2011/06/03

韓国の官民連携:国際標準の確保

韓国の政治・経済には目を見張るものがあります。李明博大統領(2008年2月就任)の政治手腕によるところが大きい---と、私は考えております。彼は、金銭的には恵まれていない家庭の出身で、高麗大学校卒業後に「現代建設」という社員数90人会社に入社して、社長、会長を経て退社するまでに16万人の会社に成長させた伝説の人という評判です。その手腕を使って、国の経済を成長させています。

今回は、韓国とアフリカに関するニュースを紹介します。内容は「国際標準」です。最初に、国際標準に関する韓国の考え方を説明している中央日報の社説を引用します。その次に、最近のニュース2本を紹介します。


【 ニュース 】

国際標準確保が技術競争力の指標 (2009/10/19付 中央日報 社説)[1]

世界の産業界には「優秀な技術を多く使うのではなく、多く使われる技術が優秀だ」という格言がある。それだけ国際標準は重要だ。国際標準を確保できなければ単純な製造国から決して抜け出せない。全世界が標準規格をめぐり銃声のない戦争を繰り広げているのもこのためだ。国際標準は莫大な付加価値をもたらす。どの企業も標準に基づいて製品を作ろうとするならロイヤルティを支払い標準特許を利用しなくてはならない。例えば韓国企業は1995年以降、数兆ウォンのロイヤルティを支払って米クアルコムから携帯電話チップを買わなければならなかった。韓国のワイブロ(携帯インターネット)技術が国際標準になり、遠からずこうした悲哀もぬぐい去られる見通しだ。

先週末に三星(サムスン)電子とLG電子が開発したモバイルデジタルテレビ技術が米国の技術標準に採択されたという喜ばしいニュースが伝えられた。激しく競争してきた両社がともに世界市場を突き破ったという点からその意味も新ただ。北米地域で携帯電話を使ってテレビを視聴する場合、かならず三星とLGが作った受信チップを使うか、技術特許料を支払わなければならない。時を同じくして韓国のタッチフォンに使われる20ピン方式の携帯電話充電方式も国際標準に採択されたという。新しい携帯電話を買うたびに充電池と充電方式をすべて変えなくてはならない不便が消えることになった。このように国際標準は企業には市場支配力を、消費者には便利さをもたらす。

国際標準は技術競争力の尺度であり、企業の生存手段だ。しかし韓国企業がこうした事実に目を向けたのはわずか10年前だ。幸い国際標準提案件数が2001年の7件から昨年は212件に大きく増え、具体的な結実もひとつふたつと得られている。まずワイブロに次いで韓国が初めて商用化させた地上波マルチメディア放送(T-DMB)技術も国際標準になった。最近では韓国の造船業界が提案した16件の船舶係留装置が国際標準になり、韓国で開発したサービスロボットの安全と性能測定技術も国際標準になった。韓国は出遅れたものの国際標準会議を誘致し世界の規格機関に進出するため努力した成果が徐々に現れ始めたのだ。

しかしまだ先は長い。国際標準機関が最近汎用技術より先導技術に関心を置き、先進国はいち早く動いている。欧米は研究開発費用を支援する際に技術標準化計画書をともに要求している。日本と中国も国レベルの総合戦略をまとめ、世界標準になる見込みがある側に研究資金を集中配分している。これ以上技術の優秀性だけでは国際標準を狙えない冷厳な現実も忘れてはならない。過去にビデオプレーヤーの標準競争でソニーが技術ひとつを信じてベータ方式に固執しVHS陣営にひざまずいた。われわれも政府と企業が協力して国際標準を念頭に置きながら技術開発に着手し、各国の利害関係を考慮した友好陣営もしっかりと構築する知恵を発揮すべきだ。

韓国政府、アフリカ市場攻略へ準備着々 [2]
【ソウル1日聯合ニュース】韓国の知識経済部は1日、ソウル市内のホテルでアフリカ市場を積極的に攻略しようと、第1回韓アフリカ標準協力フォーラムを開催した。
フォーラムは有望な市場として急浮上しているアフリカ諸国との貿易を阻む障壁の除去を目指し、対策を講じるため設けられた。アフリカからはアフリカ標準化機構(ARSO)、アフリカ連合などの貿易関連機関が、韓国からは輸出企業関係者ら計200人余りが参加した。
韓国政府とアフリカの貿易機関は貿易拡大に向け、教育やコンサルティングなど協力プログラムを運営し、貿易技術の障壁と関連した情報を交換することにした。
フォーラムに先立ち、アフリカの代表団はLG電子やサムスン電子などを訪れ、製造施設を視察したほか、韓国技術標準院に対し韓国政府と企業の積極的なアフリカ進出を要請した。

アフリカの標準化機関長がLG研究センター訪問 [3]
LG電子は31日、アフリカ標準化機構(ARSO)およびアフリカ8カ国の標準化機関長が同社の加山R&D(研究開発)キャンパス内の「MC規格認証試験所」を訪問、標準化業務や品質対応の事例を見て回ったと発表した。


【 解説 】

1.韓国の対応

標準化をしているのは、アフリカ側はアフリカ標準化機構(ARSO: African Organization for Standardisation)で、韓国側は韓国技術標準院(KATS: Korean Agency for Technology and Standards)である。[3]

6月1日、韓国において、第1回韓アフリカ標準協力フォーラム(Korea-Africa Standards Cooperation Forum)が開催されたが、参加したのは、エチオピア、ケニア、セネガル、ナイジェリアなど8ヶ国の代表である。[3]

アフリカの参加者は、LG電子の研究所を訪問したが、特に、EMC (electromagnetic compatibility:電磁両立性)[4] と携帯電話の電磁波の問題に関心をもったとのこと。[3]

なお、この会合に先立ち、昨年(2010年)12月3日、ARSOとKATSは覚書を締結しており、キャパシティビルディング(組織基盤強化)を約束していた。(英国も同様の覚書を締結している。)[5]

2.日本の対応

最近のニュースでは、2011年2月、日本とアンゴラは、アンゴラにおける地上デジタルテレビ放送方式の規格として日本方式(ISDB-T方式)の「採用に向けた取組を推進していくことで合意、情報通信技術分野における協力に関する覚書に署名」した。[6]


【 コメント 】

韓国の場合、大統領の権限が強いので、一度目標を設定したら、それを達成するための資金をつけ、政治的にバックアップする。UAEへの原子力発電の売り込みがそうであった。一方、日本の場合、首相が日本製品を売り込むことは極めて稀であるし、また役人が立派な戦略を立案しても予算がつくとは限らない。

日本は他国と競争していることを認識する必要がある。

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【 参考文献 】

1.引用先
[1] 2009/10/19付 中央日報社説
[2] 聯合ニュース、2011/06/01
[3] 朝鮮日報、2011/5/31
LG Electronics Provided Tech Standard Expertise to African Nations (ELECTRONIC TIMES INTERNET CO、2011/6/1)
[4] EMCとは、"他の機器に妨害を与えず,かつ,他からの妨害に対しても影響されない機器の能力"のことであるが、EMCの国際標準化については、「EMC(電磁両立性)国際標準化活動を推進して」(by 徳田正満)を参照のこと。
[5] ARSO signs MoU with British Standards Institute (BSI-UK) and Korea Agency for Technology and Standards (KATS), Korea
[7] 国際規格の制定プロセスと国際標準化への取組   経済産業委員会調査室 藤田昌三  立法と調査 2011.1 No.312
[8] アフリカにおけるICT国際展開について  2010年1月21日  総務省国際協力課国際展開支援室 柳島智

2.ホームページ
韓国技術標準院(KATS)
アフリカ標準化機構

3.日本のマスコミによる放送
・NHK「追跡!AtoZ」2009年 8月8日 「ニッポンは勝ち残れるか 激突 国際標準戦争」
ビデオ http://www.nhk.or.jp/tsuiseki/file/list/090808.html

・ワールドビジネスサテライト モノづくり覇権~世界規格戦争~ 第三夜 グリーン標準をつかめ!(2011/1/6放送)
TVでた蔵 (TV DATA ZOO)

4.本ブログの記事(韓国の投資に関する記事)
2009/12/13 韓国のアフリカ政策
2009/12/26 アフリカに関する日本・中国・韓国の政策協議
2011/04/12 リビアからの脱出 (Part 2: 会社による社員救出)

2011/06/01

アフリカへの投資: 562社はどうみているのか

このブログの記事の中で、アフリカへの投資に関する記事が多く読まれています。日本企業もアフリカに注目しており、ゆっくりですが、着実に投資を進めております。(「日本企業 in アフリカ」のタグ頁参照。)

ところで、日本企業の競争相手は、アフリカをどのようにみているのでしょうか? 今回の記事は、外国企業(562社)がアフリカ市場をどうみているのかがわかるアンケート結果を紹介します。


【 ニュース 】

アフリカ投資の魅力増大、BRICSとの関係も深化 (CNN、2011/5/25)[1]

     ケープタウン(CNN) 投資先としてのアフリカの魅力は高まっているとする調査結果を大手会計事務所アーンスト・アンド・ヤングが発表し、世界にその魅力を理解してもらう必要があると訴えている。
     同社は南アフリカのケープタウンで開かれた世界経済フォーラムの会合で、アフリカ諸国を含む世界の企業約500社を対象に、事業環境としてのアフリカ大陸の魅力を語った。
     調査の結果、アフリカを魅力的な投資先とみなしているのは主にアフリカ諸国や新興国で、それに比べると先進国の関心は低い傾向があることが分かった。同社によると、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカのBRICS諸国とアフリカとの関係が深まっているという。
     同社アフリカ法人のシータ最高経営責任者(CEO)によると、世界全体への投資に占める外国からアフリカへの直接投資の割合は約4.5%、金額にすると1000億ドル相当にとどまっており、アフリカはもっと効果的にその魅力をアピールする必要があるという。
     シータ氏は、アフリカの魅力として10億もの人口、豊富な天然資源、世界の食料安全保障につながる農業分野などを挙げる一方、50を超える国で多様な言語が話され、国によって規制もまちまちな実態が投資の障壁になっていると指摘。「アフリカにとって真に必要なのは、共通の経済市場と大陸としての単一のビジョンだ」と訴えた。


【 解説 】

上記のニュースで述べられているアフリカへの外国直接投資に関する調査書は、アーンスト・アンド・ヤング(Ernst & Young)が、2011年5月3日に発表したものであり、『It's time for Africa : Ernst & Young's 2011 Africa attractiveness survey』というものであり、同社のホームページでダウンロードできる[2] 。以下、一部だが内容を紹介する。

アンケートに答えた562社
・国籍は、38ヶ国で、欧州(59%)、北米(18%)、アジア(18%)、その他(5%)。
・アフリカに進出している割合は、62%。
・事業部門は、産業・自動車・エネルギー部門(36%)、サービス部門(25%)、消費部門(25%)、その他。
・アンケートに答えたのは、主に財務部門の責任者。


1.過去3年間でアフリカは投資しやすくなったと思うか?

アンケートに回答した会社の68%が投資環境が改善したと考えている。アフリカや発展途上国の会社は、それ以上の評価をしている。一方、北米や欧州の会社は低く評価している。

(全ての図は クリックで拡大)

2.今後3年間でアフリカは投資しやすくなると思うか?

アンケートに回答した会社の75%が投資環境が改善すると考えている。悪化すると考えている会社は10%以下である。


3.今後2年間で投資の対象となる事業分野は?

鉱物資源の探鉱、石油ガスの探鉱・開発が上位を占めるが、観光、消費財がその次に位置する。


4.既にアフリカに進出した会社の今後の事業展開は?

「更に投資する」と「事業を継続する」と応えた会社の合計が62%を占める。


5.アフリカでの事業で障害となることは?

投資環境で問題なのは、政治環境が不安定であり、腐敗、治安が悪いことである。

6.外国直接投資の件数が多い国は?

2003年から2010年までの新規の外国直接投資の件数をみると、南ア、エジプト、モロッコ、アルジェリア、チュニジア、ナイジェリアなどが人気である。

7.アフリカは他の地域と比べて魅力的か?

旧ソ連諸国とアフリカを比べた場合、60%がアフリカの方が魅力だと答えた。中央アフリカや南米と比べると、それぞれ 52%、南米 49%がアフリカが魅力であるとみている。アジア、北米、西欧、中東、オセアニア、東欧と比べた場合は、アフリカの魅力は低い。

【 コメント 】

1.アフリカの人口は大きく増加するので、市場として魅力的である。(下図は、国の人口ではなく、都市の人口である。)

2.低所得層の市場なので、安価でかつ良質な商品を提供できなければ、韓国や中国、東南アジアなどの企業と競争できない。

①日本で売れ残った商品を輸出するのも一案であろう。
②デジカメやPCなどのパンフレットを見ればわかるように、日本の企業はあまりにも多くのアクセサリーを作り、頻繁にモデルチェンジをしている。新しいモデルを欲しがる消費者にとってはうれしいことだが、アフリカ向けには、安価な基本モデルが適していると思う。

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【 参考文献 】

[1] 日本語記事 CNN、2011/5/25
英語記事(ビデオあり)
[2] Ernst & Youngプレス発表、2011/5/3

その他の資料

井の中の巨大な蛙 新興国で存在感(日経ビジネスオンライン、2011/5/30)

World Economic Forum on Africa, Background Facts and Figures
PowerPoint資料(図8はここからとった。)
39頁資料

World Economic Forumで、世銀が発表した資料「The Africa Competitiveness Report 2011」の140ページ以降に、経済に焦点をあてたアフリカ35ヶ国のカントリーレポートが記載されている。