2010/12/20

中国とナミビアの関係: 低利融資とインフラ整備

ウィキリークス(Wikileaks)が米国の外交関係の文書をネット上で暴露した事件は、2010年の10大ニュースに入ると思います。そして、これから次のような問題点が議論されるでしょう。
①情報の入手方法は正当であったか?
②政府が外交を遂行するために公開にしたくない情報について、報道機関は自由に報道できるのか?また、国民はどこまで「知る権利」があるのか?

いずれにしても、これは国際問題の片鱗を知る貴重な資料であることは間違いないと思います。ただし、それが真実であるかどうかは、周辺情報を集めて判断する必要があります。

今回のエントリーでは、①WikiLeaksが暴露した記事、及び ②中国がナミビアの鉄道建設を請け負うようになった事情を紹介します。

【 ニュース 】

2010/12/15、VOA (Voice of America)は、WikiLeaksがナミビアと中国に関する暴露記事について、報道した。[1]
1.ナミビアは中国から融資を受けたが、返済できていない(defaultしている)。ナミビアが期限どおりに返済しない代わりに、中国から5,000家族を受け入れている。
2.ナミビアの人権団体(NAMRIGHTS)によれば、
①この事実が本当なら、「驚き」をとおりこして「ショック」である。
②ナミビア政府は、中国から借り入れをしているという事実は認めたが、具体的な金額は公表していない。US 8,000百万ドルという説もある。
③ナミビアにいる中国人は、ナミビア人の人権を侵していることで有名。我々(NAMRIGHTS)は、反中国運動をしようとしているのではなく、中国人を招いたナミビアの指導者が問題であると主張している。


【 解説 】

1.WikiLeaks

WikiLeaksが暴露した外交文書は、2006年2月、駐フランス米国大使館に勤務していた Josiah Rosenblatt参事官が本国に送った文書である。彼は、コートジボワールからトーゴへ武器密輸について調査するなかで、パリ在住の弁護士(Allain Feneon氏)から中国とナミビアに関する情報を得た。記事の原文[2]を要約する。

Feneon氏は次のように述べた。

・500社以上の中国会社がアフリカ進出に関心がある。その大部分は政府系の企業である。彼らは全てのビジネス分野に関心を示していた。
・ナミビアは中国からの借入金を返済できないことがあった。その時、中国は、「心配するな。5,000のパスポート(ビザ)と滞在許可をくれればよい。」と言った。その結果、5,000家族が中国からナミビアに来て、大なり小なりのビジネス活動をしている。
・中国にとって2つの問題が解決できた。1つ目は、人口増加の問題の対策であり、2つ目は、アフリカに中国コミュニティーをつくり、それが後々役立つ。


2.中国企業の仕事の取り方

上記のWikiLeaksの記事に関する情報を調べる過程で、ナミビア北部(Oshikango-Ondangwa間)の鉄道建設工事を中国企業が請け負うことになった事情が、断片的ではあるが分かった。中国の融資に関係するので紹介する。

図:  (クリックで拡大)

2009/2/3: ナミビア政府は、鉄道建設工事を入札にすることを発表した[3]。その前に、中国企業と南アフリカの企業が交渉していたようだ。
2009/7/1: 秘密メモが内閣に提出された。(内容は後述)
2009/7: 応札した唯一の会社であるShetu Trading社は入札資格がないと通告され、入札は取りやめになった。[3]
2009/7:
閣議決定により、中国企業に鉄道建設を請け負わせることが決まった。中国政府はナミビアに低利の融資(ソフトローン)を提供する。その代り、ナミビア政府は、鉄道建設に係る資機材の調達、労務、サービスについて入札にせず、中国側と交渉で決める。
2010/2:Shetu Tradingは、高等裁判所に対し、中国企業へ仕事をまわすのを中止するよう申請した。[3]


<秘密メモの内容> [4]
ナミビアは、中国のChina National Machinery and Equipment Import and Export Corporation (CMEC:中国機械設備進出口総公司)と南アフリカのLenning Rail Servicesと交渉していた。中国側が提示したのは、N$300百万を融資する代わりに、随意契約とする。金額は、①線路建設として N$773 百万、②レール代金として N$290 百万の合計 N$1,063 百万。一方、南アの会社が提示したのは、N$114 millionであった。ナミビア側が値下げ交渉をした結果、中国側は N$1,063 百万をN$597百万に値下げしN$1,000百万を融資することにした。


【 コメント 】

1.中国が融資する際には、人権問題、汚職、透明性などについての条件をつけないと言われてきたが、実際には、
①『一つの中国』政策を認めること。
②中国の内政に干渉しないこと。(先のノーベル平和賞受賞式に参加しないよう圧力をかけたことで明白である。)
③そして、本件のように、国際入札にしないこと。
----という条件をつけている。

2.アフリカ諸国にとって上記①と②の条件は経済的に損失ではないが、上記③については、損失になることがあるので、アフリカ諸国はいつまでも中国の言うことには従えないであろう。

3.中国から多数の"移民"がナミビアに存在する理由を、ナミビア国民が知ることになった。現在の指導者に対する国民の反感は強くなったはずだが、どの程度の反感になるのか、注目する必要がある。

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【 参考資料 】

[1] WikiLeaks: Namibia Allows Chinese Immigration to Repay Loans (2010/12/15)

その他、報道記事:
WikiLeaks: Lid lifted on Chinese-Namibia relations (2010/12/14)
WikiLeaks Reveals a Back-Door-Deal Culture on Chinese-Namibia relations (2010/12/14)

[2] Viewing cable 06PARIS741, TOGO: EX-MINISTER BOKO DISCUSSES RECENT EVENTS
[3] Railway tender to Chinese firm heading to court(2010/2/21)
[4] China heavily overcharges Namibia for railway projects (2009/7/23)

その他資料
中東、アフリカも自分の庭にしてしまう中国 (by 宮家邦彦)

4 件のコメント:

  1. いつも楽しみにみさせていただいていますSatoです。この記事は見過ごしていました。本当に(いっているように)透明なのかと疑問視されていた中国のアフリカ外交の一部をかいま見る情報ですね。是非今後も有用な情報をお伝えください。

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  2. コメントありがとうございました。
    中国が5,000家族のビザを欲しがったというニュースには驚きました。米国の外交官にとっても、本国に連絡するに値する情報だったのでしょう。ナミビア以外にも同じような事例がありそうです。

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  3. アフリカ開発経済学の授業で、中国のアフリカ進出についても語ろうとした矢先の記事でした。こうして専門的に情報を分析できることの凄さを感じました。WikiLeaksについては、その是非はかなり難しいのでコメントできませんが、このようなアフリカのガバナンスを是正する方向性をもった情報は有益だと私は思います。これからも素晴らしい分析をよろしくお願いします。

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  4. 私が連載300回になるまでは程遠いのですが、これまで約70の記事のタグを見ると、一番多いのが中国の関連記事です。
    1ヶ月前のテレビ番組で中国人の有識者が「中国は、市場・技術・資源を獲得したい」と発言していました。その目的は多くの国に共通していることことだと思いますが、手段については、欧米に比べると後発であるためか、他国とは違ったやり方になっています。中国がアフリカ諸国で成功するかどうかは、その国の一部の政治家だけでなく、広く「国民」に受け入れられるかどうかだと思います。そのためには、雇用に貢献し、また、最低限でも労働者としての人権を守るべきだと思います。(この問題はまた記事にする予定です。)

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