2010/03/21

資源外交: ロシア と 日本


今回のエントリーでは、英国と日本の会社が保有していたナミビアのガス田の権益を、ロシアが「上手に」に取得した、という案件を紹介します。ハゲワシが死んだ動物を食べている姿を思い浮かべました。ロシアは、ウラニウムや原油・ガスを求めて、アフリカへの進出を具体化させています。













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【 ニュース 】

1.ナミビアの鉱山・エネルギー省は、新たに、Kuduガス田生産ライセンスを付与した。
①鉱区権者は、Gazprom(ロシアのガス会社ガスプロム)とNamcor(ナミビア国営石油会社)の合弁会社 及び Tullow Oil(英国)、伊藤忠商事。
②鉱区期限は2年間であり、その間にKuduガス田を生産させることが条件。
2.Gazpromは、既存の権益保有者が過去に支払った費用に対する対価を支払わない。
3.Gazpromはナミビアで800MWのガス火力発電所を建設する。[1]


【 解説 】

1.Kuduガス田

・1974年、ナミビア沖合いでガス田(Kudu)が発見された。LNGとして輸出する程の大きさはなかった。
・1997年、NamPower(ナミビア電力会社)、Energy Africa(後にTullow Oilに買収された)、Texaco、Shell、Eskom(南ア電力会社)がKuduガス田のためのコンソーシアムを組成したがうまくいなかった。[2]
・2007年4月、伊藤忠商事が権益の20%を取得した。その結果、英国Tullow Oil 70%、伊藤忠 20%、ナミビア国営石油会社10%が保有することになった。[3]
・2007年9月、ガス田の大きさを確認するための評価井(Kudu-8)が掘削されたが、芳しい結果ではなかった[4]。しかし、埋蔵量はあるのだから、何とかして生産して商業化することを模索していた。
・2009年6月、ロシアのMedvedev大統領がナミビアを訪問したが、その際、Gazprombank(ロシアのガス会社系のファイナンス会社)とナミビア国営石油会社が覚書(Memorandum of Cooperation)に調印した。
・Gazpromが、800MWのガス火力発電所を建設し、電力をナミビアの電力会社と南アフリカの電力会社に供給することを計画した。
・2009年8月、Kuduガス田の鉱区期限が切れた。
・新たな契約として、Gazpromが参入した。

           旧      新
Tullow 70% → 31%
伊藤忠 20% → 15%
Namco 10% → 54% (NamcoとGazpromの合弁会社)



2.ロシアとナミビアの関係

1999年12月、プーチン(Putin)がロシア大統領に就任したが、その後のロシアの元首によるアフリカ諸国訪問は以下のとおりである。最も新しい訪問は、2009年6月、メドヴェージェフ(Medvedev)大統領が300人以上のビジネスマンを引き連れてエジプト、ナイジェリア、ナミビア、アンゴラを訪問している。

2005/4:Putin→エジプト
2006/9:Putin→南アフリカ、モロッコ
2008/4:Putin→リビア
2009/6:Medvedev→エジプト、ナイジェリア、ナミビア、アンゴラ

ナミビアでの合意事項は以下のとおりである。(その他の訪問国での実績は、末尾参照。)

公式発表[5]によると、次の文書に調印している。
①GazprombankとNational Petroleum Corporation of Namibia (NAMCOR)の覚書(Memorandum of Cooperation)
②貿易の推進と保護に関する二国間協定
③ロシア漁業庁とナミビア漁業海洋資源省との覚書(Memorandum of Intention)


今回のエントリーで関係しているのが上記①である。報道によれば、
・Gazpromは既に南アフリカの電力会社Eskomと話し合いをしている。
・800MWを発電し、内500 MW をEscomに売電し、残りの300 MWをナミビア国内用とする。
・火力発電所の燃料にはKuduガス田のガスを使う。
----という計画を立てている。[6]


Gazpromは、Namco(Kuduガス田の権益を保有している国営石油会社)とだけ交渉しており、NamPower(国営電力会社)やKuduガス田のオペレーターであるTullowとは、全く交渉していない。そのため、「NamPowerとTullowは激怒している」との報道されている。[7]


ウラニウムについても話し合っている。ロシア国内で、今後15年間に24以上の原子力発電所を建設するが、ウラニウムが不足しているとのこと。ロシアのメドヴェージェフ大統領は、記者団に対し「ナミビアの資源を得るには遅すぎるのではないか?---と問われれば、正直なところ、なんとか間に合った、というところだろう。米国や中国はナミビアでウラニウム資源を確保している。鉱物資源、原子力エネルギー、農業、観光等について話しあった。」と発言した。ナミビアのポハンバ(Pohamba)大統領就任は、「ソビエト連邦が1960年代から1980年代にかけてナミビアが独立するのを支援してくれたことを忘れない。」と発言した。[8]



【 コメント 】

本件の関係者である4者(Tullow、伊藤忠、Gazprom、ナミビア政府)の主張を想定してみる。

伊藤忠がどのように考えているのか発表されていないが、もし権益の20%を堅持したいのなら、日本政府も外交力で支援すべきではないか。こんなことを言うと露骨過ぎるかもしれないが、このような時こそODA提供して築いた外交関係を利用して、資源外交をすべきではないのだろうか[9]。それとも、伊藤忠の権益が5%しか減らされていないが、既に資源外交が実行された結果なのだろうか。


1. Tullowの主張(想定)

・契約の期限は切れているのは確かだが、重大な問題がない限り契約が延長されるというのが業界の「常識」だ。
・これまで開発努力を怠っていたわけではない。潜在的販売先である、ナミビア電力会社(NamPower)、南アフリカ電力会社(Eskom)、南アフリカの大口需要家などと交渉してきたが、南アフリカの安い石炭と比べると競争力がない。CNGにする方法、なども検討している。[10]
・Kuduガス田を開発するためには、投資に見合う収入を確保しなければならない。
・Gazpromがプロジェクトに参加したいのであれば、過去の費用を負担すべきだ。
・これまでオペレーターとして得た知見と情報が必要であるので、オペレーターから外して欲しくない。


2. 伊藤忠の主張(想定)

・Gazpromが火力発電所を建設してくれなければ、権益を失うところだった。
・当初のシェア20%が15%に減らされたが、Tullowの減らされ方よりは大きくはない。
・火力発電所の資機材の販売のほうでビジネスチャンスがある。


3. ナミビア政府の主張(想定)

・Kuduはナミビアで発見されている唯一のガス田である。
・ナミビアでは電力が不足しているので、資源を有効利用し発電に利用する必要がある。これを早急に実行してくれる会社(=Gazprom)が現れたので、そこに協力を仰ぎたい。
・これまで貢献してくれた会社を追い出すことはしたくない。Tullowと伊藤忠のシェアを低くしたことは我慢して欲しい。そもそもTullowと伊藤忠との契約は2009年8月で切れている。
・Gazpromを絶対視しているわけではない。新しいJVにも期限を設定し、その期限内にKuduガス田を開発して、火力発電所も建設してもらうことになる。TullowのProduction Licenseの期間は4年だったが、Gazpromは2年しか与えない。それほど問題は逼迫しているということを理解してもらいたい。


4. Gazpromの主張(想定)

・契約期限が切れていない段階で、Tullowと伊藤忠の仲間に入れてもらうのであれば、応分の費用を支払うのが業界の常識だ。しかし、今回の場合、契約期限は切れている。
・Gazpromとしては、Tullowと伊藤忠の貢献を考慮している。だから新しいコンソーシアムに入って欲しいと思っているし、Tullowにはオペレータをしてもらって結構だ。(注:「不毛地帯」というドラマでもそうだったが、リスク軽減のため、他社とコンソーシアムを組むのが常識である。)
・Tullowはこの数年間南アフリカの電力会社と交渉してきたが、何ら進展がなかったではないか。しかし我々(Gazprom/ロシア政府)は、既に南アフリカと話をつけてきた。この貢献を認めて欲しい。


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【 参考文献 】

<参考> Medvedev大統領のアフリカ諸国訪問 [5]

2009年6月、100人以上のビジネスマンを引き連れてエジプト、ナイジェリア、ナミビア、アンゴラを訪問した。特にエネルギーに関する情報を集めた。(ナミビアについては上述。)

(1)エジプト
ロシアはエジプトに対し兵器などを10年間供給することに合意した。
RosAtomは原子力発電所を建設したいようだ。また、Gazpromはエジプトにある2つのLNG施設への参加を目論んでいるようだ。[11]

(2)ナイジェリア
ナイジェリア国営石油会社(NNPC)と2500百万ドルの契約を締結した。GazpromはNNPCとJV会社(Nigaz)を設立し、製油所、パイプライン、ガス火力発電所を建設する。また、Gazpromは、ナイジェリアからアルジェリアまでのガスパイプラインにも関心があると表明している。[12]

(3)アンゴラ
サテライト(Angosat)の発射を支援するため300百万ドルを融資する。ロシアの石油会社Zarubezhneftはアンゴラの油田の権益取得を目論んでいるようだ。[13]


[1]
Deadline set for Kudu production (New Era、2010/03/12)
http://www.com.na/article.php?articleid=9926

Gazprom acquire majority stake in Kudu gas field (Namibia Economist、2010/3/12)
http://www.economist.com.na/index.php?option=com_content&view=article&id=21151:gazprom-acquire-majority-stake-in-kudu-gas-field&catid=571:headlines&Itemid=62

[2] Namibia's Kudu gets go-ahead (African Business、2004/10/1)
http://www.allbusiness.com/accounting-reporting/corporate-taxes-joint/912286-1.html
[3]南西アフリカ・ナミビア共和国の海上ガス田の20%権益取得へ(伊藤忠プレスリリース、2007/4/4)
http://www.itochu.co.jp/ja/news/2007/070404_2.html
[4] Prospecting abandoned at Namibian block after 'disappointing' results (Engineering News、2007/10/5)
http://www.engineeringnews.co.za/print-version/prospecting-abandoned-at-namibian-block-after-039disappointing039-results-2007-10-05
[5] Official visits of the President of the Russian Federation -- Dmitry Medvedev to a number of African states (在カナダ・ロシア大使館プレス発表、2009/7/2)
http://www.rusembcanada.mid.ru/pr2009/048.pdf
[6] Gazprom Intl to help fund Namibia Kudu gas project(Reuters、2009/6/27)
http://in.reuters.com/article/oilRpt/idINLQ88904720090626
[7]Namcor Move Fuels Anger (All Africa、2009/7/6)
http://allafrica.com/stories/200907060629.html
[8]Russia's Medvedev seeks uranium deals in Namibia (Reuters、2009/6/25)
http://af.reuters.com/article/topNews/idAFJOE55O0N620090625?sp=true
[9]ナミビアに対するODA
http://www.mofa.go.jp/MOFAJ/GAIKO/oda/data/gaiyou/odaproject/africa/namibia/index_01.html
http://www.jica.go.jp/namibia/activities/index.html
[10]Tullow mulling options for Kudu gas (International Oil Letter、2009/3/23)
http://energy.ihs.com/News/oil-gas-exploration/2009/Tullow-options-Kudu-gas.htm
[11]Russia-Africa Ties: Kremlin for a Mideast Meet (2009/7/5)
http://www.kashmirwatch.com/showworldwatch.php?subaction=showfull&id=1246201593&archive=&start_from=&ucat=4&var0news=value0news
[12] Gazprom seals $2.5bn Nigeria deal (BBC、2009/6/25)
http://news.bbc.co.uk/2/hi/8118721.stm
[13] Russia's New Scramble For Africa (Wall Streen Journal Asia、2009/7/2)
http://www.heritage.org/Research/Commentary/2009/07/Russias-New-Scramble-for-Africa

その他参考資料
The Return of Russia-Africa Relations (bilig、2010年冬号)
http://yayinlar.yesevi.edu.tr/files/article/322.pdf

1 件のコメント:

  1. このブログのオーナーです。

    伊藤忠商事は、2010年3月26日、ナミビアにおいてウラン鉱山開発事業に参加すると発表しました。

    「Kalahari Minerals plc株式取得によるナミビア新規ウラン鉱山開発プロジェクトへの参画」

    http://www.itochu.co.jp/ja/news/2010 /100326.html

    Kuduガス田との関係は分かりません。

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