2010/08/09

石鹸で手を洗う運動

発展途上国では、不衛生が原因で子供たちが下痢などになり亡くなっています。石鹸で手を洗うことにより、その病気は予防できますが、水道が完備されていないサブサハラのアフリカの住民が、その習慣をつけるためにはどうしたら良いでしょうか?

今回は、「石鹸を使って手を洗う運動」を取り上げますが、これはPPPとBOPの代表的な例として多くの文献で紹介されていますので、ご存じの方も多いと思います[1]。このブログでは、新しい追加情報を2つ紹介します。
①Publicの立場でこのキャンペーンを推進している大学の先生の発言。
②水道が整備されていない地域で、水を確保する方法。

石鹸で手を洗えば下痢の発病率が下がる---こんなことは子供でも知っていることですが、いざ普及活動を実践するのは大変なことで、いろいろな分野の専門家が知恵を出し合い取り組むことが必要です。

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【 ニュース 】

ロンドン大学公衆衛生学・熱帯医学大学院のValerie Curtis博士は、BBC等のインタビューに以下のように応えた。(一部抜粋) [2]
・世界で年間200万人が下痢で死んでいる。もし石鹸で手を洗う習慣ができれば年間100万人は救える。
・石鹸て手を洗うことは、最も費用対効果が高い。Do it Yourselfのワクチンと同じだ。石鹸の種類はあまり関係なく、洗うこと自体が重要だ。
・石鹸で手を洗う運動 (Global Public-Private Partnership for Handwashing with Soap)はパブリックセクターであるCurtis博士などが運動を始めたが、石鹸の売上があがるのは必須なので、石鹸メーカーをその運動に呼び込んだ。
・公的セクターと企業は文化的な違いがある。企業は公的セクターの行動学の研究などを得ることできる。一方、また公的セクターは企業のマーケティングの手法や、行動力を得ることができる。公と民が協力することで「1+1=11」になった。
・企業では担当者が頻繁に交代するのが問題だ。
・一般論だが、「多国籍企業」は発展途上国においては、必ずしも良い印象を持たれていない。「The global Public-Private Partnership for Handwashing with soap (PPPHW)」という組織で、公的な組織と一緒に活動することで、私企業(3社)の活動が信頼を得ることができた。[3]


【 解説 】

1.衛生観念の普及

実際の調査・インタビューの結果を2つ示す。

ユニリーバ―社がウガンダで民衆約150人を集めて聞いたところ、
①朝食を食べた人数:ほとんど全員が挙手した。
②食事をとる前に、手を洗った人:約30人
③石鹸で手を洗った人:2人 [4]


エチオピアでは、不衛生が原因で、38人のうち1人が5歳になる前に死ぬ。
(この学校では)、過去2週間で、4人のうち1人が下痢になった。
石鹸で手を洗うことにより、下痢と下痢が原因の死者の数を半分に減らせる。
(下のYoutube参照)


2.石鹸の普及
・石鹸の大きさを小さくしたり(ここがBOPのミソ)、長持ちするようにする。
・運動をエキサイティングにする必要がある。たとえば、
①2008年10月、バングラディッシュでは1,213人が同時に手を洗う人数を競い、ギネスブックに登録された。
②国連を巻き込み、毎年10月15日を「Global hand washing day」に決めて、世界的な運動にした。[5]


3.手水器(ちょうずき)の普及

石鹸は手に入るとしても、水はあるのか?

手作りの手水器が作られている。木の枠、ビニール袋、木製のストッパーなど、現地で容易に入手できるもので作られている。のこぎりでなく、家にあるブッシュの木を切るなたで作っている。

http://www.youtube.com/watch?v=bZmbb9dMxbg


図1

①水のストッパーの一部
②木枠にストッパーの一部をはめ込む
③ 同上
④木枠の中に、水を貯めるビニール袋を入れる


図2



【 コメント 】

1.強力な推進者

先日(8月5日)、政策大学院大学で開催された「アフリカ産業戦略」勉強会に参加した[6]。発表者の小松啓一郎氏は、1996年に世界銀行・海外民間促進コンサルタントとして、マダガスカルに日本の中小企業を誘致するため、40社以上参加した現地ミッションを実現した方である。残念ながら投資は成立しなかったが、改善点の1つとして、「オタク的に入れ込んだスキーム・リーダーの人材不足」---と発言されていた。

「石鹸で手を洗う運動」においては、まさにそういう人物として Valerie Curtis博士が存在したのである。


2.先人の知恵

石鹸で手を洗うという行為は、日本人にとっては常識的なことで驚くことではないが、人々に新しい行動をとらせることに挑んでいる人達には敬服する。

昭和30年代の日本では、田舎の家のトイレは屋外にあり、水道が完備されていなかったこともあり、手水器で手を洗っていた。サブサハラで、手作り手水器が使われつつあるとは驚きだった。アフリカを援助するには、物資がなかった昭和20年代~30年代の暮らしを知る人達の知恵が必要だと思う。

先人の知恵を活かす こんなアイディアはどうだろう?
・「援助の知恵袋」というホームページを作る。
・海外青年協力隊の隊員が現地で遭遇した問題をそこに書き込む。
・誰か解決策を書き込む。


3.PPPの日本語訳

Public Private Partnershipは、「官民連携」あるいは「公民連携」と訳されるが、私は 援助のPPPにおいては、「公民連携」の方が適しているのではないか、と思うようになっている。理由は、「官」より「公」の方が範囲が広く、政府以外の公的機関(例えば大学など)が含まれ、実態を表していると思われるからである。



【 参考文献 】

[1]BOPビジネスの現状とこれまでの取組について
平成21年8月 経済産業省 貿易経済協力局
http://www.meti.go.jp/committee/materials2/downloadfiles/g90804c05j.pdf
ユニリーバ インドでのシャクティプロジェクト (You tube) (2009/8/3)
http://bopstrategy.blogspot.com/2009/08/you-tube_03.html
途上国の手洗い普及に企業が協力(2010/7/2)
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20100702-00000001-natiogeo-int
「石鹸で手を洗おう!」10月15日は グローバル・ハンドウォッシング・デイ(2008/10/14)
http://www.afpbb.com/article/pressrelease/contribution/2528489/3425454

[2]Val Curtis博士の略歴
http://www.lshtm.ac.uk/people/curtis.val

Val Curtis博士による啓蒙活動(各種インタビュー)
The Global Campaign to Promote Handwashing with Soap (2010/6/30)
記事 http://www.lidc.org.uk/news_detail.php?news_id=94
録音 http://audio.openair.fm/lblog/audio/EP6_Final_Edit.mp3

Now Wash Your Hands Please(2010/5/18)
記事と録音 http://www.bbc.co.uk/programmes/p007kqsh


[3] PPPHWの構成員

石鹸会社
・Unilever
・Procter & Gamble
・Colgate-Palmolive
英米の医療機関/NGO 等
・London School of Hygiene & Tropical Medicine
・Johns Hopkins University School of Public Health
・International Centre for Diarrhoeal Disease Research
・Centers for Disease Control and Prevention
・Academy for Educational Development
・The Water and Sanitation Program
・The Water Supply and Sanitation Collaborative Council
国際機関等
・The World Bank
・UNICEF
・USAID

[4]「Unilever looks to clean up in Africa」(Financial Times, 2007/11/15)
http://www.ft.com/cms/s/0/47b3586c-931f-11dc-ad39-0000779fd2ac.html

[5] The Global Public-Private Partnership for Handwashing with Soap
http://www.globalhandwashing.org/

[6]「アフリカ産業戦略」勉強会
http://www.grips.ac.jp/forum/newpage2008/industrialstrategy.htm
小松啓一郎氏の会社(Komatsu Research & Advisory)
http://komatsuresearch.com/index_files/jp_events.htm

その他参考資料:

アフリカ子供白書 2008 子どもの生存
(The State of Africa's Children 2008)
http://www.unicef.or.jp/library/pdf/africa_hakusho_2008.pdf (日本語版)
http://www.unicef.org/wcaro/SOAC-08-en-lores.pdf (英語版)

手水器について
「まひるのサンタ」
http://plaza.rakuten.co.jp/eggrider/diary/200804050000/
「映画の心理プロファイル」
http://kiyotayoki.exblog.jp/7415665/
神戸学院大学図書館 明石文博資料展 展示会通信 創刊号
http://opac2.kobegakuin.ac.jp/ilis/infomation/publication/tenjikaitsushin_a/vol_001.pdf

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