2010/06/19

ひも付き援助: 金の卵を産むニワトリを殺すな

援助には、ひも付き援助(tied assistance/aid) と ひも付きでない援助(untied assistance/aid)があります。ひも付き援助とは、援助をする国が援助を受ける国に対し、援助する国の会社の製品やサービスを使うことを条件にすることです。

私は以前は、ひも付き援助にしてはならない、と考えていました。ひも付き援助案件を受注するため企業が談合したり、政治家や役人に賄賂を支払うという事件があったし、国際社会からもひも付き援助を減らるべきだ、と要請されているからです。しかし、近頃は、ひも付き援助の割合を増やすようにできれば、発展途上国だけでなく、日本企業、ひいては日本の経済を活性化できるのではないか、と考え方を変えました。

今回のエントリーでは、ひも付き援助についてのニュースを紹介します。


【 ニュース 】

2005年7月のG8(グレンイーグルズ・サミット)においてアフリカ諸国への援助を2010年に倍増すると発表しているが[1]、2010年5月25日、「ONE」というNGOがその約束を検証したレポートを発表した。[2]


【 解説 】

1.ONEレポートの内容

(1)援助額
・日本がグレンイーグルズで倍増すると発表したが、ONEは日本の約束を「weak commitment」と評価している。(確かに表のCの欄を見ると、相対的に低い金額をコミットしている。)
・G7総額をみると、2010年の援助予想額(31,329百万ドル)はコミット額(40,228百万ドル)を達することはできない。(表の桃色部分参照)
・G7のうち、コミット額を達成した国は、カナダ、日本、米国である。(表の黄色部分参照)
・特にイタリアは、2010年の援助予想額は、2004年の援助額を下回っている。(表の薄緑色部分)

表1:各年毎のアフリカ向け援助額

表2:アフリカ向けODA推移(2004~2010年)


(2)ひも付援助の比率@2008年

G7総額におけるひも付援助(tied aid)の比率は19%(untied aid=81%)であった。個別には、米国(27%)、ドイツ(23%)、イタリア(21%)、フランス(15%)、日本(3%)、その他不明である[3]。日本は優等生である。


2.ひも付き援助が嫌われる理由

OECDは、2001年4月、ひも付き援助をやめるように提案書を発表したが、その理由は、「援助の効率性」(aid effectiveness)である。ひも付援助の場合、平均して15%~30%、特に食料の場合40%位高くなるとのことである[4]。 援助の「量」を多くするためには、援助を受ける国が一番安いものを買えるようにすべきである、という考えが根底にある。(OECDの決議などは末尾[5]参照。)


【 コメント 】

1.高性能の製品が売れる(良い)とは限らない

ひも付き援助について、以下のように自問自答してみた。(この部分は、某国に駐在されていた日本大使のお話を参考にした。)

<問い> 砂漠の国が太陽光発電パネルを買う場合、日本製と他国製のどちらを選ぶか?

前提は以下のとおり。
①日本製:高価。発電効率が良い。
②他国製:安価。多少発電効率が劣るが、「安かろう悪かろう」ではない。
具体的には、発電量は日本製3枚と他国製4枚が同じだとする。価格は日本製3枚より他国製4枚のほうが安いとする。

<答え> 他国製が選ばれる。砂漠の国では土地の制約がないので、発電効率より価格が重視される。日本企業は、高性能・高価格の製品だけを追求するのではなく、低性能・低価格の製品を作る努力もしなければならない。

<問い> 次に、日本政府が太陽光発電パネルを援助する場合、どのようにすべきか?

<答え> 
(1)「無償資金協力」の場合、ひも付き援助にしている。これは、援助資金は日本国民の血税なのだから、日本企業の製品を与える---という考えである。

(2)大規模の場合は「有償資金協力」になるので、ひも付きにはできない(というのが現行のやり方である)。日本製品に価格競争力があれば、問題がないが、実際はそうではない。ここで1つ工夫する必要がある。太陽光発電パネルと「何か」をパッケージにして、ひも付き援助にするのである。その「何か」とは、技術移転・雇用が生まれるよう仕組みだと思うが、私にはまだ具体的な方策はわからない。


2.金の卵を産むニワトリを殺すな

日本が裕福で余裕があれば、「援助の効率」だけを考えて援助してもかまわない。しかし、現在の日本はやせ細ったニワトリであり、少しばかり餌を食べて、金の卵を産もうとしている。痩せている時は、できるだけ多くの餌を食べて、体力をつけなければ、いずれ金の卵(援助)を産めなくなる。日本人はあまりにも真面目であり、変化に柔軟に対応できないのだ。

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【 参考文献 】

[1] グレンイーグルズ会議 (外務省)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/summit/gleneagles05/index.html
最新開発援助動向レポート No.19 「グレンイーグルズ・サミット」 林 泰史
http://dakis.fasid.or.jp/report/pdf/report19.pdf

[2] ONE's 2010 DATA Report  
http://www.one.org/c/us/pressrelease/3338/
http://www.one.org/report/2010/en/downloads/DR2010.pdf (全部で254頁)

[3] ONE's 2010 DATA Report の74~77頁。

[4]「Untying aid: Is it working?  Evaluation of the Paris Declaration」(60頁)
http://www.oecd.org/dataoecd/51/35/44375975.pdf

[5] 経緯、主な決議等
2001/4 DAC RECOMMENDATION ON UNTYING OFFICIAL DEVELOPMENT ASSISTANCE TO THE LEAST DEVELOPED COUNTRIES
http://www.oecd.org/dataoecd/14/56/1885476.pdf

2005/2/28~3/2 PARIS DECLARATION ON AID EFFECTIVENESS
http://www.adb.org/media/articles/2005/7033_international_community_aid/paris_declaration.pdf

2006/3/15:改正 http://www.esteri.it/MAE/doc/4_28_66_79_84_e.pdf

2008/6:改正 DAC Recommendadationon Untying ODA
http://www.oecd.org/dataoecd/61/43/41707972.pdf


その他の参考文献

猪瀬直樹の「眼からウロコ」 「戦略なきODAを早急に考え直すべきだ  優れた技術があっても海外に売り込めない日本」(日経BP net、2010/2/16) 
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20100215/210700/?P=1

杉下恒夫ジャーナリスト・茨城大学人文学部教授  「もっと国民的論議が必要な、今後の無償資金協力の進め方」(国際協力プラザ、2006/6/28)
http://www.apic.or.jp/plaza/oda/study/20060608-01.html

COP15 コペンハーゲン協定(アフリカのニュースと解説、2009/12/23)
※菅直人副総理(2009年11月当時)の発言に注目。
http://let-us-know-africa.blogspot.com/2009/12/cop15.html

ODAの裏には政治あり(アフリカのニュースと解説、2010/2/07)
http://let-us-know-africa.blogspot.com/2010/02/oda.html

我が国建設業の海外展開のための国の支援についての提言 (海外建設協会、2010/2/14)
http://www.ocaji.or.jp/images/teigen.pdf

海外建設受注実績の地域別推移(1979年度~2009年度)
http://www.ocaji.or.jp/overseas_contract/images/graph_2.pdf

3 件のコメント:

  1. いつも興味深く拝見しています。
    今回のエントリーについて、以下のような疑問をもったのですがどのようにお考えでしょうか。

    1)そもそも「援助を通して援助国が儲けようという考え自体が不当」と考えた場合、今回の議論は前提から食い違いが出てしまう。まずは「援助を通して先進国が利益を出しても構わない」という前提を検証するべきでは。
    当然、そこには援助国のインセンティブの問題も出てくるが、その前提を明確にしない限り「援助効率(被援助国の利益」と「援助国のインセンティブ(援助国の利益」のいずれを取るかという議論に終始してしまう。

    2)そもそもTied Aidで日本にどれくらい「金」が入るのか。それはどの程度日本国の「益」になっているのか。
    援助によって得られる利益は様々な物があるが、他の「利益」と比べてそこまでTied Aidの利益は大きい物なのか。
    また、広く考えれば日本のODAを受注する事で現地企業にお金が流れる事もあり、それも一つの開発のあり方ではないのか。「援助」という名目で自国の企業の発展「のみ」を狙うのは本当に援助としては適切なのか。

    3)「Tied Aidでないと援助国の経済的インセンティブが下がって援助が将来的に出来なくなる」という考えは、援助のインセンティブが外交や世論との関係によって構築される事を考えれば「経済的インセンティブだけでは言い切れない」と結論づけられる。
    一方、Tied Aidにすることで自国内の世論にODAを支持してもらう事が可能であるならば、「将来的に援助が出来なくなる」可能性は増す。
    国内のインセンティブを分類し、比較した上で議論すべきでは?

    以上、拙いコメントで申し訳ありません。
    Yuji

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  2. Yujiさん、コメントありがとうございます。

    1.「援助を通して先進国が利益を出しても構わない」---と、私は考えます。理由は、
    ①援助する側の論理ですが、援助を持続可能にするため(=無理なく援助を続けていくため)、援助に関係する製品などを販売して利益を出してもよいのではないでしょうか。もちろん、フェアな価格で売ることが前提です。

    ②援助される側の話ですが、他人からモノをもらうばかりでは、彼らの人間性がダメになると思います。「援助慣れ」させてはいけないのです。


    2-(1)「そもそもTied Aidで日本にどれくらい『金』が入るのか。」---という点については分かりません。

    「日本のODAを受注する事で現地企業にお金が流れる事もあり、それも一つの開発のあり方ではないのか。」---という点については、そのとおりだと思います。地場の企業に仕事が入ることは良いことです。雇用が増えるし、経済成長に貢献するからです。

    最善の方法は、日本政府が実施する援助プロジェクトに関連して、地場企業、日本企業、第三国の企業が入札して、一番安い製品・サービスを提供できる会社に任せることです。「援助の効率」を最大限に高めることになるからです。

    日本経済が悪化している現状において、最低のやり方は、日本政府が実施する援助プロジェクトで、第三国の企業が落札してしまうことです。

    次善の策としては、ひも付きにして、日本企業が仕事を請け負うことです。私はこの方法を提案しています。要するに、「背に腹はかえられない」ということです。


    2-(2) 「援助を通して援助国が儲けようという考え自体が不当」---という考えが私には理解できません。「援助というのは高貴な行為であり、金儲けすることは卑しいこと」という考えが根底にあるのでしょうか?

    国民の税金を使って日本政府が援助する。発展途上国の人々が恩恵を受ける。そしてついでに、日本の企業にもビジネスチャンスが生まれる---というwin-winの関係にしても、大きな問題はないと考えます。

    私は、「『援助』という名目で自国の企業の発展『のみ』を狙う」べきだ、とは考えておりません。もし読者の皆さんがそのように感じ取ったのであれば、それは私の説明不足です。


    3.先進国が発展途上国に援助する動機・理由としては、次のようなことが考えられます。

    政府や外交官の考え方は、
    ①そもそも援助することは先進国の「義務」である。
    ②日本の「存在感」を確保するため。
    ③資源確保のための下地をつくるため。

    企業の考え方は、
    ①いろいろなビジネスチャンスにつなげるため。
    ②CSRとして、社会的な貢献の一翼を担うため。

    国民の考え方は、
    ①積極的に援助をしたい方々は、NGOなどに寄付します。
    ②特に積極的でない人達は、政府に任せています。ただし、自分たちの暮らしが苦しくなったら、政府には、援助だけでなくあらゆる支出を削減して欲しいと考えます。

    以上、私の考えを補足説明させて頂きました。これからもよろしくお願いします。

    返信削除
  3. Miya様
    拙速なコメントに対して返信をして頂き、ありがとうございます。日本では「援助をする事」は認知されてきていますが、「なぜ援助をするのか」については国民の中での広範な合意はなされていないように思います。その中でこうして取り上げてくださる事にいつも嬉しく思っています。

    さて、当然ながら開発援助の目的は本来的には対象国ないし地域の「開発」にあるのであって、援助国側の利益を開発援助の「主たる目的」にする事は間違っています。(それは単なる押し売りですから)

    ただ、Miya様の仰るように「対象国の開発に繋がり」かつ「援助国にも利益となる」というWin-Winの状況は喜ぶべきことだと思います。

    そこで問題なのは、援助国にとっての「利益」が何によって構成されているか、そしてその中での優先順位でしょう。ここで言う利益とは、経済的利益、外交上の利益等であり、それは複数存在するのが通常だと思います。

    私の疑問は、「自国企業が受注する事(経済的利益」が日本経済に対してどの程度の影響を及ぼすのかが判然としない状態では、対象国にとっての利益を含めた他の利益と照らしあわせた評価ができないのではないか、と言うことです。

    Miya様の返信を見る限り、紐付きが紐無しに比べて効率が悪い(=対象国にとってマイナス)であるという前提をお持ちのようですから、そう考えると紐付きにすることで対象国にとってはマイナスになるけれど、自国にとってどの程度プラスになるか分からない、というのが現在の考察だと思います。ただ、少なくとも他の選択肢と比べて日本側だけが得をする状態になっているのは確かで、とするとWin-Winの関係は築けていないことになります。

    また、Miya様の前提を見る限り「もっとも日本にとって良い状況」というのは、おそらく紐無し援助を提供した上で、他国の企業との入札に競り勝って日本の企業が受注することであり、そういう意味では紐付き援助を減らすな!というよりは、そうした援助を受注できるだけの競争力を日本の企業が持つべき、と言った方が建設的なのではないでしょうか。

    いずれにしても、最初に述べたように「なぜ日本は援助をするのか」について国民の間に理解が広まらないと持続可能な援助というものは生まれないのでしょうけれど。

    以上、個人的な感想でした。
    わざわざありがとうございます。

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