2010/08/29

ソマリア海賊:法的手続きの統一化

重要物資を運んでいる船舶が、テロや海賊のターゲットになっています。最近マスコミの話題になったのは、ペルシャ湾(アラビア湾)で日本のタンカー(商船三井所有のM.Star号)がテロ攻撃の対象になり、鉄板の一部がへこんだ事件がありました。犯行声明を出した犯人は、いまだ逮捕されていません。[1]

ソマリア、アデン湾では、約30ヶ国が艦艇を派遣して船舶を護衛していますが、護衛範囲が限定されているため、海賊は手薄の地域で悪事をはたらいています。

海賊が捕まったとしてもその大部分は、その場で解放されたり、ソマリア近辺で解放されており、実際に裁判にかけられていません。裁判等の手続きが複雑だからです[2]。まさに、国連ではそれを検討しています。
クリックお願いします。
にほんブログ村 海外生活ブログ アフリカ情報へ人気ブログランキングへ

【 ニュース 】

 国連事務総長、海賊問題特別顧問を任命 [3] 

国連事務総長の報道官は26日に、パン・ギムン事務総長は、逮捕した海賊に対応する法律問題を解決するため、フランスのラング前教育相を国連の海賊問題特別顧問に任命したことを明らかにしました。

これにより、ラング特別顧問は、関連各国による海賊の逮捕や起訴を支援するため、必要とされる特別措置を確認します。また、パン・ギムン事務総長が提案した一つの国またはいくつかの国で海賊を審判する特別法廷を設置することなどについて、関連各国との協議を進めます。

国連の統計によりますと、今年ソマリアでの海賊行為が多発し、これまでの7ヶ月間で、139件の強奪事件が発生しました。船舶30隻が襲撃を受け、そのうち17隻が乗っ取られ、乗員450人が人質にされ、身代金が要求されました。(朱丹陽)

【 解説 】

1.国連の動き

2010/4/27、国連安保理は国連事務総長に対し、海賊の裁判のやり方(裁判所の場所、国連のかかわり合い方等のメカニズム)をどうするか報告書を提出するよう、要請した。

2010/7/26、事務局長は報告書を安保理に提出し、以下の7つ選択肢を示した。[4]

①国連が、ソマリア周辺地域の国のキャパシティービルディング(capacity building)をして、それらの国が海賊を起訴できるようにする。
②ソマリア以外に「ソマリア裁判所」(Somali court)を設置する。国連の参加が有るケースと無いケースがある。
③「特別法廷」(Special chamber)を一国あるは複数国に設置する。国連は参加しない。
④上記③と同じだが、国連が参加する。
⑤ソマリア周辺地域が多国間協定を結び、「地域法廷」(regional tribunal)を1つ設置する。国連は参加する。
⑥「国際法廷」(international tribunal)を、受け入れ国と国連との協定に基づき、設置する。
⑦「国際法廷」(international tribunal)を、国連憲章7章 (平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為に関する行動) に基づき設置する。


2010/8/27、上記の報告書を議論するため国連で会合が開催され[5]、フランスの法学者Jack Lang氏が、海賊に関するポリシー・アドバイザーに任命された。[6]


2.各国の訴訟の動き

(1)米国

3件の海賊事件でソマリア人が米国で起訴されている。[7]
①貨物船Maerst Alabamaへの海賊行為(2009/4/8)で、1名が逮捕された。海賊行為を認めており、2010/10/19に判決される予定。[8]

②米国戦艦 USS Nicholasへの海賊行為(2010/3/31)で、5名が逮捕された。海賊は、暗かったため、米国艦船を貨物船と間違ったようだ。8/17、裁判官は、「乗船されなかったし、船を占拠されたわけではない」という理由で、海賊行為にはあたらない、という判断をした。[9] 海賊達は、他の罪状でも起訴されている。

③米国戦艦 USS Ashlandへの海賊行為(2010/4/10)で、6名が逮捕された。


(2)ケニア

ケニアは、EU、米国、英国、カナダ、中国、デンマークとの間で、其々の国の艦艇が捕獲した海賊を裁判にかけるという協定があるが、2010/4/1、ケニアの外相は、「負担が大きすぎるので、これ以上海賊の被疑者を受け入れることはできない」と発言した[10]。しかし、翌月、ケース・バイ・ケースで起訴することに合意した。[11]


(3)オランダ

2009/1、5人のソマリア人海賊は、オランダ戦艦に逮捕された。2010/6/17、オランダの裁判所は5人に有罪判決(5年投獄)を下した[12]。これは、欧州で最初のソマリア海賊の裁判であり、オランダ以外に、スペイン、ドイツ、フランスが海賊を裁判にかける予定である。[13]

刑を終えて出所した後、オランダ政府が彼らをソマリアに帰国させることができるかが問題となるだろう。ソマリアの海賊は、留置所の生活は、ソマリアの生活より良いと考えている。被告の一人は、「ソマリアに帰国させられないよう、申請したい。オランダは人権を重視しているし、私はここにいたい。」「留置所の中でさえ、サッカーができ、テレビも見ることができるし、トイレも清潔だ。どんなところでもソマリアより良い。」[14]


(4)セーシェル

2010/7/26、セーシェルの裁判所は11人のソマリア人海賊を懲役10年の有罪判決を下した。
セーシェルには、その他29名が裁判を待っている。[15]


3.その他 (ロシアの行動)

原油タンカー Moscow Universityが、ソマリア沖合い560kmの地点で海賊に乗っ取られたが、2010/5、ロシア戦艦 Marshal Shaposhnikov が駆け付けて、特殊部隊がヘリコプターで降下し、10人の海賊を拿捕した。ロシア当局は、海賊をモスクワで起訴すると発表したが、結局、航行装置を取り外した上で解放した[16]。海賊は、陸にたどり着けず死亡したようである。


【 コメント 】

1.ソマリア沖合いで海賊になって逮捕されても、どこで裁判されるかによって、刑罰が違ってくる。そのために、統一したメカニズムをつくる必要がある。

2.今回のニュース記事は、中国のメディアの記事を引用した。日本の新聞があまり報道していないからである。また、船を護衛してもらっている日本の船舶関係の団体などが、海賊に関する情報を公開していないからである。

3.海賊行為を少なくする方法としては、以下のような選択肢があるが、どれを選ぶかは、最終的には「費用対効果」で決めることになるだろう。日本政府は艦艇やP-3C哨戒機を派遣しているが、どのくらいの費用がかかっているのだろうか?

①現状のように、各国政府が軍艦を派遣する。
②周辺国(イエメンなど)の海軍を増強して、警備を強化させる。
③ソマリアの漁村にPKO部隊を派遣して、海賊の船を出航させないようにする。
④海賊行為はビジネスになっているので、海賊を操っている組織を一掃する。
⑤長期的な課題だが、ソマリアの経済・治安を復興させる。


 なお、海賊船と漁船の判別の方法は、梯子の有無であるので、P-3C哨戒機は役立っているようだ[17]。ちなみに、漁船は自衛のためにAK-47自動小銃を保持しているとのこと。[18]


4.海賊が使うスピートボートには必ずといって良いほど「YAMAHA」の船外モーターが使われている。ソマリア近辺では販売しない、あるいは修理点検をしないなど、何か方法はないだろうか。


【 参考文献 】

[1] ホルムズ海峡タンカー爆発:損傷「テロ」 商船三井の被害船に爆薬痕跡--UAE報道
(毎日新聞、2010年8月7日)
http://mainichi.jp/select/world/news/20100807ddm001040016000c.html
[2] http://www.bbc.co.uk/podcasts/series/docarchive
[3] 国連事務総長、海賊問題特別顧問を任命 (China Radio International、2010/8/27)
http://japanese.cri.cn/881/2010/08/27/163s162946.htm
[4] Security Council (S/2010/394)
http://www.securitycouncilreport.org/atf/cf/%7B65BFCF9B-6D27-4E9C-8CD3-CF6E4FF96FF9%7D/Somalia%20S2010%20394.pdf
[5] News & Media (ビデオあり)
http://www.unmultimedia.org/tv/unifeed/d/15777.html
[6] Ban taps veteran French politician as special adviser on piracy off Somali coast (UN News Centre、2010/8/26)
http://www.un.org/apps/news/story.asp?NewsID=35729&Cr=&Cr1=
[7] U.S. charges 11 Somalis with piracy in ship attacks (2010/4/21、Reuters)
http://www.reuters.com/article/idUSTRE63M3BX20100423
[8] Somali admits in U.S. court to ship hijacking  (2010/5/18、Reuters)
http://www.reuters.com/article/idUSN18181095
[9] US Judge Throws Out Piracy Charges Against 6 Somalis (VOA、2010/8/17)
http://www.voanews.com/english/news/usa/US-Judge-Throws-Out-Piracy-Charges-Against-6-Somalis-100928709.html
[10] Kenya courts no longer accepting Somalia piracy cases (Jurist、2010/4/1)
http://jurist.org/paperchase/2010/04/kenya-courts-no-longer-accepting.php
[11] Kenya Agrees to Resume Prosecution of Somali Pirates (Business Week, 2010/5/19)
http://www.businessweek.com/news/2010-05-19/kenya-agrees-to-resume-prosecution-of-somali-pirates-update1-.html
[12] http://edition.cnn.com/2010/WORLD/europe/06/17/netherlands.pirate.trial/index.html
June 17, 2010
[13]http://www.globalpost.com/notebook/benelux/100525/somali-pirates-trial-rotterdam
(2010/5/25)
[14] Somali pirates embrace capture as route to Europe (2009/5/19、Daily Telegraph)
http://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/piracy/5350183/Somali-pirates-embrace-capture-as-route-to-Europe.html
[15]
Seychelles says 11 Somali raiders convicted in nation’s first piracy case
(Global Mail、2010/7/26)
http://www.theglobeandmail.com/news/world/africa-mideast/seychelles-says-11-somali-raiders-convicted-in-nations-first-piracy-case/article1651879/
[16] Captured Somali pirates 'evidently dead': Russia (France 24、2010/5/11)
http://www.france24.com/en/20100511-captured-somali-pirates-evidently-dead-russia
[17] 第6回「ソマリア沖海賊対策に関するコンタクト・グループ(CG)会合」(概要と評価)2010/6/11
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/pirate/somali_cg6.html
[18] Hi-tech navies take on Somalia's pirates (2010/6/16、Reuters)
http://www.reuters.com/article/idUSTRE65F2CS20100616


防衛省・自衛隊 ソマリア沖・アデン湾における海賊対処
http://www.mod.go.jp/j/approach/defense/somaria/index.html

総合幕僚監部
http://www.mod.go.jp/jso/kaizokutaisyo.htm

ソマリアの海賊
http://let-us-know-africa.blogspot.com/2010/05/blog-post.html

0 件のコメント:

コメントを投稿

コメントを確認してから公開する設定にしてありますので、公開を望まない方はその旨書いておいて下さい。Spam-like comments will NEVER be made public.