2010/02/07

ODAの裏には政治あり

TVドラマの水戸黄門のお決まりのシーンは、印籠をかざされた悪人たちがひれ伏すところでしょう。議論をする際にも反論を押さえつけるような葵の御紋があります。たとえば、国家に関する議論では「エネルギー安全保障」「資源確保」「食料安全保障」「食の安全保障」「環境」等があり、ODAの議論では「日本の存在感」です。

一部の政治家、外務省の役人、外交官、援助に係わっているNGOの人々は、ODAの金額が減少傾向にあることを危惧しており、増額をすべきとする理由の1つに、「日本の存在感」が低下すると主張します。外務省のホームページ内で、「日本の存在感」という言葉は、約900回使われています。[1] 

しかし、思考を停止させるようなこの大義名分を、一度は疑ってみることが必要ではないでしょうか。

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【 ニュース 】

岡田外相の発言 [2]

ODA見直しで作業部会=外相

岡田克也外相は2日の閣議後会見で、高コストで効果が薄いとの批判がある政府開発援助(ODA)の見直しに向け、タスクフォース(作業部会)を省内に設置すると発表した。今年夏までに改善策を取りまとめ、2011年度予算概算要求に反映させる方針。
改善策は、(1)国民の理解促進 (2)資金調達の革新 (3)民間企業や非政府組織(NGO)との連携 (4)援助の効率化 (5)国際協力機構(JICA)改革-を軸に検討する。岡田氏は「世界に、日本の国益に役立っているかという視点で見直す」と述べた。(2010/02/02-20:38)



【 解説 】

1.外務大臣会見記録(2010/2/2) [3]

以下は抜粋。
・国際協力に関する理念・基本方針、国民の理解・支持の促進、多様な関係者との連携、援助の効果的・効率的な実施、JICAという5つの論点で行いたいと思います。ODAについては、国民の共感が十分には得られていないと考えております。そのために、国民の理解と支持を得るための見直しを行いたいと考えています。そのことによって、ODAをより戦略的かつ効果的に実施していきたいと考えているものであります。

・アンケート調査などをみると、6割、7割の人が「ODAは必要だ」とか、あるいは「増やすべきだ」ということですが、我々の実感からすると7割、8割ぐらいの人が「こんな日本が厳しい時になぜODAを増やすのか」と、「ばらまきではないか」という意見はよく聞かれるところであります。そういう中で、現実に日本が行うODAがいかに世界の役に立っているか、特に日々の生活にも苦しい人のために、あるいは日本の国益のために役立っているかということをきちんと伝えること、伝える前提としてまず、様々なご批判の中には耳を傾けなければいけない点も多いわけですから、そういう点について、より効率化という視点で見直していくということです。


2.ODAに関する意識調査 (2009/4) [4]

9問あるが、第1問は図のとおり。そもそも世の中の3分の1は、ODA(政府開発援助)という言葉を知らない。

図1:意識調査 第1問、第5問
 

【 コメント 】

1.ODA(政府開発援助=Official Development Assistance)の基礎
まず図2~4によりODAの概略を押さえる。

<全ての図はクリックで拡大。>

・日本は1993年~2000年にかけて、世界NO.1であったが、現在は、米国、ドイツ、英国、フランスに次いでNo.5になった(図3)。米国が急上昇しているのは、イラク支援が要因であると思われる。
・日本は対中国援助の割合が大きかったが、経済発展をしている中国には「卒業」してもらい、2008年3月対中円借款を終了している。(本件については後述。)
・援助が増えた国、減った国がある。

図2:ODAの形態別分類
















図3:DAC諸国のODA額の推移

















図4:ODA実績(支出額純額ベース)
















2.私は、最貧国を助けるためには援助は絶対的に必要であると思う。しかし、次の理由から、「日本の存在感」という用語に違和感を感じている。

(1)いろいろ調べてみたが、「日本の存在感」が低下したというが、具体例、統計が示されていたのは次の2点つだけであった[5]。 これが大きな理由になるのだろうか。費用対効果を正当化するのであろうか。
具体例
・国際機関の幹部数が、ピーク時の14人から9人に。(図5)
・UNDP(国連開発計画)、UNICEF(国連児童基金) の執行理事会での事実上の「常任」の地位も喪失。(2007年からの15年間のうち3年間は執行理事国になれない。)

図5:
















(2)仮定の話だが、全ての援助国が同じ割合でODAの金額を減らしたならば、順位は変わらないが、その場合は、「日本の存在感」云々ということはそれほど声高には言われないだろう。要するに、「金額」より「順位」、「日本の存在感」より「外交官の存在感」を重視しているのではないのか。そもそもODAが減った主な理由は、ASEAN向け、中国向けのODAが減ったことが原因であり、彼らが経済的に「離陸」したことを喜ぶべきである。そして、今、憂うべきことは、最貧国が多いアフリカ諸国などを援助することであって、ODAの金額自体ではないはずである。


3.対中援助は実は終わっていない。

まず、中国向けのODAの推移を見てみる。(図6)


















1996年~2000年度にかけて急激に増加しているが、橋本龍太郎氏(総理大臣:1996年1月~1998年7月)の影響があったと推測される。

2001年度以降に減少に転じたが、中国が経済的に離陸したことと、小泉純一郎氏(総理大臣:2001年4月~2006年9月)の影響があった。2004年には、小泉総理は「もう卒業の時期を迎えているんじゃないか。順調に経済発展を遂げ、早くODAからの卒業生になることを期待している。」と発言している[6]。徐々に減らし、2008年に終了させている[7]。

ところが、ここで、気をつけなければならないことは、アジア開銀を経由した中国への援助が依然続いていることである[8]。日本と同率の出資国であるアメリカは、「同開銀は本来の目的である貧困削減に重点を戻すべきで、中国のように市場で資金を十二分に調達できる諸国には援助すべきでない、という考えからの反対だという。」 [9]


今後、中国との関係を深めたい日本の政治家達は、中国への資金供与をしようとすると考えられる。
①民主党のマニフェストに「アジア・太平洋地域の域内協力体制を確立し、東アジア共同体の構築を目指します。」と書いてある。[10]
②2009年12月、民主党の小沢一郎幹事長が団長になり、国会議員140人を含む約600人が中国を訪問している。


恐らく、次のような大義名分を使って主張すると思われる。
・日本経済は中国の経済成長に密接に関係している。中国が経済成長するためには、エネルギー消費量(特に石炭火力発電所)が増え、環境問題(CO2)が発生するので、その省エネ対策などに費用がかかる。
・日本は中国の農産物や食料に依存している。食の安全を確保するために、費用がかかる。


中国が経済成長するのは大いに結構なことであるが、私は日本のODA資金を使った中国向け資金供与については、その是非をよく議論すべきであると思う。
・中国は自らのために経済を発展させているのであり、日本のためではない。その経済発展に係る投資は、中国が貿易で稼いだ金、あるいは、市場から調達した金を使えばよい。
・日本のODAは、中国とは比較にならないほど貧困の状態にある諸国に有効に使うべきであると考える。


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【 参考資料 】

[1] 検索方法は、ブラウザのURLの窓に 
"日本の存在感" site:www.mofa.go.jp    を入れる。

[2] 「ODA見直しで作業部会=外相」(時事通信、2010/2/2)
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&rel=j7&k=2010020200929
[3] 外務大臣会見記録
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/kaiken/gaisho/g_1002.html#1
[4] ODAに関する意識調査
http://www.mofa.go.jp/MOFAJ/press/pr/chosa/yoron/chosa_oda.html
[5] 政府開発援助(ODA)について
http://www.mofa.go.jp/Mofaj/Gaiko/oda/seisaku/yushikisya/1/pdfs/1_haifu.pdf
ODA案件の形成と実施上の問題
http://www.mofa.go.jp/mofaJ/gaiko/oda/seisaku/yushikisya/4/pdfs/4_shiryo05.pdf
[6] 「対中国ODA(政府開発援助)見直し論議」(岩城成幸、国立国会図書館、2005/2/18) http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/issue/0468.pdf

[7] 「対中円借款、740億円決定 中川農相は異論」 (読売新聞、2006/6/6)
政府は6日午前、政府開発援助(ODA)の重要案件を協議する海外経済協力会議(議長・小泉首相)を開き、2005年度中の閣議決定を見送って “凍結”していた中国向け円借款の実施を決めた。新規供与額は、前年度比約120億円減の740億円程度。中川農相は「なぜ中国に援助を再開するのか分からない」と異論を唱えた。政府は与党の了解を得た上で、9日にも閣議決定する。
会議では、08年の北京五輪までに対中円借款の新規供与を終了することも再確認した。05年度分の供与額は、「いきなり大幅に減らすと、中国側の反発も大きい。08年度にゼロにするため、徐々に減らすのがいい」(外務省幹部)との判断で決定した。04年度分は859億円だった。
小泉首相は6日昼、対中円借款の決定について「総合的に判断した。いつも対中関係は重視している」と記者団に語った。中川農相は同日の記者会見で、「中国に対し、また援助するのか。正直言って分からない」と不満を表明した。
支援事業は、植林、下水道施設の整備、大気汚染防止など環境、エネルギー分野に重点を置く。

[8]アジア開発銀行年次報告書(2005~2008年)
※ダウンロードするのに時間がかかります。
2005年年次報告書(56/190頁)
http://www.adb.org/Documents/Translations/Japanese/ADB-AnnualReport2005-JP.pdf
2006年年次報告書(62/210頁)
http://www.adb.org/Documents/Translations/Japanese/ADB-AR2006-jp.pdf
2007年年次報告書(47/210頁)
http://www.adb.org/Documents/Translations/Japanese/AnnualReport/2007/ADB-AR2007-jp.pdf
2008年年次報告書(52/228頁)
http://www.adb.org/Documents/Translations/Japanese/AnnualReport/2008/ADB-AR2008-jp.pdf 
[9] 「ワシントン・古森義久 対中援助、アジア開銀の怪」(産経新聞、2008/6/28)
http://komoriy.iza.ne.jp/blog/entry/624207/
[10]  民主党 政権政策 Manifesto
http://www.dpj.or.jp/special/manifesto2009/pdf/manifesto_2009.pdf

4 件のコメント:

  1. 今回は力作ですね。  葵の印籠は大変分かりやすい。 平和憲法から最近のいのちまで、人の命は地球より重かったり、最近もラジオの政治討論を聞いていたら、一人の冤罪を出すより99人の逮捕ができない方がいい、と言うことわざがある、と述べたのに誰もコメントしないことに驚きました。
      ところで、表を拡大して見た後に本文に戻ると、ブログの先頭に戻ってしまうのがとても煩わしいのですが、どうにかして読んでいる所へ戻れないでしょうか?

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  2. 私はそもそも岡田外相の発言に反対です。それは、岡田外相の発言が「日本のODAそれ自体には何の問題もないが、国内からの認知が低いのが問題」と言っているように聞こえるからです。
    ODA改革それ自体は、ODAが実際の目的や理念に合致した成果を出しているかを考慮してなされるべきというのが個人的な見解です。

    で、「日本の存在感=外交官の存在感」という説明はまさにその通りだと思います。ただ、それはODAというよりはもちろん各国際機関に日本人が居ないことによって発生するデメリットがあるので、それを政府が懸念するのは当然です。

    問題なのは、仮に政府が「日本の存在感=外交官の存在感」という図式のみを念頭にODAを考えていた場合、非マルチ(つまり国際機関への拠出金ではない)のODAを減額する事に対する抵抗が少ないだろうと考えられる事です。
    ODA予算が減らしやすいのは減らしても文句を言う人が他の予算に比べて少ないから、という説明を聞くことがありますが、上記を勘案すれば今後全体としてのODAは増えても二国間のODAは相対的には増えないという事になってしまうのだろうか、と思ってしまいます。

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  3. GOAさん、アクセスありがとうございます。プレッシャーかかります・・・。

    文章とは別の新しいブラウザで開くように工夫しました。以前この方式にしていたのですが、時間がかかるので止めてましたが、再開します。

    ご参考まで、 target="_blank" を挿入しました。もし問題があれば、ご指摘ください。

    返信削除
  4. Yujiさん、コメントありがとうございます。Yujiさんのご意見に賛成です。

    たとえば、二国間援助を100億円減額し、多国間援助(国際機関向け拠出)を100億円増額するとします。ODAの金額はプラス・マイナス ゼロで変化しません。しかし、国際機関に出向する役人を増やすことができます。金を出すのだから、人も出すぞ---ということで押し込めるでしょう。

    ①役人にとってのメリットは、天下り先を確保するということ。
    ②日本にとってのメリットは、国際機関で働く日本人幹部の人数を増やすことができること。
    ③日本にとってのデメリットは、国際機関の一般管理費の負担額が増えるということと、二国間援助が減額されるということ。

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