2011/05/27

米国がリビア反体制派を全面的に支援できない理由

多国籍軍がリビア・カダフィ政権に対し攻撃を開始してから2ヶ月以上が経過しました。米国はフランスやイタリアほど積極的に攻撃に参加していませんが、その理由について日本のメディアはあまり報道していません。

読売新聞の社説がリビアの現状を良くまとめていますが、米国の軍事介入については、「何より、アフガニスタンとイラクへの関与で余力の乏しい米国自身が消極的だ。」との説明しています。私は、もう1つ重要な理由があると考えています。反政府「暫定国民評議会」[1] の武装勢力にアルカイダが入り込んでいるので、米国は全面的に支援できない---ということです。

【 ニュース 】

リビア軍事介入 長引く内戦をどう終わらせる (5月19日付・読売社説)[2]

    民衆の独裁政権に対するデモが内戦に転じた北アフリカのリビアに、米英仏を中心とする多国籍軍が軍事介入を始めて2か月になる。
    命運が尽きるとみられたカダフィ氏は、政権の座に居座り、反体制派への攻撃をやめる気配はない。北大西洋条約機構(NATO)が指揮する多国籍軍の作戦の有効性が問われている。
  作戦の当初の目的は、政権側の攻撃にさらされる市民を守ることだった。そのために、国連安全保障理事会は、地上軍の投入を除く「あらゆる措置」を認めた。
  政権側の空軍基地や戦車に対する多国籍軍の空爆によって、反体制派の拠点都市ベンガジの陥落や市民の虐殺は回避できた。しかし、その後、政権側と反体制派の攻防は一進一退を続けている。
    NATOに対しては、「兵力も装備も劣る反体制派をてこ入れしているに過ぎない」との批判さえある。このまま内戦が長引けば、死傷者は増え続ける。軍事介入の正当性も揺らぎかねない。
  膠着(こうちゃく)した戦況を打開するため、地上軍を投入しようとするなら、新たな安保理決議が必要だ。だが、カダフィ政権転覆を目的とする本格的な軍事介入を、拒否権を持つ中露両国が認めるはずがない。
    何より、アフガニスタンとイラクへの関与で余力の乏しい米国自身が消極的だ。オバマ米大統領は「カダフィ政権の転覆は目指してはいない」と言い続けてきた。
    仏英両国は、リビアの体制変革に意欲的だが、米国抜きで作戦を遂行する力はない。
リビア介入に対する欧米諸国の姿勢に大きな温度差がある以上、軍事介入の強化による事態の打開は難しいだろう。
    調停による内戦終結の道も残されてはいる。だが、軍事介入の人道目的の性格が薄れ、内戦の当事者の一方に肩入れする構図が日増しに色濃くなる現状では、その展望はなかなか開けそうにない。
    国際刑事裁判所(ICC)の検察官が、「人道に対する罪」でカダフィ氏の逮捕状を請求したことも、どう影響するか。カダフィ氏が退路を断たれたと考え、一層の徹底抗戦に向かう懸念もある。
    リビア内戦の長期化は、アラブ諸国に広がる民主化要求の動きにも水を差す。シリアのアサド政権は、反政府デモへの徹底的な弾圧を続けている。リビアへの軍事介入で行き詰まる米英仏は、手を出せないと見ているのだろう。
    欧米諸国には、対リビア戦略の練り直しが急務である。
(2011年5月19日01時08分  読売新聞)

【 解説 】

1.反政府「暫定国民評議会」は何を求めているのか?

「暫定国民評議会」が求めているのは、NATOの支援と資金援助である。ただし、軍事的支援については、NATOの空爆のみであり、地上部隊の投入は望んでいない。[3]

資金援助に関しては、米国などはカダフィの資産を凍結(freeze)しているが、それを没収(confiscate)したうえで、暫定国民評議会に渡す(reallocate)することである。ちなみに、凍結されている金額は、全世界で165,000百万ドルで、その内、米国に34,000百万ドルがある。[4]

5/12~14にかけて、暫定国民評議会のマフムード・ジブリル首相とアリ・タルホウニ財務相はワシントンを訪問し、資金援助を求めたが、米国は「医療物資やテント、制服、土のう、防弾チョッキといった、殺傷能力のある武器以外の物資の支援」[5]などの人道的支援に限定したため、手ぶら[4]で帰ることになった。

現在のところ、暫定国民評議会は支配下においているリビア東部で国民に給与を支払っている[6]。(後述のとおり、ベンガジの中央銀行の金を配分している。)しかし、その金がなくなったら、民衆の支持を得られるかどうか分からない。

写真(クリックで拡大)

2.米国がリビア反体制派を全面的に支援できない理由は何か? 

2つの理由が考えられる。
①凍結した資金の返済を迫られる。
②アルカイダの問題。

まず、①については、米政府は暫定国民評議会を「リビア国民の正統で信頼できる代弁者」と位置付けているが、リビアの代表機関としては承認していない。[7]  (この点は憶測であるが、暫定国民評議会を代表機関として承認すると、凍結したリビア資産の返却を請求されるであろう。)

次に、②については、暫定国民評議会の武装勢力に、アルカイダが入り込んでいるため。

(1) 2011/3、リビア反政府勢力のリーダーの一人Abdel-Hakim al-Hasidiという人物が、イタリアのIl Sole 24 Oreという新聞のインタビューに応えたが、そのなかで、イラクの前線で戦ったジハード戦士が、カダフィの軍隊と戦っていることを認めた。

彼の素性は、アフガニスタンで戦い、パキスタンで捕らえられた後で、米軍に引き渡された。その後でリビアの刑務所に入り、2008年に釈放された。米国と英国の政府関係者によると、彼はLibyan Islamic Fighting Group(LIFG)のメンバーであり、1955年~1996年にかけてリビアのダーナ(Derna)とベンガジ(Benghazi)でのテロ行為に参加している。[8]


(2) 2011/5/12、米国下院議員(共和党)のBrad Sherman氏(テロなどに関する外交小委員会副委員長)は、リビアの暫定政府の首相Mahmoud Jibril氏に対し書簡を出し、その中でアルカイダや Libyan Islamic Fighting Group(LIFG)に物的に支援した者、あるいは、アフガニスタンやイラクの米国軍に対し敵対的行為を行った者は、暫定国民会議の軍事的にも民事的に従事することを禁止すべきである----と要請した。[9]

(3) 2011/5/24、EUのテロ対策担当者であるGilles de KERCHOVEは、EU議会の委員会で次のように証言した。「特にリビアにおいて、高性能の武器が予測できない者に渡るリスクがある。リビアとイエメンは脆弱な国家(fragile state)であり、我々が注意しておかないと、失敗国家(failed state)になり、国際的なジハード戦士をひきつけるであろう。」[10]


3.暫定国民評議会の財務大臣の任務

前述のアリ・タルホウニ財務相は米国のメディアのインタビューに応じており、極めて面白い裏話を披露している。

タルホウニ氏は、40年前、反カダフィのデモに参加したため、投獄されるか国外脱出するかの選択肢しかなかった。米国で博士号(経済学)を取得して、シアトルのワシントン大学で教鞭をとっていたところ、リビアで革命がおき、ベンガジに戻った。

財務大臣として仕事は、金を調達することであった。最初の仕事は、ベンガジにあるリビア中央銀行の金庫に穴をあけることを指示したことだった。金庫には500 百万ディナール(200百万ドル)が入っていた。次の仕事は、カダフィの資産を凍結している国に対し、その資産を担保にして金を借りることであった。そのために、ワシントンを訪問した。 [11]

【 コメント 】

6ヶ月から1年後のリビアはどうなっているのだろうか? 4つのシナリオが想定できる。

シナリオ1:反政府が負ける。

カダフィは、軍事介入に参加した国に対して、損害賠償を要求する。もし支払いが拒否されるのなら、軍事介入に参加した国の会社がリビアに保有している石油利権は没収され、参加しなかった国(中国・ロシアなど)の会社に売却される。

そのため、仏・英・米・伊などは、カダフィ政権が崩壊するまで攻撃を止めない。最善のケースは、カダフィを殺すことである。あるいは、たとえ停戦交渉するにしても、そのような賠償が請求されないような条件をつけさせる。

シナリオ2:反政府が勝つ。

この場合、2つの課題がある。①アルカイダを排除することができるか?②国を統一することができるか?

仏・英・米・伊などは、アルカイダの要素がないことを確認するまでは、新政権を管理下に置くだろう。正統な政府としては認め米国などは、旧政権(カダフィ政権)の資産は凍結したままにしておくだろう。なぜならば、リビアには豊富な石油収入があり、リビアがアルカイダの温床になるからである。しかし、アルカイダの兵士が内戦に参加しているので、新政権が彼らを排除することは困難であろう。たとえ政権に入れない場合、アルカイダがテロを仕掛けてくる可能性がある。

内戦が終わってから、カダフィ派と反カダフィの2派が「和解」できるかどうか。もしできない場合は、イラクのようにテロ行為が多発する可能性がある。

シナリオ3:こう着状態が継続する。

内戦が続き、死傷者が増える。
両陣営の資金がなくなっていくが、最初に反政府の資金が底をつく。米国などは、凍結しているカダフィの資産を人道的用途に限定して使う。

シナリオ4:誰も責任が問われない形での終結。

停戦交渉の結果、内戦が終結する。ただし、少なくとも、以下の条件が満たされる必要がある。

①軍事介入に参加した国
石油権益などが侵されないこと。戦争の損害補償を求められないこと。

②暫定国民評議会
カダフィ独裁が終わること。新しい国家の枠組みが(憲法制定、民主化、東部地域の自治権)確保されること。

③カダフィ政権
カダフィと一族が生命の保障され戦争責任を負わない。(新しい国家の枠組みをつくることについては、内戦が始まる前に、発表されていたので、可能だと考える。)

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新しい動向
Libya: Allies soften demands for Gaddafi to go (2011/5/25)
リビア首相が停戦用意か、英紙報道(2011/5/26)

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【 参考文献 】

[1] 暫定政府の名称はいろいろな呼び方がある。英語の名称が「The Libyan Interim National Council」(http://www.ntclibya.org/english/)なので、ここでは「暫定国民評議会」という。
[2]読売新聞社説、5月19日
[3] NATO地上部隊望まず リビア反体制派が訪ロ(東京新聞、2011/5/11)
[4] Cash-Strapped Libyan Rebels Fly Out of Washington Empty-Handed (Business Week、2011/5/13)
[5] 米国、リビア反体制派に食糧支援 12万食 (AFP、2011/5/21)
[6] If Gadhafi Falls, Could The Oppostition Run Libya?(NPR、2011/5/26)
[7] 米高官がベンガジで反体制派要人と会談(産経、2011/05/24)
[8]Who Knows it? * Morning Skim
2011/4/2「リビア:西欧とアル・カイダが同じサイドに!Libya: the West and al-Qaeda on the same side」
Jihadis who killed Americans get U.S. support in Libya (Washington Examiner、2011/3/28)
イタリア語(Google翻訳で英訳できる)
[9] Letter to the Libyan Interim PM (2011/5/12付)
[10] Fight against terrorism and CSDP EP Ref: 76805
[11]The Finance Minister Who Robbed A Bank(NPR、2011/5/13)

1 件のコメント:

  1. 2011/11/9、アルカイダ系組織 AQIMの幹部は、旧カダフィ政権の兵器を一部入手したことを認めた。「わが組織はアラブ世界の革命における主要な受益者の一つだ」と述べた。専門家によれば、AQIMは、地域の航空便の脅威となる可能性がある地対空ミサイルを獲得したとされる。
    http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2011111000078

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