2010/10/02

援助と外交:スワジランドの例

ブログを立ち上げた際、「特定の個人や国を批判しない」という方針をたてました。時には今回のエントリーのように結果的に批判してしまうこともありますが、批判することが目的ではありません。

南部アフリカにスワジランドという王国があります。国王(Mswati III、42才)の誕生日を盛大に祝いますが、地元の娘達は国王に気に入られると結婚できるので、一所懸命に踊ります。現在13~14人の妻がおります。国王は、一家でドバイまで買い物に出かけることもあります[1]。世界の王室・皇室のなかで、15番目の資産家であり、100百万ドル(85億円)の資産があります。

一方、国民はというと、国民(15~49才)の30%以上はエイズ(これは世界最悪)[2]にかかっており、平均寿命は41~43才[3]、失業率は40%[4]です。政党を組織することは禁じられています。

ここまでは知ってましたが、今回紹介する国王の記事を読んだ時は、驚きました。また、関連情報を調べるなかで、ノルウェーの同国に対する外交姿勢の記事を見つけましたが、それにも驚きました。

News (アフリカ以外)のページ (2010/9/26) において、「金では人の心は買えない。」と書いてから、「それではどうすべきか?」と考えていたところ、そのヒントになるようなニュースがみつかりました。


【 ニュース 】

1.国連演説(スワジランドのムスワティ3世国王)[5]

首脳ら「もっと資金を」と途上国 先進国は自助努力求める (共同通信、2010/9/22)

【ニューヨーク共同】発展途上国支援について話し合う国連ミレニアム開発目標(MDGs)サミットは21日、ニューヨークの国連本部で2日目の日程を終了。各国首脳の演説では、「先進国はもっと資金の提供を」と要請する途上国に対し、先進国側が「紛争防止や脆弱な統治能力の改善」などを求めるという構図が目立つ。

南部アフリカ内陸部にあり、深刻なエイズ問題を抱えるスワジランドのムスワティ3世国王は「途上国のわれわれが直面する難しい課題は、資金が十分でないことだ」と指摘。同じく南部アフリカ内陸部の高地にあり、最貧国の一つレソトのモシシリ首相は「先進国は政府開発援助(ODA)に関する約束を守るべきだ」と述べ、目標を大きく下回っているODAの増額を求めた。

先進国側は支援増額の必要性は認めながら、「MDGsの進展が遅れている国や地域の大半は、統治能力が弱かったり、紛争や武力衝突が頻繁に起きている」(スイスのカルミレイ外相)、「開発の一義的責任は途上国の政府にある」(ドイツのメルケル首相)などと、自助努力が必要とくぎを刺した。


2.ノルウェー大使の発言 [6]

2010/8/11、駐南アフリカ・ノルウェー大使は、南アフリカ労働組合会議(Congress of South African Trade Unions)が共催し、スワジランドの民主化運動家も参加している会議において、次のように発言した。
①スワジランドの人権や 言論の自由に障害が出ていることを問題にしているのはノルウェーだけではない。EUはスワジランドを見守っている。
②南アフリカのアパルトヘイトを解決する際は、強い立場で臨んだが、スワジランドではその段階になく、時期尚早である。ノルウェー政府はスワジランド政府とみならず、反政府グループとも建設的な話し合いをする。
③我々は心配していることを発言する。なぜならばノルウェーはスワジランドのことを心配しているからだ。真の友人は、困難な問題についても話し合う勇気がある。

その会合に先立ち、スワジランドの首相官邸は「ノルウェーは他国の問題に鼻を突っ込んでいる」と批判した。

スワジランドでは政党が禁止されているため、労働組合が重要な政治的役割を担っている。



【 解説 】

スワジランドとはどんな国?

・国土のほとんどは山岳地帯(図2参照)
・人口117万人。
・1982年に国王ソブーザ2世が死去したため、1986年には18歳のムスワティ3世が即位した。国王は絶対的な権力を持ち、行政、立法、司法における最高の権限を有する。国土のほぼ60%は国王が所有している。[7]
・台湾と外交関係を有する。(台湾と関係があるアフリカの国は、北から、ブルキナファソ、ガンビア、ナイジェリア、サントメ・プリンシペ、スワジランド、南アフリカ。[8])

(画像をクリックすると拡大)

図1:スワジランドの位置図

図2:スワジランドの写真

図3:HIV/AIDS患者の割合(15才以上の33%)

図4:衛生関連の支出割合(毎年減少。10%以下)



【 コメント 】

国王は、貧しくて病気の国民のためを思って先進国に援助を求めているのだろうが、国王の行動を見ていると、「自助努力をしないので、援助しないよ」と言いたい。ただし、外交上の「つきあい」や国連で一票を持っていることも考慮しなければならない

今回とりあげたスワジランドの例は、国の仕組みが単純で、人口も少なく、また、国王と国民の貧富の差が著しいため、注目されやすいケースだが、他のアフリカ諸国でも、大なり小なり同様な問題を抱えていると思う。

援助に条件をつけると、別の政策目標を達成する障害になる場合があるが、日本が援助する際は、次のようにしてはどうだろうか?
①単純にアフリカの国だということで援助しないこと。
②相手の状況・ニーズを把握してから、援助額を決めること。(政治家が「アフリカへの援助額を2倍にする」「○○億円を援助する」と発言するが、きちんとニーズを把握して積み上げた数字なのだろうか。)
③援助を受ける国が、自助努力をしているかどうかを検証すること。(末尾ビデオ参照)

ノルウェーはスワジランドの人権問題・民主化の遅れを問題にしているが、為政者は「内政干渉」と考えるだろう。しかし、ノルウェーの行為は確信的であり、経済よりも、人権と民主化を最優先課題としていると考えられる。スワジランドで民主化が進んだ時、有識者はノルウェーに感謝するであろう。

中国はアフリカ諸国に援助や投資をする際には、①資源確保と②台湾を認めないようにすることを条件とする以外、内政には口をはさまない。アフリカ諸国の為政者にとっては都合のよい国であるが、真の意味の「友人」になれるかどうか、注目すべきである。

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【 参考文献 】

[1] http://ww.ipsnews.net/africa/nota.asp?idnews=43695
[2] AIDS epidemic update
http://data.unaids.org/pub/epislides/2007/2007_epiupdate_en.pdf
[3] http://www.who.int/countries/swz/en/
[4] https://www.cia.gov/library/publications/the-world-factbook/fields/2129.html
http://www.kff.org/hivaids/upload/7366.pdf
[5] 日本語記事 http://www.47news.jp/CN/201009/CN2010092201000670.html
国連演説(テキスト、ビデオ)http://gadebate.un.org/View/SpeechView/tabid/85/smid/411/ArticleID/172/reftab/231/t/Swaziland/Default.aspx
[6] Norway pledges to work for reform in Swaziland (2010/8/11)
http://www.huffingtonpost.com/huff-wires/20100811/af-swaziland-democracy/
[7] http://www.nationalgeographic.co.jp/places/places_countryprofile.php?COUNTRY_ID=47
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/swaziland/data.html
[8] http://www.africa.org.tw/atef_map_english.asp

参考資料:

スワジランドへの入り口:http://www.gov.sz/
http://www.nationalgeographic.co.jp/places/places_countryprofile.php?COUNTRY_ID=47

政府開発援助(ODA)国別データブック 2008
スワジランドに対する2007年度ODA実績
http://www.mofa.go.jp/mofaJ/gaiko/oda/shiryo/kuni/08_databook/pdfs/05-23.pdf

The Human Cost of Misplaced Priorities (Shannon Kowalski、2010/4/5) ★推薦
http://blog.soros.org/2010/04/the-human-cost-of-misplaced-priorities/

Forbes大富豪(王室・皇室)ランキング
No.1:  King Bhumibol Adulyadej (タイ)
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No.8:  Sheikh Hamad bin Khalifa al-Thani (カタール)
No.9:  Prince Albert II of Monaco (モナコ)
No.10: Aga Khan
No.11:  Sultan Qaboos bin Said (オマーン)
No.12:  Queen Elizabeth (英国)
No.13:  Sheikh Nasser (クウェート)
No.14:  Queen Beatrix (オランダ)
No.15:  King Mswati III (スワジランド)
出典
15人の写真
Forbes記事

ビデオ: アフリカ諸国は、①Abuja Target(自国の予算の15%を衛生関連に支出すべき)を守り、②ガバナンスを良くすべき、という趣旨のビデオ

2 件のコメント:

  1. 南アへ向かうシンガポール航空で、スワジの人々と同じ便でした。少しだけ話しましたが、王族関係者でしょう。南アがアパルトヘイトで経済封鎖されていた時代に、スワジの名義で輸出していた経過があり、このころからスワジランドはおかしくなったような気がします。スワジを調べて行くと、どうしても王政を批判せざるをえません。典型的な失敗国家だといえますね。ノルウェーの見解に私も同意します。

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  2. katabira no tsuji さん、コメントありがとうございます。

    「南アがアパルトヘイトで経済封鎖されていた時代に、スワジの名義で輸出していた経過があり…」← そうだったのですか、知りませんでした。

    ノルウェーの外交政策については、あまり話題にならないのですが、私はいつか取り上げるつもりです。
    ①ノルウェーの行動や発言の背景には、石油・ガスの収入があるので、「金持ちとしての余裕」があると思います。国家ファンドを持ち、次世代のために貯蓄しています。
    ②これから産油国になろうとしているアフリカ諸国に対し、腐敗に気をつけるよう、助言をしています。ノルウェーはEITIを推進しています。
    ③ノルウェーはアフリカの情報を収集し、発信していますので、日本も参考にできます。

    スワジランドへの助言ですが、ノルウェーにも国王がいることが、説得力を増しますね。下手したら、革命です。

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