2010/07/07

官民連携

私たちは、体力が衰えれば栄養ドリンクを飲み、病気になれば薬をのみます。医者や薬剤師が処方しますので、薬の副作用は極力抑えられます。

経済も人間に似ており、景気が悪い時は薬が必要です。ただし、政治家や官僚が「経済の薬」を処方しますが、彼らは必ずしも経済の専門家ではないし、その反対に利害関係者である場合があります。一時的には「経済の薬」は効くのですが、薬の強さと、薬をのむ期間によっては、それが麻薬のようになり、経済を蝕んでしまいますので、十分に気をつける必要があります。

さて、日本経済の薬になるようなことが発表されました。それは「官民連携」です。

国は税金を使って発展途上国を援助し、企業は自らがリスクを負って投資する---というのが基本です。しかし、政府は税収が少なくなったので、援助するための資金が不足して困っています。企業は景気が悪いので、投資というリスクをとることに躊躇しています。

そこで考えられた薬が「官民連携」です。政府は「援助」の一部を企業に出してもらう。民間企業は「投資」の一部を政府に出してもらう---という仕組みです。

今回のエントリーは、アフリカのニュースから少し離れますが、2種類の官民連携について書いてみます。


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【 ニュース 】

その1: 民間連携など ODA改革方針 (2010/6/29、NHK)

外務省は、政府の財政状況が厳しいなか、ODA=政府開発援助の効果を高めるため、民間企業やNGO=非政府組織との連携強化や、援助の対象を絞り込む新たな手法の導入などを盛り込んだ、ODAの改革の方針をまとめました。

これは、岡田外務大臣が29日の記者会見で明らかにしました。それによりますと、政府の財政状況が厳しくなる一方、発展途上国が抱える課題は地球温暖化対策など多様化し、従来のODAでは十分な効果を上げることができないとしています。そのうえで、今回まとまったODAの改革方針では、JICA=国際協力機構がNGOを通じて行っている事業の予算枠の引き上げや、民間企業が途上国で行う開発事業に、ODAを使って出資や融資を行う制度を再開するなど、NGOや民間企業との連携の強化を打ち出しています。さらに、途上国がODAを求める案件を計画する段階から日本政府が関与し、効果が高い対象を絞り込んだうえで、支援を実施する新たな手法の導入も盛り込んでいます。これについて、岡田外務大臣は「ODAの絶対量を増やしたいとは思うが、財政状況が厳しいなか、限られた財源を効率的に使わなければならない。そのために、民間企業やNGOの知見を使うことは非常に重要だ」と述べました。外務省は、今回の改革方針を基に、政府のODA大綱の見直しを進めたいとしています。


その2: 国際協力銀、先進国融資の対象拡大 (2010/7/4、日経新聞)

政府は国際協力銀行(JBIC)の先進国向け投融資の対象として、次世代送電網や高効率の石炭火力発電所など8つの事業を新たに追加する方針を固めた。従来の原子力発電など2事業とあわせて対象は10事業となる。政府が新成長戦略に盛り込んだ「インフラ輸出」を後押しする狙い。民業を圧迫しないよう、投融資は民間金融機関との連携を原則とする。

JBICによる投融資事業は途上国向けに事実上限られていたが、今年4月までに原発と高速鉄道事業について先進国向けも手掛けることが認められた。

(図をクリックして拡大)


【 解説 と コメント 】

1.「援助」に関する官民連携

(1) 政府が企業の参加を期待する理由
①「援助」のための財源が小さくなっている。
②発展途上国では、「援助よりも投資」を望む声が出ている。
③政府は、企業のもつ効率性に期待している。

(2) JICAが投融資を再開することになった経緯

2001年、いわゆる小泉改革の一環として、JICAの投融資制度が停止された。「民間でできることは民間で」というのが基本的な考えである。それから約9年が経過し、JICAの投融資が再開されることになった。(経緯は末尾参照)

元の制度に復活する要因となったことは、①構造改革を進めていた小泉政権が倒れたことと、②日本経済が悪化したことから上記の「経済の薬」が必要になったためである---と考えられる。

(3)今後、注視すべきこと

企業活動を支援するために資金援助ができる政府系機関はいくつかあるが、3つの機関をとりあげ、図式化してみた(図1参照)。X軸には「リスクの高低」を、Y軸には「援助的要素の高低」をおいた。JICAの投融資の対象はまだ決まっていないようなので、注視する必要がある。また、官と民のリスク負担(=資金負担)の割合についても、見守る必要がある。(図2)

図1

図2



2.「投資」に関する官民連携

(1) 企業が政府の資金的支援を期待する理由 

①他国は日本にはない支援をしており、日本企業は不利になっている。
(a)他国は、自国企業の進出を支援するため、大統領・首相がセールスマンとなって経済ミッションを率いてアフリカ・中東諸国を訪問している。
    (b)他国は、企業進出を支援するため、武器・兵器の販売を販売している。また、インフラ整備のため、国が巨額の資金を供与している。

②企業としては商業的リスクはとるが、それ以外のカントリーリスクなどの政治的リスクはとりたくない。日本政府がとってくれればありがたい。

(2)政府が投融資をするにあたっての注意点

①時には企業を後押しすることが必要であるが、「適切な薬かどうか?」「投融資が唯一の方法なのか?」---について検討する必要がある。たとえば、①優遇税制ではダメなのか?、②政府が資金を供給しなくても、市中銀行あるいは投資家から資金調達することはできないものか、などである。

②冒頭に述べたように、「経済の薬」は麻薬になることがあるので、ある程度強い薬を、期間を限定して投与しなければならない。

③損金が表面化するのは、5~10年後であり、それは国民の負担となる。



【参考文献】

海外投融資の概要
http://www.jica.go.jp/activities/schemes/finance_co/loan/index.html
企業活動への資金協力
http://www.jica.go.jp/priv_partner/faq/03.html


■経緯

2001/12/19: 閣議決定(特殊法人等整理合理化計画)[1]
「開発投融資事業は廃止することとし、平成15年度以降は、既に承諾済みの案件に限り融資を行う。」
2002/6~2006/6:「ODA 総合戦略会議」[2]
2006/2/28:「海外経済協力に関する検討会」報告書発表 [3]
2009/2/9:「国際協力に関する有識者会議」報告書発表[4]
2009/6/2:第22回海外経済協力会議[5]において、独立行政法人国際協力機構(JICA)の投融資機能について「再開に向けて検討する」ことが決定した。
2009/6/23:閣議決定において、「経済財政改革の基本方針二〇〇九」(通称「骨太の方針二〇〇九」あるいは「基本方針二〇〇九」)のなかで、JICAの海外投融資機能を実施することが決定された。
2009/6/30:前田雄吉衆議院議員による質問主意書提出[6]
2009/7/10:内閣総理大臣臨時代理国務大臣河村建夫による答弁書提出[7]
2009/7/13:近藤正道参議院議員による質問主意書提出 [8]
2009/7/21:麻生太郎内閣総理大臣による答弁書提出 [9]
2010/6/18:閣議決定 「新成長戦略」採択[10]
2010/6/29: ODAのあり方に関する検討 最終とりまとめ [11]



[1] http://www.kantei.go.jp/jp/singi/gyokaku/kettei/1219tokusyu.html
各特殊法人等の事業及び組織形態について講ずべき措置
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/gyokaku/kettei/tokusyu_3.pdf
[2] http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/seisaku/kondankai.html
[3] http://www.kantei.go.jp/jp/singi/oda_2/index.html
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/oda_2/houkoku.pdf
[4] http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/seisaku/yushikisya.html
「国際協力に関する有識者会議」最終覚え書き  平成21年2月
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/seisaku/yushikisya/pdfs/oboegaki.pdf
[5] 海外経済協力会議の開催状況:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kaigai/kaisai_before090916.html
第22回海外経済協力会議
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kaigai/dai22/22kekka.html
[6] http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a171618.htm
[7] http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b171618.htm
[8] http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/171/syuh/s171237.htm
[9] http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/171/touh/t171237.htm
[10] http://www.kantei.go.jp/jp/sinseichousenryaku/sinseichou01.pdf
[11] http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/kaikaku/arikata.html
「開かれた国益の増進―世界の人々とともに生き、平和と繁栄をつくるー
ODA のあり方に関する検討最終とりまとめ」2010年6月 外務省
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/kaikaku/arikata/pdfs/saisyu_honbun.pdf

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