2010/01/15

アルジェリアの東西高速道路建設工事

このエントリーでは、「国際的なビジネスを行っている日本の民間企業に対し、日本政府がどの程度支援すべきか」---という問題を考えてみます。

昨年末(2009/12)、日経新聞などが、アルジェリアで高速道路を建設している日本のジョイントベンチャーに関する記事を掲載しました。記事はあまりにも短く情報不足だったので、情報収集しました。

追記(2011/1/16):現場で働いている方のブログ「親方への道」が参考になります。


【 ニュース 】

日経新聞(2009/12/25) の記事 [1]

鹿島、海外大型工事に遅れ 損失発生は見通し示さず

鹿島の中村満義社長は24日、2010年に完成予定のアルジェリア東西高速道路建設工事について「約1年遅れており、(工期や支払い条件などの)変更を認めてもらうように発注者と交渉している」と述べた。
これによる損失発生の可能性については「(交渉で)努力している段階」とした。アルジェリアの高速道路工事は鹿島など5社のJVが2006年に約5400億円で工事を請け負った。当初は10年1月に完成する予定だった。


【 解説 】

1.基礎情報 [2]
アルジェリア高速道路公団は、チュニジア国境からモロッコ国境までの約1,200kmに、高速道路を建設する計画を立てた。工事は①東工区(399km)、②中工区(169km,部分的工事)、③西工区(350km)に分割され、入札に付された。(下図)

中国、米国、イタリアのJVも入札したが、日本JV(鹿島、大成建設、西松建設、ハザマ、伊藤忠商事)は入札額は最も高かったが、耐震設計技術などが評価されて、落札することができた。

(参考)事業概要
・総事業費=3410億D.A.(受注時のレートで約5400億円)
・工期は2006年9月~2010年1月 (40ヵ月)であったが、約1遅れている。
・工事が遅れている理由 (末尾参照)
①アルジェリア側の設計の問題
②資材調達・通関が困難
③脆い地質(粘土岩、マール(泥灰岩))
④悪天候
⑤テロ対策により爆薬の利用が制限される。

なお、中国のJVが請け負った中工区と西工区は予定通り2009年12月に完成している。[3]


高速道路地図 & 写真



3.本事業の意義

日本とアルジェリアの継続的関係に寄与する事業である。
・日本の企業が外貨を稼ぐ案件である。道路建設では最大級の案件。
・日本と中国の技術力を比較する案件である。
・この事業は建設後も人材育成をすることになり、日本とアルジェリアの関係が継続する。(末尾参照)


【 コメント 】

1.新聞社の責任

日経新聞の記事を読んだ時、「日本の建設会社は工期を守れないのか!」と唖然としたが、情報収集したところそれなりの理由があることを理解した。新聞社は、会社の評判や株価に影響を与える記事であればあるほど、きちんと説明する義務があると考える。

2.政治家の役割

欧米の政治家(それもトップレベルの政治家)は、自国の会社のために、各国を訪問している。なぜならば、ビジネスに係る多くの場合において、最終的な判断はホスト国の大統領や首相が判断を下すケースが多いからである。

アフリカではないが、最近の例としてあげるならば、原子力発電の売り込みのため、韓国の李明博大統領がアブダビを訪問している。(日立製作所とゼネラル・エレクトリックを中心とする日米企業連合は敗退した。日本の首脳は訪問していない。)

本件(アルジェリアでの道路工事の納期遅延問題)の場合も、政治的決着になる可能性があるので、日本の政府による政治的支援が欲しいところである。

民間のことは民間にまかせるべきである、という意見もあるが、政治家が自国の国益を考えるのは当然のことである。そもそも日本企業が国外で仕事ができるようにしたり、あるいは日本企業の利益が犯されないようにするのが、政治家の役割の1つである。これが「世界の常識」、「世界のやり方」なのである。


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【 参考資料 】

[1] 「鹿島、海外大型工事に遅れ 損失発生は見通し示さず」 日経新聞(2009/12/25)
http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20091225AT1D240BP24122009.html

[2] 事業概要

①COJAAL アルジェリア東西高速道路建設工事(東工事)のWeb Page
http://www.cojaal-project.com/

②アルジェリア東西高速道路建設工事(東工区)石田 稔
http://dokokyo.or.jp/ce/ce0901/kensetukigyou.html

③アルジェリア現地ルポ(1~9) by 中川美帆 http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/article/const/news/20090427/532309/

④アルジェリア現地ルポ
もろい地山やテロと闘う日本勢 by 中川美帆
石田所長インタビュー
日経コンストラクション(2009/4/24)

[3] 「China-built expressway opens in Algeria」(人民日報, 2009/12/21)
http://english.people.com.cn/90001/90776/90883/6848142.html

[4] 西日本高速会社・石田孝会長/アフリカで人材養成へ/トレセン設置構想表明
日刊建設工業新聞(2009/12/11)



発注者との折衝は今年が勝負 [上記 2-④]

石田 稔氏(アルジェリア東西高速道路建設工事JV総合事務所総合所長)─インタビュー

発注者との交渉や資材調達の難しさなどで、不採算が懸念される海外の土木工事。日本の建設会社にとって久々のアルジェリアでのプロジェクトとなるこの工事はどうなのだろうか。

─工期に間に合うのか。

工事の進ちょく率は2月時点で40%ほど。予定より遅れている個所がある。40カ月の契約工期は本体工事だけの分で、ほかにインターチェンジの設置や光ケーブルの敷設など様々な追加工事がある。
工事の半分は40カ月で終えるようにする。残り半分は、我々だけでは解決できないアルジェリア特有の問題があるので、工期延長を求めていく。今年は、工事と発注者との折衝で勝負の年になる。

─アルジェリア特有の問題とは?

設計・施工の元になる図面が10年以上前のもので、正確さに欠けていたので、長さ400kmの航空測量から始めた。しかし、テロの危険があるからと、なかなか許可が下りない。ボーリング調査をするにも機械を集めるだけで苦労した。
工事が始まっても、発注者側の現場監理者が2008年10月まで不在で、権限のないアルジェリア人がその立場にいた。その間、我々にとっての意思決定者がいなかったが、仕事を進めないわけにはいかない。やり直し覚悟で進めた。追加変更はなかなか承認されず、工期を食った。

─自然条件も厳しい。

土工事は、少ない雨量ですぐできなくなる。特に2008年10月からは悪天候が続き、2009年1月~2月の稼働率は10%ほどだった。
トンネル工事は、すべり面にある膨張性地山を掘削する難工事だ。地山が変われば工法も変えないといけないことを発注者に分かってもらうのもひと苦労だった。

─資材は調達できるのか。

品不足の国で400km分の資材を調達するのは大変。特に火薬は、テロにつながる危険があるので、取り扱いに非常に敏感だ。
アスファルトとセメントもタイムリーに手に入らない。石油は出るが、ガスが多すぎてアスファルトに向かないので輸入している。しかも中工区と西工区を請け負う中国連合との取り合いだ。セメントは工場によって品質が異なり、良いものを確保するには200km離れた場所からでも持って来ないといけない。

─資材価格の変動の影響は。

セメントと燃料の価格は統制されているので、ほとんど一定。輸入している一般資材は、世界の動きに連動していて、鉄筋は2008年の4月~9月に40%ほど上がった。だが、インフレ率を補てんする、日本で言うエスカレーション条項が契約に入っている。

─追加変更分の代金はもらえるか。

どれだけ数量が増えるかで異なるが、ある程度は。ランプサム契約(固定価格での契約)ではなく単価契約なので、例えば1が10の量になれば代金は10倍になる。

─このプロジェクトが業績に与える影響は?

大きな影響はないとみている。数量がどれだけ増えて、工期がどこまで延びるかで多少の変動はあるが、リスクを回避しながら契約している。しかるべき利益を出していく。

─南に2本目の東西高速道路を造って、それを南北に結ぶ計画もある。この工事の受注も狙うのか。

発注者はニンジンをぶら下げて「次がある」と言う。我々は「契約を守ってくれないと、やらない」と言っている。適切な代金が支払われて、きちんとした仕様があることが大前提だ。将来はトルコを通って欧州諸国とつなぐ構想もある。このプロジェクトが先駆けになって、早く開通できるように貢献したい。

いしだ・みのる
1947年東京生まれ。69年鹿島入社。最初の海外赴任地はイラン。以後、東南アジアを中心に約35年間、海外で仕事をしている



アフリカで人材養成へ [上記 4]

西日本高速道路会社の石田孝会長は、9日に東京都内で行った記者会見で、「近い将来、高速道路の維持・管理業務を教えるトレーニングセンターをアフリカにつくり、現地人によるマネジメント、メンテナンスができるよう養成したい」との構想を明らかにした。同社は海外への事業展開の一環として、アルジェリアの東西高速道路建設工事の施工JVに職員を派遣しており、石田会長は「道路建設をサポートするだけでなく、ワーカーを育てるのも責務だ」との考えを示した。トレーニングセンターの具体的な設置時期や国・地域は決まっていないという。

石田会長は、先にアルジェリア東西高速道路建設工事の現場を訪問した感想を踏まえ、「メンテナンスの仕事は50年後もあり、そのころには現地の方にやってもらえるよう技術指導しなければならない」と指摘。今後、国際貢献の取り組みの中で訓練施設を設置する方針を示した。

石田会長によると、現在の高速道路計画だと、2020年以降、同社が新たに建設する道路は無くなる見通しで、「(同社が保有する)道路建設技術が陳腐化する恐れがある」と懸念を表明。その上で、「新しい技術でつくられた道路を維持・保全するには、それに対応したレベルの技術力が求められる。道路を必要とする国に技術的な支援をしたい」と述べ、技術レベルの維持と国際貢献の両面から今後、海外展開に積極的に取り組んでいく方針を示した。

アルジェリア東西高速道路工事は全長1200キロのうち東側の400キロを鹿島・大成建設・西松建設・ハザマ・伊藤忠JVが施工。契約工期は10年1月18日までの40カ月。

9 件のコメント:

  1. 鹿島の方へ

    貴社の土壌汚染対策技術をナイジェリアで使えるはずです。是非ビジネスに結び付けて下さい。費用は石油会社に負担させることができるはずです。

    次のブログをお読み下さい。

    ナイジェリアの油汚染土壌の改良
    http://let-us-know-africa.blogspot.com/2009/12/blog-post.html

    ナイジェリアの民事事件をオランダの裁判所が裁く
    http://let-us-know-africa.blogspot.com/2010/01/blog-post.html

    返信削除
  2. 週刊文春(2010/9/23号)は、「鹿島 過去最大の海外受注工事(5400億円)が 暗礁に乗り上げた。日本人570人がアフリカで"軟禁状態"」という記事を掲載した。一部抜粋する。

    -----抜粋開始------

    大手建設会社幹部が解説する。
    「工事が難航している主な理由は二つ。1つは、当初の契約になかった追加工事が増えたことで時間と金がかかってしまった。しかも増えた分の工事代金をアルジェリアが支払わない。二つ目は、例えばトンネルを掘るにも、予想以上に崩れやすい地質だったこと。」

    (中略)

    一月末の期限は延長され、「八月二十二日までの契約」(国交省関係者)となったのだった。

    (中略)

    六月末には鹿島の顧問・谷内正太郎元外務次官がアルジェリアに渡り、現地の大臣らと会談。七月には鹿島の梅田貞夫会長自らも現地に乗り込んだ。

    しかし交渉は進まないまま、ずるずると八月の期限は過ぎてしまい「今では一日四千万の違約金が発生している」(関係者)という。

    (中略)

    もし工事を継続したとしても、「完成させるには、あと一年以上はかかる」(関係者)のだという。

    -----抜粋終了------

    コメント:
    工事の中断という選択肢はないだろう。日本企業の威信を損なうことになるし、損害賠償を求められる。
    交渉で解決しなかったら、国際仲裁裁判所に提訴するべきである。アルジェリアは、スペインの石油・ガス会社など訴訟していたし、問題の解決方法の1つだと考えている。ただし、優秀な法律事務所を雇うべきである。
    アルジェリアの社会は、賄賂を無くすように努力しており、日本企業の誠実さをアピールすべきである。

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  3. 2010/12/3、日経新聞は、「アルジェリア高速道路、工期2年延長 鹿島など4社」という記事を掲載しました。記事の題でネット検索すれば、一部のみ閲覧可能です。

    著作権の問題があるので、全文を掲載できないので、以下、ポイントのみ書いておきます。

    ・完成時期が当初計画よりも2年遅れ、早くても2012年1月になる。
    ・アルジェリアの高速道路公団と交渉し、工期を2年延長する。
    ・(工事の出来高に応じた代金の回収などについて)協議して工事を進めている。(鹿島)
    ・アルジェリアの工事で代金回収が遅れれば、ゼネコン各社は損失処理に踏み切る可能性がある。
    ・工事の進捗率は7割程度。

    ------

     前原誠司外相は12/3以下を発表した。
    ・8~14日の日程でインドネシア、チュニジア、アルジェリアの3カ国を訪問する。
    ・日本の外相がアルジェリアを訪れるのは初めて。

    ●コメント:彼がアルジェリアの高速道路問題について、どのような発言をするのか、注目したい。

    返信削除
  4. 朝日新聞(2010/12/14)
    アルジェリア高速建設、日本側に1千億円超未払い
    http://www.asahi.com/business/update/1214/TKY201012130425.html

    東洋経済(2010/12/15)
    アルジェリアの高速道路建設が頓挫、鹿島が被る巨額損失
    http://www.toyokeizai.net/business/strategy/detail/AC/de66e328d9647d1c21e2a83b3ee1c373/

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  5. これまで、JV4社は総額200億~400億円程度の損失を見込み、処理を進めていた。しかし、最近になって総額800億円超の損失が発生するとの見通しが提示された。

    「鹿島JV:損失800億円超 アルジェリア工事で」(毎日、2011/3/5)
    http://mainichi.jp/select/world/news/20110305k0000m020158000c.html

    コメント:アルジェリア政府を相手にして提訴すればいいのに! 何もしないと、株主から訴訟を起こされると思うが、どうだろう。

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  6. 非納税者2011/03/09 15:24

    何をどうしてもいいけど、日本国の税金には縋らないでくれ。

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  7. 非納税者さんへ、
    日本とイランの石油化学プロジェクト「IJPC」から日本が撤退しましたが、日本貿易保険(NEXI)は、IJPCに対し777億円を支払っています。それにより、三井グループは救済されたと思います。
    http://www.meti.go.jp/committee/materials2/downloadfiles/g100527c03j02.pdf
    http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/093/0410/09310150410001a.html

    もし政府が、「アルジェリアは産油国だ」とか「ナショナルプロジェクト云々」と言いだした時は、気をつけなければならないと思います。

    返信削除
  8. 田嶋弘志執行役員(アルジェリア東西高速道路建設JV総合事務所所長)によると、高速道路は2014年以前には完成せず、アルジェリア高速道路公団と費用について交渉中とのこと。(2012/9/2付 El Moudjahid)
    http://www.elmoudjahid.com/fr/actualites/32405

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