2011/04/17

転換期を迎えたリビアへの軍事介入

アフリカ諸国に限らないが、発展途上国において政権交代をするには、①選挙、②軍部が非合法的手段で政府を転覆させるクーデター、そして ③反体制派による反乱(革命)のいずれかになると思われます。1960年~1999年の間にアフリカ諸国の大統領選挙とクーデターの回数を調べたレポートによると、1980年代までの政権交代はクーデターが一般的であり、1990年代になってからは選挙による政権交代が広くみられるようになりました。[1]

選挙制度がない国で、かつ、軍が政権を支持している国において政権交代を実現するには、第三の手段である反体制派による反乱になります。プラカードを持ったデモ行進では政権交代はできないので、武器があれば、民衆はそれを使うでしょうし、一方、政府は暴徒化した民衆を鎮圧するために軍隊を出動させます。

マスメディアが、リビア軍隊が"一般市民"を殺している映像を伝えました。国際社会は、リビア市民の安全を守るために、いわゆる 「保護する責任」(Responsibility to Protect)という考えの下、軍事介入しました。しかし、2ヶ月が経過してもカダフィ政権は倒れません。もし反体制側が負けて、カダフィ政権が継続することになれば、①軍事行動を起こした仏・英・米などの会社が保有する権益(石油利権など)が取り上げられるし、また、②リビア以外の民主化運動、人権擁護運動に水をさすことになる----と仏・英・米は考えているはずです。そのため、軍事行動を中途半端で終わらすことができなくなり、カダフィ政権を倒すことが目的になってしまったと考えられます。

今回紹介する2つのニュースでわかるように、国際社会は意見が大きく分かれました。


【 ニュース 】
 リビアでの武力行使に反対、BRICSが共同声明 (AFP、2011/4/15) [2] 

【4月15日 AFP】ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカで構成する新興5か国(BRICS)首脳会議は14日、リビアやアラブ諸国における武力行使に反対する共同声明を発表した。ロシアのドミトリー・メドベージェフ(Dmitry Medvedev)大統領は、武力行使は国連に認められていないと述べた。 首脳会議は中国海南(Hainan)省三亜(Sanya)市で開催。閉幕後に「われわれは、武力行使は回避すべきだとの原則を確認した」との声明を発表した。 

メドベージェフ大統領は、リビア上空の飛行禁止空域を設定し、市民保護のため「あらゆる必要な措置」を講じることを認める国連安全保障理事会の決議は、軍事力の行使を承認したわけではないと指摘。BRICSはこの点で「完全に見解が一致している」と強調した。 

ただし、声明は北大西洋条約機構(NATO)の名指しはしておらず、「リビア問題について国連安保理との協力を続けたい」としている。また、アフリカ連合(AU)が提示した停戦案を支持することも表明した。 

首脳会議は今回で3度目。南アフリカが参加するのは初めて。 


米英仏、カダフィ氏退陣まで空爆 3国首脳が新聞に寄稿 (東京新聞,2011/4/15) [3] 

2011年4月15日 11時01分 【ワシントン共同】オバマ米大統領とキャメロン英首相、フランスのサルコジ大統領は、15日付の英紙タイムズなど3紙に連名で寄稿し、リビアの最高指導者カダフィ大佐に即時退陣を要求、政権にとどまる限り多国籍軍の攻撃を続けると強調した。米ホワイトハウスが寄稿の内容を14日発表した。 「リビア平和への道」と題した記事で3首脳は、国連安全保障理事会の決議を根拠に実施した多国籍軍のリビア攻撃によって「何万人もの命が救われた」と指摘。 

安保理決議が認めているのは民間人の保護であり、カダフィ氏を武力で排除することではないとしながらも、自国民の「虐殺」を続けるカダフィ氏が権力の座にいては「リビアの未来像を描くのは不可能だ」と訴えた。 

カダフィ氏が退陣しなければ「民間人を保護し政権に圧力をかける」ために攻撃を続け、「新世代の指導者の下で、独裁体制から憲法手続きへの移行」を促す考えを示した。 

寄稿記事はフランスのルモンド紙と、国際英字紙インターナショナル・ヘラルド・トリビューンにも掲載される。


【 解説 】
 
1.最近2ヶ月の主要動向  

2/17: 市民デモ[4] 「怒りの日」と名づけられ、インターネットなどで参加が呼びかけられた。  

2/26: 国連安全保障理事会決議1970(2011) [5]
対リビア武器輸出禁止、カダフィや側近の資産凍結および渡航禁止、人道に対する罪で国際刑事裁判所に調査を求めることなどが盛り込まれている。

3/17:  国連安全保障理事会決議1973(2011) [6]
政府軍は、反体制派が拠点とするベンガジに向けて進軍を続けており、反体制派は国連に対し飛行禁止区域設定などの行動を急ぐよう訴えていた。
賛成:10ヶ国 棄権:5ヶ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、ドイツ) 反対:なし  

3/19: 軍事介入開始[7] フランスの戦闘機がカダフィ政権側の軍車両を攻撃した。米英軍の艦船や潜水艦から110発以上の巡航ミサイル「トマホーク」がリビア西部の軍事施設に撃ち込まれた。

3/27: 飛行禁止空域の指揮権が米国からNATOに移る[8]  

4/11:カダフィ政権がアフリカ連合(AU)と基本合意に達し、共同声明を発表した。[9]  

4/11:反政府がカダフィを倒すまで戦うと発表。[10]  

4/14:BRICSによる共同声明(上記のニュース) 欧米主導の対リビア空爆への反対などが盛り込まれた。

4/15:仏・英・米による共同声明(上記のニュース) カダフィの退陣を強く求める共同意見書をまとめた。

2.石油権益

近年、リビアは積極的に外国企業に鉱区を付与しており、以下のすべての会社は、探鉱鉱区(まだ石油は発見されていない)を保有しており、鉱区を取得した際に、多額のサインボーナスを支払い、探鉱費を使っている。探鉱鉱区だけでなく、生産鉱区も保有している。

(1)フランス
フランスの石油会社TOTALは、探鉱鉱区だけでなく、生産鉱区も保有しており、2010年には55,000b/dを生産している。[11] ただし、TOTALにとって、アフリカ大陸での石油と天然ガスの生産量は756,000b/dなので、リビアの位置づけは10%以下である。

(2)英国
ShellとBPはリビアの探鉱鉱区を保有している。[12]

(3)米国
米国の石油会社で生産中の会社は、ConocoPhillips (47,000b/d)、Marathon Oil (46,000b/d)、Hess (22,000b/d)、Occidental Petroleum (13,000b/d)である。[13]
探鉱中の会社は、ExxonMobilなどがある。[14]  


【 コメント 】  


1.メディアのリビア報道

エジプト・ムバラク政権が崩壊した際は、軍部が中立の立場をとったため、一般市民は武器を取らずして市民革命が成功した。一方、リビアでは、軍部の大部分はカダフィ政権を支援したため、一部の市民が武器を取ったので軍隊が出動した。アルジャジーラ(Al Jazeera)やBBCは、世界中の人々の脳裏に「リビア市民が殺されている」「カダフィは野蛮人」であるとの"印象"植え付けた。国連安保理の決議もテレビやYouTubeの映像に影響されたはずである。しかし、私は、リビア関連の報道は、バランスがとれてなく、恣意的な誤報も含まれていたのではないかと疑っている。(2011/02/25付当ブログ記事 「リビア関連のニュースを鵜呑みにするな」 参照。)  

2.保護する責任(Responsibility to Protect)

  「保護する責任」とは、国家には虐殺など非人道的犯罪から人々を守る責任があり、国家がその責任を果たせないとき、国際社会がその責任を代わって果たさなければならない---という考え方である。[15]

1994年にルワンダ大虐殺国際社会があったが、この「保護する責任」という考え方にもとづいて国際社会が迅速にルワンダに介入していれば、ルワンダの悲劇は防げたかもしれないので、私はこの考えを否定はしない。しかし、ルワンダでは「民族 対 民族」の構図があったが、リビアでは「体制派 対 反体制派」の構図であることに注意しなければならない。

 「保護する責任」に基づき行動するためには、4つの要件が必要であるとのこと。[16]

(a)正しい意図(right intention):介入の主要な目的が、人間の苦痛の排除にあること
(b)最後の手段(last resort):あらゆる非軍事的選択肢が尽くされたこと
(c)比例的手段(Proportional means):軍事規模の行動・期間が必要最低限のものであること
(d)妥当な見込み(reasonable prospects):軍事行動により事態が改善する見込みがあること  

私は、今回のリビアへの軍事介入が正しいことだったのか、疑問に思っている。

理由1:上記の考えの大前提になっている、「市民が虐殺されている」という事実確認(特に軍事介入をした初期の段階において)が果たして正しい情報に基づいてなされたかどうか、疑わしい。  
理由2:軍事介入の目的が、市民を保護するという崇高な目的から、カダフィ政権を倒すことに変わってきている。(そしてその背景には、石油権益を確保することが見え隠れしている。)あえてカダフィの立場に立てば理解できると思うが、外国の軍隊が自分を倒すことを目的として攻めて来たならば、戦うしかないのである。どこの国の大統領・首相でも同じことをするであろう。  
理由3:軍事介入を開始してから約2ヶ月が経過したが、カダフィを失脚させることができなかった。これから続けたとして、「出口」が見えない。この作戦は成功しなかったのだから、作戦変更すべきである。  
理由4:証明することはできないが、仏・英・米の軍事介入が反体制派を勢い付かせて、かえって死者の数を増やしてしまった可能性があるのではないか。


「保護する責任」に関する詳しい報道・ブログなどは、下記の参考文献を参照。

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【 参考文献 】

[1]「アフリカにおけるクーデタと選挙の動向」 by 落合雄彦
[2] リビアでの武力行使に反対、BRICSが共同声明 (AFP、2011/4/15)
Press statement by the Russian President following BRICS summit.(2011/4/14)
[3] 米英仏、カダフィ氏退陣まで空爆 3国首脳が新聞に寄稿
フランス公式発表 Libya's Pathway to Peace (April 15, 2011)
英国公式発表 Joint article on Libya: The pathway to peace
米国公式発表 Joint Op-ed by President Obama, Prime Minister Cameron and President Sarkozy: ‘Libya's Pathway to Peace’
[4] リビアのデモ拡大 死者21人との情報
[5] 国連安保理、対リビア制裁決議を全会一致で採択 国連広報センター 暫定訳 S/RES/1970(2011) 安全保障理事会決議1970(2011) 2011年2月26日、安全保障理事会第6491回会合にて採択
[6] 国連安保理、飛行禁止区域設定の決議を採択 リビア情勢緊迫 国連広報センター 暫定訳 S/RES/1973(2011) 安全保障理事会決議1973(2011)
2011年3月17日、安全保障理事会第6498回会合にて採択
[7] 米英がリビアにミサイル攻撃 カダフィ大佐は抗戦の構え
[8] NATO、リビア軍事作戦の全指揮権引き継ぎを了承
[9] カダフィ大佐、AU調停で停戦受け入れ 南ア大統領
[10] リビア反体制派、AU提案を拒否 戦闘で子ども犠牲に 
[11] http://www.total.com/MEDIAS/MEDIAS_INFOS/4386/EN/Total-2010-document-reference-va-V1.pdf
[12]Shell forges Libyan gas deal (2005/5/3) BP Agrees Major Exploration and Production Deal with Libya(2007/5/29)
[13] Factbox: U.S. oil companies' interests in Libya Occidental Petroleumについては、同社の2010年版年次報告書
[14] ExxonMobil Commences Drilling Libya's First Deepwater Well(2009/7/16)
[15] リビア攻撃 重い課題背負った国連 (公明新聞、2011/2/29)
[16] くまくまDays~アデレードな日常~  


■「保護する責任」に関する報道など  

1.新聞報道
「保護する責任」前面に 苦い教訓生かせるか 国連 (2011/2/27、産経新聞)
国連総長、リビア空爆を擁護 「内政干渉にあたらず」(2011/3/21、朝日新聞)
リビア攻撃 重い課題背負った国連 (2011/3/29、公明新聞)  

2.ブログ
くまくまDays~アデレードな日常~
「保護する責任」から見たリビア空爆 (その1) (その2) (その3)

~異邦人から見た世界と日本~
REPORT:2011/3/30出演番組『ニュースの深層』で語られたことの全容


3.団体
保護する責任(Responsibility to Protect)を推進している団体
International Coalition for the Responsibility to Protect  

■国連安全保障理事会による最近のリビアに関する決議事項など
2011/2/25:25分間 Fundamental Issues of Peace, Security at Stake, Secretary-General Warns as He Briefs Security Council on Situation in Libya (25 February 2011)SC/10185
2/26: In Swift, Decisive Action, Security Council Imposes Tough Measures on Libyan Regime, Adopting Resolution 1970 in Wake of Crackdown on Protesters (26 February 2011)SC/10187/Rev.1
3/17: Security Council Approves ‘No-Fly Zone’ over Libya, Authorizing ‘All Necessary Measures’ to Protect Civilians, by Vote of 10 in Favour with 5 Abstentions (17 March 2011)SC/10200
3/24:17分間 Secretary-General, Briefing Security Council, Says International Community Must‘Continue to Act with Speed and Decision’for Sake Of Libyan Civilians (24 March 2011)SC/10210
3/28:10分間 Security Council Briefed by Chairman of Committee Established To Monitor Sanctions Imposed on Libya (28 March 2011)SC/10214
4/4:15分間 Difficult to Know How Long Resolving Libya Conflict Might Take, but Responsibility for Finding Solution Lay with Libyan People Themselves, Security Council Told (4 April 2011)SC/10217

1 件のコメント:

  1. 4/25、NATO軍はトリポリ中心部のカダフィ大佐の拠点を攻撃した。4/26、ロシアのプーチン首相は反対する旨、述べた(下記参照)。私は、彼の意見に賛成である。

    ■2011/4/27 CRI Online(中国国際放送)
    「NATOの行動はすでに安保理の関連決議に背いている」
    http://japanese.cri.cn/881/2011/04/27/144s174126.htm

    ■2011/4/27 ロイター
    「(多国籍軍は)カダフィ氏を殺害するつもりはないと言っていた。今や、『殺害しようとしている』と語る者もいる」
    「どういう人物であっても、この男を処刑する権利を誰が持っているだろうか」
    「いわゆる文明国が結集して小国を総攻撃し、長年にわたって築かれたインフラを破壊している。その点は気に入らない」
    http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPJAPAN-20836420110427

    ■2011/4/27 産経
    「いわゆる文明化した集団が、総力を挙げてそう大きくもない国に長期間居座り、インフラを破壊する。私は気に入らない」
    「(カダフィ体制は)ゆがんだ君主制で、正常ではない」
    「だれがそれを許可したのか。裁判でもあったのか。死刑に処する権利を得たとでもいうのか」
    http://sankei.jp.msn.com/world/news/110427/erp11042701020001-n1.htm

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