2010/09/05

中国はいつまで被援助国の地位に留まりたいのか?

中国の経済成長には目を見張るものがあります。外貨準備高、自動車販売台数、エネルギー消費量[1]は世界第1位ですし、GDPと軍備費は世界第2位です。

小泉政権は、2004年、「もう卒業の時期を迎えているんじゃないか。順調に経済発展を遂げ、早くODAからの卒業生になることを期待している。」と発言しました[2]。 それにもかかわらず、日本は中国の保健や教育の分野に援助しています。[3]

英国のミッチェル国際開発相は、2010年8月、「中国に毎年援助していた4,000万ポンド(注:52億円) は、経済発展が世界で最も著しくかつ間もなく世界第二位の経済大国になる中国ではなく、他の国においてこそ意義ある使い方ができる。」と述べ、中国向けの援助を取りやめると発表しました。[4]

今回のエントリーでは、「世界エイズ・結核・マラリア対策基金」(以下「世界基金」という。) の資金援助をめぐり、中国が話題になっていますので紹介します。

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【 ニュース 】

1.2010年6月末、世界基金の理事長(Michel Kazatchkine博士)は、中国を訪問し、季克強(Li Keqiang)副首相と面談した[5]。 理事長は、中国が資金提供するように求めたが、副首相は「考えておきましょう」と答えた。[6]

2.Jack C. Chow 博士の意見書

2010年7月19日、Foreign Policyは、米国のJack C. Chow 博士の意見書を掲載した[7]。Chow博士は、 2001年から2003年にかけて、世界HIV/AIDSプログラム大使 (U.S. ambassador on global HIV/AIDS)の担当大使であり、世界基金の設立にも関与した。[8]

・世界基金を設立した時に想定していたのは、サブサハラのアフリカ、南米、中央アジアの諸国が援助を受けることだった。しかし、現実は、エチオピア、インド、タンザニアの次に中国が援助金を受け取っている。
・世界基金は資金不足になっており、各国に追加拠出を求めているところだが、中国がその資金を受け取るような状況では、寄付する国を躊躇させてしまう。
・アフリカ諸国は中国からの投資が必要なので、沈黙している。
・寄付をしている先進国も、中国との関係を悪化させないようにするため、沈黙している。
・ロシアは、援助を受け入れていたが、2006年からは拠出するようになり、それまで受け取った金額も世界基金に戻した。

3.反論

2010年8月19日、Drew Thompson氏(Nixon Center)と Jia Ping氏(北京のNGOであるGlobal Fund Watch)が、同じForeign Policy に反論を書いている。[9]

・Chow博士のForeign Policyへの寄稿文で、中国への資金援助は、サブサハラ諸国への治療を犠牲にしている---と書かれているが、それは間違った結論である。
・サブサハラ諸国への援助と中国への援助はゼロ-サム(zero-sum)の関係にはない。
・世界基金は、①結果が出るプロジェクトに援助金が支給される。また、②受入組織に透明性があり、責任があり、ガバナンス(管理)されている組織に支給される。こういうプロセスがあるので、中国の役所、そして、長期的には中国の政治をを変えていくことができる。
・世界基金は中国政府と国際的コミュニティの対話を促進し、その結果、透明性、説明責任、そして民主化のプロセスに寄与する。
・中国は現在、海洋問題、人権、台湾、チベット、貿易など緊張をもたらす問題を抱えている。このようなk状況下においては、米国が世界基金に資金を提供し、また中国を支援することは重要である。


【 解説 】

1.世界基金とは

世界で年間約500万人の命を奪いっている三大感染症(エイズ、結核、マラリア)に対処するための基金である。2000年のG8九州沖縄サミットにおいて、資金調達の必要性について確認したことが、世界基金設立の発端となった。2002年1月に発足した。約570人がジュネーブの本部で働く。
2010年4月現在、世界基金に寄せられた寄付は約162億ドル(誓約ベースでは219億ドル)、その大半がG8諸国を中心とする各国政府の拠出金だが、民間団体から9億ドルが拠出されている。これまでに世界153カ国の716のプロジェクトに対して総額約152億ドルの契約が締結されている。(支援承認額は約192億ドル)。
世界基金が提供する資金は、開発途上国に対する国際的な結核対策支援資金の63%、マラリア対策支援の 60%、エイズ対策支援の約20%を占め、各国の感染症対策を支える重要な資金源となっており、これまでに570万人の命が救われたと推計されている。[10]

図1:世界のエイズ感染率

2.中国の経済成長

図2:外貨準備高、GDP、一人あたりのGDP --- 中国と日本の比較

3.「中国は発展途上国」論

英文の報道で「China is still a developing country.」(中国ままだ発展途上国である。)という記述が含まれている記事・文献数を、Factivaというデータベースで調べてみた。この24ヶ月のグラフを見ると、最近この傾向が強い。(図3)

まさに、中国の商務部(日本の経済産業省にあたる)がそのような発言をしている。
「一人当たり平均GDPが世界 100位以下であり、大量の貧困人口を抱える発展途上国であるという中国の現実がより正確に反映されている。収入1300元を貧困ラインとしても、なお4 千万人あまりの貧困人口が存在する、というのが中国の現実だ。」[11]

図3:中国の記事

4.中国にとっての収支

中国はこれまで世界基金に16百万ドルを寄付する一方で、436百万ドルを受けとっている。これは全体の支給率の4.4%に相当する金額である。更に、165百万ドルを受け取る予定である。

図4:世界基金 給付金合計と内訳


【 コメント 】

1.中国は発展途上国だ---に対する反論

中国は、「我々は発展途上国だ。一人あたりのGDPは世界で100位程度だ。」と主張する。国内の所得格差があるので、国内の貧困層に対し、「我々はまだ発展途上国なんだ。だから貧しいが我慢してくれ。」と言いたいのだろう。国外に対しては、国連などの分担金増額要求を拒否したいのだろう。[12]

しかし、中国はまぎれもなく大国であり、応分の責任を果たすべきである。喩えて言えば、ビジネスクラスを使って海外旅行をする人は、生活保護を受けないものだ。これは良識の問題である。


2.日本の対応
日本は「世界基金」に理事を送り込んでいるが、どのような態度(存在感)を示すのか見守りたい。

外務省の説明文によれば、「日本は主要ドナー国としての責務を果たすだけでなく、世界基金の最高意思決定機関である理事会のメンバーとして、基金の機構や体制の整備に重要な貢献をするなど、積極的な支援を推進しています。」[13]とのことである。



【 参考文献 】

<引用・参考文献>

[1] これはIEAの推定であり、中国は反論している。
中国、エネルギー消費が世界最大とのIEA報告に反論 (ロイター、2010/7/20)
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-16354420100720
[2] http://let-us-know-africa.blogspot.com/2010/02/oda.html
[3] 外務省
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/data/gaiyou/odaproject/asia/china/index_01.html
[4] 中国:被援助国から援助国へ (IPS Japan、2010/8/9)
http://ips-j.com/entry/3079;jsessionid=A9E5F1C7CCAD466A42695D64065847AE
[5] 世界基金の発表資料 
http://www.theglobalfund.org/en/announcements/?an=an_100701
[6] China gets $1bn health cash meant for poorest countries (Telegraph、2010/8/5)
http://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/asia/china/7927809/China-takes-more-aid-money-for-aids-and-malaria-than-African-countries.html
China gets $1bn health cash meant for poorest countries (Telegraph、2010/8/5)
http://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/asia/china/7927809/China-takes-more-aid-money-for-aids-and-malaria-than-African-countries.html
[7] China's Billion-Dollar Aid Appetite (Foreign Policy、2010/7/19)
http://www.foreignpolicy.com/articles/2010/07/19/chinas_billion_dollar_aid_appetite?page=0,0
[8]Jack C. Chow 博士の履歴
http://www.heinz.cmu.edu/faculty-and-research/faculty-profiles/faculty-details/index.aspx?faculty_id=21
[9] Dollar Diplomacy Can Be Healthy For China (Foreign Policy、2010/8/19)
http://www.foreignpolicy.com/articles/2010/08/20/dollar_diplomacy_can_be_healthy_for_china
[10] http://www.jcie.or.jp/fgfj/03.html
[11] GDPが日本抜いても中国はなお発展途上国 商務部 (2010/08/19)
http://www.china-embassy.or.jp/jpn/zrgx/t725363.htm
[12] 中国、国連分担金について「我々は発展途上国だ」(Searchina、2009/10/06)
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2009&d=1006&f=politics_1006_006.shtml
[13] 世界エイズ・結核・マラリア対策基金 -- 日本の貢献
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kansen/kikin/index.html


<参考資料>

世界基金: アフリカ諸国への助成金、なぜか中国へ (大紀元、2010/8/28)★お薦め★
http://www.epochtimes.jp/jp/2010/08/html/d93741.html

中国の対アフリカ援助を考察する -デボラ・ブローティガム教授を迎えて- (JICA, 2010/8/6)★お薦め★
http://www.jica.go.jp/topics/2010/20100806_01.html

<参考URL>

The Global Fund to Fight AIDS, Tuberculosis and Malaria
http://www.theglobalfund.org/en/

世界エイズ・結核・マラリア対策基金 (外務省、2010/6)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kansen/kikin/kikin_04.html

世界基金支援日本委員会 
http://www.jcie.or.jp/fgfj/top.html

世界基金・日本NGO連携促進プロジェクト
http://www.project-ring.jp/index.html
http://blog.livedoor.jp/projectring/

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