2010/12/12

アルジェリアのソーラープロジェクト

日本のグループ、ドイツのグループが、アルジェリアにおいて、ソーラー・プロジェクトを進めています。

【 ニュース 】

1.日本の「サハラ・ソーラー・ブリーダー計画」
11月下旬から12月上旬にかけて、CBS Newsなどの外国の報道機関が、日本のグループが提唱している「サハラ・ソーラー・ブリーダー計画」(Sahara Solar Breeder Project)について報道した[1]。

2.ドイツによる「Desertecソーラー計画」
2010/12/8、アルジェリアのブーテフリカ大統領はドイツを訪問し、メルケル首相と面談した。両国は、再生可能エネルギーの分野と、石油・ガス開発の分野との分野において、協力することについて合意し、また、10年以内に欧州の電力の20%を供給するという「Desertecソーラー計画」の推進を確認した[2]。

3.住友電気工業の超電導線増産計画
2010/11/25、日経新聞は、「住友電気工業と昭和電線ホールディングスはそれぞれ2011年から、電気抵抗をなくし電気の利用効率を高める超電導線を量産する。」と報道した。(記事は末尾参照)


【 解説 】

1.サハラソーラーブリーダー計画(Sahara Solar Breeder Project)とは?

(1)概要は?
①サハラ砂漠にソーラー発電所を建設し、②別に砂漠の砂に含まれるシリコンを生産する。
生産されたシリコンを使ってソーラーパネルを生産し、そのソーラーパネルを使って発電所を建設する。これを増殖的に(ブリーダー的に)繰り返す。

初期においては、
①アルジェリアのオラン科学技術大学に「サハラ太陽エネルギー研究センター」を設置する。
②シリカと炭材の高純化技術を開発し、ソーラー級シリコン新合成法を開発する。
③年間1トン規模プラントを建設する。
④センターを拠点とする新エネルギー工学に関する人材育成などを行う。[4]

発電方式は太陽光発電[5]、送電方式は高温超伝導直流送電[6]を想定している。

(2)実施者は?
研究代表者は鯉沼秀臣教授(東京大学大学院新領域創成科学研究科)[4]
共同研究機関は、東京大学、弘前大学、物質・材料研究機構、東京工業大学、中部大学、国立情報学研究所。

(3)目標は?
2050年には人類の使うエネルギーの50%を太陽光により変換した電気エネルギーで賄う。[1]

(4)予算は?
現在は基礎研究の段階にあるので、5年間の予算は5~6億円程度であると想定される。鯉沼教授は、次のように発言している。「これは5年のタームで年間トータルで1億円の研究費で、国内には3千万円ですから、とてもそんなお金では完成までは行きません。」[8] 



英語版

2.Desertec projectとは?

(1)概要は?
Desertecとは、サハラ砂漠(Desert)に高圧直流送電(HVDC)網太陽熱発電所を建設し、とTechnology(技術)を組み合わせた造語である。

発電方式は太陽熱発電、送電方式は高圧直流送電 (high-voltage, direct current: HVDC) を想定している。

(2)実施者は?
エンジニアリング企業、送電線の会社、電力会社、銀行、再保険会社など12社が、推進母体であるDESERTEC Industrial Initiative (DII)を設立した。[9]

(3)目標は?
2050年までに、①欧州の電力需要の15%と、②発電する現地の電力需要の大半を賄う。

(4)費用は?
400,000百万ユーロ(520,000百万ドル=43兆円)[10]


【 コメント 】

1.2つのプロジェクト

どちらのプロジェクトも巨額な費用がかかるので、実現できるかどうかは分からない。

あえて2つのプロジェクトの違いを述べると、
①Desertecは、電力会社を含む12社が参加しているし、マーケットも決まっている。
②一方、サハラ・ソーラー・ブリーダー計画は、基礎研究の段階ということもあり、企業は参加していないし、予算も小さい。

サハラ・ソーラー・ブリーダー計画については、企業に参加してもらうことが重要だと考える。北アフリカにおけるソーラーエネルギーの利用は、最終的にはビジネスとして成り立つか否かという問題であり、また、それは他のプロジェクトとの競争であるからである。

2.費用の調達

メキシコ・カンクンで行われた気候変動枠組み条約第16回締約国会議(COP16)が終了したが、先進国は、地球温暖化で損害を被る発展途上国に、資金援助することになるだろう。恐らく主に土地利用に係る被害を補うために使われるのだろうが、今回紹介したようなソーラーエネルギーの開発の費用も、その基金から支出するような仕組みができないものか。

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【 参考文献 】
[1]
2010/12/2: Sahara desert project aims to power half the world by 2050
2010/12/1: Sahara Seen as Key to Self-Replicating Energy
2010/12/1: Scientist wants to solve energy crisis with Saharan sand
2010/11/30: Sun and sand breed Sahara solar power
2010/11/28: Sahara Solar Breeder Project Would Power World With Sand
2010/11/24: Sahara Solar Breeder Project aims to provide 50 percent of the world’s electricity by 2050

[2] http://bikyamasr.com/wordpress/?p=23039
[3] http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90920013&sid=assGmOU3EE.0
[4] http://www.jst.go.jp/global/kadai/h2202_algeria.html
[5] ソーラー発電の種類には2つの種類がある。
①太陽光発電は、光を直接エネルギー(電気)に変換する発電方法です。一般家庭の屋根の上に設置しているものです。
②太陽熱発電は、凹面鏡などを使って太陽光を集めて得られた熱で水を沸騰させ、タービンを回して発電する方法です。日中に熱貯蔵タンクに熱を貯め、夜間にその熱で発電することが可能です。(この方法については、過去のブログ記事を参考にして下さい。)
[6] 住友電工は、「世界初 200メートル超電導直流送電に成功」した。「直流の超電導送電は、交流送電に比べて送電損失を1/10に抑える」ことができる。そして、この量産体制が整った。[7]
[7] http://www.sei.co.jp/newsletter/2010/04/7a.html
[8] http://jp.diginfo.tv/2010/10/10-0135-r-jp.php
[9] http://www.munichre.co.jp/public/PDF/Press_j_D2.pdf
http://www.desertec.org/en/press/press-releases/090713-01-assembly-desertec-industrial-initiative/
[10] http://www.monstersandcritics.com/news/europe/features/article_1602834.php/Europe-turns-to-Africa-for-energy-from-the-sun-Feature

その他資料
東京大学生産技術研究所 「Sahara Solar Breeder Project (SSB計画)」
化学業界の話題「DESERTEC プロジェクト スタート」
大型太陽熱発電プロジェクト構想イニシアティブ“Desertec”

以下の2つの記事はいずれも抜粋。

住友電工など超電導線量産 次世代送電網やエコカーに (2010/11/25、日本経済新聞)

住友電気工業と昭和電線ホールディングスはそれぞれ2011年から、電気抵抗をなくし電気の利用効率を高める超電導線を量産する。国内外でスマートグリッド(次世代送電網)やエコカーのモーター向けに供給を目指す。競合する米国や韓国勢に先駆けて本格的な量産に入り、世界市場で優位に立つ。
一般的な銅電線から超電導線に置き換えると、電力の損失が大幅に減り、電気の節約や機器の性能向上につながる。大規模工場では電気を2割以上節約できるという。電気自動車などのモーターに使うと走行距離を十数~25%程度延ばせる。(略)
超電導線は特殊な合金でつくった線を液体窒素を満たした管に入れ、冷やしながら電気を流す。一般の銅電線に比べて製造工程が複雑で現状の製造コストは2倍だが、それでも生産技術の改良などにより過去7年ほどでコストは半減し、電力会社などが実用化を考える水準に近づいた。
しかも電気の利用効率を高める技術への関心は高まっている。スマートグリッドでは遠隔地の太陽光や風力発電からの効率的な送電が重要。ガソリン車に比べて走行距離が短い電気自動車も電気をいかに節約するかが普及のカギで、超電導線への期待は高い。


住友電工株が反発、超電導線事業の将来寄与を期待-生産能力倍増へ (2010/11/25、ブルームバーグ) [3]

11月25日(ブルームバーグ):電線大手の住友電気工業の株価が一時、前日比4.3%高の1126円まで反発。大容量の電力を低損失で送電できる超電導線の量産化にめどが立ったため、同社の技術力への評価や将来の収益寄与への期待が高まった。
住友電工は2011年中に大阪製作所(大阪市)で、ビスマス系と呼ぶ送電網に向いた超電導線の生産能力を年間1000キロメートルに倍増する計画だ。同社広報担当の酒井茉莉氏が25日付の日本経済新聞朝刊の報道を認める形で明らかにした。同紙によると、増産によって生産規模で米アメリカン・スーパーコンダクターを抜き世界最大手となり、生産コストも量産効果で現状から約3割下がるという。(略)
ブルームバーグ・ニュースは9月24日に、住友電工が超電導線の電流密度を従来比1.5倍に引き上げる技術を確立したと報道。超電導線の生産能力についても、年間約500キロメートルの現状から「1-2年後には倍ぐらいにすることを検討している」という超電導担当技師長の佐藤謙一氏の発言を載せている。(略)

3 件のコメント:

  1. 「サハラの砂から太陽電池材料 JICA・東大、現地で共同研究 生産技術、5年でメド」
    2010/12/16付 日経新聞夕刊

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  2. 今日は、現代社会/アフリカ開発経済学の授業でBOPの話をしていました。この話、私が中心課題としているサブサハラ=アフリカのビジネスではありませんが、十分参考になります。是非とも紹介したいと思います。

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  3. コメントありがとうございます。
    アフリカ開発経済学の授業を受けられる生徒達が羨ましいです。アフリカへの投資に関するネタが1つあり、数日後には掲載できますので、また見に来て下さい。
    蛇足ですが、このエントリーは12月12日にアップしましたが、その2日後に日経新聞が記事にましたので、私の"スクープ"(??)です。

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