2011/02/13

マラウイ: 欧米諸国は「援助」で圧力をかけている

ネットで「マラウイ」を検索すると、「オナラ禁止令」がヒットします。国の品位を保つというのがその理由らしいのですが、国民から強い反対があり、法務大臣は、「オナラは刑罰の対象にしない。公害(pollution)を対象にする」と発表しました。[1]

マラウイでは日本人の感覚には馴染まないような法律や大統領令が制定されています。たとえば、
①大臣の権限で新聞・雑誌の出版を禁止することができる。[2]
②女性同士が性的関係を持つことを禁止する。(男性同士の関係は既に違法。)[3]
③警察官が泥棒を見つけた時、射殺することができる。(これまでは足などを撃つことはできた。)[4]
④ マラウイの平均寿命は53才なのに、公的年金の支給開始年齢を女性55才、男性60才とする法案をとおそうとしている。[5]

ドイツ、米国、EUは、上記①と②について強く反感をもっており、マラウイに対して、「good governanceを持たないと、援助しないぞ」と圧力をかけています。good governanceは日本語に訳しづらいのですが、「汚職をなくす。人権を尊重する」を意味します。[6]

マラウイは、一人あたりの国民総所得(Gross National Income)が280ドルで、国家予算収入の約40%を外国の援助に依存していますが[7]、欧米の圧力にどのように反応するか、日本としても注目する必要があります。


【 ニュース 】

マラウイと援助国との関係に関するニュースをまとめてみた。

1.英国

2010年3月、ムタリカ大統領がプライベートジェット機(9百万ポンド=$13.26 百万)を議会を通さずに購入した。英国は立腹して、援助予算を年間3百万ポンドを5年間減額することにした。(年間の援助額は、予定していた22百万ポンドを3百万ポンド減額して、19百万ポンドとした。)[8]

写真(クリックで拡大)


2.ドイツ

2011年2月1日、ドイツは、援助額を半額にすると発表した。報道の自由(anti-media freedom law)と同性愛禁止法を問題視している。援助として約束した金額は33百万ドルであり、その半額はすでに送金済であるが、残りの半額(現地通貨で 5,000百万Kwacha)については、これらの問題が解決するまでは援助しない、としている。[9]

3.米国

2011年1月5日、米国の援助庁であるミレニアム挑戦公社(MCC:Millinnium Challenge Corporation)はマラウイの電力インフラを整備するため、約350百万ドル(現地通貨では、52,000百万Kwacha)を援助すると発表した。[10] 

米国とマラウイが正式調印できるタイミングは、当該合意から議会通知期間である15日後であるが、その間に、マラウイでは報道の自由を制限する法律や同性愛に関する法律審議(通過)した。そのため、米国は正式調印することを延期した。


4.EU

EUは27ヶ国の加盟国があるので、まだ凍結するという結論に達したわけではない。しかしEUの在マラウイ大使は、「ガバナンスと人権問題を早急に改善しなければ援助を凍結する可能性がある」と示唆した。[11]


5.ノルウェー

ノルウェーは、マラウイに援助したお金が援助対象プロジェクト以外に使われたとして、21百万ノルウェークローネ(現地通貨では、588百万Kwacha)の返還を求めた。本件は、ノルウェー外務省の監査部の調査で判明したことであるが、汚職とか、ガバナンスとか無関係のことである。[12]

ただし、ノルウェーはマラウイの人権問題には注文をつけている。たとえば、2010年3月、ノルウェー国際発展省のエリク・ソルヘム大臣がマラウイを公式訪問した際に、マラウイに対して同性愛者に対してより寛容になること、ゲイ・レズビアンの迫害を止めることを求めた。[13]


【 解説 】

ビング・ワ・ムタリカ(Bingu Wa Mutharika、1934年2月生まれ、76才 )は、マラウイ共和国の経済学者、政治家。2004年5月から同国大統領(第3代目)である。2010年より1年間、アフリカ連合総会議長(Chairman)を務めている。

大統領は、援助国との関係に関して、次のように発言している。

(1) 2010年6月、プライベートジェットを購入した際に一部の国から批判された時、大統領は、「反対するのであれば、マラウイにある事務所を閉鎖すべきだ」と発言した。[14]

(2)2010年10月、韓国のプレス(聯合ニュース)による書面インタビューの中で、大統領は、「アフリカ諸国と供与国とは平等なパートナーになるべきで、主従関係になってはならないということも非常に重要だ。アフリカ諸国も供与国から抑圧的で退行的な援助条件を取り除き、開発議題を立案しなければならない」と答えた。[15]


【 コメント 】

1.オナラについてマラウイを笑うなかれ。

・フロリダ州では、公共の場所で木曜日の午後6時以降にオナラをすることは禁じられている。[16]
・多くの国で公共の場所で小便、吐痰、路上喫煙、吸い殻や空き缶などのポイ捨て 等は禁じられている


2.欧米の社会規範は普遍的なものではない。

欧米の援助国が被援助国に求めていること(汚職排除、人権尊重など)は、彼らの社会規範からみれば当然のことである。

私はこの点について、2つコメントしたい。

1つ目は、「援助国は『上から目線』で援助している」 と 民衆に思われないように 注意しなければしなければならない。

2つ目は、マラウイ大統領の考えは上述のとおりであるが、私は、大統領の考えにも一理ある、と考えている。(ただし、冒頭に述べた法律の内容から判断すると、大統領が取り組むべき問題の優先順位を取り違えていると思う。)

①これは日本の例であるが、欧州諸国は死刑制度を野蛮な制度だと信じており、日本に死刑制度の廃止を求めている。しかし、日本人の多数は死刑制度を支持しているので、そのような要求は無視している。マラウイも自国の価値観を守る権利はあるのである。

②仮定の話であるが、もし、マラウイが国際政治上重要な戦略的な国であったり、あるいは資源が豊富な国ならば、欧米諸国は援助を「圧力」の道具として使う(使える)だろうか? 恐らく欧米諸国は「国益」を優先するだろう。


3.欧米諸国だけが援助国ではない。

今後、次のような点に注目したい。
①欧米諸国が援助を凍結することで、国民にはどの程度の影響があるのだろうか?
②マラウイは、欧米諸国のように援助にあまり条件をつけない中国に対し、さらなる援助を求める、中国はその要請に応じるであろう。


4.米国ミレニアム挑戦公社(MCC)の評価基準

この記事を書いている中で、MCCが被援助国を評価する方法を知り得たので紹介する。下図が示すように、定量的かつ視覚的に評価している。評価基準は3つの大分類があり、その下にさらに小分類の評価基準がある。詳細は参考文献を参照されたい[17]。

図(クリックで拡大)

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【 参考文献 】

[1] Justice Minister admits anti-farting law gaffe (2011/2/4)
[2] Media freedom threatened in Malawi (2011/2/8)
[3] Malawi criminalizes lesbian sex (2011/2/10)
[4] Malawian president vindicates his "shoot to kill" order (2011/2/11-17)
[5] マラウイ年金、寿命後支給開始? 政府案に国民反発 (2010/11/20)
Pension Bill to benefit economy (2011/2/7)
[6] 「援助の流行語はロンドンから」 山本愛一郎
[7] 寒川富士夫駐マラウイ共和国特命全権大使より着任のご挨拶
[8] Malawi’s President Secretly Buys a Private Jet (2010/3/13)
Bingu Accused Of UK Aid Rip-Off (2010/8/8)
[9] Germany cuts aid to Malawi over homosexuality law(2011/2/4)
[10]プレス発表 MCC Board Selects Eligible Countries, Approves $350 Million Compact for Malawi
[11] EU may freeze aid for Malawi (2011/2/8)
[12] Norway asks Malawi to return aid funds (2011/02/09)
[13] ノルウェー、マラウイに対して拘留中のゲイカップルを釈放するよう要求 (2010/3/8)
[14] Luxury Jet 'cheap' for poor Malawi: Mutharika (2010/6/2)
[15] マラウイ大統領「アフリカの課題、韓国と協議したい」(2010/10/27)
[16] 25 Crazy Laws From Around the World
No Public Farting After 6pm And Other Strange Laws In Florida
[17] How Malawi can win back donor confidence, trust (2011/2/10)

●参考ブログ
スタートマラウイ (Start Malawi)
Malawi Voice

5 件のコメント:

  1.  Miyaさんのコメントに全く同感です。欧米の言う同性愛者の人権問題は、日本にいる私たちにはよくわかりますが、もし、アフリカの多重婚システムにまで、人権云々と言われたら、アフリカの伝統はどうなるのでしょうか。アフリカ諸国が援助をあえて断つ時代がそこまできているのかもしれません。

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  2. Tuji先生、実はこのエントリーは、先生の2/8付ブログ『マラウイの放屁禁止法案と国技』に書かれている「もし、反駁があれば、リアクションだけでなく、是非ともコメントして下さい。」という文言に触発されて書きました。調べていくなかで、いろいろな事実が分かりました。書きながら考え、考えながら書いて、このようなコメント(結論)になりました。

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  3. 欧米からの支援はどんどん減り、中国からの支援はどんどん増えていくでしょうね。
    私達、日本人はアメリカの影響を受けていますよね。私の世代(30ちょい前)は、昔の男尊女卑が当たり前だったときに生まれてなくてよかったと思い、さらに、母親・祖母の世代も(もちろん全員ではないにしろ)、昔より今の女の子は恵まれているねえ、とうらやましがります。アメリカの影響は全てよくはないにしろ、第二次世界大戦前よりも、現在の状況になってくれてよかったと、私は思っています。
    理由は異なるにせよ、今、中国がアフリカに影響をどんどん及ぼしています。こちらの影響は悪いものだと私は捉えています。
    確かに欧米的(日本もほぼこちらにふくまれるようです、死刑とか一部の事項を除いた大まかな考えが。)価値感が他の価値観に完全に取って代わってしまうならこまりますが、日本の女性の立場を考えると、まだまだ問題ありますが、より好きなように生きれるようになった等、いいことの方が多いのかも知れません。少なくとも、中国側に引かれていってしまうよりは。
    最近は、日本がこのために出来ること、単独で(中国への援助を考え直す等)、もしくは欧州・フランス等と協力して出来ることは何かと、自分で色々と考えています。
    大好きなアフリカがいいほうに流れて行ってくれるように。

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  4. コメントありがとうございました。

    1.価値観について

    文化と文化が触れ合う時、お互いに影響し合います。アフリカの人々が伝統文化を守るべきだと考えるのであれば、それは尊重すべきです。押し付けは、良くないし、そもそも受け入れないでしょう。

    中国は、中国の価値観をどの程度アフリカ諸国に迫っている(押し付けている)のでしょうか?同様に、欧米の場合はどうでしょうか? 恐らく、欧米のほうがその度合いは大きいのではないでしょうか。もしそれが正しいのであれば、価値観についてだけ考えるのであれば、アフリカ諸国は中国と付き合いたいはずです。ただし、汚職・腐敗の問題があるので、総合的に判断する必要がありますが。

    2.共同援助について

    日本単独の援助するよりは、他国と共同で援助したほうが相乗効果が生まれる可能性があると、考えます。私は韓国に注目しています。韓国は、短期間で発展途上国から援助国になった国ですし、アフリカ諸国が必要としている農業の近代化にも成功している国だからです。

    フランスにはアフリカ諸国の人が多くいます。経済力・文化など魅力があるからでしょう。日本が欧州・フランス等と協力して出来ることがあるはずですが、私は今のところ思いつきません。良い考えがあればブログで紹介して下さい。

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  5. ついでですので、最近、西アフリカの国の人から教えてもらったことがありますので、紹介します。

    「アフリカは53ヶ国あるが国単位だけでみてはダメだ。たとえば(彼の母国)では30以上の部族がいる。言葉も違う。方言があるというレベルではなく、全く違う言語だ。妻は別の部族出身なので、共通な言語は英語だ。日本人同士の会話であれば、言葉が少なくとも相手の言いたいことが推測できるが、アフリカでは同じ国でも部族が違うと理解できない。アフリカで紛争が多いのは部族問題が大きな要因となっている。」

    「アフリカ」と一括りにすることが間違っているのかもしれませんね。

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