メドベージェフ大統領は、リビア上空の飛行禁止空域を設定し、市民保護のため「あらゆる必要な措置」を講じることを認める国連安全保障理事会の決議は、軍事力の行使を承認したわけではないと指摘。BRICSはこの点で「完全に見解が一致している」と強調した。 

ただし、声明は北大西洋条約機構(NATO)の名指しはしておらず、「リビア問題について国連安保理との協力を続けたい」としている。また、アフリカ連合(AU)が提示した停戦案を支持することも表明した。 

首脳会議は今回で3度目。南アフリカが参加するのは初めて。 


米英仏、カダフィ氏退陣まで空爆 3国首脳が新聞に寄稿 (東京新聞,2011/4/15) [3] 

2011年4月15日 11時01分 【ワシントン共同】オバマ米大統領とキャメロン英首相、フランスのサルコジ大統領は、15日付の英紙タイムズなど3紙に連名で寄稿し、リビアの最高指導者カダフィ大佐に即時退陣を要求、政権にとどまる限り多国籍軍の攻撃を続けると強調した。米ホワイトハウスが寄稿の内容を14日発表した。 「リビア平和への道」と題した記事で3首脳は、国連安全保障理事会の決議を根拠に実施した多国籍軍のリビア攻撃によって「何万人もの命が救われた」と指摘。 

安保理決議が認めているのは民間人の保護であり、カダフィ氏を武力で排除することではないとしながらも、自国民の「虐殺」を続けるカダフィ氏が権力の座にいては「リビアの未来像を描くのは不可能だ」と訴えた。 

カダフィ氏が退陣しなければ「民間人を保護し政権に圧力をかける」ために攻撃を続け、「新世代の指導者の下で、独裁体制から憲法手続きへの移行」を促す考えを示した。 

寄稿記事はフランスのルモンド紙と、国際英字紙インターナショナル・ヘラルド・トリビューンにも掲載される。


【 解説 】
 
1.最近2ヶ月の主要動向  

2/17: 市民デモ[4] 「怒りの日」と名づけられ、インターネットなどで参加が呼びかけられた。  

2/26: 国連安全保障理事会決議1970(2011) [5]
対リビア武器輸出禁止、カダフィや側近の資産凍結および渡航禁止、人道に対する罪で国際刑事裁判所に調査を求めることなどが盛り込まれている。

3/17:  国連安全保障理事会決議1973(2011) [6]
政府軍は、反体制派が拠点とするベンガジに向けて進軍を続けており、反体制派は国連に対し飛行禁止区域設定などの行動を急ぐよう訴えていた。
賛成:10ヶ国 棄権:5ヶ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、ドイツ) 反対:なし  

3/19: 軍事介入開始[7] フランスの戦闘機がカダフィ政権側の軍車両を攻撃した。米英軍の艦船や潜水艦から110発以上の巡航ミサイル「トマホーク」がリビア西部の軍事施設に撃ち込まれた。

3/27: 飛行禁止空域の指揮権が米国からNATOに移る[8]  

4/11:カダフィ政権がアフリカ連合(AU)と基本合意に達し、共同声明を発表した。[9]  

4/11:反政府がカダフィを倒すまで戦うと発表。[10]  

4/14:BRICSによる共同声明(上記のニュース) 欧米主導の対リビア空爆への反対などが盛り込まれた。

4/15:仏・英・米による共同声明(上記のニュース) カダフィの退陣を強く求める共同意見書をまとめた。

2.石油権益

近年、リビアは積極的に外国企業に鉱区を付与しており、以下のすべての会社は、探鉱鉱区(まだ石油は発見されていない)を保有しており、鉱区を取得した際に、多額のサインボーナスを支払い、探鉱費を使っている。探鉱鉱区だけでなく、生産鉱区も保有している。

(1)フランス
フランスの石油会社TOTALは、探鉱鉱区だけでなく、生産鉱区も保有しており、2010年には55,000b/dを生産している。[11] ただし、TOTALにとって、アフリカ大陸での石油と天然ガスの生産量は756,000b/dなので、リビアの位置づけは10%以下である。

(2)英国
ShellとBPはリビアの探鉱鉱区を保有している。[12]

(3)米国
米国の石油会社で生産中の会社は、ConocoPhillips (47,000b/d)、Marathon Oil (46,000b/d)、Hess (22,000b/d)、Occidental Petroleum (13,000b/d)である。[13]
探鉱中の会社は、ExxonMobilなどがある。[14]  


【 コメント 】  


1.メディアのリビア報道

エジプト・ムバラク政権が崩壊した際は、軍部が中立の立場をとったため、一般市民は武器を取らずして市民革命が成功した。一方、リビアでは、軍部の大部分はカダフィ政権を支援したため、一部の市民が武器を取ったので軍隊が出動した。アルジャジーラ(Al Jazeera)やBBCは、世界中の人々の脳裏に「リビア市民が殺されている」「カダフィは野蛮人」であるとの"印象"植え付けた。国連安保理の決議もテレビやYouTubeの映像に影響されたはずである。しかし、私は、リビア関連の報道は、バランスがとれてなく、恣意的な誤報も含まれていたのではないかと疑っている。(2011/02/25付当ブログ記事 「リビア関連のニュースを鵜呑みにするな」 参照。)  

2.保護する責任(Responsibility to Protect)

  「保護する責任」とは、国家には虐殺など非人道的犯罪から人々を守る責任があり、国家がその責任を果たせないとき、国際社会がその責任を代わって果たさなければならない---という考え方である。[15]

1994年にルワンダ大虐殺国際社会があったが、この「保護する責任」という考え方にもとづいて国際社会が迅速にルワンダに介入していれば、ルワンダの悲劇は防げたかもしれないので、私はこの考えを否定はしない。しかし、ルワンダでは「民族 対 民族」の構図があったが、リビアでは「体制派 対 反体制派」の構図であることに注意しなければならない。

 「保護する責任」に基づき行動するためには、4つの要件が必要であるとのこと。[16]

(a)正しい意図(right intention):介入の主要な目的が、人間の苦痛の排除にあること
(b)最後の手段(last resort):あらゆる非軍事的選択肢が尽くされたこと
(c)比例的手段(Proportional means):軍事規模の行動・期間が必要最低限のものであること
(d)妥当な見込み(reasonable prospects):軍事行動により事態が改善する見込みがあること  

私は、今回のリビアへの軍事介入が正しいことだったのか、疑問に思っている。

理由1:上記の考えの大前提になっている、「市民が虐殺されている」という事実確認(特に軍事介入をした初期の段階において)が果たして正しい情報に基づいてなされたかどうか、疑わしい。  
理由2:軍事介入の目的が、市民を保護するという崇高な目的から、カダフィ政権を倒すことに変わってきている。(そしてその背景には、石油権益を確保することが見え隠れしている。)あえてカダフィの立場に立てば理解できると思うが、外国の軍隊が自分を倒すことを目的として攻めて来たならば、戦うしかないのである。どこの国の大統領・首相でも同じことをするであろう。  
理由3:軍事介入を開始してから約2ヶ月が経過したが、カダフィを失脚させることができなかった。これから続けたとして、「出口」が見えない。この作戦は成功しなかったのだから、作戦変更すべきである。  
理由4:証明することはできないが、仏・英・米の軍事介入が反体制派を勢い付かせて、かえって死者の数を増やしてしまった可能性があるのではないか。


「保護する責任」に関する詳しい報道・ブログなどは、下記の参考文献を参照。

お役に立ちましたら クリックお願いします。
にほんブログ村 海外生活ブログ アフリカ情報へ 人気ブログランキングへ

【 参考文献 】

[1]「アフリカにおけるクーデタと選挙の動向」 by 落合雄彦
[2] リビアでの武力行使に反対、BRICSが共同声明 (AFP、2011/4/15)
Press statement by the Russian President following BRICS summit.(2011/4/14)
[3] 米英仏、カダフィ氏退陣まで空爆 3国首脳が新聞に寄稿
フランス公式発表 Libya's Pathway to Peace (April 15, 2011)
英国公式発表 Joint article on Libya: The pathway to peace
米国公式発表 Joint Op-ed by President Obama, Prime Minister Cameron and President Sarkozy: ‘Libya's Pathway to Peace’
[4] リビアのデモ拡大 死者21人との情報
[5] 国連安保理、対リビア制裁決議を全会一致で採択 国連広報センター 暫定訳 S/RES/1970(2011) 安全保障理事会決議1970(2011) 2011年2月26日、安全保障理事会第6491回会合にて採択
[6] 国連安保理、飛行禁止区域設定の決議を採択 リビア情勢緊迫 国連広報センター 暫定訳 S/RES/1973(2011) 安全保障理事会決議1973(2011)
2011年3月17日、安全保障理事会第6498回会合にて採択
[7] 米英がリビアにミサイル攻撃 カダフィ大佐は抗戦の構え
[8] NATO、リビア軍事作戦の全指揮権引き継ぎを了承
[9] カダフィ大佐、AU調停で停戦受け入れ 南ア大統領
[10] リビア反体制派、AU提案を拒否 戦闘で子ども犠牲に 
[11] http://www.total.com/MEDIAS/MEDIAS_INFOS/4386/EN/Total-2010-document-reference-va-V1.pdf
[12]Shell forges Libyan gas deal (2005/5/3) BP Agrees Major Exploration and Production Deal with Libya(2007/5/29)
[13] Factbox: U.S. oil companies' interests in Libya Occidental Petroleumについては、同社の2010年版年次報告書
[14] ExxonMobil Commences Drilling Libya's First Deepwater Well(2009/7/16)
[15] リビア攻撃 重い課題背負った国連 (公明新聞、2011/2/29)
[16] くまくまDays~アデレードな日常~  


■「保護する責任」に関する報道など  

1.新聞報道
「保護する責任」前面に 苦い教訓生かせるか 国連 (2011/2/27、産経新聞)
国連総長、リビア空爆を擁護 「内政干渉にあたらず」(2011/3/21、朝日新聞)
リビア攻撃 重い課題背負った国連 (2011/3/29、公明新聞)  

2.ブログ
くまくまDays~アデレードな日常~
「保護する責任」から見たリビア空爆 (その1) (その2) (その3)

~異邦人から見た世界と日本~
REPORT:2011/3/30出演番組『ニュースの深層』で語られたことの全容


3.団体
保護する責任(Responsibility to Protect)を推進している団体
International Coalition for the Responsibility to Protect  

■国連安全保障理事会による最近のリビアに関する決議事項など
2011/2/25:25分間 Fundamental Issues of Peace, Security at Stake, Secretary-General Warns as He Briefs Security Council on Situation in Libya (25 February 2011)SC/10185
2/26: In Swift, Decisive Action, Security Council Imposes Tough Measures on Libyan Regime, Adopting Resolution 1970 in Wake of Crackdown on Protesters (26 February 2011)SC/10187/Rev.1
3/17: Security Council Approves ‘No-Fly Zone’ over Libya, Authorizing ‘All Necessary Measures’ to Protect Civilians, by Vote of 10 in Favour with 5 Abstentions (17 March 2011)SC/10200
3/24:17分間 Secretary-General, Briefing Security Council, Says International Community Must‘Continue to Act with Speed and Decision’for Sake Of Libyan Civilians (24 March 2011)SC/10210
3/28:10分間 Security Council Briefed by Chairman of Committee Established To Monitor Sanctions Imposed on Libya (28 March 2011)SC/10214
4/4:15分間 Difficult to Know How Long Resolving Libya Conflict Might Take, but Responsibility for Finding Solution Lay with Libyan People Themselves, Security Council Told (4 April 2011)SC/10217

2011/04/12

リビアからの脱出 (Part 2: 会社による社員救出)

「東日本大震災」が発生したのは、1ヶ月前の3月11日午後でした。死者・行方不明者は、27,000人と報道されています。お亡くなりになった方々とご遺族の皆様に対しお悔やみを申し上げます。被災された方々が一日も早く活力を取り戻しされることを、心よりお祈り申しげます。

私も少しですが、地震により損害を被りました。余震(あるいは別の地震の前震?)も不安です。それ加えて、TVで報道される被災地の映像、福島原発の事故、そして公共広告機構(AC)の単調でしつこい広告により、心理的にはひどく気落ちし、その状態が続いております。

ブログの更新をできずにおりましたが、気持ちを切り替えるため、PCに向かうことにしました。最初の数本の記事は古いニュースを紹介しますが、できるだけ早く、新しいニュースについて書きたいと思います。

さて、今回は第2回目です。
Part 1: 外国人労働者の内訳
Part 2: 会社による社員救出 (Part 3: 日本政府の邦人救出)を一緒にします。

北アフリカや中東で起こっている反政府運動・民主化運動は、かつて1960年代後半に世界中で起こった学生運動に似ている気がします。もしこの考えが正しければ、世界中の不満を持っている民衆が共鳴し、広がっていくでしょう。そのような国には選挙がなかったり、あっても不正なものだったにするので、民衆は暴力的行動にでる可能性が高いと思います。

日本人は世界中に滞在していますが、今回のリビアのような混乱が起こった場合、円滑に脱出することができるでしょうか?前回の記事で紹介したように、リビアでは多く外国人労働者がおりましたが、特に韓国と中国の脱出作戦には学ぶことがありますので、紹介します。

韓国の建設会社はリビアで韓国人だけで1400人、その他、インド・エジプト・マレーシアなど第3国の作業員を雇用していましたが、その企業に関係していた全員をリビアから脱出させました。


【 ニュース 】

1.韓国

リビア建設現場、韓国は外国人作業員たちを捨てなかった」 [1]

2日午後1時40分(以下、現地時間)。リビアのミスラタにギリシャ国籍の大型旅客船1隻(ニソスロドス号)が入港した。大宇(デウ)建設がリビア建設現場の作業員を退避させるために急いで借りた船だ。ロドス号が接岸する瞬間、港に集まっていた作業員は「助かった」「家に帰れる」と言って喜んだ。

ミスラタで船に乗ったのは計499人。このうち韓国人は55人だけだ。そのほかは大宇建設が雇用したインド・エジプト・マレーシアなど第3国の作業員だ。 

大宇建設はロドス号のほか、トリポリ・ベンガジにも旅客船1隻ずつを投入した。3隻の船で退避させる大宇建設の作業員は計2772人。このうち韓国人は164人。

  エジプト作業員のムハムマド(38)は「会社(大宇建設)が私たちのことまで考えてくれるとは思っていなかった」とし「韓国建設が強国の地位に上がったのには理由があった」と涙を浮かべた。

  大宇建設は第3国の作業員が各自の故郷へ帰れるよう航空券も準備した。航空料と船舶運賃・賃貸料を合わせると60億ウォン(約4億7000万円)を超える。大宇建設の徐綜郁(ソ・ジョンウク)社長は「今はお金が問題ではなく作業員の安全が優先」と述べた。

  大宇だけではない。現代(ヒョンデ)建設も旅客船2隻を借りてスルテから約730人(韓国人94人)を避難させた。現代建設の金重謙(キム・ジュンギョム)社長は「第3国の人も韓国人もみんな同僚。生死をともにするのは当然だ」と語った。

  他国の建設会社の多くは第3国の作業員の面倒を見ない。このためエジプト・チュニジアの国境には外国の建設会社が雇用した第3国の人たちが難民になって集まっている。

  国土海洋部のド・テホ中東対策班長は「外国の建設会社が自国民だけを救出し、(リビア国境には)難民が増えている」とし「第3国の作業員まで避難させる会社は事実上、韓国の建設会社しかない」と説明した。

  現代建設が手配した船に乗ったマレーシアのアリ氏(31)は「(韓国の建設会社に雇用された)私は運がよかった。他国の会社の建設現場で働いている故郷の友人は難民になった」と話した。

  危険な状況であるほど輝きを放つ「家族意識」は‘建設韓流’の原動力だ。海外建設協会のイ・ジェギュン会長は「昨年、韓国の建設は半導体・自動車より多い715億ドルを稼いだ。こうした建設韓流は国内企業が人道主義に基づいて信頼を積み重ねてきたおかげ」と評価した。

  03年にも前例がある。米軍がクウェートを侵攻したイラク軍隊を爆撃する時、SK建設はチャーター機を動員し、第3国の作業員を安全地帯に避難させた。この時に感動を受けた作業員は戦争が終わっていないにもかかわらず自ら復帰し、工事を適時に終えることができた。

2.中国

「リビアから中国人救出、国力増強の表れ」 [2]

北京時間3月2日夜までに、帰国を申し込んだ中国人、合わせて3万5860人がすべて救出されました。これは中華人民共和国にとり「建国以来最大規模」の海外での自国民救出活動となります。
2月16日、リビアの治安状況が重大局面に陥って以来、各国は自国民をリビアから引き揚げるようになりました。

中国は自国民の救出においていくつかの困難に直面していました。まず、帰国願望のある人が多く、しかも救出時間が短いこと。10日間以内に3万人以上を安全かつ秩序をもった救出をすることは未曾有のことです。また、救出しようとする人が離れた場所にいること。中国人がリビアのあちこちに散在しており、一部中国系プロジェクトのキャンプは砂漠の奥にあり、これらの人々を安全に集めることは一大事です。さらに、リビアの状況が複雑なこと。リビアは混乱状態にあり、交通機関や公共施設がほとんど麻痺状態に陥っています。

今回の救出活動にあたっては民間航空機や船舶、長距離バスなど様々な手段がとられ、さらに、軍用機や軍艦も用いられました。これは経済力がなければできないことです。

1990年代から、中国外務省は領事保護に関するメカニズムの構築に取り組みはじめました。ここ数年、中国政府は「外交は国民のため、国民を元とする外交」という理念を念頭に、最大の努力を払って海外にいる国民の利益を保護しています。このメカニズムによって、海外にいる中国人が危機に直面した場合、外交、空運、海運、華僑関連事務などの担当部門が歩調をあわせて、速やかに救出活動を進めることができます。

今回の救出活動で、ギリシャ、エジプト、チュニジア、マルタ、トルコなどの周辺国家から、通関手続きや大型フェリーのレンタル、宿泊ホテルの提供、大型旅客機の離発着など多方面にわたる支援が得られました。宋涛外務次官は「関係する国家は中国の救出活動に様々な便宜と協力を提供してくれた」として、「中国も可能な限り12の国の約2100人を助けた」と述べました。

今回の救出活動は中国政府が命を尊重し、人権を重視していることの表れでもあります。あるリビアから救出された人は政府の速やかな救出活動によって「中国人としての尊厳と中国人の団結力を感じた」と話しました。 (以下 略)

写真


【 解説 】


1.外国人労働者のリビア脱出

リビアの人口 約650万人の内、混乱の前に、リビアには外国人 150万人~250万人が働いていた。[3] 3月5日の国連発表によると、リビアを離れた外国人は19万人に達した。[4] リビアから陸路でチュニジアとエジプトに脱出した人数は14万人おり、その内相当数は難民状態になっている。[5]裕福な国の労働者は空路・海路で脱出して母国に帰国しているが、発展途上国からの労働者は陸路でチュニジアあるいはエジプトに向かっていると考えられる。

2.日本人の脱出の状況

(1) 平常時の邦人数は約100名(石油探鉱会社、商社など18社が進出している。)

(2) 2月22日以降動向
2/22:在留邦人数80人、その他旅行者7~8人 (23日現地発の民間航空機で出国する予定)
外務省は、リビア渡航延期を勧告した。[6]

2/23:日本政府は邦人救出のため、チャーター船1隻を派遣する方向で検討に入った。[7]

2/24:52人[8]

2/25:23人[9]
4人:米国のチャーター船による出国に向け待機中。
7人:トリポリから離れた地域に住んでいる。
3人:大使館員。
9人:現地で結婚するなどしており、出国の意思はない。

3/1:14人[10]
  4人:韓国がアレンジした船で出国予定。[11]
  1人:民間企業社員(@ベンガジ)[12]
  9人:現地で結婚するなどしており、出国の意思はない。

3/4:政府は閣議で、「邦人退避支援に係るマニュアルは存在しない」とする答弁書を決定した。(自民党の山谷えり子参院議員の質問主意書に対する答弁。)[13]


【 コメント 】

1.今回紹介した韓国の建設会社は、自国民の社員だけでなく、外国人労働者も救出した。大宇建設の社長は「今はお金が問題ではなく作業員の安全が優先」と述べ、また、現代建設の社長は「第3国の人も韓国人もみんな同僚。生死をともにするのは当然だ」と発言している。立派である。日本の建設会社はアルジェリアで高速道路を建設しているが(COJAAL アルジェリア東西高速道路建設工事)、万一、アルジェリアで同じ事態が発生したら、韓国の会社と同じように対処してもらいたい。

2.海外に滞在している邦人が脱出するケースは今回が最後ではないだろう。政府は、①自衛隊機(艦艇)の派遣について議論し、②「邦人退避支援マニュアル」の作成・法整備をして欲しい。

3.在外公館においては、当該国独自の避難マニュアルなどを作って、ホームページで公表、あるいは少なくとも在留者には周知させてもらいたい。なお、2月上旬にエジプトで大規模なデモが発生した際、在エジプト日本大使館は、HPやFM放送を使って邦人に情報を提供したが、参考になる。[14]


お役に立ちましたら クリックお願いします。
にほんブログ村 海外生活ブログ アフリカ情報へ 人気ブログランキングへ

【 参考文献 】

[1] 中央日報、2011/03/04
[2] CRI、2011/3/3
[3] 人口650万人:http://esa.un.org/unpp/index.asp
外国人労働者:
150万人の説 
http://www.immigrationmatters.co.uk/millions-of-migrant-workers-trapped-in-libya.html
http://www.trust.org/alertnet/news/un-plans-to-launch-libya-crisis-appeal-on-monday/
250万人の説
http://www.usatoday.com/news/world/2011-03-05-migrant-workers-libya_N.htm
[4] Over 190,000 flee Libya unrest: UN (2011/3/5)
[5] Over 140,000 flee Libya to Egypt and Tunisia, UNHCR steps up efforts to support refugees and civilians in Libya (2011/3/1)
[6] 邦人87人の安全確認=リビア渡航延期を勧告-外務省
[7] 日経 2011/2/14 「政府、リビア邦人救出へチャーター船検討」(リンク切れ)
[8] リビア在留の邦人退避へ 24日中にも (2/24)
[9] 7人のリビア邦人 なぜ政府は救えない
[10] リビアの在留邦人4人 出国へ (NHK,3/1)
[11] 日本の電機メーカー勤務。韓国企業が手がけている発電所のプラント事業に参加。
[12] 「リビア 最後の在留邦人が出国」(NHK,3/6)
[13] 「邦人退避マニュアルはない」政府が答弁書 国際情勢の悪化時(2011/3/4)
[14] 在エジプト日本大使館HP